絶望の始まり
この世界には、まだ誰も知らない秘密がある。
神の力。
悪魔の存在。
そして、やがて世界を揺るがすことになる少年。
仲間を失いながらも得たものとは……。
「今日という日は許さねぇ!」
「いい加減にしろ!」
晴れ渡った空の下、二人の男が怒鳴り合っていた。
金髪の青年、エゼル。
青髪の青年、ライザ。
二人は互いに睨み合い、今にも殴りかかりそうな勢いだった。
「二人とも、もうやめて!!」
「お兄ちゃん、ライザ君も落ち着いて!」
見かねた少女が、慌てて二人の間に割って入る。
少女の名前は、マナ。
マナに止められ、二人はようやく拳を下ろした。
その様子を見ていた依頼人の男性が、おそるおそる口を開く。
「あ、あのー……大丈夫でしょうか?」
「すいません……」
マナが申し訳なさそうに頭を下げる。
「実は……今朝、朝ごはんの最後のパンをどっちが食べるかで喧嘩してるんです……」
「……パン?」
男性が呆然と呟いた。
この男性は、今回の依頼人、サンベルト。
エゼル、マナ、ライザの三人は、魔物討伐の依頼を受け、サンベルトの住む村へ向かっていた。
「あ、見えてきました。あそこが私の村です」
サンベルトが指差した先には、小さな村が見えた。
――三十分後。
ライザが荒らされた村を見回す。
「やっと着いたか。ずいぶんひどい有様だな」
「はい……毎晩、魔物に襲われているんです」
マナが心配そうな表情で尋ねる。
「魔物はどこにいるの?」
サンベルトが森の奥を指差した。
「あの森です。奥に魔物の住処があります」
エゼルが森の方を見る。
「なら、今から行くか」
――魔物の住処周辺。
草木をかき分けながら、三人は森の奥へと進んでいく。
やがて森を抜けると、視界が一気に開けた。
その瞬間――
「ギャオー!!」
茂みの中から、ゴブリンたちが飛び出してきた!
「構えろ!」
エゼルが身構える。
ゴブリンたちが三人に襲い掛かってくる。
ライザとマナも、それぞれ剣を抜いた。
ゴブリンたちは奇声を上げながら、三人に襲いかかる。
エゼルが腰を落とし、全身の力を拳へと集中させる。
「ブレイクヴァイン!!」
拳がゴブリンを捉える。
瞬間、凄まじい衝撃が周囲に広がった。
ゴブリンたちの体が次々と吹き飛び、地面を転がっていく。
ライザも負けじと、ゴブリンたちへ駆け出した。
「かかってこいよ、ゴブリンども!」
ゴブリンが棍棒を振り下ろす。
「遅ぇ!」
ライザは身をひねって攻撃をかわすと、すれ違いざまに剣を振り抜いた。
「ギャアッ!」
斬撃を受けたゴブリンが、地面に倒れ込む。
その一方で――
「私だって負けてられない!」
マナもゴブリンたちへと駆け出した。
一体のゴブリンが横から襲いかかる。
マナは素早く身をかわし、そのまま相手の懐へ踏み込んだ。
「ギャッ!」
鋭い一撃を浴びせると、さらに振り返りざまに剣を振るう。
「ギャアアッ!」
ライザとマナはゴブリンを次々と倒していく。
「よしっ!」
ライザは剣を肩に担ぎ、辺りを見回す。
「なんだ、もう終わりかよ」
「いや、まだだ」
エゼルが森の奥を睨みつけた。
その直後、重い足音が響き始めた。
一歩、また一歩と近づくたびに、地面が小刻みに揺れる。
「来るぞ!」
「ギャオー!!」
巨大な影が現れる。
「でかすぎるだろ……」
ライザが思わず後ずさる。
「二人とも気を付けて!」
マナが剣を握り直した。
影の正体は、ゴブリンたちのボス――
【ゴブリンキング】
「ギャオオオ!!」
ゴブリンキングが大きな斧を振り回し、いきなり襲いかかってきた。
「ぐっ……!」
ライザが剣で受け止める。
しかし、凄まじい力に押し負け、体ごと吹き飛ばされた。
「ライザ君!」
「はぁー!」
マナはゴブリンキングの懐へ飛び込み、剣を振るった。
だが、刃は分厚い皮膚に弾かれてしまった。
「きゃっ!」
体勢を崩したマナに、ゴブリンキングが斧を振りかざす。
その瞬間、エゼルが飛び込み、マナを抱えて攻撃をかわした。
「大丈夫か?」
「ありがとう、大丈夫!」
「二人とも油断するな。一気に片付けるぞ」
エゼルの言葉に、二人は力強くうなずいた。
「パワーエンチャント!」
淡い光がエゼルとライザを包み込み、二人の身体能力を引き上げた。
「よし、行くぞ!」
ライザが地面を蹴る。
「アイスバーン!!」
ライザが剣を地面へと向けた。
瞬間、剣先から冷気が走る。
白い霜がゴブリンキングの足元へと広がり、凍結した地面が大きく隆起した。
次の瞬間、巨大な氷柱が地面を突き破り、ゴブリンキングへと迫る。
「ギャオオオオ!!」
氷柱がその動きを封じる。
「よし……!」
エゼルが拳を強く握りしめる。
拳の周囲に、小さな雷光が走った。
雷光は腕を駆け上がり、エゼルの全身を包み込んでいく。
足元の砂利が跳ね、周囲の木々が雷の余波に揺れた。
エゼルは深く腰を落とし、全身の力を拳へと集中させる。
「ライトニング・ヴレイカー!!」
雷光をまとった拳が、ゴブリンキングの巨体に叩き込まれた。
青白い稲妻が弾け、凄まじい衝撃が森を揺るがす。
衝撃波が地面を駆け抜け、土煙が一気に舞い上がった。
「ギャアアアアア!!」
ゴブリンキングが叫び、地面に倒れ込む。
「これで終わりか」
ライザが剣をしまう。
「二人とも大丈夫?」
マナが二人のもとへ駆け寄った。
「ああ、問題ない」
「俺も大丈夫だ」
二人の無事を確認し、マナはほっと胸をなで下ろした。
「よし、じゃあ戻ろっか!」
――村に戻り、
「魔物は倒したぞ」
ライザの言葉に、サンベルトが目を見開いた。
「本当ですか! エバーリンクの皆さん、ありがとうございます……」
サンベルトの目に涙が浮かぶ。
「サンベルトさん、泣かないでよ」
マナが優しく声をかけた。
「す、すいません。うれしくて、つい…」
「また何かあったら、エバーリンクの皆さんに依頼しますね!」
サンベルトは涙をぬぐい、深々と頭を下げた。
マナが笑顔で答える。
「ありがとうございます! さぁ、ギルドに帰ろっか」
――この時彼らはまだ知らなかった。
後に自分たちが罪人として追われることになることを…
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