3.今後の課題と考察
この章で終わりです。
私が考える今後どうなるか、課題と考察を加えてお伝えしていきます。
まずコロナがいつ収束するか、それは多分かなり長い時間がかかると考えています。
新型コロナもそうですが、インフルエンザなどもその時期によって、形を変えます。そうすると、今まで使っていた薬が効かなくなります(インフルエンザのワクチンを毎年打つのはそういった理由です)。
数年前に流行したSARSやMARSも、事態は収束したものの、まだ特効薬はありません。身近な例で言えば、風邪も特効薬はありません。基本的には症状(熱や咳など)に対して、その症状を抑える「対症療法」が基本です。
ではそれらをどう人体は対応しているのかというと、自分の免疫が闘って病気に打ち勝つまで待ちます。病気に打ち勝つと、身体の中には「抗体(その病気に特化した免疫細胞)」ができ、今後同じ病気になっても、抗体があることで再発を防ぎます。
一人一人が抗体を獲得するまでには、自分でその病気にかかって打ち勝って抗体を得るか、ワクチン(病原性を弱めたもの、または無効化したウイルス等のこと)を体内に取り込んで抗体を得ます。
これがインフルエンザや麻疹、風疹などワクチン接種が働く仕組みです。
しかし新型コロナウイルスはまだ研究が進んでおらず、ワクチン開発には至っていません。では、病気にかかって抗体を得られるかといえば、コロナウイルスは変異していくため、一度かかっても再感染の可能性があると言われています。コロナウイルスAで得た抗体はコロナウイルスBには通用しないようです。
結局のところウイルスそのものを殺す薬が開発されるか、ウイルスの仕組みが解明されてワクチンが出来るのを待つか、どちらにしても多分かなりの時間を要します。ですから、感染しないことが一番身を守るために有用なのです。
次に経済活動についてですが、これについては専門外ですので、間違っているかもしれません。
政府は様々なお店や店舗の実売を自粛しろと要請しました。医療者からしたら感染を拡大させないために有用と思うかもしれません。しかし、労働者として見たときに、自分の会社が突然商売を止めて、お金が入ってこないとなると実に恐ろしいことです。
多くの医療関係者は今、仕事が休みになることは絶対にありません。とある病院で看護師が新型コロナに感染していたことを把握した上で勤務させるくらい、医療現場の人材不足はひっ迫しています。
言い換えれば、絶対的に仕事がなくならないのです。
他にも食料関係や小売業、運送業や一部製造業なども仕事はなくなりません。
では他の業種はどうかというと、自粛または客足が遠のいて利益の減少、一部では倒産や閉店を余儀なくされている業種を耳にします。
仕事が無くなって、お金が入ってこないと生活もままならず、例え今コロナ禍が収束しても一度仕事を無くしてまた会社を立ち上げたり、就職先を見つけることは大変だと思います。
最近「コロナで死ぬか餓死して死ぬか」というワードを目にしました。今すぐ死ぬか、時間を置いて死ぬかという選択肢が示され、日本はどちらとも付かない選択肢を選んだと思います。私的な見解では、中途半端な選択をしたがために、現在まで感染拡大が続いていると考えています。
次に「病院」というものについてです。
当院は総合病院で、人材も多くもともとの医療資源も多くありました。現在ではかなり制約をされている面もありますが、資源枯渇までには至っていません。また院内感染も起こしていません。
病院も一般企業と同様に、もともとの経営規模が大きければ、物資や人の調達にも困っていないと思います。
では中小規模の病院ではどうかというと、こうした病院で院内感染が拡大しているように思います。
理由は
1.資金不足により豊富に医療資源を確保できなかった
2.人材不足により、誰か欠けると勤務のやりくりが難しくなり、1人1人の負担が大きくなること
3.院内感染対策まで手が回らないこと
その三つだと考えています。
医療資源も結局お金が必要です。どこかのリハビリ病院のように、何かに特化したためもともと医療資源が少ない、あるいは無いといった現状があります。
これは今までの医療体制改革により、大きな病院はより大きく救急や難病に対応しろ、小さい病院は地域の病院として機能しろ、という過去の政府の方針により特色分けを余儀なくされました。
