第二十話 胎動 (Movement)
うーん、ちょっと短い、結パートに向けての舞台作りの1シーンですが
次のパートがどんだけの長さになるのか、ちょっと見当がつかないんで、
キリの良いここで。
Bは沙璃枝に土下座していた。
「スイマセン沙璃枝さん。
マジ、スイマセン沙璃枝さん。
僕はミジンコ以下です。
クソムシです。
生きてる価値の無い屑です。
なら、せめて貴方の手で
僕の愛用の対ドローンライフルで殺して下さい。
後生ですから…
ええ、殺してください…」
本当に涙を滲ませて、床に額を付けて土下座してそう言うB。
朝に顔を合わせた初っ端から、全く意味不明に土下座して、
何所までも卑屈な事を言うそれに
顔を引きつらせる沙璃枝。
『な…何なの?
今日は、起きた時から
自分でもわからないくらい
ものすっごく気分と調子が良かったのに
アンタのそれで、気分の良さが台無しなんですけど…』
その何とも言えない様を見て
せっかくの上機嫌が台無しになり、
とても残念な気持ちになる沙璃枝。
しかしBはとても頭が上げられなかった。
”あんな夢”を見てしまった…
それも2日連続で…
しかも、今日みた夢が
勝手に想像した沙璃枝の6代目に告白される夢だと!?
そんな夢を見た事が信じられず
Bは自分の脳味噌を本気で疑い、
生きている価値が本当に無いモノだと
自覚せざるおえなかった。
「もう…沙璃枝さんのお姉さんを勝手に想像して
告白される夢とか見るんなら
僕は死ぬべきです
はい…
ごめんなさい沙璃枝さん
せめて同じ顔の貴方に、クソムシと言われながら
殺されたいんです
それでお願いします」
Bは涙を滲ませて、懺悔の言葉を口にするしかなかった。
その台詞を聞いて背筋を凍らせる沙璃枝。
『は?』
Bの相変わらずの意味不明言語に破顔して
沙璃枝はその何かを、汚物を見るかのような目になって見下した。
『アンタ…2日連続で
私の…、私も知らない姉を想像して
告白された夢を見たっての?』
沙璃枝は、その屑が言ったことを確認してみた。
「は…はい…
そんな夢を見てしまいました…
生きていてゴメンナサイ…」
沙璃枝の確認にただ頷くだけのB。
「それ本当に
頭、腐ってるんじゃないの?
ドローンとの戦いすぎで、脳味噌、融けた?
それが本当なら、死んだ方がいいわよ?
いや、かなり本気で…』
沙璃枝は昨日の今日で、トンデモナイ事を言うBに
心の底から呆れるしかなかった。
こんなのに、昨日の事で、僅かに好感を持ってしまった
自分にも絶望したくなる。
「もう俺はダメだ…
もう俺は再起不能だ…
死にたい…」
Bはそう言ってさめざめと泣いた。
その地の底まで卑屈になっているBに
二の句が告げられない沙璃枝。
Bは絶望した。
自分に失望して絶望した。
何より自分に失望するのは
”あーーんな可愛い沙璃枝さんに言い寄られて
嫁になりたいとか言われたら
あんな沙璃枝さんなら嫁に貰いたいわー”
と本気で思ってしまったという、それだった。
この目の前の、毒舌がピリリと効いて
常に苦笑が漏れる”いつもの”沙璃枝さんを、
脳内コンバートしてあんな想像をしたという…
その自分の脳味噌の狂いっぷりに涙しか出なかった。
ドローンと戦う事で人間を捜す。
冷静に考えれば、そんな事を発想する時点で狂人だが
狂人は狂人でも、ポリシーというモノがある。
そのポリシーからすれば、
その夢はB的にスーパーアウトだった。
原因があって結果がある。
その因果律だけは宇宙に在って欲しかった。
だからこそ、そんな超越的ファンタジーを
Bは許容できなかったのだった。
そんな、本気で泣いているBに呆れ果て
怒る事も馬鹿らしくなる沙璃枝。
『もう…いいわよ…
それに私の事でもないし…
い…いいんじゃない?
アンタが勝手に6代目の妄想をして
夢の中でイチャイチャしたって…』
沙璃枝は投げやりになって、そう言った。
「いいわけあるかっ!!」
その沙璃枝の台詞に激高して叫ぶB。
『でもアンタ、状況的に考えて
姉さんと何年もドローンを介して戦ってたんでしょ?
