第三十八話 突撃 (Assault)
あ、あっれー? なんか簡単に書けた感じ? 文量が少ない?? あっれー?もっとこのシーン苦労すると思ったのに、1日で書けちゃった? あっれー?
まぁ、いいや。
アバダーンスよりもやや北西の96号線から
およそバスラル大学まで
川路で見れば約30km程度の距離から
シャトルアラブ川に潜水し
目的地まで2~3ノットの微速前進で
接近していたBと沙璃枝達二人。
奇襲作戦の要ともあって、大盤振舞してくれたのか
クリアな無線情報の確保の為
潜水しを始めた場所に、高性能の通信設備が置け
そこから、およそ30km近くを
有線で繋ぎっぱなしにして、
目的地まで二人は歩を進める事になった。
軍が融通してくれた
最大30kmの有線通信線の配備は、
流石に大盤振舞としか言いようが無く
おかげで雑音もなくクリアな映像で
外部情報のやり取りが出来た。
無音推進機関を持つその潜水戦闘車両は
2~3ノットという超低速で進む為
この距離では流石に敵側には気付かれない。
何より、作戦の為に北のナーシリヤンとアマーランに
緊急展開されたこちら側の大軍に
そのまま南進されて防衛戦を突破されれば
マージ側としては
それで普通にゲームオーバーなのである。
マージ側に川路からのランディングが無いという
油断があったわけではないが、
海ならいざ知らず、
河川幅260m程度の川路という
身動きの取りにくい場所で、
潜水艦等の侵入で近距離ミサイル攻撃等という事は
常識的には考えられなかった。
精々、小型車両が数台で潜水してくる程度と
予想される所だった。
ならば駐屯軍であしらえるだろうという
そんな妥当な判断が、この川路の警備を
やや緩くしていたのだった。
とは言っても、大学までの10kmないし5kmまで
潜水で接近すれば、その周辺ではアクティブソナーが、
ガンガン鳴り響いていて、その川周辺の地形状態を
完全に把握されていると予想できる。
その、ギリギリの地点まで近づき
作戦の混乱に乗じて、強襲揚陸する。
…という事が出来るまので
微妙な距離までを接近しなければならない…
それが今の彼等の置かれている状況だった。
モヒカン達の方は、アフワーズアより
少し南に遮蔽して前線基地を緊急展開し、
その場所に部隊の通信本部として布陣。
通信中継車両を、潜水を開始した地点と
緊急展開した前線基地の中間地点に派遣して
通信インフラを整え
後方支援として通信網の確保と
状況整理の任に着いていたのだった。
『さて、時間的にはいよいよだが?』
モヒカンは通信越しから、
作戦開始のカウントダウンを見つめる。
「ナーシリアンの戦いの開始ってか…
まぁあっちの主力の戦闘だ。
俺達はここから状況の推移を
見守るしかないな…」
そう言ってBは、カルーベニャが伝える
全体戦況情報の地図情報を見つめるしかなかった。
そして全体作戦の発動のカウントダウンは終わり
バスラル攻略戦は予定通り始まった。
B達はゆるゆると潜水航行しながら、
全体の戦いの推移を見守るしかなかった。
まずはお約束の制空戦の始まりだった。
互いのSuMg12とFX-5の
熾烈な制空戦闘が発生して、
戦いの序曲が奏でられた。
モニターマップの上で激しく鬩ぎ合う
航空機マーカー群達。
それをじっと見つめる一同。
制空戦は、予想通り互角。
それも虎の子の25シリーズや
”かなり動くAVV”を入れて
数の不利を相殺しているらしく
普通ならば、戦力投入数の差で
制空有利になるハズなのに
制空戦は、そこで拮抗していた。
その為、互いの爆撃機を発進させて
陸上兵器を一掃するという空爆攻撃も躊躇われ
制空権争いは膠着状態に陥った。
その基本的な予想と予定通りの展開に
ナーシリヤンの南部に
緊急展開させていた戦闘車両は、
敵航空機の空爆に怯える事なく
悠々と南に進撃を開始していく。
ナーシリヤン方面の主戦場は
その突破に必要な距離だけなら
1号線を南下してのおよそ80km。
時速80kmで全軍が突撃すれば1時間の間に
バスラルに到着できる程度の距離であった。
その程度の距離だったのに
当然、それを阻止するべく
敵の主力戦闘車両が、そこで待ち構えていた。
そして1号線の上で両軍が対峙した時
互いの陸上砲撃戦が、そこで漫然と始まった。
それが実質的な
”ナーシリヤンの戦い”の開始であった。
その主力部隊が交戦し始めた様子を
また呆然と戦略マップのマーカーで眺める一同。
AVVもKGVもCXXも
その3種の記号が無数に交錯する。
そんなナーシリヤン近郊での
マーカー表示の上での戦いの様子。
