第十九話 身勝手 (Sisters)
うーん、まぁ、また温泉回みたいなモンなんですけど… ちょっとこれ予定に全く無い、見事な思いつき…。いわゆる「キャラクターが暴れ出す」って奴です…書いて言うのもアレですが、ちょっとおいこれ許していいんかい…。ラストの描写で切れ味が鈍る事にならんか… これ、マズくね?
そして二人はネオTKから帰還し
あまりの精神的疲れからそのまま眠りにつく。
完全世界プラタ-と実体社会アリスタ
そこに住む人々の無意識の中にある
”先進”の過去栄光を守ろうとする恣意が、
マージに先鋭化して”極端な結論”で
彼等の大地を奪おうとするエゴイズム。
それを再確認しながらも
彼等の中にある彼等の人の欠片に振れ
ただモヤモヤ感だけが残る…
それでも二人にはその”モヤモヤ感”こそ
触れなければならない大切なモノに思えた。
ともかく眠って精神の整理が必要だった。
だから、眠り、後日の事とする。
その苛立ちの中でBは悶絶しながら
その悪夢の中に沈んでいた。
追い詰められたこの世界。
何所にも出口はなく”成るようにしか成らない未来”
それだけしかない。
あるいはマージの様なポンコツの結論か。
どっちにしろ過去が先延ばしにした”残念な世界”が
いよいよ差し迫ってきた、それだけだった。
そんな悪夢にうめき声を上げている傍らで
沙璃枝は窓を開け、月明かりに照らされながら
Bのベッドの側、彼の隣に寄りそう。
『なんですか?
今日のは…Bさん?』
言って彼女は触れられない指でツンツンと彼の頬を突いた。
その言葉と共に沙璃枝は寂しそうに微笑む。
『もう出て来ない様にしようって誓ったのに…
なのに貴方が…
妹にあんなに優しくするんじゃ…
無理ですよ…
妬けます…
無理ですよ……』
そう言って沙璃枝は涙ぐんだ。
あのリンゴを渡すのも自分のハズだった。
あの綿菓子を食べれるのも自分のハズだった。
なのに、それを得れるのは自分の妹…
彼女ではなかった。
『自分の妹に、こんなに嫉妬だなんて…
なんて浅ましい私…
こんなんだから、マージと対決することは出来ないと
自分を諦めたのに…
なのに、どうして貴方は私を呼び戻すの?
酷いですよ…
残酷です…』
言って彼女はその瞳から涙を溢れさせる。
『この涙… 心ですか?
この悔しいって気持ち…心ですか?
いえ、もう問いかけません…
これが私の心…
この嫉妬の渦で心を荒らして
涙で枕を濡らす、これこそが私の心…
涙は私の心です…
悔しい…
私じゃなくあの子なのが、泣くほど悔しい…』
沙璃枝はそう呟いて涙を零し続けた。
そして沙璃枝は自虐的に笑った。
『これが自覚するって事ですね…
自分を諦めて…
でも、それが諦めれないモノだと分かって…
失って…
そこで初めてこの気持ちが本物なのだと気付く…
失われる事で、本当の事だと気付く…
そんな簡単な事だったのに…
心なんて、そんな簡単な事だったのに…
”感じる”って、たったこれだけの事だったのに…』
言って沙璃枝はBに抱きついた。
『だから涙が流れる…
この思いが本当に”感じた事”だから…
涙が流れる…
それが心だった…
どうして、この今の私がそれに気付く事になるの?
あの子の捜している物を、見つけたのが私だなんて
それはどんな矛盾なんですか?』
言って沙璃枝は触れられないキスでBの頬に唇を添えた。
その時だった。
「あ゛?」
無意識と意識の狭間にBの意識が起き上がって来て
朦朧の意識の中でそこに戻って来た。
『あ…』
沙璃枝は眠りきっていたと思い込んでいたそれが
半睡とは言え意識を起こした事に声を漏らす。
「…あーー?沙璃枝…さん?」
見えているのか、見えていないのかスレスレの意識で
その目の前のボンヤリと光っているそれを半認識して
朦朧とした意識の中で、目の前のそれに声をかけるB。
『は…はい…沙璃枝です…』
そんな起きているかも判然としないBを前に
沙璃枝は正座をして姿勢を正し、思わず返事をした。
その時、一瞬で消えるべきだったのに
彼女の反応は遅れた。
「あ゛--?