なら…意外に、無くなった姉さんも
アンタの事が好きで
実は戦場で相思相愛でしたとか、そんなので
幽霊みたいに枕元に現れたとか…
そんな話でも、いいんじゃない?』
沙璃枝はそう言って、何か釈然としないそれを
そんな荒唐無稽な言葉で取り繕ってみた。
その沙璃枝が適当に思いつきで言った言葉が
実は大当たりで、アワアワと慌てる沙璃枝の無意識。
流石にεの扉の向こうの5代目と6代目も
末っ子のその直感に、滝汗を流すしかなかった。
「人工知能が幽霊とな!?
真逆の存在が、口にしていい言葉ですか!!」
その時、Bはあまりにトンデモな単語が
人類最高の人工知能から出てきた事に
驚愕するしかなかった。
そんなBの台詞にまた破顔する沙璃枝。
『私だって、アンタに会う前なら
絶対に言うハズの無い言葉だと思うわよ!?
でも、なんて言うのかしらね?
アンタと会って、『左のイデアル』…
”感じる”、なんてのをやってみると…
どう言えばいいのかしら?
そんな不思議な事が…
この世界に1つぐらいあっても…
いいんじゃないかって…思うのよ…』
そう言って沙璃枝は、自分の中にあるモヤモヤしたモノ。
不定形で不確かで、それでいて
何でも許容できそうな”曖昧な納得”
それを感じて”不思議”という合理の天敵を許せてしまう、
そんな気持ちが生まれていた。
こんな面白い男である。
それと戦い続けた姉が、判断機構が狂って、
惚れてアッパラパーになってしまったなんて事が
あったとしても
”そういう事もあるかもナァ…”とも思えた。
そして、それが超越的な何かで、
このBに伝達したなんて事が起きたとしても…
それならそれで、いいではないかと思ってしまう。
その時、沙璃枝は合理的な思考力が鈍りすぎていて
”自分の内側に、本当に潜伏しているのではないか?”
という可能性を全く想起できなかった。
それだけ今の沙璃枝は
不思議である事、それならそうでも、いいのではないか?
という判断性の方に、自分の在り方が寄っていた。
それは昨日の花火の光と音と衝撃が導いた
魔法の様な何かだった。
「ふぅ…
なんかそう言って、慰めて貰うと…
もっと死にたくなるな…」
言ってBはさめざめと泣いた。
『ちょっと!
慰めてあげたのに死にたくなるって何よ!
馬鹿にしてんの!』
Bの返した言葉を聞いて、絶叫する沙璃枝。
「人工知能に、”そんな不思議もあっていいんじゃない?”
とか、言われたんやぞ!!
アンタに、人間の柔軟性、軽く突破された気がして
知能存在として完敗認めて、
そいう理由で死にたくなるわ!!」
言ってBはそこにあった敗北感を隠す事なく吐露した。
『ああああ!?
人類がナンボのもんじゃいっ!!
そんな情けない事言うんなら
私は人間以上に人間らしくなってやるわ!!
ふざけんなっ!
人間なんなら、そんな情けない事、言うなや!!』
沙璃枝はそのBの言葉に極限までカチンと来て
目を白黒させて絶叫する。
その言葉に、アレな方向で胸を打たれるB。
「ああ、ありがとう…
それが沙璃枝さん…
うん、それだよ…
やっぱ沙璃枝さんは、こうじゃないとな…」
言ってBは何か良く分からない安心を覚え
少しだけ落ち着いた。
『”こう”って、どうなのよっ!!』
そんなBのよく分からないのによく分かる
大雑把な言い回しに、また爆発する沙璃枝。
その二人のやり取りを盗み見して
アワワと昨日の”やっちまった”事に怯えるエミリー。
そんなエミリーの震えている姿に
疑問を感じ、それらの様を遠くから眺めるモヒカン。
彼等の前線基地の朝は、そんな混沌から始まった。
『大井博士が死んだらしい…』
「は?」
リンケイドからの電話が入り、
彼の開口一番がそれだった。
その言葉に、Bは演技ではなく、
朝のゴタゴタもあって、素でその返事をした。
『情報部の入手した情報で、
あっちも確度は六割と言っていたが
あの大井博士が死んだらしい…』
リンケイドは神妙な顔を崩さず、
そう追加するしかなかった。
その時、Bはようやく
自分達がどういう状況なのかを思い出し
”かなり高度な演技”が必要な情報が
やってきたのを理解する。
「おいおい…朝から何の冗談だ?