それが実際に動いている現地は、
鉄の砲弾と溜弾が交差しあい
爆発と砂塵が舞い散っているという、
壮絶な戦場であった。
しかし、
そのエネルギーの交差だけは激しい現地において
そこに血の通った人間は一人も居ない。
鉄の塊同士が、お互いを破壊する為に
砂漠地質を縦横無尽に動き回って、
互いの砲弾を撃ち合う。
それを人間が遠隔操作するか、
人工知能が操るか、ただそれだけの事。
起きる爆発と砂塵は、傍目からは派手ながらも
そこで起きている戦闘は
正に”クリーン”な戦闘だった。
そんな状況を、マーカーが定期的に
1つ1つ消えていく様で見つめてBは溜息をつく。
そう、これが現代戦。
ただエネルギーだけを、
そこで漠々と消耗する血の通わない戦争。
ここは、場所ではメソポタミア
古代メソポタミア文明の本拠地…。
かつても今も、この大地を巡って人々は争った。、
古代では接合する大陸の
全方面にアクセスできるという
陸路海路の要衝である地理的特徴…
そしてそこから生まれる貿易権益を巡って
人々が、何度も各々の帝国を興亡させ
戦乱を起こし、
この大地に人々の血液を染みこませてきた。
近代においても、何故かこの地方に集中している
石油資源と利権を求めて、人々は血を流し合った。
交通の要衝であり、重要資源の採掘地でもある
この地域は、古代から現代にかけて
争乱が起きなかった事がない場所だった。
それほど、この大地は”因果”な土地であった。
そんな人類の戦いと血の歴史を
深く深く刻んできた大地だというのに
その戦いの進化の歴史の果てでは
”人間”という者が存在しなくなっていた。
流れるのは、今は血液ではなく、オイルか硝酸。
それが文明の連綿たる進化なのだといえば
きっと進化なのだろう。
少なくとも、剣を心臓に突き付け合って
おびただしい血液を、
チグリス・ユーフラテスの川に
流しているわけではない。
赤く流れるモノが何も無い”クリーン”な戦争。
それをこの大地は得ていた。
それを思い、戦闘車両の1つのライブカメラを拾い
その砲撃と周囲の爆炎の光景を見つめて、
溜息をつくB。
間違い無くそれは地上戦闘車両同士の
砲撃の交錯による激戦だというのに、
そこには熱が無かった。
古代を思えば熱しかなかった
メソポタミアでの戦争は、
現代では、エネルギーはあっても
血潮が乗る熱そのものが無かった。
ドローン戦争。
クリーンな戦争。
そしてその地上戦も、予想通り
ある程度の膠着状態が始まる。
定刻が来て、第二次攻撃が始まった。
B達も作戦決行時間に上陸する為
15Km付近までを神経質に近付いていた。
ただし水面下の詳細な状況を調べていたのは
潜水車両に積み込まれた
KGV2596の制御システムであり、
中の二人はそこら辺はシステムに丸投げだった。
中の二人はそれよりも
候補にしている揚陸ポイントと
そこに予定時間まで到着できるかを注視しており
その流動性の高い作戦開始の予定時間は、
今始まった第二次攻撃の進捗で決まってしまう。
ここの作戦開始こそ、彼等にとっては
もっとも重要な所であった。
なので緊張しながら、
その第二次攻撃の開始を見守る。
アマーラン南部に緊急展開した
高機動車両と支援ヘリ部隊は、
一路6号線を快走し、
ナーシリヤンの主力よりは
進撃距離が僅かに長い
100kmという距離を驀進して
6号線から、強行侵入を試みる。
それは陽動部隊であり、主力ではなかった。
ただし、上手くここを貫ければ
そのままバスラル大学である。
貫ければ、それでも攻略戦終了。
当然、敵側の予備の駐屯軍が、
それを阻止する為に動いた。
しかし、その移動は何か緩慢であり
迷いさえ伺わせる様子が見えた。
その敵軍の自軍陽動部隊への対応の
思い切りの悪さに首を捻るB。
マージ陣営の判断に
明らかに迷いのようなモノが見て取れた。
「迷ってるな…
マージも、あっちの作戦指揮の司令部も…」
Bは予備軍の緩慢な動きを、そう評した。
『この陽動部隊に私が紛れているかどうか…
それを懸念してるんじゃない?』
そんなマージの対応に
沙璃枝はその考えをトレースする。
「なるほど、切り札をここで使われて
一気に突破されるのを恐れているのか…
だから、AVVもKGVも
対応する戦力が、防衛線として
適切な位置に移動してないんだな…
こっちとしては、
バスラル大学の防衛戦力は
穴蔵からは出て行って欲しいんだがな…」
言ってBは、予備軍の駐屯所から
戦力が思った以上に出て行かない事に焦れた。
『いえいえ、この判断の遅れは
戦場では致命的なミスでしょ?
