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第1話 落ちこぼれの召喚

王立魔法学園の二年生に進級して間もないある日、セリア・アーデルは召喚の儀を迎えていた。

そして今、ついに彼女の名前が呼ばれた。


「私にふさわしい召喚獣、応えて!」


召喚の儀の教室は、円形の講堂のような造りになっていた。中央に刻まれた巨大な魔法陣が淡い光を放ち、周囲の石段に座る生徒たちの顔を下から照らしている。

セリア・アーデルが魔法陣の中心に立った瞬間、あちこちからひそひそ声が漏れた。

隣の女生徒に耳打ちするように、ミレーヌが口元を手で隠しながら小さく笑う。


「セリア、頑張ってね。きっと素敵な召喚獣が来てくれるわ。」


その声は甘く、応援しているようにしか聞こえない。だが、ミレーヌの取り巻きたちはすでに肩を震わせて笑いを堪えていた。F ランクの無属性が何を呼び出せるのか、結果は見えていると言わんばかりに。

セリアの詠唱が始まると、魔法陣の光がぐらりと揺れた。安定しない。出力が足りないのだ。

生徒たちの嘲笑が、もう隠しきれないほど教室に広がっていく。

それでもセリアは詠唱を止めなかった。額に汗が滲み、声が掠れても、最後の一節を絞り出すように叫んだ。


魔法陣が一瞬、異常なほど強く輝いた。


光が収まった後、そこに立っていたのは獣でも精霊でもなかった。黒い髪、灰黒色の瞳、黒いシャツに黒いズボンという出で立ちの、背の高い青年。人間、にしか見えない存在が、魔法陣の中央でセリアと向かい合っていた。

教室が、水を打ったように静まり返った。

担当教官が、わずかに目を細める。


「……人型か。珍しいこともあるものだ」


その声に驚嘆の色はなく、あるのは困惑だけだった。

魔力の波動がほとんど感じられない。強大な召喚獣が持つはずの圧倒的な存在感が、この青年からはまるで読み取れなかったのだ。

数秒の沈黙の後、誰かが吹き出し、それを皮切りに笑い声が講堂を埋め尽くした。


「ここはどこだ?」


青年の低い声が、笑い声に満ちた講堂にぽつりと落ちた。周囲の喧騒を意に介さないその態度が、かえって場の空気を一瞬だけ引き締める。だが、すぐにまた嘲りの波が押し寄せた。

