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残酷御伽草子 吉備太郎と竹姫  作者: 橋本洋一
三章 茨木童子と安倍吉平

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変わらぬ友情

 中納言の言葉に吉備太郎たちは四者四様の反応を見せました。


 吉備太郎はそういえばと思い出して。

 吉平はしまったという表情を見せて。

 山吹はやる気に満ちた姿勢を示して。

 竹姫は何が何だか分かりませんでした。

 そのまま、しばらく誰も口を開きませんでした。


「しかし、中納言さま」


 最初に口を開いたのは、吉平でした。


「いくらなんでも、四人――いや三人だけでは茨木童子には勝てませんよ」


 すると中納言はいやらしい笑みを浮かべました。


「それはおかしなことを言うものだな。私が掴んだ情報によると、貴殿らは三人で鬼を一匹倒したそうではないか」


 ぐっと言葉に詰まってしまう吉平。


「それに、酒呑童子を倒したのはそこの若武者ではないか。聞いたぞ? たった一人で勇猛果敢に一騎打ちをしたと」


 そこまで調べていたのかと吉平は内心焦りを感じました。


「少し説明をさせていただきたいのですが」

「説明? 釈明の間違いではないか?」

「説明という言葉がお好きではないのであれば、補足させていただきたいのです」


 中納言は「ふむ。ではしてみせよ」と余裕を持っています。


「まずは俺たち三人で鬼を倒したということですが、それは運が良かったからです。鬼は村を襲った直後で疲労していましたし、何より鬼は鬼でも下級の鬼です。それならば俺たち三人でも十分倒せます」


 吉平の補足に中納言は「運も実力のうちと言うがな」と鼻で笑いました。


「それにだ。下級とはいえ鬼は鬼。人間には敵わないとされているが?」


「それは誤解です。確かに俺たち一人一人では敵いませんが、三人集まればなんとか倒せます。しかしここに居る吉備太郎ちゃんは大怪我を負いました。それは中納言さまのおっしゃるとおりです。だからこそ、上級の鬼である茨木童子には敵いません」