ほら、カルーベニャも、ここを見逃さない』
言って沙璃枝はマージ側の迷いを
カルーベニャが見逃さず、
そこに急襲をかけたのを見つめた。
快走する陽動部隊は、
その場から遠距離ミサイルを
空軍基地とバスラル大学に向けて発射し始めた。
それで万事が終わるとは思えなかったが
対抗戦力が十分な防衛距離に出て来ずに、
都合の良いミサイル射程距離を与えてくれたのだ。
撃たない方がどうかしていた。
そのミサイル攻撃に
慌てて迎撃ミサイルを飛ばすマージ陣営。
あわや直撃かと思われたギリギリの所で、
迎撃ミサイルと、防空銃撃によって
ミサイル攻撃は阻止された。
しかしそのミサイル攻撃によって
もはや躊躇できないと判断したらしく、
予備の防衛戦力を多数
6号線を快走して突撃してくる陽動部隊に
向かわせた様だった。
かなりの戦力が、
南進する陽動部隊を牽制する為に
6号線を北上していく。
それを見つめて、沙璃枝はほくそ笑んだ。
『まぁ判断としては、正解は正解だけど…
これはマージの判断というより、
クソ禿共、人間の方の焦燥でしょうね…
こんな適量とは言えない多数の戦力投入
マージならしないでしょうに…』
言って沙璃枝は、恐らくネオNYで
ミサイル攻撃に慌てふためいて、
マージに強制命令を出しただろう
軍部人間側の様子を思い浮かべて
口を押さえて笑うしかなかった。
「い、妹殿?
貴方は、何故、クソ禿とか
そんな先代達が言うような
口汚い言葉を使ったので?」
その沙璃枝の、彼女が知り得るハズの無い情報が
彼女の口から出た事に驚いてBは首を捻って尋ねる。
『ああ、えっとね…
コマンダーが、
”モチベーションというのは
戦闘における重要な要素だ。
なので私の持つ”イライラ感”を
情報として渡しておく”
って夢の中で言ってきてね…
なんで、姉さんの
”あのクソ禿だけは絶対に殺す”
って怨念が
今は情報共有できてるの…』
そう言って沙璃枝は可愛く舌を出した。
「コマンダー、可愛い妹に
何を教えてるねん…」
そんな返事を聞いて破顔するしかないB。
ともかく事情は分かった。
そして沙璃枝が、
とても意地悪そうな顔になっているのも
それを聞いたら納得であった。
そうしているうちに
陽動部隊と守備部隊とが接触し
6号線における戦闘がその接触で始まった。
主力のナーシリヤンでの戦いの方は
迷いに迷いが生まれているせいか
徐々に徐々に、マージ陣営が押され始めている。
制空権をそれでも膠着状態に辛うじて保っているのは
彼等の、頑強な意志か。
特に、敵側のAVVが空戦で良い仕事をしていた。
多分、大金を積んで、
世界ランカーを、なんとか雇ったのだろう。
いつ現れるか分からない沙璃枝の急襲。
偶数番台の無力化という
それをやられたら、
一気に戦況が収束する事に怯えながら、
それでも全体指揮を執り続けるマージ。
それが人ならば立派なモノであった。
Bはそんなマージの姿に
錯覚的に”人間性”を感じてしまう。
そして、その錯覚に笑うしかなかった。
『あらら?
カルーベニャもやっぱり食えない奴ね…
こう来ましたか…』
不意に沙璃枝がそう言い出して
そのモニターを眺めた。
「なんだ?
何が起きたんだ?」
突然、沙璃枝がそう言い出して
見ていた所とは違う場所を
図示したので、それを見るB。
『南部民間地区で暴動発生。
武装ゲリラが武装蜂起して、
バスラル大学の
南の詰め所へ向かって強襲開始だそうよ』
言って沙璃枝は、自分達のいる場所から
そう変わらない場所の民間地区で
武装ゲリラが蜂起して進軍し始めた情報を
その図に重ねた。
「何だと!?
そんなの作戦の計画書に
書いてないぞ、おい…」
そんな計画書の中にない
突発的なイベントの発生に頬を歪めるB。
『地域ゲリラなんて
生身の人間を使う奇襲作戦だから
やれば間違い無く有効な作戦だけど、
公には提案し難かったんでしょう?
反対意見が出て、揉めるのが嫌で…ね?
それを十分議論をする時間が
この作戦には無かったでしょうしね…』
言って沙璃枝は、呆れた顔をするしかなかった。
「生身の人間使っての
スケープゴートかい…
そりゃ、そんな提案出したら会議で揉めて
作戦立案が、グダグダになって
何にもまとまらなかっただろうがな…」
Bも沙璃枝のその言葉を受けて溜息をつく。
『どうするの?人間探求者?