セリアは目の前の青年を見上げ、震える唇から懸命に声を絞り出した。


「こ、ここは王立魔法学園……召喚の儀の教室、です。わ、私はセリア・アーデル。あなたを召喚した、その……あなたの主、に、なります。」


最後の言葉は消え入りそうだった。自分でも信じられないのだろう。F ランクの自分が呼び出したのが、獣でも精霊でもなく、ただの人間にしか見えない存在だということが。

石段の上から、ミレーヌが声を上げた。

わざとらしく目を丸くして、心配そうな声色を作る。


「えっ、人間……? ねえ、それって召喚獣なの? もしかして、普通の人を巻き込んじゃったとか? セリア、大丈夫?」


周囲の笑いが一段と大きくなる。ミレーヌの取り巻きの一人が「さすが落ちこぼれ、召喚獣すらまともに呼べない」と声を潜めもせずに言い放った。

ガレスが腕を組んだまま、興味なさげに鼻を鳴らす。


「魔力の気配がまるでねえ。ハズレもいいとこだろ、ありゃ。」


担当教官が魔法陣の端に歩み寄り、記録用の水晶板を青年にかざした。水晶は鈍く光ったが、数値らしきものはほとんど浮かび上がらない。教官の眉間に深い皺が刻まれた。

セリアの手が、小さく震えていた。それでも彼女は、目の前の青年から視線を逸らさなかった。


「魔力を測っていたのか」


教官が水晶板を引き戻し、怪訝そうな目で青年を見た。測定していたことに気づいている、その事実が教官の警戒心をわずかに刺激したようだった。


「あ、あの、はい。召喚獣の登録には、基本的な魔力測定が必要で……ごめんなさい、説明が遅れて。」


セリアが慌てて口を開くが、その声は周囲のざわめきにかき消されそうなほど小さい。

教官は水晶板の表面をもう一度確認し、首を傾げた。測定値がほぼゼロ。召喚獣として成立しているのかすら疑わしい数値だった。記録用紙にペンを走らせる手が、一瞬止まる。

石段の上から、シオンが涼しげな笑みを浮かべたまま口を開く。


「測定されていることに気づく程度の知性はあるようだね。でも、それだけだ。魔力がなければ召喚獣としての価値はない。……残念だったね、セリア。」


その言葉は同情のかたちをしていたが、声の奥には嘲りとも観察ともつかない冷たい色が潜んでいた。

講堂のあちこちで、もう遠慮のない笑い声が響いている。


「F ランクにふさわしい結果」

「姉があれなのに妹はこれか」


そんな囁きが石壁に反響して、セリアの耳に届かないはずがなかった。

セリアの拳が白くなるほど握りしめられている。それでも彼女は、召喚した青年の前に立ち続けていた。逃げ出さなかった、それだけが今の彼女にできる精一杯の抵抗だった。


「魔力がない? ……ああ、そうか。これのせいか」


青年は何かに気づいたように自分の手を見つめると、指に嵌めていた魔力封じの指輪を外した。


「これで良いか?」


指輪が外れた瞬間、空気が変わった。

いや、変わったなどという生易しいものではなかった。講堂を満たしていた笑い声が、喉元を掴まれたように途絶えた。石段に座る生徒たちの顔から血の気が引き、教官が手にしていた水晶板がびしりと音を立てて亀裂を走らせた。

圧。それは魔力というより、もっと原始的な何かだった。肺が縮み上がるような重圧が講堂全体にのしかかり、石壁が微かに振動する。魔法陣の残光が激しく明滅し、天井の照明魔石がいくつか耐えきれずに砕け散った。


「なっ……!」


ガレスの立ち上がりかけた体が、そのまま石段に縫い止められたように動かない。炎属性 A ランクの彼の額を、冷や汗が一筋伝っていた。

頬杖をついていた手が、無意識に拳を握りしめている。涼しげだった表情の奥で、瞳孔がわずかに収縮した。


「……なん、だ、これは。」


教官の水晶板が完全に砕け、破片が床に散らばった。測定不能。そもそも測定という概念が追いつかない。何人かの生徒が椅子から崩れ落ち、意識を失いかけている。

最も近くにいるはずの彼女は、膝が震えながらも倒れていなかった。召喚の契約が、かろうじて彼女を守っているのか。それでも顔は蒼白で、見開かれた目が青年を凝視している。


「あ、あなた……いったい、何、者……?」


講堂を支配しているのは、もう嘲笑ではなかった。本能が告げる、純粋な恐怖だった。


「もう良いか?」


青年の淡々とした声が、恐怖に凍りついた講堂に落ちる。まるで天気の話でもするような調子だった。

教官が震える手で予備の水晶板を取り出したが、近づくことすらできずにいる。足が動かないのだ。本能が、あの青年の傍に寄ることを全力で拒絶している。


「は、はい……! じゅうぶん、です……! あの、指輪、戻してもらっても……!」


声が裏返っていた。契約の加護があるとはいえ、これほどの魔力の奔流を至近距離で浴びて平気でいられるはずがない。それでもセリアは逃げなかった。逃げなかったというより、ここで逃げたら召喚主としての最後の矜持すら失うと、歯を食いしばっていた。

