序章9話
結局、メリンダさんが啖呵を切った後、皆色々言い訳をしてたりして騒然としてましたが、強面の宿屋のおじさんが言い合いをしている彼らに荷物を渡しながら、一見すると平然そうな顔をしながら話しかけたのです。
「……ほらよ、こんな小汚ねぇ馬小屋なんかよりも良い場所なんだろ?さっさと荷物を持って出てってくんねぇか?」
「そっそんな事……」
「ああぁ、嬢ちゃん。取り繕わなくてかまわねぇよ。……ただし、おめぇら二度と俺の店に来ねぇでくんねぇかな?……それと、いい加減にしてくれねぇか?この馬小屋には宿泊客の馬も繋いでるんだよ。迷惑だからお前らだけでさっさと余所に行ってくれや」
そう、宿屋のおじさん静かに怒るタイプの人だったのです。その迫力に気圧されたアーネスト達は私を置いて逃げるように立ち去ったのでした。私は、そんな彼らを見送ったおじさんはため息を付いてぼそりと呟いた言葉を聞いてしまいました。
「扶助制度が改定されてからこの方、ギルドの指導が悪りぃのか新入りの質も落ちてきたもんだなぁ……」
「あの、それは、どうしてなのですか?」
「元々の扶助制度は良質な装備やこの街での生活の基盤を整えるのを、その冒険者の現状に合わせて支援するって制度だったんだよ。新人から中堅に移行するまでは稼ぎが不安定だからなぁ、雑務系クエスト斡旋したり物作りに適正のありそうな連中を各ギルドに派遣してたりしてな」
「そうね、改定されてからは安易にお金をばら撒き、ちやほやしてギルドのパシリとして囲う様な物になっちゃったものね。今の扶助制度は一度お金借りたら返すまで大変だし、返した後も契約で最低3年は縛り付けれるからね」
「そうそう、お金返せそうな時は、何時でも良いからってのらりくらりとかわして、無理やり返した後は何かに付けてお金を貸そうとするしねぇ」
「あの、メリンダさんにシャノンさんの話が非常にリアルな感じがするんですが……」
「それはそうだよ。うちのパーティって扶助制度を限度額一杯、バリッバリに利用したからね。一度狂った金銭感覚を矯正するのは元よりパシリの解消には本当に苦労したよ。だからね、セラちゃんは絶対に扶助制度を利用しちゃ駄目だよ?序に、扶助制度利用してるパーティの固定メンバーには絶対にならない事。いいね?」
「はっはい。凄く実感がこもってるので、絶対に利用しませんです。……因みになんで固定メンバーも駄目なんですか?」
「借金背負わされるからですよ」
ぶふぅ!?さらりと、とんでもない事をシャノンさんが言った!!
びっくりしてお二人をばっ!!ばっ!!って交互に見た私にシャノンさんが苦笑しています。
「あっ一応、私達二人はメリダンさんが言ってたボンクラーズの初期メンバーでは有りませんよ。初めの仲間が迷宮で亡くなったので、同じ村の私達が固定メンバーとして入ったら借金背負わされたって事なのよ」
「ひどいよなぁー。流石に頭に来たからね。今でも私等はパシリ解消してからもボンクラーズとは同じ宿は取らないし、ステータスカードの機能使って、パーティ全体の借金は必ず全会一致しなければ借りない。個人の借金をパーティーメンバーに背負わせないって条件付けたよ。……あっ一応、本人たちの名誉の為に言っておくが、ボンクラーズ達もそんな事になるとは思わなかったって土下座したんだよ。まあ、でもねぇー」
「……だからおめぇら、おれん所の馬小屋目当てで良くきやがったのか」
「あはは、ごめんよー。もう少し稼ぎが良くなったら宿の方に泊まるから勘弁して」
「期待しねぇで、待ってるよ。……さて、俺は明日の仕込があるから戻る。おめぇらも早く寝ろ」
「わかってるって、じゃあ、おやすみ~」
宿屋のおじさんを見送った後、私達も寝ることとなりました。……何故、私は二人の真ん中で寝る事になったのでしょうか?
「いいじゃん、何か?何となく?ぎゅってハグしながら寝れば暖かそうだし?あたし等がそれやるとあらぬ噂を立てられても困るし?」
「えー……」
「うふふ、拗ねたセラちゃんも可愛いわねぇー。お礼って訳じゃないけど、明日ギルド行く時にお世話になったおじさんを紹介してあげるからね」
……結局、がっしりとハグされ身動きが出来ないままで寝る事になりました。いや、暖かいから確かに良いんですけどね。
それに、寂しく、ないし……。
たぶん、次で序章を完結できると思います。