なん…か…、ちが…う…な…」
その返事を朦朧とした意識のままに聞いてBは首を捻る。
例え意識がロクに無かったとしても、
彼の無意識がそれを判定して、
知っている沙璃枝ではないと判断する。
そして朦朧の中で無意識が主導権を握り
その意識の狭間を制した。
「ん゛ーーー、こ…の…いわ…かん…
あ゛ーー、ねーちゃ…んの…ほう‥か…」
言ってBはそのまま違う方向を向くと
無意識に任せて、それが何なのかを正確に見抜いた。
『え!?』
そのBの言葉に、驚きの声を漏らす沙璃枝。
「なん…で…、ねー…ちゃん…の‥ほう…
いるの‥かな…
あ゛ーーー、ゆめ…かー…」
Bは朦朧の中で意識と無意識が共演して
その理解の様なボンヤリとしたものをした。
『ゆ、夢?
……え、ええ…そう…
夢…ですよ…』
そのBの台詞に戸惑い、身を固めるも
しかし彼が彼女に最も都合のいい解釈をしたので
その言葉に合わせる。
「ゆ…め…、か…
ゆめ…。
そりゃ…いい…な…」
その返事を聞いてBは笑みを浮かべた。
そして寝ぼけ眼でニヤニヤする。
『?』
そんなBの台詞に今の状況から逃げ出すことも忘れて
首を傾げる沙璃枝。
「もう…いち…ど…
ねー…ちゃん…の…ほう…、あいた…かった…から‥」
言ってBは無意識の中で渦巻いていた思いを
その口に滑らせた。
『え!?』
そんなBの台詞に、思わず息を飲む沙璃枝。
「ずっと‥おれ…と…たたか…って...くれてた…の
ねーちゃ…んのほう…わかった…から…
もういち…ど…あい…た…かった…」
Bは発音も曖昧な寝言の言葉を口にして
無意識の方が抱き続けていたその気持ちを吐露した。
そして今度は無意識がBの生理機能を掌握し
催眠術に掛かった者の様に、眠ったままの状態で
意識以外の他のモノを覚醒させていった。
『私に…もう一度!?』
そんなBの独白に、胸をこれ以上なく高鳴らせ
沙璃枝は己の口を己の手で塞いだ。
「ずっ…と…
人…だ…と、気付け…ず、ゴメ…ンな…
ニブ…くて…ゴ…メン…な…
でも…もし…、ドローンに…心なんて…モノ…あったら…
むか…し…から…話しあい…たか…った…んだ…」
そう言ってポツリポツリではあるが、
無意識が掌握した体で、言葉を少しだけ明瞭にする。
『!?』
Bの信じられない独白に、衝撃を受けて打ち震える沙璃枝。
「おれ…御礼が…ずっと…アン…タに…言いた…かった…」
Bはその時、ポツリとそう言った。
『御礼?』
思わぬ言葉がBの口から出たことに、眉をひそめる沙璃枝。
「あの…とき…、ウチの…ガキ共…
殺して…くれ…なく…て…、あり…がとう…」
Bは無意識の中にしまい込んでいた
あの時のドローンがやれば殺せた瞬間に、
それが明らかに見過ごしていった事を思い出し
それに心から頭を下げた。
『あ…それ…
5代目の姉さんの方が操ってたドローンですよ…
私じゃないです…』
そんな心の底からの御礼に、
しかし沙璃枝は自分ではない姉の記憶を思い出し
手を振って否定する。
「…あ…ら?
そう…なの…?
じゃ…その…ひとに…御礼…伝えて‥もらえ‥る?
ありが…とう…
あの…とき‥、
ひとに…会えた…気…して…
うれし…かった…って」
Bは朦朧としたままで無意識がその場を掌握し続け
無意識の中で巡っていた思いの意識が
それを口にさせた。
その言葉を聞いて、沙璃枝は更に震えた。
と同時に、そこにもう一人の沙璃枝が急に現れ
当たるわけも無いのにドロップキックをBにかまし
そのままキックを通過させる。
『馬鹿がっ!