講堂の最上段で、意識を失いかけていた生徒が何人か完全に崩れ落ちた。石段のあちこちで荒い呼吸が漏れ、先ほどまで嘲笑していた者たちの顔は一様に土気色に染まっている。

ミレーヌは椅子の肘掛けを強く掴んでいた。その指は白くなり、完璧に整えられていた余裕の笑みも完全に剥がれ落ちている。

シオンは額に薄く汗を浮かべながらも、青年から目を逸らさなかった。逸らせなかった、というほうが正しい。観察者としての本能が、この存在を記録しろと叫んでいた。


「……指輪ひとつで、この規模の魔力を完全に遮断していた? そんな封具、聞いたことがない。」


呟きは独り言のはずだったが、静まり返った講堂ではやけに響いた。


「さて、セリアと言ったか?我を呼んだ理由を聞こう。」


指輪が再び指に嵌められると、あの圧倒的な重圧が嘘のように消えた。だが講堂に満ちた恐怖の残滓は簡単には拭えず、誰一人として声を上げる者はいない。先ほどまでの嘲笑が、遠い昔の出来事のようだった。

深く息を吸い、震える膝に力を込めて背筋を伸ばした。蒼白だった顔にわずかに血の色が戻りつつあるが、額には汗が張り付いている。


「り、理由……。召喚の儀は、この学園の二年生全員に課される必修の儀式です。自分にふさわしい召喚獣を呼び出して契約を結び、パートナーとして共に学園生活を送る……それが、目的で。」


言葉を選びながら、しかし誤魔化すことなくセリアは続けた。


「正直に言います。私はこの学園で最も成績が低い、F ランクの落ちこぼれです。あなたほどの存在を呼ぶつもりなんて、ありませんでした。だから、その……もし不本意なら。」


そこで一度言葉を切って、唇を噛む。次の一言を出すのに、目に見えて勇気を振り絞っていた。


「無理に契約する気はありません。あなたの意思を、聞かせてください。」


静寂の中で、セリアの声だけが石壁に反響した。落ちこぼれと蔑まれ続けた少女が、規格外の存在を前にして、対等な選択を差し出している。それが無謀なのか誠実なのか、講堂の誰にも判断がつかなかった。


「ふっ……呼んでおいて、帰ってもいいとは面白いことを言う。今、自分のことを落ちこぼれと言ったか? ならば、伸びしろがあるということだ」


一瞬、呆気に取られたように目を瞬かせた。嘲笑でも憐憫でもない、その言葉の意味を咀嚼するのに数秒かかったようだった。やがて、ぎゅっと拳を胸の前で握りしめる。


「……ありがとうございます。よろしくお願いします。えっと、あなたのお名前は……?」


「カイルだ」


カイルが右手を差し出す。セリアもおそるおそる手を伸ばし、その手を握った。

契約成立を示すように、魔法陣が穏やかな光を一度だけ灯して消えた。教官が予備の水晶板を恐る恐るかざしたが、指輪の封印のおかげか、今度は数値が安定して表示される。もっとも、その数値をどう記録すべきか教官は明らかに判断しかねていた。

石段の生徒たちはまだ身動きが取れずにいる。あの圧を直に浴びた記憶が新しすぎるのだ。

ついさっきまで「落ちこぼれ」を笑っていた口は、今は固く結ばれている。

シオンは薄い笑みを唇に貼り付けながら、しかしその目だけは笑っていなかった。組んだ腕の下で指先が小さく動いている。


「伸びしろ、ね。……面白い召喚獣もいたものだ。」


独り言のような呟きだったが、その視線は値踏みするようにカイルとセリアの間を行き来していた。

ようやく体の硬直が解けたのか、大きく息を吐く。


「おい……あれマジでなんなんだよ。A ランクの俺が動けなかったんだぞ。」


誰に言うでもなく、ガレスが困惑と苛立ちが混じった声を漏らした。


「それで?これから何をすればいい?」


セリアはまだ頬にわずかな紅潮を残したまま、慌てて周囲を見回す。教官は何度かこちらへ近づこうとしたものの、そのたびに足を止めていた。


「えっと、まずは契約の登録手続きを済ませて、それから……寮の部屋の割り当てがあります。

召喚獣は基本的に主と同じ棟に住むことになっていて。」


指を折りながら説明しようとするが、言葉がうまくまとまらないのか、途中で口ごもる。無理もない。ほんの数分前まで嘲笑の的だった少女が、講堂中を恐怖で黙らせた存在のパートナーになったのだ。


