大坂城の静かなる嵐
第2話をお読みいただきありがとうございます。
前回、関ヶ原で大逆転勝利を収めた石田三成。
しかし、歴史というのは「勝って終わり」ではありません。
家康という巨大な敵がいなくなったことで、今度は味方同士の足の引っ張り合いが始まります。
戦場よりも恐ろしい、大坂城での政治バトルを楽しんでいただければ嬉しいです。
関ヶ原の戦いは、誰もが予想しなかった結末で幕を閉じた。
徳川家康は敗走。西軍、つまり石田三成の知略が、天下の勢力図を一夜にして塗り替えたのだ。
……だが、本当の地獄はそこからだった。
「治部! 我ら宇喜多勢がいなければ、あの勝利はなかったのだ。恩賞として、家康の旧領を半分はいただくぞ!」
「何を言うか! 我が軍こそが一番槍だ。領地の分配が少なすぎるのではないか!」
大坂城の大広間。
そこに集まった西軍の諸将たちは、戦勝の祝いもそこそこに、どなり合いのケンカを始めていた。
三成は、広間の隅でこめかみを押さえていた。
(……これだ。これだから、嫌なんだ)
三成は「豊臣家を守る」という義理のために戦った。
しかし、他の大名たちの頭にあるのは「自分の領地をどれだけ増やせるか」だけ。家康という共通の敵がいなくなった途端、西軍はバラバラになり始めていた。
「皆、静まれ!」
三成が声を張り上げるが、誰も聞く耳を持たない。
それどころか、西軍の総大将であるはずの毛利輝元までもが、奥座敷でどっしりと構え、不気味な沈黙を保っている。
「治部様、顔色が悪いですよ」
背後から声をかけたのは、ボロボロになった甲冑を脱いだばかりの島左近だった。
「左近か。……見ての通りだ。家康を追い出すよりも、この強欲な連中をなだめる方がよっぽど骨が折れる」
「ははは、三成様らしい悩みだ。ですが、のんびりもしていられませんぞ。逃げた家康は、江戸で牙を研いでいる。そして……」
左近が声を潜める。
「……大坂城の奥にいる淀殿が、我らの動きを警戒しておられるようです」
三成は息を呑んだ。
淀殿――豊臣秀頼の母だ。彼女にとって、家康を倒した三成は英雄のはず。しかし、力が強くなりすぎた三成は、今や彼女にとって「豊臣家を乗っ取るかもしれない危険人物」に見え始めていた。
「味方のはずの連中が敵に見える。皮肉なものだな」
三成は窓の外を見上げた。
大坂城の空は晴れているが、そこには関ヶ原の霧よりも深く、どろどろとした政治の闇が広がっていた。
「左近、すぐに手を打つ。まずは恩賞の不満を抑えるため、家康が隠し持っていた黄金の蔵を開放するぞ」
「おっ、太っ腹ですな」
「……それと、毛利輝元には内密に探りを入れろ。あの男、何を企んでいる?」
三成の戦いは、終わるどころか激しさを増していた。
関ヶ原の勝利は、単なる「序章」に過ぎなかったのだ。
最後までお読みいただきありがとうございました!
第2話では、三成の「生真面目すぎて損をする性格」を少し強調して書いてみました。
戦いには勝ったけれど、周りはワガママな大名ばかり。三成の胃が痛くなるような毎日が目に浮かびます。
そして、不気味な動きを見せる毛利輝元と淀殿……。
三成は、このバラバラな西軍をどうやってまとめていくのか。
第3話では、いよいよ毛利家との対立、そして家康の影が動き出します。
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