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魔法王国の王女と千年勇者  作者: 桜山うす(J.I.A)
グラディエイターシティ編
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喫茶店と千年勇者

 俺は第50勇者連隊の指揮官の子孫、エリック・ダウザーと相談することになった。


 静かに話し合いができる場所がいい、ということでファミリーレストランから喫茶店へと場所を移動した。

 なぜかひっついてきたシンギスベリエも、場にふさわしいドレスを身に着けていた。露出度がすげぇ高い。くっ……そのボリュームで背中丸見えは反則だ。


「とりあえず、俺もタブレットの通信機能が使えるようになりたいんだけど」

「ああ、君は前科もないから大丈夫だろう……」


 前科。アイスキャットには大盗賊として世界を荒らしまわっていたという前科があった。

 正直に言うと、アイスキャットも同じ方法で保護したかったのだろう。

 残念ながら彼女には許されなかった方法だ。


「ひとつ聞きたいんだけど、どうしてタブレットが必要なんだい?」

「この世界に召喚師が生きているって話をアスカロンから聞いた……。千年前のデータしか残っていないタブレットじゃあ、捜査もなにもできない」


 シンギスベリエは、初耳だという顔をした。「生きてるの?」


「なるほど、君はこの世界のどこかにいる召喚師を探したい……か。さもありなん。まさにそれこそ、この噂が出回るようになった理由でもあるね」

「どういうことだ?」


 ダウザーはうなずくと、とんとん、と机の角を指でたたいた。


「ちなみに、どうして召喚師が生きているという噂が流れているのか、君は聞いている?」

「いや、あんまり詳しくは聞かなかったが」


 その辺はアスカロンを全幅的に信頼していたので、聞かなかったのだった。


「……魔王軍にも異世界召喚が使える召喚師がいる。四天王の1人、悪の召喚師(イヴル・サモナー)マイコフだ。……彼が存命なのは確かだ、今も多くの惑星が彼の悪性召喚によって滅ぼされているという」

「勇者側の召喚師は……?」

「生きている、と噂をする者もいる。こちらは噂の域を出ない」


 ダウザーの表情は厳しかった。


「1000年前、召喚師連盟の召喚師は、惑星アヴァロンから撤退した。じゃあ、『現地人の召喚師』はそのあとどうなったのか」


 惑星アヴァロンには、ある日突然、空から侵略者のごとく召喚師連盟が現れたのではない。

 まず、異世界から『大召喚師』を召喚することに成功した、『現地人の召喚師』がいたのだ。

 大召喚師は、自分の属する召喚師連盟から大量の召喚師を召喚し、そしてすべての召喚師が一斉に大量の勇者を召喚し、数万からなる勇者ユニットを結成した。

 この召喚師の大軍によって、惑星アヴァロンの150億勇者召喚は成立したのだ。


「惑星アヴァロンは今、魔王によって異世界召喚を封じられているんだ。異世界召喚を封じられた召喚師は、非常に無力だったと聞いている」

「ああ、無力だった。夜怖くて1人でトイレにいけなくて俺が召喚されたこともあった」


 シンギスベリエが「あはは、あったねー」と笑った。

 ダウザーは1000年前の思わぬ真実に目を見張っていた。きっと現代勇者たちのなかで召喚師はもっと神聖化されていたんだろう。


「と、ともかくだ。これは1000年も昔の事だから、我々も確証が持てないのだが……つい最近、10年ほど前から現れるようになった君たち千年勇者の証言から、勇者はみな自分の召喚師を、少なからず慕っていた……と考えられるようになっていた」

「ああ、特に俺たち第50勇者連隊はそうだった。『召喚師のために!』が合言葉だった」

「じゃあ、聞くけど、もし彼らを殺害していれば、君やその仲間たちは黙って魔王軍に従っていたと思うかい?」

「…………」

「異世界召喚が封じられて無力化された召喚師を殺害して、魔王軍になにかメリットがあったとは思えない。……それが召喚師が生きているという論拠だ」


 なるほど。

 目から鱗だった。

 つまり。


「勇者を従わせるために、殺さずに人質にとっていた可能性がある」

「その辺の軍事機密は『勇者ギルド』の幹部連中しか知らないが……あいにく、我々の祖先も個別部隊の指揮官という立場でしかなかったからね。だから、10年前から噂にはなっている、そういうことだ」

「じゃあ、今もまだ生きているっていう話は?」

「アリスフォン=ヴェートラーナというのを知っているかい」

「あのチビ……いや、緑色の目の、大魔導か」

「彼女は四天王の中で唯一、現地人の時空魔法使いだ……現地人の召喚師も彼女と同じ魔法民族で、非常に長命であると言われている。時空魔法を使えば、1000年以上生きる可能性もある」


 まだ生きている可能性がある。

 にわかには信じがたかったその言葉が、真実味を帯びてきた。

 そう、確かにその通りだ。可能性はある。

 だから、アイスキャットは俺たちの『召喚師』を探していたんだ。

 だが……。

「魔王城にはいなかった」

 情報収集の専門家である彼女がそういうのなら、その通りなのだろう。

 ひょっとして、かつてそこにいた痕跡すら見つからなかった……けれども、自分は生きていると信じている。

 そう言いたかったのかもしれない。

 じゃあ、一体どこに……?


