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永遠の夢  作者: 方舟
7/11

おうしのへや

 アヤトはキサの腕を引き、ドアと自分の間に押し込むようにしてかばう。そしてカチリとペンライトをつけると、足元を照らした。

 一瞬ためらった後、奥に設置された拷問器具と思しきものをしっかりと照らし出す。


 そこにあったのは、鉄製の棺のような箱だった。

 キサも知っている。あれの名前を。

 鉄の処女……棺の中に納めた犠牲者を、内側にはあるいくつもの棘で刺しつらぬく拷問器具。

 今はしっかりと閉じられたその像の中がどうなっているのか、キサからはわからない。


 だが――その足元からは。


 ぼたっ。


 何か粘性の強い液体が滴り落ちる。ペンライトでてらすまでもなく、どす黒い色であると理解できた。

 ツンと嫌な鉄錆の匂いがした。


 なぜ――なぜ、突然あんな光景が。


 ペンライトの照らす像の足元、そこにどんどんと粘性の液体がたまっていく。


 ぼたっ。びちゃっ、びたびたびたびた。


 大量の液体がそこに水たまりを作る。

 そして唐突に――滴る音は止まった。


「……部屋を出よう」


 静かに、アヤトはそう囁く。

 その声に珍しく緊張した何かを感じ取ったキサは迷わず頷く。背中に当たっていたノブを掴み、迷わず開ける。


 ――べちゃり。


 何か濡れたものが固いものを叩くような音が聞こえた。

 とっさにキサは、音のした方を振り返る。そして――見てしまった。


 鉄の処女の足元にある、ぬらぬらとした水たまり。そこから、『なにか』が這い出してこようとしていた。


 思わず声にならない悲鳴をあげた次の瞬間、キサは突き飛ばされて部屋から放り出される。

 振り返り、戻ろうとした鼻先で、扉が勢いよく閉まった。


「アヤト!」


 叫びながら扉を叩く。覗き窓から、アヤトの顔がのぞいた。


「アヤト開けて! そこに何かいるの!」


 部屋の中だけではない。キサのいる廊下でも、「なにか」の気配がまるで波が寄せるように近づいてきている。

 早く逃げなければ。焦って扉を叩くキサを見つめているアヤトは、まるで他人事のように穏やかだ。彼はキサを見つめ、そして口を開いた。


 ――O U I――


 唇がそう動いたのが見えた。

 キサは思わず手を止め、アヤトの唇の動きを見つめる。


 ――OUI O EiA――


「『牡牛の部屋』?」


 キサの言葉に、アヤトは笑って頷く。

 その背後に、「なにか」の影が迫っているのを見て、キサは我に帰った。


「それよりアヤト! 早くこっちへ来て!」

「…………」

「アヤトッ!」


 ――いって――


 かぶりを振ったアヤトの口がそう動く。かと思うとすぐにキサに背を向けてしまった。


 キサは途方にくれる。きっとアヤトはあの部屋に残ることで、キサを守ろうというのだろう。

 不気味な気配のひしめく廊下。アヤトは冷静に、キサに移動するように命じた。


 ――あの飄々としたデリカシーの欠如した男が、そう簡単にやられるはずがない。


 自らに言い聞かせ、キサは一歩下がる。そのまま走って妙な気配を見ないようにしながら、言われた扉に飛びついた。


 「牡牛の部屋」――それはおそらく、「ファラリスの牡牛」が配置された部屋。

 ドアを開けて中に飛び込む。

 音を立ててドアを閉めると、びちゃりと嫌な音がドアに叩きつけられた。


 ――びちゃ、びちゃり、べちゃ。


 濡れた何かを叩きつけるような音。先ほどよりさらに激しく鳴り続ける音を黙殺し、キサは耳をふさいだ。


 考えろ――考えるんだ。

 アヤトはいない。きっと自分よりずっと危険な状態のはずだ。

 助けなければ。助けに行かなければ。


 びちゃにちゃと嫌な音を立て続ける扉を背に、キサは耳をふさいで考え続けた。

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