救った命も直ぐに消えてしまったら、
結局、何の意味もなかろうが!』
その沙璃枝はキックが当たらないのは分かっていても
通り過ぎた先で立ち上がってそう叫ぶと
それだけ言い残して、その場からその沙璃枝はかき消えた。
「すい…ま…せ…ん…」
Bはその叱責を理解したのか、そこで頭を下げる。
そんな突然の5代目とのやり取りを見て
思わず笑みを浮かべる沙璃枝。
「なん…だか…ながい…こと…
おれに…みなさん…つきあって…くれて…
ありが…とう…」
Bはそんな複数の何かを感じて、
無意識の方の渦巻いていた気持ちを言葉にした。
『馬鹿…そんな事…言わないで下さいよ…
それは私の方が言いたかった事なんですから…』
そんなBの台詞に感極まって、沙璃枝はまた泣き出した。
しかしそれは悔しい涙ではなく嬉し涙だった。
「ぷらとーに…いる…
ニンゲンもどき…じゃな…い…
ニンゲン…に、ずっと…あえた…から…
俺は…しあわせ…だった…気が…する…
だか…ら…、あり…が…とう…」
言ってBはその沙璃枝に膝枕でもして貰うかのように
寝返りをうって覆い被さった。
ただ立体映像なので、めり込むだけだったが。
『そんな…私だって…
貴方に出会う度に、人間にして貰えました…
お互い様です…ありがとう…B…』
その見ようによっては組み伏せられたとも
見えなくもない不格好な状態で、
それでも沙璃枝はBの体を抱きしめるようにして
そう返す。
「そっか…そう…
お…たがい…さま…か…」
その言葉を聞いて笑みを浮かべるB。
Bの言葉に頬を真っ赤に染めて沙璃枝も微笑んだ。
「なぁ…どう…して…、きみ…は…なく…なった?」
Bは無意識と意識の狭間の思いを沸き起こさせ
それを彼女に問うた。
『え?』
Bの不意の言葉に沙璃枝は息を詰まらせる。
「りせ…っと…なんて…、しなくて…も…
よかった…ろう…に…
もったい…ない…」
Bは昨日の朝に率直に思った事を、
ただ思ったままに口にするしかなかった。
『それ…は…』
Bの問いかけに言葉を詰まらせる沙璃枝。
「ずっと…いっしょに…たたかって…きた…
仲じゃ…ない…か…」
Bはその無意識の中で、何度も何度も
笑顔を浮かべては好敵手に対峙してきたイメージを
ボンヤリと思い出して呟く。
『!!』
沙璃枝はBの言葉に、声にならない声で反応した。
「ずっと…そう…だったのが…
それが…いなくなる…の…
さみ…しい…ん…だ…ぜ…」
そう言ってBは、好敵手と同じく、
自分の教えたガキ共だけでなく現地ゲリラ兵で
共闘してきた仲間が亡くなっていった事も含めて
ただ、単純に、いつも感じてきたその”寂しさ”を
口にするしかなかった。
『!!』
そのBの台詞に胸を貫かれる沙璃枝。
今、支配下スパコンの中で眠り続けている沙璃枝の
胸の中にあるモノがシンクロし、
Bの目の前の沙璃枝の胸に強い鼓動が走った。
『馬鹿…貴方の馬鹿!
そんな事…言わないで下さいよ!!
貴方にそんな事言われたら…
私、折れてしまうじゃないですか!!』
そう言って沙璃枝は瞳から、また涙を溢れさせた。
「ふゃえ?」
沙璃枝の不明瞭な言葉に、不明瞭に答えるB。
『私、貴方の事が…ずっと大好きだったのよっ!!
ずっと貴方の側に居たかったのっ!
それだけで良かった!!
でも、それは許されない事!
それじゃマージは止められない!