 ダウザーは、俺を試すようにじっと見ていた。

 俺は彼に真面目な声音で言い張った。


「俺は自分の召喚師を探す。その為なら、あんたがいったい何者だって利用させてもらう」

「それでこそ、手助けするかいがあるというものだ、千年勇者」


 うん、とダウザーはうなずいた。

 真面目な表情から一転、にこりと笑った。


「じゃあ、タブレットの使い方だけど。タブレットのような異世界アイテムは本来、魔王城と勇者ギルドだけが特例で使用を認められているものだ。これは知ってるよね?」


 ダウザーは、指を折りながら言った。当然知っているのでうなずく。


「1000年前に使っていたサーバーはのきなみ壊れてしまったから、代わりに勇者ギルドが新しく通信サーバーを作ったんだけど、とうぜん勇者ギルドのメンバーしか使えなくなっている」

「なるほど……つまり勇者ギルドに入れば使えるようになるってことか」

「呑み込みが早くて助かるよ。方法は2つある。明日にでもできる方法と、最低3年はかかる方法、どっちがいい?」

「明日にでもできる方法に決まってるだろ?」

「やっぱりそうだね」


 勇者なら当然、という風に、ダウザーはにっこりとほほ笑んだ。


「明日開催されるグラディエイターシティの武術大会で優勝するんだ」

「はや! 年に1回の行事なのに!? なんてご都合主義的なニアピンなんだ!」

「ご都合主義的というか、毎年8月の一番暑い日に開かれてるからね」


 そういば、もう8月になっているのか。

 地球で言うとお盆である。全国に夏祭りがあるみたいなもんだ。


「世界各地から戦士たちが集まってきて、その強さを競う大会だから、『勇者ギルド』も注目している。優勝者は現代勇者としてスカウトされてきたんだ」

「えっ、それって……現地人を勇者にして戦わせてるってことか……?」


 現代勇者はそこまで落ちぶれてしまったのか、と思ったがダウザーは指を振って否定した。


「じつは、150億人の異世界勇者がこの世界ですむことになったとき、異世界スキルがうまく子供に遺伝しない事例もたくさんあったらしいんだ。おなじ惑星からきた同じ種族なんて滅多に出会えないし、ほとんどが異種族婚の子供になったからね」


 なるほど。異種族婚なら仕方ない。

 たとえば、人間の俺とエルフのシレンシズとの間に生まれたロアは、エルフの異能のひとつである『長命』というスキルを失っている。

 地球人の俺の遺伝子が強く出てしまったんだ。


 しかし、反対にとつぜん異世界スキルに目覚める例もある。

 眠ったままになっていた遺伝子がずっと孫の代になって発現する『隔世遺伝』という現象や、洞窟の奥にすまうモンスターたちのように、魔力組成が昔の勇者と偶然一致してしまい、今は使われなくなったその勇者の魔導クラウドに偶然アクセスできてしまう、ということもある。

 惑星アヴァロンには、そうしていきなり異能に目覚めた現地人の子供も少なからずいるのだ。


「じゃあ、シンギスベリエも表向きは?」

「ああ、10年前にとつぜん異能に目覚めたとある孤児院の子供ということにして、現代勇者として登録されている。10連覇だもんね、当然だよ」


 シンギスベリエは、にかーっと笑ってVサインを作った。


「羽も突然生えたことになったよ!」


 ……それはさすがにバレないのだろうか。

 けどいいか、可愛いから。天使だもんな、仕方ないな。


「今の時代、こうした異能持ちは発見され次第、勇者ギルドか魔王城、必ずどちらかの勢力が管理する義務があるんだ。魔王城は審査が厳格すぎてなかなか軍法会議を通らないみたいだから、ほぼ勇者ギルドに入ってくるけどね。

 君のスキル……ほら、なんて言ったか、『神機無双剣グローリアス・トリウンプ』のように、人前では絶対に使わない秘奥義的な異能もあるのだろう?」

「ぐ、ぐふぅ……!」


 俺は机に突っ伏した。

 い、言えない……それ俺が意図的に能力を隠しているんじゃなくて……。

 ただ乱暴に剣を振り回すだけの動作に中二ネームをつけただけだから、封印しただけなんだ……。


「なるほど……じゃあ、異能があることを証明すれば、勇者ギルドに入れるってこと?」

「ああ、それでも末端のギルド構成員にはなれるけどね。雑務とか支援とかするの。かくいう僕もその1人だ。戦闘はどうも苦手でね」


 ダウザーは、苦笑いを浮かべて頭をかいた。


「けど、君が求めているのは召喚師の生存にかかわる、軍事機密のような情報が入ってくるタブレットだろう? そういうものを扱う勇者は魔王軍が束になっても敵わない超巨大モブ戦なんかも任されるし、それこそ、武術大会で優勝できるぐらいの人材じゃないと、なかなか登用されないんだよ……」


 なるほど、異能が目覚めても、かなり弱くて即戦力にならない場合もある、ということか。

 そこまでの情報を整理して、俺はうなずいた。


「そうか……じゃあ、まずは優勝、やるか」

「そうこなくっちゃ」


 アイスクリームを食べていたシンギスベリエは、目をキラキラさせた。


「え―――――――――――! ディップ、武術大会でるんだ! やったじゃーん! また『神機無双剣グローリアス・トリウンプ』見せてよー!」

「絶対に見せない!」


 それだけは何があっても、絶対に見せることはない、と思う。

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