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14.赤髪の少女と水色の髪の少女

 団欒室に入ってきたのは二人の少女だった。


 アリス達や少し離れたテーブルにいる三人と違って、少女たちは二人とも薄手の部屋着姿だった。

 どちらも手に厚手の白いタオルを持っており、髪が濡れている。


「俺も“イケメン”に混ぜてもらえんの?」


「んーまあ、あんたはオマケね。そのふたりと並ぶと三日で忘れる顔だけど」


「そりゃどうも」


 シュカと減らず口を叩きあっているのは、緩やかなウェーブがかかった長い赤色の髪の少女だ。

 艶やかな髪をタオルで抑えながら、少年たちのテーブルに近づいてくる。


 金色の瞳、白い肌。

 口元に小さな黒子がある。

 女性にしては背が高い。一六五センチはあるだろうか。

 小柄なアリスより五センチ以上は高そうだ。

 それでいて顔が小さい。


 部屋着から伸びる手脚は細いがしなやかで、腰は極めて細いが、胸のふくらみはしっかりとある。


 彼女の後を追いかけるようにテーブルに寄ってきたもう一人の少女は、長身の少女の背後に半分隠れるような位置で立ち止まった。

 赤髪の少女と比べると大分小柄で、一五〇センチに届かないくらい。

 ショートボブの水色の髪。

 細身な赤髪の少女よりさらに華奢な体格だ。

 大きな瞳の色は、銀。


 タイプは違うが、二人とも目を見張るような美しい顔立ちをしていた。


「そ、そんなことないよ、シュカくんもカッコいいよ!……アリスくんやディートクリフくんの前ではちょっと霞んじゃうだけで……」


「いやリリィ、お前の優しさが地味に一番抉るんだけどな」


 苦笑するシュカを無視して、赤髪の少女はアリスに話しかける。


「何々、同期会?仲いいね、あんたたち」


「ローズとリリィほどじゃないけどな」


 長身の少女に、アリスは笑って答えた。


「別に仲良くはない。ただの腐れ縁だ」


 長身の少女の言葉を律儀に否定する黒髪の騎士に、シュカが「今さらそれもねえだろ」と呆れた顔をするが、ディートクリフは無表情のまま一瞥をくれただけで、何も答えない。


「そういやあんたは、学校では結構アリスとシュカに突っかかってたしね」


「覚えてないな」


 長身の少女の名はローズ。小柄な少女の名はリリィだ。


 ローズは一昨年の七月に、アリス達と同じく最短の十五歳で騎士叙勲を受けた同期である。

 リリィはその一つ年下で、今から四か月前に同じく十五歳でローズと同じ七番隊に入隊していた。


 二人は養成学校時代から、いや、そのずっと前から、可能な時はいつも行動を共にしている。

 外見も全く違うし、血もつながってはいないのだが、二人が醸し出す雰囲気はまるで姉妹のようだ。


「……にしても相変わらず、あんたはマジ可愛いねぇ、顔だけは。ホント、男にしておくのは勿体ないわぁ」


 ローズがアリスの亜麻色の髪をわしゃわしゃと撫で始める。


「……どこのオッサンだよ、お前」というシュカの呟きはまたしても無視された。


「頭撫でんな」


 ローズの細くしなやかな指を強引に払い退けてから、アリスはそこでふと、二人の少女の濡れた髪に気づく。


「まだ昼過ぎなのに風呂なんて入ってていいの?またサボり?」


 呆れ顔のアリスにローズは「失礼な」と答え、


「夜からさっきまでぶっ通しで要人警護してたんだよ。……ていうか、あたしはともかくリリィがサボるわけないでしょ」


 と笑った。


「あ?要人警護?」


 シュカの問いに、


「そういえば、ローエンデールの使者が来ているんだったな」


 少女たちより先にディートクリフが答えた。


「そうそう。来月の式典にローエンデールのお姫様も来るでしょ。今その下見のために、わざわざ伯爵家のお嬢様が来ててさー、その警護をあたしたちがしてるってわけ。もう疲れたよー、高貴なお嬢様のお相手はさ」