「あと、明日から通常授業に一緒に出てもらうことになります。戦闘演習とか、魔法理論とか……。」


教官がようやく意を決したのか、引きつった笑顔で魔法陣の傍まで歩み寄った。手にした書類が微かに揺れている。

その時、講堂の最上段の扉が重い音を立てて開いた。

三年生の腕章をつけた長身の男が、扉の枠に肩を預けるようにして立っている。講堂の異様な空気を一目で察したのか、眉をひそめながら視線を巡らせ、やがてカイルの姿で止まった。


「なんだ、随分と静かじゃないか。二年の召喚の儀ってもっと賑やかだと聞いてたんだが。」


軽い口調とは裏腹に、その目はカイルを品定めするように細められていた。


「召喚獣も座学を受けるのか?」


カイルのその質問に、少しだけ肩の力が抜けたように苦笑する。


「全部じゃないですけど、基本的にはパートナーとして授業に同席してもらいます。戦闘演習はもちろん、魔法理論も。召喚獣が主の魔法体系を理解していないと、連携が取れないので。」


言いかけて、ふと自分の言葉の滑稽さに気づいたのか、視線を落とした。F ランクの自分が連携も何もあったものではない、と。

入ってきた生徒は石段を数段降りながら、カイルに視線を据えたまま口角を上げる。


「へえ、座学が気になるのか。殊勝な召喚獣だな。」


足を止め、腕を組む。さきほどの異常な魔力の残滓を肌で感じ取っているはずだが、三年生としての矜持がそれを表に出すことを許さないらしい。


「見た目は人間そのものだが、中身はどうなんだろうな。F ランクのアーデルの妹が呼んだにしちゃ、さっきの空気は随分と物騒だった。」


「アーデルの妹」という呼び方に、セリアの肩がびくりと跳ねた。姉の名を出されることへの反応は条件反射のように染みついている。

ダリオの目が一瞬だけ冷たく光った。好奇心ではない。あの圧を見せた存在が、よりにもよって学園最弱の生徒に紐づいている。その事実をどう利用できるか、既に計算が始まっているような目つきだった。


「まあいい。いずれ、また話を聞かせてもらうさ」


ダリオは意味ありげな笑みを残すと、来た時と同じように悠然と講堂を出ていった。


カイルはその背中を見送り、セリアに尋ねる。


「何だ、あいつは?」


ダリオが去っていった方をちらりと見てから、声を落とす。


「ダリオ・クレイン先輩。三年生で A ランク、学園の上位層で、実力者の一人……なんですけど。」


そこで言葉を濁した。ダリオの人間性について語ることは避けたようだったが、その歯切れの悪さが何よりも雄弁だった。


「あまり関わらない方がいいかもしれません。三年生と二年生は普段接点が少ないですし。」


セリアの忠告には実感がこもっていた。弱者がダリオの視界に入った時に何が起きるか、彼女は身をもって知っているのだろう。ただ今回ばかりは事情が違う。ダリオが興味を示したのはセリアではなく、カイルの方だった。

講堂ではようやく教官が契約書類を持って近づいてきた。手がまだ震えているが、職務は職務だ。

書類への記入が淡々と進む中、石段の上ではまだ生徒たちがひそひそと囁き合っていた。ただし、その内容はもう嘲笑ではない。あの圧の正体は何だったのか、あの人型の召喚獣は一体何者なのか。不安と困惑が、講堂の空気を重く湿らせている。

