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4.

 12月24日、クリスマスイヴ。あるいは恋人たちの夜。

 ひと組のカップルが連れ立って街を歩いていた。幸せそうではあるのだけれど、時折得心がいかない表情を浮かべては、互いに首を捻っている。


「どーしても思い出せないんだよな」

「あたしもなんだよね」


 それは、かっつんとクミの二人であった。

 昨夜は仲良くベッドの中で熟睡をして、揃って目が覚めたのは今日の昼過ぎ。幸いデート以外に予定のない冬休みの大学生だからよかったものの、これが平日であったならひと騒ぎであったろう。

 その上二人揃って、どうにも寝入るまでの記憶が曖昧なのだ。

 ただどうしてか、奇妙に胸の奥が暖かかった。隣の恋人が不思議なくらいに眩しく見える。まるで恋し始めた日の心が、不意に舞い戻ってきたかのようだった。

 二人共に一日早いクリスマスプレゼントをもらったような心地でいたのだが、それを言うのは子供めいて恥ずかしい気がしたので、どちらも口には出さなかった。


「きっと疲れてて、いつの間にか寝入っちゃったんだって」

「そうだな。風邪引いたとか寝過ごしとかじゃねーし、あんま気にしてもアレか」


 曖昧に結論づけて、それからかっつんは周囲を見回した。

 友人連れ、恋人同士、家族。

 周囲はクリスマスの雰囲気を満喫する人々で賑わっている。幸福な人間が多いのはいい事だが、もう少しばかり人ごみが緩和されるといいのになどと勝手を思った。


「しかしほんっと、日本人はお祭りっていうか、イベントに流されやすいよな」

「それあたしらが言う事じゃないいって。それに、ま、いいじゃない。そのお陰でこうやって」


 クミは飛びつくようにして、かっつんと腕を組む。


「大手を振って楽しめる日が増えるんだから、さ」


 その拍子にわずかによろけて、かっつんの肩が、通りすがりの青年に打ち当たった。


「っと、すみません」

「いやいや、気にせんといてな」


「こらバカ、危ないだろ」とクミを叱ってから、頭を下げるかっつんに、青年は柔和な笑みを見せる。

 糸のように細い目に仏様のような額の黒子と福福しい耳たぶ。それらの特徴が醸し出す雰囲気と相まって、なんとも人好きのする、気さくな風情の微笑であった。


「お二人さん、恋人なんかの?」

「あ、はい」

「ええ、まあ」


 線目の青年は「ふむふむ」と頷き、


「わしの勘じゃけど、なんや君ら、上手くいきそうな気がするわ。末永うお幸せにな。メリークリスマス!」


 かっつんの肩をぽんと叩くと、青年はひらひら手を振り別れを告げる。


「メリークリスマス」

「メリークリスマス!」

 

 その人懐っこい仕草にかっつんとクミも相好を崩し、笑顔と一緒にそう返した。



 人ごみの中。

 青年は一度だけ、肩ごしに二人を振り返る。

 睦まじく寄り添う姿を確かめ小さく頷くと、それからぱちんと指を鳴らして姿を消した。

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