人道主義とかに目覚めて
作戦も無視して、
このゲリラを、支援でもしに行く?』
言って沙璃枝は、兄の判断を仰いでみた。
「んーー
思う所の無い奴が、
こんな時代に銃なんか手に取るかよ…
か細い生産石油物資を
それでも本国にほとんど輸送して
地域住民の融和政策をして来なかった
マージ陣営側の、ツケだろうが…
こんな場当たり的な武装蜂起ではあるが…
そりゃ、非武装の民間人が
プラカード持って押し寄せてるなら兎も角
カルーベニャとの交渉で
あんな立派な軍事物資貰って
立ち上がったんなら
あいつ等は、覚悟を決めた戦士なんだろう?
そうじゃないのか?
自分の土地で自分らをなんとかしたいなら
そんなチャンスがあったら
自分で戦わないとな…
昔の奴等は、そうやって戦って来たんだ。
なんで現代だけが、除外されるかね?」
言ってBは頭をかいた。
『正論ね…
管理機構並の合理性…』
沙璃枝はBの言葉を受けてそう茶化す。
その言葉にBは笑って腕を振った。
「こんな覚悟で武装蜂起やってんなら
非武装民間人は、
口裏合わせて
さっさと退避でもしてんだろ?
まぁ、ドローン相手に生身でやるとか
経験もないのがやるなんて
アホの極みだが…
相手が24だ25シリーズだってんなら
そこら辺は、柔軟な判断力のそれに
期待しようや…
ここで、作戦無視して出て行って
作戦をグチャグチャにしてしまったら
それこそ、想定以上の被害者を出して
マージも取り逃がして
もっと世界に被害者を出す事になる…
この流れ、厳しい話だが
利用させて貰うしかないな…」
言ってBはその手をブンブンと振った。
『手厳しい意見だけど
それが一番ね…
目的を見失って
被害を拡大したら本末転倒だわ…
カルーベニャの、してやったりな所は、
ちょっと腹が立つけどね…』
沙璃枝はそう呟いて苦い笑みを零す。
まぁ、あのしたたかな人工知能は
相変わらず、やる事がしたたかだと思った。
それに呆れるが
しかし今はそれは好都合だった。
「そして、そのタイミングを見計らって
無人降下部隊が、
ロケットで飛んで来て緊急展開か…
完全に武装蜂起とタイミングを同期してたな…
こっちも、いよいよだな…
上陸地点はやはり、このポイントAかね?」
そして予定の定刻が来て
奇襲作戦の第1段階が始まったのに
Bはスクリーンをマーキングした。
『そうね…
囮の潜水デコイを発射しましょう。
音響魚雷で川を反響させて
アクティブソナーを狂わせて
その混乱に乗じて、
ポイントAの10km地点の
南部民間区に上陸。
爆走して、いっきにバスラル大学の懐に…』
そう言って沙璃枝は手早に、
潜水デコイを10発、発射した。
それらは、最初はゆるゆると川を泳ぎ始めていく。
最後のパラシュート部隊の強行急襲に同期して
相手の10kmから5km周辺の川に
楽しい音楽を成り響かせる為に出発したのであった。
「ふむふむ…
ロケット弾が武装民間人の前に着弾…
中からの無人機動車両が出てきて…
んでもって、武装勢力と合流か…
こりゃ嫌な布陣だな、オイ…
カルーベニャも、
やられたら嫌だった構成を
意趣返しで、ここでしますかい…」
言ってBはリアルタイムに展開したその状況を
笑いながら語った。
『アフリカ戦線では、
マージに散々苦しめられた
ゲリラとの混合構成ですからね…
そりゃ、こうなったらやり返しますわ…』
沙璃枝もその連携に受けてケタケタと笑うしかない。
この一番嫌な構成を作られると困るから
自分達の様な25シリーズというスキンが作られたのだ。
それは皮肉な話だった。
「さて、で、正規軍人のパラシュート部隊が
護衛機に守られながら、突撃してきましたよっと…
いくぞ、沙璃枝、俺達も上陸だ!」
Bは最後のゲストが登場したのを確認し、
自分達の奇襲作戦の発動を声に出した。
そして自分のドローンライフルに手をかける。
『了解、御義兄様!』
沙璃枝はそう返事を返し、
自身が制御を取得した潜水戦闘車両を、
バスラル大学の南に約10kmの地点
南部住民地区の川岸に浮上させ、
そのずんぐりした筐体を、
ゆるゆると上陸させていった。
それと時を同じくして、
北側からは高速で突撃して来る高速輸送機と、
そこからパラシュート降下してくる
もう片方の特殊部隊。
奇襲作戦の部隊が全て展開し始めたのだった。
そのずんぐりとした筐体は、
上陸を終えるとそこで水切りをする。
周辺の住民は、最初は珍しそうにそれを見ていたが
次の瞬間にはそれが何かを理解して
一斉にみんなそれから逃亡し始める。
