第4話 クロード、アリスと潜入戦に参加する。
アリスちゃんと仲直りをした。
そう仲直り。お互いの誤解を解いて握手して。
これからは協力してセカイを守っていこうと約束した。
何より嬉しかったのは神の声の存在を認めてくれたことだ。
今まで誰も信じてくれなかったのに。
パーティのみんなは触れようともしなかった。……サファイアでさえも!
それなのに面と向かって宣戦布告された当のアリスちゃんがそれを真剣に受け止めてくれたのだ。神の声を真実とした上で、何故自分がセカイの敵だと言われているのかの推論まで立てて見せた。
一生懸命考えながら。今までの自分を顧みて。
……やっぱり器からして違うのだろうか。
普通なら僕の顔なんて見たくもないだろうに。
僕だって本当はアリスちゃんにあんな言葉を伝えたくなかった。
成り行き上、仕方なくそうなってしまっただけで。
そのこともきっちり汲んでくれた。
そして神もアリスちゃんの言い分に納得して敵だというのを取り下げてしまう。
まさか神とまでも取引できるとは!
女王というのはそんなにも凄いのかと、ただただ感心するばかりだった。
何が凄いと言って、やっぱり気配りだろう。
あの場ではまだ敵だった僕たちの為に衣装まで用意してくれた。
そのおかげもあってあの決起集会でも悪目立ちせずにすんだのだ。
部屋に入った瞬間、あまりに煌びやかさに目がくらみそうになった。
顔見知りのバトラーさんも普段と違う、いかにも貴族といった恰好でビックリ。
国内有数の大貴族というのは本当だったと理解した。
最初にあの姿で現れていたら気軽に話すことなんて出来なかっただろう。
取り巻きたちが敬意を払えと言っていた意味がようやく分かった気がした。
そして初めて決起集会の本当の意味を知った。
――これは集会の名を借りた、お互いの陣営を値踏みする場だったのだ、と。
サファイアとルビーの衣装も派手過ぎるだと思っていたが、あれぐらいではないとダメだった。
貴族たちの後ろに控える騎士たちの煌びやかな鎧は実用的とは思えなかったけど、それでもあの場にふさわしいものだった。
もし僕たちが普段の恰好で出席していたら――。
そう考えるだけで腹の奥の方がきゅんと痛んだ。
最初は殺伐とした雰囲気の中で始まった会議もアリスちゃんが色んな陣営に気を使い、最終的には穏やかな空気で閉会することができた。
今までずっと出てこなかったレジスタンスのリーダーがパックさんだったというのも明らかになった。
それは偽名で本名はロレント。
以前皇帝の親衛隊長をしていたそうで、生きていることを隠していたそうだ。
風格があると思っていたが、やはりそれなりの大人物だった、と。
ちなみにどのような経緯でリーダーになったかは集会の後でパーティのみんなに教えて貰った。
会議が終わり、そのロレントさんが名指して僕を呼び止めると、皆が注目する中で昔使っていた魔法剣を渡してくれる。――この前一緒に遊んでくれた礼だ、と。
本当に誇らしかった。
ここまで冒険者として数々の偉い人にも会ってきたけれど、誰かの前で褒美をもらうことなどなかった。
子供の頃からずっと憧れ続けていた光景だった。
僕はそれを丁寧に受け取る。
感激のあまりちょっと芝居がかっていたかもしれない。
ロレントさんは僕の気持ちを察してくれたのか、満足そうな笑顔で優しく僕の肩を叩く。
それだけで終わらなかった。
アリシア女王からも期待しているとの励ましの声。
その場で貴重な魔力回復のクスリなどをくれた。
更にサファイアやルビーも武器防具の支援を受ける。
――あくまで試作品の実戦使用調査名目としてだったが、実質トパーズのときのようなプレゼントだと考えていい。
それを皆がうらやましそうに遠巻きで眺めていた。
まるで僕たちがセカイの中心にいるような感覚になる。
まさに順風満帆。その言葉がピッタリだった。
そんなことも影響したのだろう、パーティの人間関係も随分とよくなった。
トパーズとも腹を割って話せるようになった。
そして何故かルビーとトパーズがくっつきそうな感じ。
僕が応援しているのも大きいだろう。
でもやっぱり一番変わったのはサファイアだ。
何か角が取れたというか、穏やかでかわいいサファイアが戻ってきた感じ。
いや、それ以上だ。凄くきれいな大人の女性になった。
今までは僕に対して過剰な接触があったけれどそれも控えめになった。
――それに関しては僕に非があるのは分かっているつもりだ。
アリスちゃんやルビーと良好な関係を築けているというのもあるだろうけれど、一番の理由は間違いなく妹のパールちゃんの存在だ。
この前も正式に婚約者としてパールちゃんを紹介してもらい一緒にご飯も食べた。
妹と一緒にいるサファイアはいつもと違う面を見せる。
しっかりしているような、ちょっと保護者のような感じとでもいうのだろうか。
食べ物を取り分けたり口元を拭いてやったりと、甲斐甲斐しく妹の世話をする。
本当にいいお母さんになりそうだった。
……それは流石にちょっと気が早いか。
本当に仲の良い姉妹の光景に胸が熱くなった。
パールちゃんは僕のことを誤解していたのだと神妙な顔で謝ってきた。
もちろん僕はそれを笑顔で受け入れる。
そもそもこちらから彼女の大事な女王様をセカイの敵だと罵ったのだ。