 中納言は「それならば酒呑童子を倒したことはどう釈明する?」と訊ねます。


「神便鬼毒酒を使いました。身体を弱らせた状態ではないと戦いになりませんでした。それでも坂井定森さまは戦死されたように、上級の鬼は手ごわいのです」


 中納言は「うーむ。それほどまでにか」と顎に手を置いて考えます。


「ならば、貴殿は三人では倒せないと?」

「そうです。せめて百人の武者さえ居れば、なんとか倒せます。犠牲者はたくさん出ると思いますが」


 中納言は首を振りました。


「ならぬ。もう武者たちを狩り出すのは不可能だ。先の戦いで役に立たないと知ったからな。貴殿らで何とかできぬか?」


 吉平ができないとはっきり言おうとしたときでした。


「吉平。貴様ができないと言うのなら、我一人でも茨木童子を倒してくる」


 立ち上がったのは山吹でした。目には闘志が宿っていて、何者も止められない雰囲気を醸し出しています。


「山吹。お前だけじゃ無理だ」


 吉平は諭しますが、山吹は聞く耳を持ちません。


「分かっている。しかし我には他に道はない。茨木童子を討つしかないのだ」


 山吹はそう言って、部屋から出ようとします。話すことは無いとばかりでした。


「山吹――」

「待ってください、山吹さん」


 今まで沈黙していた吉備太郎が口を開きました。


「あなた一人だけでは無駄死にするだけです。私も同行しましょう」

「吉備太郎ちゃん!?」


 吉平だけではありません。同じく沈黙していた竹姫もその言葉に驚きました。


「吉備太郎! あなた何言ってるの!? 死ぬようなものじゃない!」


 吉備太郎は笑っています。


「多分死ぬだろうね。でもこの人を見殺しにできないんだ」


 山吹は吉備太郎の真意が分からず、どうして我を助けたいのだろうと思っていました。


「この人に命を助けられたんだ。最初の鬼と戦ったときにね。その恩を返していない」

「だからって――」


 吉備太郎は竹姫の言葉を待たずに言いました。


「それに鬼が生き残っているのなら、倒さなければいけない。鬼は一匹残らず殺さなければならないんだ」


 吉備太郎の言葉に一同は背筋が凍る思いでした。それほどまで吉備太郎は鬼に対して憎悪を抱いていたのです。


「貴殿は何故、そこまで鬼を憎む?」


 中納言が訊ねると吉備太郎は「故郷の村を滅ぼされたからです」と答えました。


「両親も死にました。これ以上人を死なせたくない。それだけなのです」


 中納言は「そうか」とだけ言いました。


「吉平。二人だけで行かせるのか? 貴殿も加われば死なずに済むではないか?」


 吉平は宙を仰いで、しばらく考えました。そしてようやく言いました。


「……分かりました。身命を賭して、茨木童子を討ちます」


 竹姫は「勝手にすればいいわ」と呟きました。そして中納言に向かって言いました。


「これで吉備太郎が死んだら、あなたを末代まで祟るわよ」

「その言葉は聞きなれている。さて、さっそく明日にでも出発してもらいたい」


 すると中納言は懐から血まみれの汚い紙を取り出しました。


「なんですか、それは?」


 吉平が訊ねると「とある村人が持ってきたものだ」と中納言は答えます。


「茨木童子からの文だ。三日後に大江山近くの草原で待っていると。届けた者は都の近くで力が尽き、亡くなっていた」


 山吹は「果たし状か。鬼にしては律儀な奴だ」と吐き捨てるように言いました。


「話は以上だ。貴殿らの健闘を祈る。坂井山吹。私は陰謀家だが約束は守る。生き残ってみせよ」


 こうして鷲山中納言の屋敷での話は終わりました。各々の思惑がどのような結果をもたらすのかは、今の段階では分かりません。




 その晩のことです。

 吉平は一人で屋敷の庭を歩いていました。


「次の戦いは厳しいものになる。虎秋を出すしかないか」


 吉平は夜空を眺めます。星たちは瞬き、月はおぼろげながら輝いています。


「吉平さん?」


 物思いに耽っていた吉平の後ろから声をかけたのは、吉備太郎でした。


「吉備太郎ちゃん。どうしたんだい?」


 寝られないのかいと言いかけた吉平でしたが、吉備太郎が頭を下げたので言えませんでした。


「ごめんなさい。私のわがままで吉平さんまで戦うことになってしまって」


 吉平はしばらく何も言えずにいましたが、ようやく「顔をあげてくれよ」と言えました。


「水臭いこと言わないでくれよ。吉備太郎ちゃんは俺の友人だ。そういうことは言わぬが花だぜ?」


 吉備太郎は頭を上げました。


「ありがとうございます」

「それになんだ。吉備太郎ちゃんは竹姫ちゃんのほうに謝ったほうがいいぜ?」


 吉備太郎は頬を掻きました。


「先ほど謝ったんですけど、説教されてしまいました」

「あはは。竹姫ちゃんらしい」


 吉備太郎は夜空を見上げました。


「茨木童子は強いですか?」

「酒呑童子とほぼ同じくらいかな」

「勝てますか?」


 吉平は「分からないよ」と首を振りました。


「でもやるしかない。それだけだよ」


 すると吉備太郎は突然言いました。


「私は吉平さんに出会って良かった」


 吉平は吉備太郎の顔を見ました。本心から言っていると分かりました。


「吉平さんが居なければ、途方に暮れていました。都に来ても何をすれば良いのか分かりませんでした。本当にありがとうございます」


 吉平は初めて人から感謝されたと思いました。今まで形だけの感謝はされたとしても、ここまで飾らない感謝を受け取ったのは――初めてだったのです。


「照れくさくなること言うなよ」


 吉平は笑いながら吉備太郎に語りかけます。


「俺も吉備太郎ちゃんに会えて良かったよ。なんだか弟ができたみたいだ」


 吉備太郎と吉平。二人の歩んだ道は異なりますが、今だけは重なり合ったのです。


 しかし、世界はそれを許しはしませんでした。

 茨木童子との戦いで芽生えた友情が壊されてしまうのです。

 けれどこの場では二人の志は一緒でした。


 変わらぬ友情などないのかもしれません。

 それでも今だけは。

 二人の友情は確かに存在したのです。

 それは何者でも否定できませんでした。


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