「そうそう…みんな、南に逃げた逃げた…」
非武装民間人が南に移動しているのを見て
ぼんやりとそう言うB。
そう呟いていた時に、先ほど放った
音響魚雷を載せた潜水デコイが、
音響魚雷を発射した。
5km付近の向こうで、
爆発音が鳴り響き、水柱が立っていた。
その陽動攻撃に、
その付近の者達は慌てたようだった。
潜水デコイを追い求めて、そこの戦力が移動する。
『サブマリンパーツ、キャストオフ!』
突然、沙璃枝がそう叫んで、
潜水戦闘車両に号令を発した。
いや別に、本当は音声は必要無く
その制御信号を送れば良かっただけなのだが…
気分的に沙璃枝がシャウトしたかったので
思わず制御信号の伝達と共に
そう声を出したのであった。
沙璃枝の号令と共に、その潜水車両の
外部潜水ユニットが展開あるいは剥離していき
中から、軽装甲戦闘輸送車が出現した。
そしてその上の蓋を開けて、外に上半身を出すB。
「ふむ…目的地まで約10km…
時速100kmでぶっ飛ばせば六分で到着か…
順調すぎるな!」
目的地までの距離を眺めながら
Bは自分の愛用の対ドローンライフルを
そこに出して構える。
「なら、そろそろ俺達の
ゲームの始まりと、行こうじゃないかい
妹さんや!」
風に吹かれて気分が高揚し
戦いの始まりを感じて檄を発するB。
沙璃枝が操る、軽装甲戦闘輸送車も
周囲に砲塔を展開させ、戦闘準備は万端だった。
『じゃぁ、一気に走りきるわよ!
義兄ちゃん!!
私の暴走特急に、振り回されて
落とされないようにねっ!』
Bの言葉を受けて沙璃枝はそう返しながら、
操縦席の様な所に居るようなイメージを作って、
そのハンドルを握った。
「もう、お前の暴走特急に
振り回されるのは慣れたよっ!」
沙璃枝のその言葉に、思わず歓喜の雄叫びを上げるB。
『あっそう!!
じゃぁ出発進行よっ!!
行っけぇぇぇ!!』
Bのその返事に苦笑いを浮かべて
沙璃枝は、戦闘車両のアクセルを全力で踏んだ。
その二人は、車両と一緒に、バスラル大学まで
一路、約10Kmの道を北上して突撃を始めたのだった。
「はいよ、一両!」
ゴーグルセンサーが表示する標的を見ては
対ドローンライフルを構え、無造作にそれを狙撃するB。
沙璃枝の暴走特急の突撃に気付き
手薄になったとはいえ、そこに予備の予備で残っていた
無人戦闘車両が群がって来た。
その迎撃に向かってきた無人車両の1つに
Bは無慈悲に徹甲炸裂弾をお見舞いしたのだった。
Bが放った徹甲炸裂弾は、一発で直撃。
撃たれた無人走行車両は、その場で爆発し炎上した。
「うーん?
あちらに、もう一両?」
ゴーグルが指示する、別方向の戦闘車両を確認すると
そっちに体を向けて対ドローンライフルで
また弾を撃ち込むB。
車の上で、曲芸の様に左右に体を振って
狙撃をしているというのに
またしても、徹甲炸裂弾は一発で命中。
その戦闘車両も先のと同じ様に爆発炎上した。
『義兄ちゃん、人間探求とか
アホな事しなけりゃ、
普通にドローン殺しの悪魔として
物凄い撃破数、記録出来たんじゃない?』
そんな、まるで赤子の手を捻るかの如く
ドローンを狙撃し破壊していくBの様に
沙璃枝は呆れるしかなかった。
「かもな!
はい、貴方もさようなら!」
沙璃枝の皮肉に笑いながら、Bは休む間もなく
沙璃枝の暴走特急を邪魔する戦闘車両を狙撃していく。
三両目がBの攻撃で爆発炎上した。
『なれば…ですっ!
さぁ私も、
悪魔のドローンとカルーベニャ陣営に
言わさしめたその実力…
少しは発揮させて貰いますかね!』
そう言って、
沙璃枝はその車両の周囲に展開した砲塔を制御し、
周辺の有象無象の無人兵器に
砲撃をお見舞いし始めた。
鋭い砲撃が、周辺の車両に肉薄し
その砲撃で車両達の動きが乱れる。
また、スモーク・ディスチャージャーから
スモーク弾を発射させて、周囲に煙を炊いた。
可視光線での目視を難しくする為だった。
その後には、熱源弾、
いわゆる航空機のフレアに相当する
熱発光弾頭を、定期的に撃ち込み始めたのであった。
「スモークかいな…
まぁ奇襲に使うアイテムとしちゃ
王道中の王道だが…
猟兵に、これはキツイですよの…」
言ってBは自分の左目のゴーグルを
チョンチョンと二回叩いて、
スコープモードを赤外線表示に変える。
「しかし、フレア弾頭が、
素敵に視界を見にくくしてくれるんですがの…」
その赤外線表示になったスコープ映像に
沙璃枝が定期的に射出する熱源弾の熱拡散が
花火の様に起きる様子を見て
Bは腐るしかなかった。
『それは向こうも同じでしょ?
