27 近づいた真意
「説明、か。何が聞きたい」
「‥‥‥質問に質問を返さないでください。聞きたいことは言いましたよ。僕たちをどうするおつもりですか」
答えをはぐらかして矛先を変えないでほしい。その手には乗らないぞ。
「どうするも何も、王都に連行してドウェインに引き渡すさ」
この状況だ。普通ならそうだろう。けどなんか違和感がある。変なんだよな。
「それならどうして僕たち‥‥‥いえ、僕を見定めようとしたんですか。馬車が立ち往生していたの、あれ嘘ですよね。馬車くらいエリックさん1人で持ち上げられたでしょ?」
蹴りがかすっただけで吹っ飛ばされそうになった。カウンターの勢いと体重倍増があったとはいえ、人間の体を素手でぶち抜ける。
馬車くらい軽いはずだ。
B級より上の冒険者は普通の人間の力を軽く超える化物だ。カストルムで命をかけて倒したオーガのようなモンスターを簡単に倒すんだから。
「油断させた方が人質を安全に保護できる。馬車内では逃げ道を塞げるだろう?」
「そんなことしなくてもエリックさんなら僕程度、簡単に殺すなり捕まえるなりできたのに?」
エリックは動きにほとんど音を立てない。隠密スキル、もしくは訓練の賜物だろう。
気配を消して待ち伏せすれば、僕は気づきもしないうちにやられた。
「ふむ。それが事実だとして。どうして君を見定めていたことになるんだ?」
「だってわざと困ってるふりをして、僕の反応を見たんでしょ。なんでそんなことしたんですか。ただ指名手配犯を捕まえて引き渡すだけなら、僕が困ってる人を見捨てる薄情者でも目撃者を殺す凶悪犯でも構わないはずです」
「それは……」
何か言いかけたフィーナを、エリックが片手をあげて制した。
どうやら元貴族のフィーナよりエリックの方が立場が上らしい。エリックも元貴族だったのか、現役なんだろうか。それとも単純に実力差でフィーナが従ってるのかな。
とにかくフィーナの説明は見込めないので、続けるしかない。
テストされてるっぽくて、やだなぁ。
しぶしぶ口を開いた。
「あの殺気のかけ方だって、なんかおかしかったんですよね。何がというと上手く言えないですけど、わざと圧力かけた感じ?」
だって二人にはずっと敵意がない。殺気を放ってた時すら。
ドウェインたちの時は、もっとギラついた敵意があった。
「なのに、殺されかけた」
殺すつもりならもっと早く殺せただろうに。わざわざ演技して見定めてたくせに、急に殺しにくるんだもんなぁ。
どこかで不合格になった? じゃあなんで治療したんだ? 意味が分からない。
手配書に、生け捕りじゃないと賞金なしとか書いてあったのかな。
「一体、僕たちをどうしたいんですか」
結局、この疑問に戻ってくる。
「あれだけやられたのに冷静だな」
「泣いて命乞いをすれば、逃がしてもらえるのならそうしますよ」
捨てるプライドなんてないし。
涙が出るかはちょっと自信ないけど、土下座して命乞いくらい、いくらでもする。
「いや。その必要はない。頭を下げるのはこちらの方だ」
エリックが腰の剣を鞘ごと抜いて床に置き、両ひざを着いた。右手を胸に当てて頭を下げる。
「まずは心から謝罪する。命を脅かしたこと、試すような真似をしたことをして申し訳なかった」
「えっ、ちょっ」
よく分かんないけどこれ騎士の礼じゃ。なんで僕に。
「許せないというのなら殴るなり、この剣で刺すなりしてもいい」
「いえ、それは嫌です」
即答して首を横に振る。
冗談じゃない。
それで溜飲が下がる人もいるだろうけど、僕は嫌だ。
「では許してもらえたと思って話を進める。質問の答えは聖女の保護だ」
顔を上げたエリックの口角がゆるく上がった。
「聖女の……」
召喚されなかったことになっているヒヨリさんが、聖女だと知っている。
暗殺しようとしたくらいだ。国の上層、それも一部しか知らないはず。
何者なんだ、この人。
国と繋がってるのか? 保護って国の保護か?
