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魔力値1の少女はくじけない  作者: 白いレンジ
第一部:波乱に満ちた学園生活

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#1_プロローグ


 とある国の断崖の魔王城。

 その大広間で勇者たちは魔王と死闘を繰り広げていた。



「フレイムケイジ!」



 浅黒い肌に額から二本の角を生やし、洞のような目以外は人間と変わらぬ姿の魔王は、女魔法士が放った炎の檻に囚われた。

 勇者は味方に叫ぶ。



「クリフ、今のうちに僕とガドルフに強化魔法をっ!」


「ああっ!」



 クリフと呼ばれた神官は素早く詠唱を終えると、錫杖を掲げて「ブースト」と叫んだ。勇者と戦士の体が淡い光に包まれた。



「いくぞ、ガドルフ!」


「おうっ!」



 勇者と戦士は炎に包まれている魔王へ疾く駆け出す。

 続けて、女魔法士は炎の檻に加えて風魔法を放つ。



「ストームエッジ!」



 炎の檻の中で鋭利な風の刃を受けた魔王は歯噛みする。



「小癪なマネをっ……」



 間髪入れず、勇者と戦士が魔王に迫っていた。



「「これで終わりだっ!」」


「こんな、馬鹿なああああああっ!」



 魔王の体は勇者と戦士の剣に斬られた。

 ……そのはずだった。



「なんてな」


「っ!な、なんだとっ」


「剣が……攻撃が……」



 魔王の肩口を斬りつけるはずだった二人の剣は、魔王の衣服すら切り裂けずに止まっていた。

 愕然とする勇者たち。

 正面からは、嘲笑う魔王の声。



「なんてな。こんなただの鉄屑で俺に傷を付けられるわけないだろう。いやあ、それにしても良い顔だなぁ。希望が見えた瞬間に絶望に叩き落された時の人間の顔というのは、いつ見ても愉快だ」