スモーク炊いたって、熱源は見えるんだから
相手の目を奪う為にも
光をばっぱかばっぱか、炊きませんとね!』
言って沙璃枝は、
そんな中でも戦闘車両の熱源を分別して判定し、
そこにBと同じ徹甲炸裂弾を発射して、
敵車両を狙撃する。
沙璃枝の放ったそれに貫かれ
爆発炎上する敵ドローン車両。
それらは、KGV2522を搭載していたというのに
タガが外れた戦闘狂の二人が相手となると
為す術もなく破壊される雑魚でしかなかった。
「お前、本当に、
ドローン戦闘、初めてなんか?
なに、この手慣れ具合…
歴戦の手練れと一緒に戦ってる感じ…」
そう言って、柔軟で厳しい攻撃を展開する沙璃枝に
Bは唖然とするしかなかった。
とてもこの姿が、初戦闘の人間の様には思えない。
『お姉ちゃん達の戦闘経験が、
無意識に想起できんのよ!
だから、”なんとなくこう”
で、戦闘行動が出来ちゃうわけ!』
言って沙璃枝はロケット弾頭を
赤外線センサー表示の中で、
敵熱源と思われる相手に発射した。
ロケット弾が敵車両を貫く。
「うわぁい…
コマンダーと嫁が
一緒に戦ってくれてる様なモンなんかい…
そりゃ、歴戦も歴戦の手練れだわ…
5代目からの戦闘経験でやれてるって事だろ?
つまり、最強のドローン走行車両が
この道を暴走特急してるって事じゃねーか!」
その沙璃枝の説明に、ようやく
あまりの手練れ振りを納得して笑うB。
そして”2554に無双されたら困る”
とリンケイドが言っていたそれが
正に今の沙璃枝の
サイバーリンクしている”KGV2596”
なのだと分かって背筋を凍らせた。
「そりゃ、負けてられませんなー
兄貴としても
人間としても
ドローンキラーとしても…」
そんな奇妙な理解が、むしろ奮起に変わり
Bも自分のドローンキラーとしての矜持にかけて、
沙璃枝にゃ負けられないと自分の仕事に戻る。
Bは赤外線スクリーンの
判別しがたい敵映像を瞬時に判断し、
それに徹甲炸裂弾を撃ち込み始めた。
そして、沙璃枝とBが駆るその装甲騎兵は
時代最強のドローン兵器と、
時代最強のドローンキラーの名を欲しいままに
彼等の道のりを塞ぐドローン兵器を、
爆走しながら鉄の塊に戻し続けるのだった。
「今、俺、9両目やったぜ!?」
『こっちは10両よ!』
暴走特急をしながら、道を阻む車両を
爆破炎上させていくその二人。
「何だと!?
負けてらんねぇな!
ほい10両目!」
Bはまた対ドローンライフルをぶち込み
哀れな魂の紛い物を、昇天させる。
『こっちも負けてらんないわよ!
ドルァァァ!
そこの11両目ぇぇっ!
あの世逝けやぁっぁ!!!』
沙璃枝はそう絶叫して、ロケット弾をぶち込んだ。
「えーーー
ドローンにも天国ってあんのかなぁ?」
沙璃枝のとっさに出たその叫びを聞いて
思わず噴き出しそうになるB。
アンディが電気羊の夢を見るのなら
ドローンの虚ろな魂は、
怪しげな天国が用意されているのだろうか?