感染爆発という事態がなければ、高齢化社会が進む日本はそれで良かったのでしょうが、結果としては未知の感染症が広まってしまった要因の一つとなりました。
それは感染対策という点にも繋がってきます。
中小規模の病院では感染対策の専門家はいません。居ないからといって感染対策ができない訳ではありません。
しかし、専門家というのはそれに特化した人材のため、こうした不足の事態の時に専門性をいかんなく発揮してくれます。
当院はそのおかげで物資の調達や、院内の感染対策が徹底して行われました。
同じ医療者であっても専門分野が違えば、不得意な部分も出てきます。
どこかの芸能人が言っていましたが「「医療従事者の方たちの今の苦労は本当に大変なものだろうと思うけど、でも、どっかで、どうして専門家なのにうつってしまうんだろうっていう疑問は拭えないよね」と。
医療者=全ての医療に精通している訳ではありません。何を考えてそう発言したのかは分かりませんが、私達はベースとして感染対策は知っているが、その専門家では無いのです。「お笑い芸人なら絶対面白いこと言うよね」と同じことで、その道のプロが必ず全てのことを網羅することは不可能なのです。
感染対策の医師や看護師を置くにはお金がかかります。そして、その必要がないと判断した中小病院では、医療資源が不足し、慣れない感染対策の中で働いているのです。
感染対策の医師や看護師はもともとの数も少なく貴重です。慢性的に人材不足と言われる医師看護師の業種であり、それを中小病院に求めるのは無理難題です。
安倍首相が非常事態宣言発令時にこんな発言をしていました。
「現場を離れている看護師の皆さんに協力を呼びかけています。私からも是非お願いをしたい。この国家的な危機に当たり、ウイルスとの闘いに皆さんのお力をお借りしたいと思います」
他の業種と異なり「看護師」と職種を指名して応援を求めたこと、またそこに金銭的な支援はなく、ただ「お願い」されただけだったことが、私はとても不快に感じました。
確かにこの呼びかけで現場復帰された方はみえます。しかし、実際には今の現場で働く人達だけで賄っているのが現状です。
現場を離れている看護師、所謂「潜在看護師」という方々がみえます。理由は様々で、仕事内容や自身の体調、その他の理由で看護師として働くことをやめた看護師はかなりの数がいるとされています。例えば、芸能人のオカリナさんや声優の林原めぐみさん等が看護師免許をお持ちです。
様々な理由で看護師として働くことを選ばなかった方に「現場が人手不足だから保証もないけどお願いね」というのは、あまりにも勝手ではないでしょうか。それぞれの理由を鑑みず、保証もないのに死地に飛び込めというのでは誰も戻ってこないでしょう。
看護師の人手不足は、もうずっと前からの問題でした。それに特段の対処をせず放置したのは国です。そのツケを非常事態の名の下に解消しようというのは間違いです。
現場にいる人間を「応援」という言葉だけでなく形のある支援を真っ先に行うべきだったと考えます。
医療は人の命を救う最終ラインです。何故そこに金銭的な保証をしなかったのでしょうか。一般の方より感染リスクが圧倒に高く、毎日感染する恐怖と闘っている人達に「応援」なんて必要ありません。
家族に感染させることを考えて宿泊施設や車で寝泊りしている方もみえます。医療者だって人間ですから、自分と自分の周りの人達が可愛いに決まっています。
自身の責任から働いているだけで、勝手な世間の見方で「英雄のような」偉い人としてメディアは報道します。
過度な美談や美化はしないでください。ただ、私達は仕方なく現場に立っているのです。
辞められるなら辞めたいというのが最前線で働く者の本音です。
色々なことを書きましたが、今はどうすることもできず、ただただ恐怖心と闘いながら前線に立つことしかできません。
医療者のコロナ疲れはピークに達しています。国や行政は早急な対応をお願いします。
早くしなければ、ニューヨークの医師のように自ら命を絶ってしまう人もでる可能性もあります。
この記事を読んでくださった方は、こうした医療現場のひっ迫した状況を知って頂き、自身が感染しないように気をつけてください。
それが自分の命を助け、周りの命を助け、引いては日本を救うことになります。
雑多なことが多くなりましたが、一人一人の行動が大切です。
医療現場を守るために感染しないように気をつけてください。