誕生日と出産
研究所 魔核生成室前
「オシホ様はまだ?」
「はい。ですがそろそろだと思います」
俺の問いに答えたのはアリスさん。
俺達は、長く魔核の生成所に籠っているオシホ様が、そろそろ出てくる頃だと待ち構えていた。
オシホ様は、家族で年越しをした後、あることを理由に約一ヶ月間を目処に魔核の生成所に籠っている。
それは、俺が地域支配者になった影響について分かったことがあったからだ。
俺が地域の支配者になり、魔力供給範囲がオークが支配していた地域、ヤークデル地域の範囲なら魔力供給が可能になったことで、基本的に遠征用のゴーレムの必要性が低くなった。
だが、遠征用ゴーレムはまだ必要であり、地域支配者になってから魔力供給範囲外に出た場合の効果を調べるたに、地域外に出たのだが、魔力供給範囲でも無いのに魔力供給を受けることができた。
ただ、魔力供給範囲外で魔力供給を受けることができたのは、俺とオシホ様だけだったのた。
魔力供給範囲外で魔力供給を受けることができた理由はすぐに分かった。
コアを支配しているものは、力を得る。
この力を得ると言うのが、保有魔力量や魔法の威力の増加、身体能力向上などだったが、これはコアからの魔力供給を受けての事だった事が分かった。
それで、俺が魔力供給範囲外でも魔力供給を受けることができ、俺と融合状態にあるオシホ様にも魔力が供給されたのだった。
しかし、これらの状況は、俺の置かれた特殊な条件によってこのような効果が生まれているようだった。
地脈の力を使えるコアの管理者であること、地域の支配者であるのと、この二つに加え、土の大精霊と融合状態にあることで二つをリンクさせる事が出来ていると思われる。
研究所から供給される力を、地域のコアを通じて地域全体に送り、支配者や守護者と呼ばれる支配者に指定された20人への魔力の供給を手伝っているのだと思われる。
つまり、大精霊とまでは言わなくても、精霊と融合状態にある者で無ければ、研究所の管理資格を持っていても、俺と同じ状態にはなれないという事だ。
そして、このコアからもたらされた力は、地域内なら100%発揮出来るが、地域外だと地域から離れれば離れるほど効果が薄くなる。
簡単に調べただけだが、地域一つ分ほど離れると、約25%ほどの効果が薄れる様だった。
そして、一般常識では無いが、地域支配の力は地域二つ分離れると半減し、三つ目でほぼ無くなると言われているそうなので、地域一つ分で25%、二つ分で50%、それから先は急激に効果が薄れると思われる。
これらの事に従い、ある実験がされた。
これまでの様な、魔力供給範囲を電線みたく張り巡らす方法では無く、俺やオシホ様から魔力を供給する方法だ。
結果は成功し、魔力供給範囲外でもゴーレムに魔力を供給することができた。
ただ、他のゴーレムへ魔力を供給するには、一旦コアでその魔力を受け取らねばならず、これまでのような数に供給するには、容量不足という事が分かった。
オシホ様のゴーレムのコアが特別製てはあるのだが、それでも10体程度がギリギリであり、それ以上はコアをもっと容量が大きな物にしなければならなくなった。
更に、俺の搭乗型ゴーレムからの魔力供給もコアの容量不足が分かった。
こちらは、コアの容量不足を俺自身が補おうとしてしまい、身体に大量の魔力が不意に流れ込み、俺が気絶してしまう事態になってしまった。
これにより、俺の実験への参加は中止されてしまった。
この後は、コアの力を他の者にも分けられる、守護者制度を用いて、精霊トリオと新精霊達にも魔力供給を出来るようにして実験が継続された。
結果は、魔力供給は可能だが、精霊トリオで4体、新精霊達で1体、しか魔力供給できなかった。