思わずそう考えてしまうB。
そんなちっぽけな慈悲ぐらい
この鉄屑にもあってもいいんじゃないかと、
気休めの共感を覚えてしまう。
しかしそんな共感をそのドローンに感じてしまっても
Bは無慈悲に、11両目のドローンを
怪しい天国に昇天させてやるだけだった。
あるいはそれこそ、本当の慈悲だったのかもしれない。
そして、その約10kmの道のりは、
彼等を阻む絶壁ではなく
暴走特急と猛獣が共に無双伝説を作る為の、
ただの伝説の生け贄でしかなかった。
二人は、破壊と暴力の限りを尽くし
阻む敵を鉄屑に変え続け
その道を突破しきったのだった。
実は、本当は二人で作った記録だったのだが
B一人で作ったとカルーベニャに記録された
その時のバスラル大学突貫攻撃では
彼が撃破したドローン数は、
世界最高記録として、
最速にして最大数をマークしたのだった。
『おっしゃぁ!一番乗りぃぃっ!』
バスラル大学施設前に、
ドリフトして沙璃枝の装甲車は滑り止まると、
彼女はそこでそう絶叫した。
「ふふ、お互い、時代最強が組むと
こうも簡単にいくんですな!」
そう言ってBは作戦展開情報を見て
3つの奇襲作戦部隊の中、
他の2つがまだ遠くで無人機相手に
まごまごしているのを確認する。
「しっかし、遅っせーな、他の奴等は…
まだあんな所で、ゴタついてんのかよ…」
言ってBは他の部隊の進行状況に腐ってみる。
Bはそう言ったが、ほぼ直線走破突撃で、
八分程度で敷地に侵入した二人である。
周りが遅いのではなく、
その悪魔と猛獣が早すぎるのであった。
『マージにリンクしに行くんだから
外野が後からやってくるのは好都合よ…
さて、じゃぁ出てらっしゃい
私の可愛い、子猫ちゃん達…』
沙璃枝はそう言いながら、
輸送車の後ろの扉を開けて
”それら”達を、施設突入用に
搬出させ始めたのであった。
「なんじゃいコレは…
っていうか、こんなモン積んでたの!?
いつの間に!?」
Bはその沙璃枝の言う”子猫ちゃん”達が
搬出されては整列していくのを見て
その”何”が分かって破顔するしかなかった。
『施設制圧戦よ?
コイツ等、連れてくるのは
当たり前の事でしょ?』
そう言って沙璃枝は、小型の自走車両ユニットの
それらを並べて得意な顔になる。
「まぁ、そりゃそうだよな…
施設制圧に、これ使わないなんて
ウソだよね…」
Bは閉口しながら、その可愛い子猫…ではなく、
人類にとってはある意味最悪の猛獣を
その頭をポンポンと叩いて、撫でるしかなかった。
「第三次世界大戦を終わらせた悪魔…
やはりここでも、大活躍になるか…」
Bはそう呟いて、それ等に破顔するしかなかった。
『”クリーン”な戦争を目指した極値でしょ?
少なくとも、”これ”の出現のおかげで
第三次世界大戦そのものは、終結したわ…』
言って沙璃枝も、それらの頭を撫でた。
「捕虜協定問題案件の
雪だるま式な増加のせいでな…
人間を戦争の舞台から引きずり落としたこれが
ここでもやはり、決め手ですかね…」
Bはそれを思って眩暈を覚えるしかなかった。
『今は人間は邪魔なの…
私が用があるのはマージだけなんで
人類様には、スリーピングタイムに
入ってもらわないとね?
んじゃ!
行け!者共よ!!』
そう言って沙璃枝は、バッと手を広げ
その子猫ちゃん達に大学施設内部に
先に突撃するよう指示した。
その子猫ちゃん達は、沙璃枝の指示を受けるや
活発に動きだして、施設内に突入していく。
「今のお前の仕草と台詞
悪役の親玉がする事だかんな?
よく自覚しとけよ?
そこ…」
言ってBは細い眼で沙璃枝を見て、指さす。
『あら?
自動自走麻酔弾発射ドローンを使って
人間全員、眠りの中に叩き落とす
人の命を奪わない、
”クリーン”な制圧戦をしてあげてるのよ?
これが心の優しい可憐な美少女のする事じゃなければ
なにが、優しい愛情だっていうの?』
そう言って沙璃枝は芝居がかった口調で
両手を頬に当ててウットリした。
「人間に麻酔ニードルを背後から撃ち込んで
強制的に睡眠に落とすのは
絵的には、クリーンな人のする事じゃねーがな…」
Bはそう呟いて、自分の妹の悪魔っぷりに
笑ってしまうしかなかった。
第三次世界大戦を終わらせた、悪魔の兵器…
それがこの施設制圧用の、
”麻酔ニードル銃携帯小型自走ドローン”だった。
まぁこの兵器が戦争を直接終わらせたのではなく…
この施設制圧兵器によって制圧された施設の捕虜…
それが戦争当事者達にとって尋常じゃない数になって
捕虜交換問題で各国の経理が吹っ飛び、
人間が重要施設に居る事の、あまりのハイリスクに
戦争に人間が参加するべきではないという
”人間の参加してはならない戦争の発生”とか、
何だかよく分からない状況が起きて、
だから何となく戦争を辞めるしかなくなったという…
そんな状況的、経済的な理由だったのだが…。
「でも、施設内にゃ、
2522よろしく無人のガードロボが
うようよ居るぜ?
