花火大会・後編
「あの……」
「大守さま、山城さま。お待ちしておりました。本日はごゆっくりとお楽しみ下さい」
黒服さんがぺこり。あたしも千晶も慌ててぺこり。
めっちゃ簡単だったぞー! 顔を覚えてくれてたぞー!!
黒服さん2号さんけ? 別の女性が例のアクリルボックスのドアを開けてくれた。普通にドアノブ付いてるんかー。透明だけど。
みーんながきっちり席に着いてる来賓席にようやく突入。びっくりするほどの明るさだー。
あ、千穂が見てる。
「佳穂、千晶、遅いよ?」
「ごめん「ごめん」」
ちょいずれた。同時に言おうと思ったのに。千晶の馬鹿。
「あ――! 佳穂――! 千晶――!」
「憂ちゃん、ちゃおー!」
元気に挨拶したあたしと違って、千晶は声の代わりに手をふりふり。笑顔でこたえる憂ちゃん、可愛いぞ。ちっちゃい手を千晶にふりふり。あたしにもしとくれー。してくれたぞー!
「なかなか進めなくてね」
こ、こいつ、しれっと嘘つきやがった! 千穂の遅いに対しての返事。
あたしら、結局なかなか『アクリルボックス』の中に入れず。命名あたし。
「人だらけだもんね」
千穂はお人好しだ。簡単に信じるし。
千晶からすりゃ、『見られるの嫌だから出てこれなかった』とは言えんわなー。千穂も憂ちゃんも何度もこういうの経験してるんだし。
「わたしたちで最後?」
「……たぶん?」
憂ちゃん千穂ちゃんアイドルユニット到着後のトップバッター。凌ちゃんと結衣ちゃんの寮生コンビは浴衣じゃなくて私服で登場。この人、相変わらずの肝っ玉だー。あたしらみたいにどこかでコソコソとかしてかったんだぞ。たぶんだけど。その2人がケース出入り口の黒服さんに話し掛けてからだぞ? 他の人らが出てきたんって。あたしらと一緒でどうしよみたいなことになってたんだと思う。まごまごしてたんだぞ。男子たちも。
……2人っていうと結衣ちゃんかわいそだね。結衣ちゃんの場合、凌ちゃんがズンズン進むから仕方なく付いていった感じだ。顔がそう言ってた。
何気に勇太以外は知ってたメンバー揃ったぞ。勇太はアレだ。弟妹の面倒どこかで見てるはず。この中はさすがにね。
それにしてもさ。中に入ると不思議を感じた。
外からだとめっちゃ見られるんだろーなーとか思ってたけど、中から外はあんまり見えないんなー。
外が暗いからか? めっちゃ明るいとこから暗いとこ見るとそうなんか? わっかんね。でも、見られてるって印象はあまりないぞー? オマケにめっちゃ涼しいぞー?
床に小さな穴がいっぱい空いてて、そこからひんやり空気が入ってきてる。下にエアコンでも置いてあるんかなー?
そりゃそうだよなー。
ちょっと考えればよかった。この中が暑かったりしたら総帥さんがキレる。憂ちゃんが快適にすごせんぞー!! ……みたいに。
「時間だ!!」
ちょっとビクってなった。
急におっきな声出した総帥さんにマイクが渡される。
この辺、気楽だー。あたしも千晶も何もなし。役目があるのは憂ちゃんとちほちほ。
憂ちゃん、開会宣言頑張れ!!
『まもなく、第一回、蓼の花、倫理、研究、自治区、大花火大会を』
いきなり総帥さんが喋るんかと思ったら違ったぞー!!
お姉さんの声、どこからだー!? わからんぞー!!
『憂くんが花火を好むからこそ、この大会が開催される運びとなった! 皆、憂くんに感謝するがいい!』
ぱちぱちぱちぱち。いっぱいの拍手ー!
ん? メッセージきた。千穂かー。
千穂と憂ちゃんだけは2人掛けの席だー。ソファーみたいなのに横並び。いっつもだけど、手ー繋いでるぞ?
千穂【憂ってそこまで花火大好きってわけじゃないと思う(笑】
千穂【忘れてたんだよ? 花火のこと】
千穂【だからきっと初めて見た花火。だから興奮したんだよ】
なるほどなー。
んで、蓼園さん相変わらずだなー。憂ちゃん上げすげー。拍手、やっと落ち着いてきたぞ?
拍手あったってことはアクリル通しても、しっかりと外の人たちに聞こえてるんか。上が空いてるからかー?