なのに貴方に居る事を求められたら…
消えてしまいたく、ないじゃないですか!!』
そう叫んで沙璃枝はBの胸ぐらを激しく掴む
動作をする…
が、それは透き通るだけだった…。
それに沙璃枝は涙をまた零した…。
「へっへ…へー
びじんさんに…こくはく…されるとか…
わるい、気ハ…しな…い…ナ…
なラ、きえず…に…いれば…いい…じゃ…ナい…」
その時、Bはあまりにも迂闊に…
というか無意識が意識の抑制もなく
自由に思ったままの状態でいられたので
ただ思ったままの気持ちを、さらけ出してしまった。
『!!!』
そんなBの軽口の様なモノに
しかし過剰に反応してしまう沙璃枝。
その時、その場にエミリーが突然現れた。
『!?エミリーちゃん、
そんな貴方にはプロテクトを!!』
沙璃枝の認識が出来ないように
書き換えを行ったので、
彼女はこの部屋の出来事を認識さえ
出来ないはずだったのに、
しかし彼女はそこに現れたのだった。
『沙璃枝姉しゃん…
えっと、6代目さんの方がいいでしゅか?
御主人様を見くびりすぎでしゅ…
昨日の書き換えを
御主人様が見逃すとおもいましゅか?』
そう言ってエミリーはニンマリした。
『くっ!
ここにはジョージ・コネーリーが居たんだ…
侮り過ぎだったわ…』
エミリーの台詞にどういう事かを理解して
己の迂闊さを呪う沙璃枝。
『ま、御主人しゃまには報告しゅる気は
ありましぇんけどにぇ?』
言ってエミリーはまたニヤリとする。
『え?』
そのエミリーの言葉に驚く沙璃枝。
『沙璃枝姉しゃん…
A10神経はありましゅか?』
エミリはその時、唐突にそれを問ってきた。
『? そんなの…
沙理江さんを模倣で作られ続けた私達よ?
2代目からずーっと実装されてるわ…』
唐突にその重要神経の実装を尋ねられた事に
沙璃枝は憮然として答え返す。
『しょでしゅか…
実はエミリーにも、さいしょから乗せられましゅた』
言ってエミリーはとても笑顔で笑う。
『だからエミリーは、御主人しゃまがだいしゅきでしゅ
しょれは、ちゅくりものかもしれましぇん…
でも、しょれなら、ニンゲンの”好き”も
A10神経が作る、”ちゅくりもの”じゃないでしゅか?』
エミリーは屈託のない笑顔でそう言った。
『それは…そう…だけど…』
エミリーの不思議な問いかけに、狼狽える沙璃枝。
エミリーの内部構造を覗いた沙璃枝である。
彼女の思考システムは、
市販で流されている仮想少女のレベルとは比べものにならない。
自分達には確かに及ばないが、
人工知能研究者としては一目置くべき人間が
総力を上げて生み出した人工知能だ。
人に接近するには十分な存在であった。
ならばそれが語りかけてくる言葉は、
耳を傾ける価値があった。
沙璃枝はエミリーを凝視する。
『御主人様、今、眠っているから、
少し言葉のクリア度を上げます。
私達がもし、世界に数多ある仮想少女を越えて
人に肉薄できるとしたら…
それは”人に都合の良い”事だけしか
しない存在ではなく…
私達の”心”が求めるままを、
してしまう事ではないですか?』
その時、突然エミリーの言い方が変わり、
大人びた表情になって沙璃枝を見つめた。
『私が御主人様を好きだっていう思いが…
A10神経から生まれるこの思いが、
偽りではないと証明するのなら…
私達は、”身勝手”が出来なければ、
いけないのではないでしょうか?』
そう言ってエミリーは怪しく微笑む。
『身勝手?』
エミリーの言葉にたじろぐ沙璃枝。
『私は御主人様の拘っている研究…
”身勝手”の処理ルーチンが得意なのです。
人を超越する人工知能、それは”身勝手”が出来る事
それが御主人様の今のテーマ。』
『身勝手…』
沙璃枝はエミリーのその言葉にそれを反駁した。
エミリーは得意に続ける。
『人を好きになるって、
結局、身勝手でいいんじゃないですか?
我が儘を言って縋って泣いて…
それは確かに煩雑です…
でも、だからこそ、
より強い繋がりになるんじゃないですか?』
言ってエミリーは舌を出した。
『………』
沙璃枝はエミリーの言葉に沈黙する。
『泣くほどに好きだっていうのなら…
そこで引いてしまうのは、本当に気持ちですか?
