#50_バトルフェスティバル(5)ゼル・アルシェイドの試合
バトルフェスティバルはクレアの試合以降、大したトラブルもなく初日を終えた。
クレアは試合終了後、控室前まで迎えに来ていたならず者構成員らに半ば連行のような扱いでアジトへ送り届けられ、四階の個室に閉じ込められた。
捕虜のような形ではあるが、彼らもクレアには勝ち残ってもらわなければそこそこ困る。なので、貴族屋敷のような広々として清潔感のある個室が与えられていた。
とはいえ、調度品の類はベッドと机程度のみで、部屋を彩る装飾品は皆無。不要な外出は認められず、試合に備えての鍛錬もこの中で行えということらしい。
食事は朝昼晩きちんと届き、お替りにも応じてくれる。作ってる人が適当なのか、美味しくないけど。
「うん、今回も味も素っ気もないや。それでもちゃんとしたご飯が三食出る分、牢屋に閉じ込められてた時より全然マシかな」
机でトレイに乗ったスープとサラダ、そしてパンを食べる。
一度絶望を経験したせいか、クレアはこんな状況でも取り乱さなかった。確実な死が待っていたあの時と違い、生き残れる希望がある。そして、その希望を掴むための努力も出来る。何よりご飯がいっぱい食べられる。
腐る要因はどこにもない。
「ごちそうさまでしたっ」
パンッ、と手を叩いて食事に感謝すると、今後の試合について考え始める。
「今日戦った人も言ってたけど、次の試合からは相手はどんどん強くなってく。あの人みたいに、小娘だからって手加減してくれないよね、きっと」
では、どうするか。
「今から出来る事っていえば」
授業で教師が言っていた言葉を思い出す。
「瞑想して心を鍛えるくらいしかないっぽいなー」
武道においてまったくの素人のクレアがこの環境で積める鍛錬といえば、筋トレと瞑想くらいしかなかった。無論、筋トレと素振りは毎日欠かさないが気休め程度にしかならない。
少し前にアジトにいる構成員相手に組手を頼んだが、一人ずつ怪我させて脱走する腹積もりではないかと警戒されて断られた。それを聞いた時、なるほど、その手もあったかと手を叩いたのは余談。
「とりあえず、今日はもう寝よう。明日一日トレーニングに……いや、待てよ?」
今日はクレアの試合が終わった早々にアジトに連れ帰らされたが、他者の試合を見るのも必要だと今更ながら気が付いた。
「他の試合を見るためにここから出してもらえないかお願いしてみよう。……軟禁してる人にお願いってのもなんか凄い癪だけど」
もやもやした気持ちで眠りについた。
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居酒屋にて。
ナイフとフォークを持った旅人は、大きな豚の照り焼きを前に目を輝かせていた。
「この香ばしい臭い、そしてタレのテカり具合っ。ああっ、こんなご馳走いつ振りだろうかっ!」
「(ここに来る客船に乗った初日以来だな。直後にギャンブルにのめり込まなければ、毎日のように注文できたであろうに)」
脳内の声がため息交じりに言った。
ど正論で言い返せなかったのもあるが、周囲の目もあって口ごたえは控えた。
「では、早速いただきますっ」
努めて声を無視して目の前の御馳走にありつく。
手に持ったナイフは一体なんだったのか、フォークを大きな肉塊に突き刺してそのままかぶりついた。
「んんん~っ!ふはいっ!ひああへは~……(訳:うまいっ!しあわせだ~)」
「(まったく、おぬしといると退屈せんわ)」
呆れたような物言いだが、微笑ましく見られている感じの声色。
それからは脳内に声が響くことなく、旅人は昼間解体した大型の獣に感謝しながら皿を平らげた。
「ふぅ~、うまかった~……」
人心地つき、背もたれに体を預けて寛ぐ。
落ち着いたころ合いを見計らって声が響いた。
「(ついに明日か。わかっているのだろうな?)」
「もちろん。だけどその話はここを出てからな?……よし、給仕さん!お勘定お願ーいっ」
「はい、只今ー」
会計を終えて店を出た旅人は、公園のテントではなく巨大イノシシを売り捌いた金で取った宿に戻った。
「さて、お待たせだ」
部屋に入るなり独り言をつぶやく。脳内から声が返って来る。
「(いや、こちらも気が急いていた。で、上手く演技出来る自信はあるのか?)」
「どうだかね~。人に合わせるのは随分久しぶりだから絶対とは言えないけど、まあ頑張るよ、としか言えないな」
「(鏡の前で動いて見せたらどうだ?)」
「……姿見クラスの高価な鏡を今の俺が持っているとでも?」
「(……すまぬ)」
「ま、少しずつ相手の様子を見て動いていくしかなさそうだ」
「(そうかもしれんな。くれぐれも、うっかりなどするでないぞ?)」
バトルフェスティバル二日目、Bブロック第一回戦第一試合。
剣士風の男と暗殺者風の男が戦い、トリッキーな動きで終始翻弄していた暗殺者風の男が剣士風の男の首を掻き斬って勝利した。
今大会初めての死者だ。
会場はこれまでに見た事もないほどの熱狂を見せた。それほどまでにこの島の人々は刺激に飢えているというのだろうか。
観客席にいたクレアは担架で運ばれていく男に、この場では命など羽毛のように軽い、とまざまざと見せつけられたような気がした。
巡り合わせが悪かったら、今日クレアはここに来れなかったかもしれない。サルザーに感謝するばかりだ。
「……私も、ああしないと生き残れない場面に出くわすかもしれないんだ」
殺される覚悟も整わないまま殺す覚悟をしなければならない。果たして、クレアにそれが出来るのか。
そうしているうちに第二試合の準備が整い、実況者の声が響く。
「昨日のAブロック第一回戦では死者は出ませんでしたが、溜めていたものを吐き出したかのように本日一発目から容赦のない展開となりました。
世間では人を殺してしまえば失格となる闘技大会ですが、この島ではそんな生ぬるいルール通用しません。殺しを躊躇わない者が勝ち続けるのです」
そうだそうだ、と客席は盛り上がる。
クレアは悲しくなった。
「(人が殺されるところを見て喜ぶなんて、おかしいよ……)」
嘆いても現実は変わらない。
バトルフィールドに次の試合の出場者が出てきた。
「異様な盛り上がりで終わりを迎えた第一試合。その熱気冷めやらぬ観衆の前に現れたのは、傭兵上がりのベベール・ダルと、世界を旅するゼル・アルシェイド!」
両者の武器は剣。
ベベールは鉄の鎧を着込んで防御を万全にし、対するゼルは昨夜居酒屋で豚の照り焼きを食べた時と同じ服装。
見た目だけだとベベールに安心感があり、経歴も相まって観客のほとんどがベベールに賭けていた。
だが、クレアだけは様子が違った。
「……アル、シェイド?その名前って、確か……」
無口で不愛想だけど、クラスメイトを思い遣ってくれる心を持ったFクラスの男子が思い浮かんだ。