何で大井博士が死ぬ?
なんか急性の病気でも持ってたのか?
まぁ、心不全とかあるし…そういうのなら…」
言ってBは白を切る演技を始める。
『いや、マージで反乱を起こし
そのせいで処刑されたらしい…
一連のマージの混乱の原因はそれだと
情報部が言ってきた…』
リンケイドはそんなBの反応を無視して
淡々とそれを伝える。
「はぁ!?
何言ってんだ?リンケイド?」
Bは分かっていても、
そこでオーバーなリアクションを伴って
”有り得ない話”に反発する様を演じた。
『信じられないのは分かる…
俺だってこんな話、信じられん…
だが、情報部の奴等が
総力を上げて得られた情報がこれだ…』
言ってリンケイドはこめかみを押さえた。
「何で大井博士が反乱なんか起こす!?
理由がなかろうが!?」
そう言ってBは、何も知らないならもっともな疑問を
リンケイドに投げつけた。
それにリンケイドは表情を歪めて返す。
『カルーベニャの推理機構にも頼って
本来は有り得ない事が起きる理由を
情報部が仮説で出した結果なんだが…』
言ってリンケイドは溜息をついた。
「なんだ?」
そのリンケイドの深い溜息に首を捻るB。
『マージが、この状況から逆転する為に
戦略核の使用を提案し
それを軍部が承認した為
それの阻止のために、大井博士が内乱を起こした
という仮説が出ているそうだ…』
リンケイドは苦そうな表情でそう言った。
「はぁぁ!?」
Bは事情を完全に把握していたものの
秘中の秘であった、”戦略核の使用”という案件を
真っ先に本部中枢が見抜いたという事に
驚嘆の声を上げるしかなかった。
『信じられないのも無理は無いし
俺だってこんな話、信じたくはないが…
だが、今の戦況において
バスラルまで追い詰められたマージ陣営が
一打逆転を狙うのなら
その可能性は十分にある…
それは前々から、
カルーベニャが不安がっていた事だしな。
窮鼠猫を咬むって奴だ…
この地域では優勢に状況が進みすぎた事が
相手に性急な方法を選ばせるかもって事さ。
それを流石に良しとしない大井博士が
内乱を起こしてマージを内部から破壊して
ある程度は麻痺させたって話だ…
しかし、小数反乱だったので処刑された…
というのが見立てらしい』
言ってリンケイドは自分の席にドカっと座り
首元を緩めた。
あまりにあまりの話に、背筋を伸ばして軍人らしく
なんて事をするのも馬鹿らしくなった様だった。
「せ、戦略核だと?
そんな話が本当なら、
大井博士が反乱を起こすなんてミラクルな事も
あるかもしれんが…
そんな事って…
何より、何故、大井博士なんだ…」
Bは何もかも十分承知していたが
ならばむしろ話が好都合とばかりに
その一番問題にしているそれを起点に
自然な返しを口にした。
『それもカルーベニャの予測だが
戦略核の使用を、
ドローンの自走車に乗せて運用する等という、
実行されたら我々の発見が遅れる方法が提案され
それでドローン開発のトップだった大井博士が
反発したのではないか、という予想がされている』
言ってリンケイドはハァと溜息をついた。
「ドローンによる戦略核の運搬と使用だと!?」
Bは知ってはいたものの
むしろカルーベニャが真っ先にそれを推理した事に
驚嘆するしかなかった。
と、同時に、そんな事が簡単に推理できるという事は
カルーベニャの方も、”そんな事”を考えた事がある
という事が読み取れた。
それに震撼するB。
「それは本当の事なのか?」
Bは自然ならこう言うしかない質問を、そのまま口にした。
『確度は6割だと言っただろう?
だが6割だ…
それなりに根拠がそろっているという事だ。
なんせ大井博士のグループの研究員が
その時期の前に、一斉にマージから消え去って
消息不明らしいからな…
他にも色々な筋から、眉唾な話が色々で
マージに対抗する謎のウイルス発生とかあるが
そんな怪しいのはともかく、
大井博士のグループ毎の解体と反乱となれば
戦略核のドローン運用は信じるに足りる話だ』
言ってリンケイドは肩を振るわせる。
「そんな…あのドローンの大家で
俺の宿敵の様な人が…」
Bはそう言って、最初に聞いた時には、
大泣きした事を思い出し、
ここで泣いた方が”らしい”だろうか?