シオンはフードの裏でもぞもぞと動く小さな気配に手を添える。召喚獣のエレメンタルラットが落ち着かないのだ。


「お前まで怯えるのか。……そうか、お前の方が本質を感じ取れるものな。」


小さく呟いた声には、珍しく余裕のない響きが混じっていた。

教官から渡された書類にペンを走らせながら、ぽつりと答える。


「……あの人は、強い人にはへりくだって、弱い人には容赦がないタイプです。」


ペンが一瞬止まった。自分が「弱い人」の側にいることを、わざわざ口にする必要はなかった。


「でも今のあなたを見て、興味を持ったんだと思います。さっきの、あれを感じたら誰だって。」


書類を書き終え、教官に差し出す。教官は受け取るなりそそくさと距離を取った。まだカイルの近くにいることが怖いのだろう。

手続きが済むと、講堂はにわかに慌ただしくなった。次の生徒の召喚に移らなければならないが、教官も生徒も明らかに動揺を引きずっている。セリアとカイルに退場を促す視線が、あちこちから刺さった。早くこの場から出て行ってくれ、という無言の圧力だった。

それを敏感に察したのか、書類の控えを胸に抱えて小さく頭を下げる。


「寮に案内しますね。こっちです。」


講堂の出口に向かって歩き出す足取りは、来た時より確かだった。ただ、すれ違いざまに身を引く生徒たちの反応に気づいて、その目がほんの一瞬だけ翳る。あの畏怖は自分に向けられたものではない。隣を歩く存在に対するものだと、セリアは正しく理解していた。

石造りの回廊に出ると、午後の陽光が二人の影を長く伸ばした。

回廊を抜けると、手入れの行き届いた中庭が広がっていた。噴水の水音が穏やかに響き、木漏れ日が石畳に斑模様を描いている。講堂の重苦しい空気とは別世界のような長閑さだったが、セリアの横顔にはまだ緊張の名残が薄く張り付いていた。

少し前を歩きながら、控えの書類を胸に抱え直す。ちらりと肩越しにカイルの方を窺うが、すぐに視線を前に戻した。


「寮はこの中庭を抜けた先にあります。二年生棟は東側で……正直、あまり広い部屋じゃないんですけど。」


言葉の端々に、まだぎこちなさが滲んでいる。ほんの半刻前に出会ったばかりの、しかも正体不明の存在と並んで歩いているのだ。平静を装う方が無理というものだった。

中庭を横切る途中、ベンチに座っていた上級生の集団がカイルの姿を認めて会話を止めた。噂はもう広がり始めているらしい。視線が突き刺さるように二人を追うが、誰も声をかけてはこない。

その沈黙を背中に感じながら、歩調がわずかに速くなる。それから思い出したように足を緩め、振り返った。


「あの、カイル。さっき講堂で見せてくれた力のこと、あまり人前では出さない方がいいかもしれません。この学園は実力主義ですけど……目立ちすぎると、厄介な人に目をつけられます。」


既にダリオの値踏みするような視線を思い出しているのか、その声にはささやかな切実さがあった。


「厄介な人?ふん、粗方、我を派閥に組み込みたいか、利用したいか、そんなところだろう」


ぴたりと足を止めた。肩越しに振り返った目が、驚きと、それからどこか苦いものを含んでいた。図星だったのだろう。


「……そう、です。この学園には派閥があって、上位ランクの生徒を中心にいくつかのグループが勢力を争ってます。強い召喚獣を持つ主は、引き抜きの対象になりやすくて。」


視線を足元の石畳に落とし、書類の角を指先でいじる。


「私みたいな F ランクは普段なら見向きもされません。でも、あなたの存在が知れ渡れば……私じゃなくて、あなたを欲しがる人が出てくる。契約の譲渡を迫るとか、私に圧力をかけてあなたを手放させるとか。」


「くだらんな」


カイルは足を止め、怯えを隠せずにいるセリアを振り返った。


「我を召喚したのはお前だ。ほかの誰かに従うつもりはない」


セリアは目を見開いた。


出会ってまだ半刻も経っていない。

それなのに、その言葉はこれまで誰からも与えられなかったほど、彼女の心を強く支えていた。


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