 ローズは自分の肩を揉みながら、「ああ疲れたー」ともう一度言った。


「ああ、『国交再開五周年』の記念式典か。ご苦労なこって」


「あとで肩もんであげるね」とローズに笑いかけるリリィを横目で見ながら、シュカは納得したように頷いた。


 ナディア王国と隣国のローエンデール皇国は、歴史的にみても昔からあまり友好的な関係とは言えない。

 むしろナディア建国のはるか前から、この地の民族とローエンデールとは小競り合いを繰り返してきた。


 しかし、ナディア建国王の息子にあたり、現国王の父にあたる先代国王は、即位してすぐにローエンデールとの友好関係の構築に尽力した。

 その甲斐があって、今から二十年ほど前に友好条約を結び、同時に両国間の国交が開始した。


 十年前に生じたナディア国内の内乱により一時国交が閉ざされることとなったが、五年前に現国王の代で国交が再開。

 そして今年が国交再開から五年の節目となり、ナディア王宮にローエンデールの皇族を招いて、両国間の友好関係をアピールする記念式典の開催が予定されている。


 今回の式典では、ローエンデールの代表として第三皇子が式典に参加することとなっているが、彼とともに幼い第六皇女も同行する予定だ。


 式典自体は二日間のみだが、一行は一週間ほど滞在する。

 そのため、皇女が滞在する際に間違っても粗相がないようにと、下見としてローエンデール皇国の貴族の娘がナディアの王宮を訪問しており、その身辺警護としてナディアからも女性騎士を付けているわけだ。


「あんたたちこそ、団欒室で随分と窮屈そうな恰好してるねえ」


「いや……今は休憩時間だけど、おれたちはまだ通常勤務中だから」


 夜勤明けかつ風呂上りですっきりしたローズの憐れむような口調に、アリスは苦笑で返した。

 王宮や詰所に勤務する際は、正装でいるのが当然のルールだ。


「な、なんか私たちだけごめんね……」


 何も悪くないリリィが、何となく気まずくなって謝罪をする。


「それで?三人そろって何の話してたの?また訓練生のときみたいな悪だくみ?」


「……その話はやめてくれ」


 ローズの興味津々、といった問いに、アリスが若かりし日の失態を思い出してまた苦笑し、つられてシュカも「笑えねえ……」と言いながら苦笑する。ディートクリフだけは「俺は関係ない」という顔をしていた。


「任務だよ。遠征任務」


「え!この三人で行くの?」


 アリスの答えに、今度はリリィが驚いたように聞き返す。


「俺は行かない。話を聞かされてるだけだ」


「聞かされてるって」


 アリスが睨むが、ディートクリフは涼しい顔のままだ。


「なーんだ。同期トップスリーの夢の初共演!ってわけじゃないのね」


 なんだかローズは楽しそうだ。


「でも、アリスくんとシュカくんは一緒に行くんだよね?」


 リリィも心なしか興奮しているようだ。銀色の大きな瞳をキラキラと輝かせて二人を見つめる。


「そりゃ、一応一番隊の任務だからな。しかも今一番隊で王都にいるのは俺達二人しかいねえから、仕方ねえだろ」


「……お前さっきその任務をディートクリフに押し付けようとしてたよな」


「覚えてねえな」


「そんなことはどうでもいいんだけどさ。それより〈星芒騎士〉が二人揃って遠征なんて、一体、どんな大物狩りに行くんだい?お姉さんに話してごらん」


 慣れない要人警護で気疲れしているはずのローズの金色の瞳も、リリィと同じように好奇心できらきらと輝く。


 「何その気持ち悪い喋り方」というアリスの呟きと「俺の方が年上だろうが」というシュカのツッコミは、やはりどちらもスルーされる。


「ゴブリン退治だとよ」


 アリスの代わりにシュカが答えた。

 「それにトップスリーは俺じゃねえだろ」と小さく付け加える。


「え、ゴブリン?何それ。今さら?」


 ローズの途端に拍子抜けしたような表情。

 リリィも言葉には出さないが、同じような顔をしている。


 予想通りのその反応に軽くため息をついて、アリスはまた、背景をかいつまんでローズとリリィに説明する。


「——ハッ!『奈落帰り』とは、実はとんだ臆病者だったようだな。それとも臆病なのは血筋のせいか?」


 それは、アリスがローズたちに説明を終えた直後のこと。


 ローズとリリィが口を開くより先に、離れたところから棘のある声が飛んだ。


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