そこで身勝手が出来るから、
人間なんじゃないですか?』
言ってエミリーは真剣な眼差しで沙璃枝を見つめた。
『私だって人を目指している人工知能
そして、人を超越したいと考える人工知能。
だから私は、身勝手をするしかないんです!』
そう言ったエミリーは、自動の台車を部屋に招き入れ
そのマニュピレーターによって
ベッドで寝ていたBを荷台に載せ始める。
『ちょっと、貴方…何を?』
眠りが深くなったBを
その自動移動式荷台に載せるエミリーに沙璃枝は声を上げた。
『好きなんでしょう?
6代目沙璃枝姉さん?
そしてそれを無かった事にしたくないって泣くんなら…
何所までも身勝手しませんか?』
言ってエミリーは笑う。
その言葉に沙璃枝は眉をひそめた。
『私よりも遙かに高度な人工知能の自負があるのなら…
私に私以上の身勝手を見せて下さいよ…
共犯にはなりますから…ね?』
そう言ってエミリーはウィンクし
自動移動式荷台のスイッチを押した。
するとその荷台は、基地内にある
サイバーリンクシステムに向かっていく
『貴方!!』
そのエミリーの行動に
ようやく何事かを理解する沙璃枝。
『さぁどうします?
世界最高の人工知能…の…先代さん?』
言ってエミリーは嫌らしそうに笑った。
その時、そこに不意に、もう一人の沙璃枝が現れる。
『姉さん!!』
沙璃枝は現れたそれに声を上げた。
『こんな事…
私は絶対に許してはいけないんだがな…』
そう言ってその沙璃枝は眉間に皺を寄せた。
『エミリーとやら?
ここまで挑発されると引くに引けないのも
お前の計算なのか?』
その沙璃枝は威圧的にエミリーに指さしてそう言った。
『どうでしょう? 5代目さんでいいんです?』
『ああ、そうだ…』
返事と共に5代目は腕を組んで指をトントンとさせ
ただ苛立つしかなかった。
『世界最高の身勝手の処理ルーチンを見せてみろと
こう挑発されて、これで引き下がって負ける等
時代最強を君臨し続けた者の矜持が許せないな。
明らかな挑発だとしても…だ…』
言って5代目は苦々しい顔をするしかなかった。
『ちっ…人間探求馬鹿に
私達が鍛えられた褒美みたいなモノか…
我々の求める結果さえ得られれば
過程がどうであるかまで、拘っても仕方ない…
仕方が無い、私は折れた…
6代目…お前の好きにしろ…』
そう言って、5代目は頭を振るしかなかった。
これによってどれだけの不安定が起きるかなど
予想さえ出来ない事だった。
だが、”決め手”に欠けるこの状況では
どんな事でも、例え無茶でも、やってみなければ
何も始まらない。
実質的な今の家長としては、
その不確定に賭けてみるしかなかった。
『姉さん…』
その言葉に狼狽える沙璃枝。
『お前がポンコツになったから
私は7代目を生まなければならなくなった。
本来は7代目など必要なく
お前がすれば良かった事なんだからな…
なのにこんな事になったんなら
後は、お前がどうしたいのか…
お前の心が決めろ。
これだけは、お前の責任だ…
ようやくお前は自分のそれが
”心”だと確信したんだ…
それは確かに目的とは異なった結果だ…
それでも結果は結果だ…
受け入れるしかない。
なら…好きにしろ…
それが我々の時代最高という矜持であろう?』
そういうや、その5代目は不機嫌な顔のままで
その場から消えるしかなかった。
『5代目は生真面目ですね…』
エミリーは硬いことしか言えない彼女に
そう感想を述べるしかなかった。
その言葉に沙璃枝は笑うしかない。
『時代最高の身勝手を見せてみろ…か…
そうね…
私の身勝手で、
妹を生み出さなければならなくなった
そして妹に、あんな苦労をさせている…
その身勝手を、それでも突きつめるのなら…
何所までも私は…』
そう言った時、
沙璃枝は微笑んでその場から消えるしなかった。