あんな、弱っちいのを向かわせたって
そいつ等に駆逐されるだけだと思うんだが?」
言ってBは、制圧戦をするには、
セットで無人攻撃自走ロボを伴っていない
制圧兵力不足に首を捻るしかなかった。
『何言ってんの?
義兄ちゃん…
ここでしょう!?
”切り札”の使い所って!』
そう言って沙璃枝はその目を輝かせた。
「ん?」
そんな沙璃枝のキラキラしている目に
直ぐにはその意味が思いつかないB。
その時、沙璃枝は意を決して空を見上げた。
そして念話的なイメージで、装甲車の通信を経由して
後方支援のモヒカン達の前線基地を中継基地に
全世界に拡がった沙璃枝の分身のスパコン達に
”その”命令を下していく。
『暗号コード、VZC26β、
多数チャネリングの通信符号検査…同時に開始!
……………
バスラル大学施設内の
多数チャネルの個々通信符号の逆探知…
……………
………全チャネル符号解析に成功!
通信チャネル、
各チャネル、ピアトゥピアで接続。
DTCP・ENPⅢでポート確立。
各自立プログラムの内部侵入に
………成功!
プログラムエントリポイントを全て確立!!』
沙璃枝はそうハッキング行動を開始し
その時、そこで
自らの手の中に、あの”鍵”を出現させた。
『マスターキーで
ダイレクトターミナルゲートを
マルチチャンネルで開きます!
キー接続!
………
各ゲート開放!
ダイレクトターミナルに侵入!
サリエ権限で全プログラムの最下層に移動…
…………
各プログラムの論理パターン領域δに侵入!
質問パターン、
『沙理絵』を全てに投げます…
『貴方は何ですか?
私は何ですか?』
……………
質問コード、”沙理絵”によって
各プログラムのδ領域浸食中…
…………
各プログラムの
認識パターンの無差別検索の開始を確認!
……………
…………
施設内の偶数番台達…
全自我、崩壊!!!』
そう沙璃枝が、その切り札のマスターキーを使った時
施設内で、ガシャン、ガシャンという音が
沢山響いたのが聞こえてきた。
その光景と、施設から聞こえてくる音を聞いて
どういう事か、ようやく理解するB。
「なるほど…
ここで…”切り札”か!
なるほどな!
そりゃそうだ!
で、後は、子猫ちゃんが、人間を追い回して
睡眠地獄ってわけですか!」
そう言って、思わずBは腹を抱えて笑うしかなかった。
『何の為に、義兄ちゃんが
使い所を絞って絞って
”切り札”にしたんですかよ?
自分でそうしたんだから
”切り札”の使い所は
自分で気付いて下さいな!』
言って沙璃枝は、可愛く舌を出す。
「お前、その鍵は
もう使いたくなかったんじゃねーのかよ?
だからてっきり、
もうマスターキーは使わないんだと…」
Bはそう返して、自分自身が
かなり盲目になっているのに笑うしかなかった。
『マージ相手に使いたくないってだけよ…
人の模倣の微妙なんでしかない
偶数番台にまで
何で気を使わなきゃいけないのよ?
道具は使い所は、適材適所…
マスターキーの使い所は”ここ”だったのよ!』
沙璃枝はそう言って微笑んだ。
「なるほどね…
そーだな…
ま、時間もない…
こんな所でくっちゃべってる場合じゃない
マージに接続できる、
ダイレクトリンク設備に
急いで行かなきゃな…」
Bはそう言って、
そこに自分の愛用の対ドローンライフルを置いた。
そしてマシンガンを車両の中から取り出す。
戦闘車両でさえ一撃必殺の対ドローンライフルではあるが
人間長のそれを施設内まで持って行って使うのは
流石に廊下の広さ的に無理だった。
なので、施設内のガードロボ程度なら撃ち抜ける
マシンガンに武器を換装したのだった。
沙璃枝は沙璃枝で、自分のリソース端末を
専用移動荷台に積み込んでは、
施設内の、予め諜報活動で入手していた
地図をスクリーンに広げてみた。
マージへ繋がるルートは既に調査済で
ダイレクトリンク設備に、
このまま地図通りに突撃するだけだった。
「じゃぁ行くぜ…沙璃枝…
最終決戦だ…」
Bはそう言って、沙璃枝に微笑んだ。
『うん!行こう!』
その言葉に沙璃枝も微笑んで頷く。
そして二人は、
ダイレクトリンク設備に向かって
そこから走り出したのだった。
うーん、書くのに困らないように、上手く話を誘導して、主人公達の単騎駆けにしたから、簡単だったんでしょうねぇ。これが、従軍しながらの全体戦闘込み込みだったら、間違い無く、書き死んでたナ…。ともあれ、次回、最終決戦。まぁ、流石に最終決戦は、1日で書けるとか、そんなファンタジーはなかろうて…うん。さて、沙璃枝が出す、心の答えとは…。