 虫を払うかのように両肩の剣を払い除け、炎の檻も掻き消えた。徐に女魔法士に向けて指先を向け、先端から黒い魔力の弾を放った。



「っ」



 あまりの速さに避ける暇も、叫ぶ暇もなく、撃ち抜かれた女魔法士は消し炭になった。

 遅れて振り返った勇者たちは、女魔法士だったモノを見て動きが止まった。

 ありったけの魔力を込めた一撃であの威力ならまだ理解できる。

 だが、あの無造作でありながら適当でもあり、さほど魔力が込められているとは思えない、そんなぞんざいに放った一発が一瞬で人間を消し炭に変えた。

 いくら魔王とはいえ、ここまで人間との差があったという話など聞いたことがない。これではまるで別の世界の生き物だ。

 三人になった勇者パーティは悪夢を見た心地だった。



「……っ……」


「どうした、もう向かってこないのか?まさか、たった一人死んだだけでやる気が失せたのか?はあ、つまらん」


「くっ」



 一人死んだから、という話ではない。存在としての格の違いを、本能で理解してしまったからだ。

 教会や民たちから勇者勇者と持て囃され、事実数えきれないほどの魔物を倒し、苦戦の果てに退けてきた。

 そうした積み重ねが魔王討伐を成せるとの自信にも繋がって、ここまでたどり着けた。

 だというのに、あと一歩というところでこんな理不尽が待ち受けていたなんて。



「人間の分際で俺の邪魔をしようとしたツケは、高くつくぞ」



 魔王は女魔法士を消したあの魔力弾を、今度は神官に向けて放った。



「あ」



 辛うじて一声発し、神官の人生はそれで終わった。

 残された二人はあまりの悔しさに、意味のない雄たけびを上げた。



「あああああああああああっ!!!!!!」


「くそがああああああああっ!!!!!!」


「近くで大声出すな。黙れ」



 直後、戦士が消えていた。

 勇者は隣から声が聞こえなくなってから気付いて振り返り、歯を剥き出しにして怒りを露わにする。



「魔王っ、貴様あああっ……」


「その顔、その顔だっ!楽しいねぇ、これでこそお前ひとり残した甲斐があったというものっ!」


「お前だけは、絶対に許さないぞっ!」



 勇者は両手で剣を構え、両足に力を込めた。

 飛び掛かろうというその時、大広間の入口から男の声がした。



「魔王がいると聞いて来てみれば……。なんだ、外れだったか」



 まさかの第三者の登場。

 魔王も勇者も、入口を見る。

 黒い外套に身を包んだ二十代半ばの男が、ヒートアップする二人へ向かってつかつかと歩みを進めていた。



「お前、誰だ?」


「ただの旅人、ってとこかな」


「そんなわけあるか。俺がいると知って来たと言っておきながら、そんな嘘は通用せんぞ」


「じゃあ、さっきのはナシで」


「ふざけているのか?」



 旅の男は魔王から一旦目を逸らし、勇者に目を向けた。



「なかなか手ひどくやられたみたいだけど、もう帰って仲間を弔ってやるといい」


「……は?」



 ただでさえよく分からない事態だというのに、魔王を放って帰れと言われた。



「い、いや、そういうわけにはいかないっ!ここで魔王を倒さなくては、人々が蹂躙されてしまうっ」



 それを聞いた旅の男は、困ったように唸った。



「いや、でもキミにアイツが倒せるとは全く思えないんだけど」



 本人もそれは身をもって充分に理解していた。それでも退けないのだ。



「そ、それでも、微かな希望がある限り、諦めないっ!それが勇者としての……いや、天賦の力を授かった僕の使命なんだっ」



 あまりの熱さに旅人は痒くもない後頭部を掻いた。



「すんごく気負い過ぎ。自分じゃなきゃダメだとか、自分がここでやらなきゃみんながー、とかちょっと自信過剰」


「なっ」



 死闘を繰り広げている最中だというのに、この軽妙な言い草は場違いすぎる。

 この色々と怪しい男と話していると、どうにも調子が狂ってきそうだ。今はそんな言い合いをしている時ではない。



「と、とにかく、危ないからここから離れるんだっ」



 そう促す勇者に異を唱えたのは、魔王だった。



「いや、去る事は許さん。お前に興味が湧いた。勇者を殺した後は、お前に相手をしてもらう」



 無関係の一般人を巻き込ませるわけにはいかない。

 そう思った勇者は足に力を込め、戦いの続きをしようとした。

 その瞬間、旅の男が言った。



「いや、それには及ばないよ」



 旅の男の姿が消え、いつの間にか魔王の背後に立っていた。

 剣を振り抜いた姿勢で。



「お前……今、何を」



 言い切ることなく、魔王の体は分断されて消滅した。



「ただ斬っただけとしか……って言っても、もう遅いか」


「……あっ……?」



 見ていた勇者も何が起きたのか分からず、あれだけ強大だった魔王が一瞬で倒されるという常軌を逸した光景に声を失った。

 旅の男は、ここにはもう用はないと言わんばかりに大広間から出て行こうとする。

 彼とすれ違った時に勇者は我を取り戻した。



「ま、待ってくれっ!貴方はいったい何者なんだっ。いや、そんな事より、僕たちにその力を貸してくれないかっ」



 足を止めた旅の男は、面倒そうに勇者を見て言った。



「え、やだよ。キミ、勇者なんでしょ?各地を飛び回って困ってる人を助けて回るんでしょ?疲れるからやだ」



 まるで子供のような理由に勇者は呆れたが、そんなことでは引き下がれない。

 喉から手が出るほどに旅の男の力が欲しかった。



「ええー……。そ、そんな力があるのに人々の為に使わないというのかっ」


「そんな言い方されたら、なんか俺が悪人っぽいじゃん」


「魔物や魔王が存在するこの世で、これだけの力があるのにやらないのは罪だっ。女神エリクシアだって許しはしないだろう」


「女神エリクシアねぇ」



 男は一瞬だけ考える仕草を見せ、言った。



「まあ、どうやらキミは敬虔なエリクシア信徒っぽいから、アドバイスだけはしてあげよう」


「アドバイス?」



 どうやら彼の強さの秘密を知れそうだと思った勇者は期待した。



「後進の育成に励むといいんじゃない?キミレベルの人間が大勢いれば、さっきの魔王もどきくらいは……多分倒せるようになるんじゃないかな。そんじゃあねー」


「……え、あ、ちょ」



 旅の男はひらひらと手を振りながら魔王城から去った。





――――――――――四十年後―――――――――





 ファナリース王国・フォスノウス学園、通称:勇者学園。

 その理事長室の椅子に、初老に片足を突っ込んだ威厳ある空気を纏った男は座っていた。

 彼の正面で、眼鏡をかけて髪を結い上げた女教師が報告していた。



「本年度の入試についての報告は以上です」


「では、例年通り技能レベルごとのオリエンテーリングの準備を頼む」


「畏まりました。では、失礼します」



 踵を返そうとした女教師を理事長は引き止めた。



「ところで、今年は例のクラスに入りそうな生徒は?」



 女教師は瞳を閉じて答えた。



「……彼女を含め、四名おります」


「そうか。皆に心労を掛けると思うが、どうか宜しく頼む」


「いえ。では、これで」



 今度こそ女教師は理事長室を後にし、その部屋の主だけが残った。

 椅子の背もたれに体を預け、虚空を見ながら呟く。



「彼のお人よ。私の道はこれで良いのだろうか」





―――――――――――――――――――――――





 ファナリース王国の東端の村落。

 村の出入り口には、今年十六になる一人の少女の旅立ちを見送る村人たちがいた。



「いやー、まさか村から王都の学園に入学するヤツが出てくるとはなぁ!未だに信じられねえぜ」


「クレア、しっかり学んでくるんだよ」


「クレアねーちゃん、夏には一回帰ってくんだろ?そんとき色々聞かせてくれよ」



 見送られる彼女の名前は、クレア・シールズ。

 金色の長い髪に赤を基調とした学園の制服に身を包み、大きな荷物を担いだクレアは見送りの言葉を晴れやかな笑顔で受け止めた。



「みんな、見送りありがとう。それじゃあ、行ってきます!」



 期待に満ち溢れた笑顔と共に、彼女は歩き出した。






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