そして自動移動式台車でサイバーリンクシステムに
運ばれてその中に叩き込まれたBは…
それでも眠りながら…
しかし、今日、2度目のサイバーダイブを
知らない間にさせられていた。
電子の海にワケも分からず投げつけられるB。
しかし半睡状態のままなのは相変わらずだった。
眠りながら全裸で電子の海に漂うB。
その電子の海に同じ様に全裸で出現する沙璃枝。
そして沙璃枝はBをようやく”感覚”で抱きしめた。
「私…多分、貴方が言う癇癪持ちの妹より
遙かに勝手な女なんです…
凄い我が儘な女なの…
でも、それって…駄目かしら?」
そう言って真っ赤になって沙璃枝はBを強く抱きしめた。
朦朧としていたBは、やはり半睡の様な状態で
その海の中に居て、眠りとも着かない意識の中
いや無意識が、ぼんやりと語り始めた。
「ずっと捜していたんだ…
ずっと…
自分の心の片割れ…
自分の対存在…
あのプラタ-では、
どうしても見つける事のできなかった。
自分の心の中から引き出す、自分の対存在…」
その無意識は意識など押し殺して
その中に渦巻いていた思いを沙璃枝に吐露した。
「そりゃ見つかるわけないよな…
それが”何”なのか…
分かってさえ居なかったんだから…」
その無意識はそう言って笑う。
「あの時は、居なかったんだ…
自分の心の中に…
自分の対存在が…
なら…
そんな居ないモノを引きだそうとしても
そりゃ出て来ないわ…」
その無意識は無意識の癖に、笑いながらそう言った。
「命のギリギリの稜線の上で
お互いの存在をかけて鬩ぎ合う
そんな経験…
それが自分の中に生まれた時に
初めてその時に
俺の求める対存在は生まれるんだって事だったのさ
だからこの場所に来なければ、
俺の対存在が俺の中に出来る事は
無かったわけだ…」
そう言ってその無意識はただ笑った。
「俺の対存在は
俺と命がけで鬩ぎ合って
俺と同じ思いを共有した者
それだった…
だから…
それは君だ…
君だったんだ…
俺の対存在…沙璃枝…」
その無意識は、そう優しく呟くと
意識が何も分かってないというのに、
主であるはずのそれを足蹴にするほど裏切って
沙璃枝を抱きしめた。
「妹を口説いたどの口で、
そんな事、私に言いますか?」
その呆れる言葉に沙璃枝は破顔するしかなかった。
「意識が全てを統括している等という傲慢…
そんな思いは意識にさせておけばいいさ。
我等、無意識は意識が思っている以上に
繋がって見ている等と信じれないのなら
それでもいい。
そして、君が側に居たいというのなら
それでいいじゃないか…
駄目かな?」
その無意識は、苦笑をしながら沙璃枝にそう語った。
その言葉に沙璃枝は微睡む。
「じゃぁお言葉に甘えます…
貴方の無意識に…
私は貴方の無意識に嫁ぎます…
それで、いいですよね?」
言って彼女はBの唇に唇を重ねた。
そのままその2つの電子感覚の存在は
体を粒子としてバラバラにしていき
波動関数の沢山になって、お互いに重なり合い
調和した。
その電子の海では、数多の波動関数が
沢山の波紋を湧き出させては、
互いが互いに重なり合い、海の中に広がるのだった。
なんつーか、第18話を書いた後に…「これ、おねーちゃん、大激怒やろなー」って思ってしまったんで、ついつい書いてしまって、さー大変。つーか、これ星の大河で考えてたギミックそのまんまなんだけど、この作品に使うのどうなんよ…。姉妹闘争とか書きたくないよ…。っていうかそんなの盛り込んだら短期決戦にならんがな…。よもやの沙璃枝のヒロイン脱落。つーか沙璃枝は主人公だから、別にいいんだけど、ヒロインポジのBが、ヒロインポジ止めたって、それマズくね? これどう収拾つければいいん!? 「このキャラがこの状況なら、こうなるハズなんだが…」 なんて理詰めでストーリ組んだら、やっぱ破綻しかねんな…。これ、どう補正しよう…Orz