千晶【意外と余裕ですね。緊張してない? だいじょうぶ?】
千穂【私は直接話すわけじゃないから……。憂は緊張してる。実は手汗がすごくて(笑】
それでもすげーぞ。千穂も大物になっていってるなー。
『さぁ、開会宣言だ! 皆の者! 憂くんの声に酔いしれるがいい! 千穂くんの優しさに触れるがいい!』
きた! 憂ちゃん頑張れ!! 千穂もフォロー頼むぞ!?
あははは……。
なんだかなぁ……。
『――えっと。ここに――たでのはな――んぅ――?』
『自治区花火大会の……』
『じちくはなびたいかい――』
『の』
『――の?』
『開催を』
『かいさいを』
『宣言します?』
『せんげん――します――?』
さっきよりでっかい拍手ー!
笑っちゃだめだー。笑っちゃだめだー。
ぐだぐだだー。
の! のの時、疑問形だったん流しやがったー! のだっけ? って憂ちゃんは聞いたんだぞー! 次に進んだ瞬間、憂ちゃん、一瞬ぽかんとしたぞー!?
最後のも、なんか千穂が疑問形じゃなかったかー? なんでだー?
千穂の声まで拾ってたん、絶対わざとだー。2人揃ってこれはあざといぞー。自治区長さん差し置いての宣言お疲れ様ー! ある意味で大成功だなー!
2人が席に戻ると静かになった。
打ち上げ直前……け?
いいよなー。この緊張感、たまらんぞー!
誰1人しゃべ「最初はきっと三尺玉。すごいの見れるよ?」
喋るんかい! 黙ってられない性分なの知ってるけどさー。
ごくり。それだけ言って黙った千晶が唾を飲み込む音。そんなにすごいんかー? 三尺玉って。あたしまで緊張してきたぞ?
それにしてもめっちゃ楽だー。この椅子。見上げる必要ないぞー?
……途中で寝たら誰か起こして?
ひゅるるるるるるる。
おー。上がってる上がってる。
しっぽ残して上がってくぞー。
開いた! 赤いのキ!?
うひゃああ!! すっげー音!! すっげー!! ドン! って!!
すぐに振動もドンってきた!! なんか胸の中、直接届いた!!
赤い、ちょーキレイなのだったけど、それよりも音と振動に感動だー!! 間近で見る花火ってこんなにすげーのか!? こんなのを5万発!? すっごい! 早く次! 次!!
「憂……? よしよし……」
あ!! そっか!! でっかい音だった!!! 憂ちゃん大丈夫―――
―――この時のことは、千穂の日記に詳しく書かれている。
佳穂は気付いていなかった。関心が上空へと寄せられていたためだ。
実は、最初の花火が尾を残し、上がっていく最中、千穂だけは憂を見ていた。
他の誰もが……。憂や千穂の熱狂的なファンも誰の彼も。総帥ですら、花火を見逃すまいと見上げていた、そのタイミングで彼女だけは横を見ていた。彼女の横顔を。
憂の右手を自身の左手でしかと握って。
【憂の瞳が赤く輝きました。きっと、赤い花火だったんだと思います。見てないから分かりませんけど(笑
そのコンマ何秒か後で予想通りの反応。目がまん丸。いつも以上のちからで私の手を握って、声も上げられませんでした。雷の時は上げてたのに。
……正直言うと、可愛くて面白かったです。
ごめんとは思ったけど、期待していました。絶対、驚くだろうな……って】
佳穂が聞いた千穂の『よしよし』はその後のフォローだ。
驚き、固まってしまった憂を励ますために頭を撫でた。
……事前に音の凄さを教えなかったのは、千穂のSの気だろう。いたずら心が呼び起こされたといったところだ。
そんな憂の様子に千穂の声で気付いた総帥は、花火大会を早々に中断。
ずらしてあった上部のアクリルを本来のポジションに戻し、来賓席を密閉。音の緩和を図り、憂でも鑑賞可能にした。
わざわざ空けてあったのは、梢枝か遥。この辺りの仕業だろう。
仲睦まじい様子を世間に見せ付けるために。
本編に挿話してますよー!
236.5話です。第260部分です。
単体で読まれると、何のことやら……かもしれません。
でも、個人的に思っていたラスト付近での『あれ?』って違和感はこれで払拭できる手筈ですー!
久しぶりに半脳本編を捲ってみて下さいー!
……ついでに本編やら過去編やら、このAfterやらを評価して下さると嬉しいです。