そしてこれからは仲間として一緒に頑張っていこうと誓いあった。
――そんな充実した日々を経て、ポルトグランデを離れたのが数日前。
僕たちは厳戒態勢のヴァルグランを進んでいた。
今回は女王国と合同の特別任務でアリスちゃん自らの立てた作戦だ。
それもあって彼女自身も参加する。
必然的に側近のパールちゃんやレッドさんも付いてくる。
それに何故か戦いに不向きそうなクロエさんまで一緒だという。
一応彼女の安全はレッドさんが守ることになっているが。
そんなことより――。
クロエさんって途轍もなく綺麗な女性なのだ。
近くにいるだけで大人の魅力に当てられてドキドキしてしまう。
そして彼女は執政官であるテオドールさんの妻だという見た目通りの高貴な女性。……ということはケイトちゃんの母親でもある、と。
あんな年齢の娘を持っているとは思えないほどの若々しい姿。
そんな彼女がアリスちゃんの側近をしていて、今回の潜入作戦にも参加するという。彼女は一体どんな役割を果たす予定なのだろうか。
アリスちゃんはまだ教えてくれない。
僕たちは出来るだけ目立たないように旅の一行に扮し領都マーディラを迂回、アリスちゃんの先導で森の中にある古い教会を目指した。何でもそこから領城に潜入できるとのこと。
何故そんなことを知っているのかとみんなが――それこそ本職のパールちゃんまでもが首を捻る中、「一応山猫を作ったのは私だからね」と答えにならない答えで彼女は煙に巻く。
でも、まぁ女王国だから。アリスちゃんだから。
もうそうとしか考えられないと全員が無理矢理納得した。
彼女といるとそんな雰囲気になってしまうのだ。
山の中を歩き続けるとやがてアリスちゃんの言う通り教会の屋根らしきモノが見えてくる。僕たちは正面を迂回して物置らしき建物の陰に隠れた。
「じゃあ、パール。……偵察お願いね」「はい」
アリスちゃんの言葉にパールちゃんは笑顔でハキハキと応答する。
しかし一向にそこを動こうとせず、彼女は姉であるサファイアをチラチラと見るのだ。彼女が何を求めているのかは一目瞭然。
サファイアは僕たちには絶対に見せようとしない、ちょっと面倒臭そうな、それでいて仕方ないなと言わんばかりの表情で溜め息をつくと、リボンで束ねた髪を揺らしながら教会に向けて歩き出した。
その後ろからパールが嬉しそうにサファイアの腕に飛び掛かる。
イヌのように尻尾があったならばブンブンと振り回していたことだろう。
サファイアは抵抗らしい抵抗もせずされるがままの状態だ。
そして二人して教会に向かっていくのをこちら側は笑顔で見送った。
彼女たちの報告によると、こんな寂れた教会なのにも拘わらず屈強な感じの衛兵が数人いるらしい。
正面の出入口に二人、裏口にはやる気の無さそうなのが一人。
中の広間で見張っているのは二人だが、控室にもまだ五人いるらしい。
だがそのうち三人は眠っていると。
更に内部の詳しい構造まで明らかになった。
今までサファイアの調査能力を頼りにして潜入任務をこなしてきたのだが、パールちゃんのそれはやはり本職だけあってケタ外れだった。
改めて女王国の情報収集能力の凄さを垣間見た気がする。
――それにしても不自然だった。
やはり間違いない。ここはあちらにとって大事な場所なんだ。
「いい? 絶対に殺したらダメよ」
「――了解!」
クロード隊は正面から。アリスちゃんとパールちゃんは裏口から。
レッドさんとクロエさんはこの場で待機。
僕は深呼吸すると新調された鎧の下の胸元に入れたレスター君の手紙に手を添えて目を瞑った。
それだけで力が湧き上がってくるのを感じる。
「よし、いくぞ!」
僕の号令とともにみんなで突入した。
埃っぽい教会内で始まる制圧戦。
絶対に兵士は殺さない。……望むところだ!
これこそ僕たちが待ち望んでいた勇者一行の仕事。
みんなもそう感じていたのか、いつもよりも確かな連携。
ホルスさんの娘の為に戦っている時を思い出した。
あの充実感。そして使命感。
内心から湧きあがる昂ぶりを冷静に感じながら一人また一人と沈める。
そして瞬く間に終了した。
呼吸を整えていると後ろからカツカツと教会の床を叩く足音が聞こえる。
「ご苦労様。……怪我はない?」
アリスちゃんだ。その後ろにパールちゃん。
正面の入口からはレッドさんとクロエさんもやってくる。
「大丈夫。……全員当身で済ませたから」
僕が代表して答えると、彼女は弾けるような笑顔を見せる。
「違うわよ。あなたたちに訊いたの。……まぁ、それなら大丈夫そうね」
アリスちゃんは僕たちの横を通り抜けると、壁掛けの絵を外す。
何事かと彼女の背中越しに覗き込むと、絵によって隠されていた壁に小さな窪みを見つけた。
さらにその奥にはあったのは何か取手のようなモノ。
彼女はそれを何の躊躇いもなく握ると、体重をかけて一気に引き落とす。
やがて石がこすれる音が教会内に響き渡ると、入口が姿を現した。
「さあ、こっちよ」
あまりの展開にみんなは驚いて言葉も出ない。
何より一番驚いていたのは専門家のサファイアとパール姉妹だ。
クロエさんもどこか青ざめていた。
アリスちゃんはそんな彼女たちを一瞥すると、やはり躊躇いなく通路に入っていく。
僕たちも慌ててその後ろを付いていった。




