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ノイルフェールの伝説~天空の聖女(セインテス)~  作者: 朝霧 巡
第3章 『勇者』と呼ばれた男

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18.冒険者……⑦

「確かにお前達が只者ではない事は判った。だが『魔の森』は、お前さん達でも些(いささ)か荷が勝ち過ぎているのではないか?」

「心配御無用です」


 メルダースの懸念に、今度はコンラートが口を開く。


「身供(みども)は遊撃士(レンジャー)として、危険な地域での調査経験が豊富です。どこまで進んで良いか、どこで引き返すべきか。その判断は冷静に分析可能です」

「俺も良いか?」


 ゲルハルトが付け加える。


「俺達は常に五人で行動する。そんじょそこらの冒険者パーティーより、はるかに安全だ」


 メルダースは一人一人の顔を見つめる。その目には確かな実力と決意が宿っていた。素人の無謀な行動とは、明らかに違う。


「いいだろう……」


 メルダースは、とうとう眩暈(めまい)を覚えて手を振った。まるで纏わり付く羽虫を追い払うかのように。


「依頼は今日中に掲示板に出しておく。『魔の森』に行こうだなんて酔狂な命知らずは、この組合(ギルド)にはいないだろうからな……後はそっちで上手くやってくれ」

「ありがとうございます」


 マックスは口元を緩め、深々と頭を下げる。


――これで組合(ギルド)の公認は取った……


 十分な成果だ。これで心置きなくウーラニアー村に向かえる。

 仲間達共々席を立ち、退出しようと踵を返したその時。マックスの耳にメルダースの声が届いた。


「まぁ、何だ……世の中には色んな魔物が巣食っていやがるからな。俺が知っている限り、この世界で最も厄介な魔物が王都(クローム)にいるって話だ」

「……!?……」


 驚いて振り返ると、もうメルダースは副室の中にいた。椅子に腰かけパイプを取り出し、紫煙を上げている。その部屋は、この建物唯一の喫煙部屋らしい。


「この組合(ギルド)の冒険者レベルじゃ、手に負えない程の大物だ。確か邪龍ピヨートルに悪虎ニコラスだったな……『竜虎相搏つ』とは、まさにこの事だ」


 マックスの反応などお構いなく、メルダースはマックス達の書類を眺めて呟いた。


「この抗争に新人(ニュービー)達が巻き込まれないことを祈ろう」

「…………」


 マックスが思わず声を掛けようと手を挙げるが、降り上げられた手は虚空を掴んで止まる。


「マックス……?」

「行くぞ、みんな」


 執務室を出た後、五人は無言で階段を降りていく。朝陽が差し込む窓から、長い影が床に落ちていた。


「これで第一段階はクリアね」


 ヨゼフィーネが静かに言う。


「後は、この依頼をこなしながら、ウーラニアー村に近づくだけだ」


 マックスが応えた。彼等の首から下がる木材(ウッド)プレートが、朝の光を受けて柔らかく輝いている。この先には、誰も知らない謎と危険が待ち受けている筈だった。



                   ◆◆◆◆



 マックス達が部屋を出て行った後、メルダースは長い溜息を吐いた。窓から差し込む陽光が、紫煙と交じり合って揺らめいている。


「これで……宜しかったのでしょうか?」


 モニカがコーヒーを運んできて、メルダースに差し出しながら訊ねた。朝の光を受けて、彼女の赤毛が柔らかく輝いている。


「ああ、奴等の実力は確かなものだ。それに……」

「それに?」


 メルダースは言葉を切って、再びパイプに火を点けた。


「連中には『覚悟』がある。単なる冒険者(アドベンチャラー)じゃない……まるで『勇者』だ」


 メルダースの眼差しが遠くを見つめる。20年に及ぶ組合長(ギルドマスター)生活で、彼は数多の冒険者を見てきた。その目は誤魔化しが効かない。


「ですが……教会の内紛に巻き込まれるのは……」


 モニカの声には明らかに懸念が滲んでいた。


「ああ、そうだな……」


 メルダースは立ち上がり、窓辺に歩み寄った。街並みの向こうに、大聖堂の尖塔が陽の光を受けて輝いている。


「ニコラス総大主教の野心は、日に日に肥大化している。ピヨートル首座主教との対立も、もはや修復不可能なところまで来ているらしい」


 この国の頂点に立つ教皇アレクサンドル13世は、沈黙を保ち、己が旗色を鮮明にしていない。むしろ、その優柔不断さが事態を更に悪化させているとも言える。


「統制派を糾合して政権を奪取し、版図拡張を企んでいるという噂もあります」


 モニカが静かに付け加えた。


「ああ。平時に乱を求める姿勢は危険極まりない。だが、我々冒険者組合(ギルド)には何も出来ない。ただ、巻き込まれる者達の安全を祈るばかりだ」


 メルダースの声には、深い疲れが滲んでいた。長年の経験が、来るべき嵐の予感を告げている。


「組合長(ギルマス)……」


 モニカが心配そうに組合長を見つめた。彼の肩には、目に見えない重圧が圧し掛かっているように見える。


「いや、ただの老いぼれ(ロートル)冒険者の独り言さ……気にするな」


 メルダースは苦笑して、椅子の背に背中を預けた。しかし、その表情には深い憂いの色が残っていた。


 窓の外では、朝の喧騒が始まりつつあった。しかし、その喧騒の下で、誰にも気付かれないまま、大きな歯車が静かに廻り始めていた。巨大な力が、この街を、そして教会(アニマ)を、そして彼等を飲み込もうとしている。

 しかし、それは彼等勇者パーティーにとって、避けては通れない道なのだ。


 教皇から託された使命。敵国であるマーキュリー王国。そして、ウーラニアー村に隠された真実。全てを明らかにするために、彼等は歩み続けなければならない。

 朝の冒険者組合(ギルド)に、不穏な空気が漂っていた。



――――――――――――第三章 了―――☆彡


 第三章終わりました。

 主人公シェリルが全く登場しない章でしたが、群像劇なのでご容赦くださいませm(_ _)m

 この章はシェリル達の対立軸となるフィルツブルク聖皇国側の視点で描いております。戦災で家族を失った勇者マックス。神を全く信じていない彼がアニマの教皇によって『聖勇者』に任じられる皮肉。それを支える仲間達に彼をひたすらに愛するナディア。

彼等がシェリル達学院勢にどうかかわっていくのか、お付き合いいただけると幸甚です。

また、第三章迄お付き合いいただいた方、深く御礼申しあげますm(_ _)m


第四章は舞台がウーラニアー村に向かった風精神族(ハイエルフ)のアイリス達、そして時間経過で成長し進級したシェリル達の様子を描いていこうと思います。

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