これでは戦力として話しにならないので、ゴーレムのアップグレードも兼ねて、新しいコア、魔玉を作るために、その中心となる大きな魔核を作るために、オシホ様が魔核生成室に籠ったのだ。
と言うわけで、一月四日から籠っていたオシホ様がそろそろ出てくるとアリスさんに教えてもらい、俺とアリスさんで魔核生成室前に待機している。
ここは最重要機密になるので、俺とアリスさんだけになる。
他の皆は、魔核を生成出来ることも知らない。
ガチャ
「ん?おお、広坪にアリス、出迎えか?」
魔核生成室から出てきたオシホ様は、俺達を見て驚いていた。
「はい。アリスさんにそろそろ出てくると教えてもらったので」
「そうか。感謝する」
「それで、魔核はどうでしたか?」
皆のところでは話せない事なので、ここで尋ねる。
「現状で最高の物ができたぞ。これ以上となると、ドラゴンでも倒さねば手に入らぬな」
「それほどですか」
「うむ。ワシが付きっきりで魔具を制御するだけでは無く、ワシ自身が魔力を注ぎ続けたからの。作れるものとしてはこれが最高じゃろうな」
魔核は本来的魔獣の中で自然に成長していく物なので、人工で作るとなると色々な制限が掛かる。
その制限の中で、オシホ様が作った魔核は、恐らく人工で作れる最大の物になっているハズだ。
「それよりも、じゃ。カティリアはどうじゃ?」
オシホ様が魔核について話した後、間髪入れずに尋ねてきたのはカティの事だった。
「大丈夫です。まだ生まれてませんし、経過も順調です」
「そうか。さっそく会いに行こう」
オシホ様が新年になってからすぐに魔核の生成に入ったのは、カティの出産に立ち会うためだったりする。
出産予定日としてはあと半月ほどあるが、新年のもろもろを済ませた後、余裕を見て出来る限り早く魔核の生成に入ったのだ。
その後、カティの様子を確認したオシホ様、そのままヘイヴィアの元に向かい、この一ヶ月での成長を見て喜んでいた。
それから一週間後の二月十日、ルティの三女、クリスティアの誕生日が来た。
今年で彼女は11歳になる。
出会った時は9歳だったが、随分と大きくなった。
「クリス!誕生日おめでとう!」
皆で昼食を兼ねた誕生日会をした。
勿論、魔法のケーキでお祝いをする。
特別な時にケーキ、という具合で毎回出しているが、クリスが喜んでくれているので、これはこれで良いのだと思う。
プレゼントは、各自の手作りの物だった。
洋服や手作りのアクセサリー、小物などだった。
俺はと言うと、センスがあるものを考え付けない自信があるので、いつも通りな『なんでも言うこと聞く券』だ。
レイやアムの時も同じものを送ったが、クリスも喜んではくれている。
ちなみに、レイとアムに渡した『なんでも言うこと聞く券』は使用期限をつけていなかったので、まだ使用されていない。
クリスの誕生日を皆で祝い、誕生日会が無事に終わろうとした時、カティが苦しみだした。
「じ、陣痛が……」
カティの言葉で場が騒然となった。
「落ち着きなさい!」
大声を出したのはルティで、ルティの言葉で皆が少し落ち着いた。
「オシホ様、シルトラさんを呼んでください!アリスさんは出産の準備を!コウ様はカティを出産用の部屋に!」
ルティの指示を受け皆が動く。
オシホ様が産婆さんのシルトラさんを呼びに行き、アリスさんは出産用の部屋の準備に向かった。
俺は、カティに肩を貸し、ルティと共に出産用の部屋に向かう。
俺達がカティと共に出産用の部屋に着くと同時に、オシホ様がシルトラさんを連れてきた。
「陣痛はいつからですか?」
「ついさっきです」
「でしたら、まだまだ時間がありますね。出産用の台では無く、そちらの普通のベッドに座らせて下さい」