と思いながらも、戦略核の話の大事ぶりを前に
冷静な態度を取るべきかと考えて、
知らなかったとしてもそうしたであろう様を見せた。
『ともかく確度6割と言っても
案件が案件だ…
だから作戦本部が緊急発令して、
大規模進行作戦の立案が始まったみたいだ。
俺の言った数日前の話は、事の真相はともかく
軍行動としては冗談では無くなった…』
言ってリンケイドは苦しい顔をしてBを見た。
「つまり?」
分かっては居たが、Bはあえて上司の顔を立てて
彼の口からそれを言わせようとする。
『バスラル陥落作戦…
それの作戦立案と実行だ…』
リンケイドは肩を上げてそう言った。
「バスラルを、本気でやるのか?」
Bはリンケイドのその台詞に
分かってはいても確認をする。
『この地区での
敵の空軍とドローンの中央基地なのは
今ではバスラルだけだ…
そしてバスラルが一番の無線基地でもある…
ドローンを止めるにも
後ろの港を押さえて戦略核の搬入を止めるにも
バスラルを落とすしかない…』
言ってリンケイドは溜息をついた。
「バスラルとは、事が大き過ぎるな…」
Bはそのリンケイドの言葉に眩暈がした。
つまりこの地域での”勝ち”を決めにいくという事だ。
と同時に、最大の抵抗をされるだろう
最後の拠点を叩くと言う事でもある。
ならば、ドローン軍とは言え、
相当の数が出る作戦になると思われた。
『人道論など、兵士が言うべきではないが…
バクダド、キルククに
戦略核を使って汚染地帯にし、
住民を追い出しては
石油の採掘をドローン輸送システムにさせる…
等という、住民無視の戦略が予想されているんだ。
これを放置する事はできない…
俺達の方が、あっちよりもマトモなニンゲン…
って思いたいのならな…』
そう言ってリンケイドは頬を引きつらせて笑った。
その言葉に思わず苦笑するB。
「それなら…仕方ないな…
俺も戦争屋だ…
そんな話になるかもしれんなら
頑張って戦争屋しないと、いかんな…」
言ってBは頭をかきむしった。
『準備にまだ時間はかかる、
なにせバスラルの陥落作戦だ。
必勝の体制でやらないとな…。
だから明日明後日なんてわけにはいかないが
事態は緊急を要している。
大井博士がマージを反乱で麻痺させてくれた
今が、潜在一隅のチャンスだ…
数週間内には作戦発動、と思って貰いたい』
リンケイドはそう言って、丼勘定の日程感を口にした。
「数週間内か…」
そのあまりに重要拠点を落とすには、
性急な準備期間に、乾いた笑いしか出ないB。
『偽装輸送船で戦略核を搬入されたら
それこそ攻略戦さえ、
向こうに最悪自爆されて失敗するかもしれんのだ。
いや既に、戦略核の搬入が終わっている可能性もある。
マージが狂っている今を逃して後手に回れば
取り返しの付かない事になるかもしれんなら
数週間内でも遅いくらいさ…』
「そりゃそうだ…」
リンケイドは今のギリギリ感を確認するために
そう呟くしかない。そしてBもその言葉に渋い顔になる。
『お互い、しんどい戦争になりそうだが
真相がこっちの予想通りなら
人がまだ人であるための戦いになるだろう。
だから、よろしく頼む。ドローンキラー』
言ってリンケイドは敬礼した。
「了解…」
その言葉にBも敬礼をして返す。
そしてそこで通信は終わった。
「ハァ…
いよいよ、時間制限が見えて来たって事かいな…
さて、この大井博士の謎謎の答え…
果たして、この作戦に間に合うか?」
そう言ってBは項垂れるしかなかった。
もう、キャラクターが暴れ始めたせいで、そのフォローのパートも入れないといけなくなって、頭痛が痛いです…。話の全体を根本から狂わす程でもないですが、元々のイメージからズレて、不思議なパートを増やしながらの進行になりそうなんで、急いでいるつーのに、なんで地雷を踏むんだ…俺…。