フィーナは元貴族だって言ってたけど、元じゃないのかも。
「国とは繋がっていない。むしろ国王とは敵対関係だな」
うぐっ。警戒したことを見透かされた答え。
しかし敵対関係ってどういうことだろ。一つ疑問が解消したらまた増えるなぁ。
「君たちを国に引き渡すことはない。俺の持つ力全てを使って、君たちを守ることを神に誓おう」
エリックが灰色の長い前髪をかき上げた。露になった金色の瞳が淡い燐光を放つ。これって。
「神聖の光?」
神聖の光のスキルは、単なるヒーラーや普通の神官には宿らない。確か、神の声を聞き、神の力を行使する枢機卿か聖騎士だけじゃなかったっけ。
じゃあヒヨリさんのことを知ってたのは神託を受けたから?
「俺は人より神の恩恵を受けていてね。時に声を聞く。俺が神に誓うということは、絶対に違えることのできない誓約だ」
神聖の光は強力なスキルな分、様々な制限を受ける。その一つが神への誓約だ。
神への誓いを破れば、よくて力を失い、最悪命を落とす。
守ると誓ったなら、何がなんでも守ってくれるだろう。
「よかった」
ほっとしたら一気に力が抜けて、ソラに体重を預ける。天井から吊り下がるシャンデリアが妙に眩しくて、片手で目を覆った。
「あらためて名乗ろう。俺はエリック。プロバーティオ領のコルウスギルドのギルドマスターをしている」
「わたくしはフィーナ。同じくコルウスギルドの副マスターをしていますわ」
膝を着くエリックの後ろで、フィーナが優雅に片足を後ろにひき、マントの裾をつまんだ。
「俺の第一の目的は聖女の保護。第二の目的は同行者の見極め。君の人柄と実力を確かめたかったんだ」
「実力を確かめるを飛び越えて殺されかけてますけど」
ソラにもたれたまま、服に穴が開いて風通しが良くなりすぎたお腹を指差す。
あーあ。また服を買わないと。お金ないんだけどな。
「その件に関しては全面的に悪かった。殺すつもりはなかったんだが予想外にいい攻撃だったものでね。つい本気が出た」
「どこがですか。手も足も出ずにやられただけですよ」
スキルも攻撃も全て瞬時に対応されて、僕の攻撃はかすりもしなかった。
「結果としてはそうだな。だが勇者を相手にするんだ。本気でやらねば止めることはできない」
‥‥‥んん? 聞き間違いかな。
「‥‥‥勇者を相手?」
「ああ」
勇者? 誰が?
ヒヨリさんは聖女だから違う。
あとは僕にしがみついてるモーリーだけど。この子のわけないよね。
後ろを振り返ってみたけどソラの毛しか見えない。ってか僕の血でべとべとのまんまだ。ごめんね。
「いやいや。ルイ。君だよ、君」
「はい!? 僕!?」
びっくりして自分で自分を指差した。
そんなわけないだろ。何言ってんだ、この人。
「いや、勇者って異世界から召喚された人でしょ。僕はこの世界の人間ですよ」
「知っている。17年前のスタンピードの生き残りだろう?」
うわ。そこまで調べてるんだ。
「だったら僕が勇者じゃないのは明白でしょう」
勇者と聖女は異世界の人間のみがなる。それは、異なる世界を移動する時に神から強力なスキルをもらうから、というだけじゃない。『魔王』のいる試練の塔の最上階には、異世界から来た勇者と聖女しか入れないからだ。
ってか、そういう理屈抜きで、最弱の僕が勇者だなんて有り得ない!
「それも含めて詳しく説明する。が、そのままだと気持ち悪いだろう」
ゆるく笑ったエリックが、金色の瞳を僕の服と絨毯に向けた。どちらも血でぐっしょりと濡れていて、鉄さび臭いし、べたっと肌に貼りついてるしで、確かに気持ち悪い。
「着替えて掃除をしよう。動けるか?」
「おにいちゃんにさわるの、めっ!」
エリックが僕に手を差し出すと、モーリーがぺしんと叩いた。
更新がめっちゃゆっくりで申し訳ないです。
それでも読んで下さってる、そこの方々。
ありがとうございます!!