そうだった。陣痛が始まったからと、すぐに生まれる訳では無かった。
二度目だと言うのに、慌ててしまった。
カティをベッドに座らせた後、俺はカティの側に居た。
初産で双子、しかもこの世界ではかなりの高齢出産になるので、カティがかなり不安がり、俺とルティで両手を掴み、色々と話をして不安を紛らわせた。
陣痛の間隔が短くなると、俺は出産用の部屋から追い出された。
なんとも情けないが、男は出産に立ち会えない風習なのだそうだ。
ルティの時に粘ってみたが、静かにそして力強く拒否されたので、仕方がないと諦めている。
陣痛が始まってからだと10時間近く、出産用特別室の前で待機し、6時間が経過した。
そして、カティが双子の赤ちゃんを産んだ。
俺は出産室に入れられ、両腕に赤ちゃんを抱えたカティと会った。
「カティ、おめでとう。ご苦労様です」
「広坪様、ありがとうございます。元気な男の子と女の子です」
男の子と女の子という事は二卵性か。
「俺の子を産んでくれてありがとう」
「私こそ、ありがとうございます。……広坪様で無ければ、この子達を産むことは、出来なかった、でしょうから、本当にありがとう、ございます」
カティが涙ながらにお礼を言ってきた。
「広坪様、赤ちゃんに名前を……」
ルティが赤ちゃんの名前を求めてきた。
今回は双子だと分かっていたので、六人分の名前を考えていた。
男二人、女二人、男女二人のパターンに備えたのだ。
「男の子がトラウス、女の子がミリエルです。どうですか?」
「ありがとうございます。良い名前です」
「広坪様、カティリア隊長も疲れています。今はこれぐらいで」
産婆のシルトラさんが止めに入る。
「そうてすね。カティ、本当によくやった。今はゆっくり休んでくれ」
「……はい」
俺が離れると、ルティやマリー、三姉妹にステラ達、ミリエルとレティシアが次々にカティにお祝いを言って離れる。
「コウ様、私はカティについていてあげたいので、娘達をよろしくお願いします」
「了解です。さぁ皆、行こう」
「「「はい」」」
ルティに赤ちゃんが産まれたので、三姉妹は別の部屋に居るので、そこに送っていると、レイとアムが眠そうにしているなか、クリスが話しかけてきた。
「広坪様、あの二人は私と誕生日が一緒になった!」
クリスは満面の笑みだった。
「そうだね。これから誕生日を一緒に祝えるね」
午後からも色々と遊んであげる予定だったが、カティの出産騒ぎで滅茶苦茶になったので、今度埋め合わせをしてあげようと思う。
一週間程が経ち、双子もカティも経過は順調だった。
今も、双子はカティのお乳を元気よく飲んでいる。
「トラウス、ミリエル、お腹一杯飲むんだぞー」
「オシホ様、赤ちゃんの邪魔をしてはいけません」
「おお、ヘイヴィアも一杯飲んでおるかー?」
「オシホ様……」
俺が赤ちゃん達を見に来ると、オシホ様が赤ちゃん達のほっぺをプニプニしていた。
オシホ様は、ヘイヴィアが産まれてからはじけていたのだが、トラウスもミリエルが産まれてから更にはっちゃけており、それを見ている俺は、お陰で少々冷静になれている。
どうやら、トラウスとミリエルがお乳を飲み終わったので、げっぷを出させるのを手伝う。
「広坪!ずるいぞ!」
「早い者勝ちです」
俺達が赤ちゃんと戯れていると、アリスさんが来た。
「広坪様!オシホ様!テストに出発する時間です!」
オシホ様特製の魔核を使った魔玉が完成し、それを使った新型ゴーレムのテストを今日行うことになっていたが、時間になっても来ないので、アリスさんが俺達を呼びに来たのだ。
「「了解した」」
俺とオシホ様、渋々赤ちゃんと別れて、アリスさんと共にゴーレムの整備場に向かう。




