額に青角を立てる
更新が遅くなってしまいすみません!
今回は少し長くなっています、よろしくお願いします。
針のように細く漆黒の瞳孔と目が合った。
滝のように冷や汗が流れ、身体が鉛のように重く、動けない。呼吸も忘れてしまうほどの驚愕により声が出ない。
そんな春斗に対し、どうちゃんは綿のように身軽に動いた。
肉食動物の動き、獲物の意識を確実に飛ばせるためのヘッドシェイクをした。
その勢いにより突き刺さっていた赤黒い三つ編みのスズの胴体が春斗の頭の上ギリギリの所を通る。
その拍子にスズの返り血が春斗の顔にかかる。
すでに春斗の限界は越えていた。
ようやく鉛のように重い春斗の身体は動き出し、辺りを確認する。
スズ以外に被害を受けていない事に安堵し振り返ると
月明かりを反射した銅色の鋭利な爪が春斗の頬の一歩手前にあった。
死ぬ────それ以外を考える暇もなく、眉間に皺を寄せて目を閉じる。
その瞬間、鼓膜を襲うような甲高い金属音がすぐ横で鳴り響いた。
頬の一歩手前にあるものは銅ではなく、彩やかで明るいシアンの煌めきを放つ銀色の鋭くも力強い剣。
「おはよう、ハルト。こんな夜遅くだけどね。」
ラベンダー色の少し長い髪、全てを包み込むような包容力のあるタレ目、落ち着いて奥床しく喋り、一見女性にも受け取れてしまう一人の男性。
ファリソン・ブルー・ソロである。
「今、どういう状況か説明できる?」
春斗はソロの顔を見ると安堵し胸を撫で下ろした。
ソロに問われた事をパニック状態の頭で考え、おぼつかない口を動かした。
「い、今、スズはどうちゃんに食べられてもう助からない。それと、どうちゃんはスズの命だけじゃなく、きっと僕たちも食べようとしてる。それとこれは僕の予測だけど、どうちゃんは身体の一部を銅に変化させられるから意表を突くような攻撃がある…と思う!」
「うん、状況把握できたよ、ありがとう。春斗も落ち着いたみたいだね。僕はどうちゃんの相手をするからその間に他のみんなを起こして。じゃあ、行ってくる!」
ソロがそう言うと春斗の元を離れ、どうちゃんの方向へ向かった。
春斗は勢いよく立ち上がり、飛び散ったスズの返り血を腕で雑に拭き取った。
その後、横に並んで寝ている皆の頭の上に掌を広げて光を放った。
光を放つと目を細めながら次々に目を開けた。
「起きて!敵襲!敵襲ー!スズがどうちゃんに食べられた!僕らも命を狙われている!」
その発言の中の“敵襲”という言葉に全員が反応し、身体を勢いよく起き上がらせた。
「今、ソロが闘ってくれてる。だからアリアとイヤモンは応戦に。ランとサフィニアは僕と陰で補佐する!持ち場に着いて!」
春斗の簡潔な指示に納得し、それぞれ急いで持ち場に赴いた。
─────────────────────────
ラン、サフィニア、春斗の3人は戦闘組が戦っている所から離れ、3人が縮こまってギリギリ隠れられる程の小さな岩陰に隠れた。
つくなりランが指示を出す。
「僕は傷ついた戦闘組をすぐに回復させるから、春斗は視界の方いける?」
「うん、ただ一人一人の視界を明るくするっていうのは難しいから、ここ全体を照らすって感じになる。」
「相手は猫で暗い中でも見えるけど、明るくなったら流石に猫のほうも見えるようになるわよ。それでもいいなら早くやって。ハルト。」
サフィニアの言葉に頷き、春斗は立ち上がって手を前に突き出した。
春斗が一度まばたきをしてから発光させる。
「こっちから光を照らすから!頑張って!アリアには眩しいかもしれないけど…!」
「ううん!大丈夫ー!!ありがとー!」
アリアが春斗に感謝を伝えると同時にどうちゃんの銅の爪を苦し紛れに避けた。
しかしその直後どうちゃんは自身の周りにいるアリア、ソロ、イヤモンを尻尾で軽く追い払った。
それにより戦闘組は吹き飛ばされ、各々木に身体がぶつかる。
吹き飛ばしてすぐ、綿のような白い顔の前あたりに一本の巨大かつ鋭利な銅の三角錐を作り出し春斗たちの居る岩へと飛ばした。
瞬きをするともう目の前にそれはある。
春斗は再び自分の“死の予兆”を感じた。
ところが先程と同じようにその感触はすぐに消えた。
少し既視感を感じる。
その既視感の正体はソロであった。
ソロが何メートルも飛ばされたあと、滝のような速さでその銅の塊の進行方向を少し横にずらしたのだった。
そしてその銅はすぐに粉となり消失した。
ソロの眉間にはシワが寄り、激しく息を切らしている。
「ソロ、ちょっと待って。傷治すから。」
「ぁ、ありがとう」
ソロは一度膝をつき、ランはソロの傷を治し、癒した。そしてまたすぐにどうちゃんの方へと向かおうとした。ところが春斗がソロを止めた。
「まって!もしかしたら、弱体化できるかも!」
─────────────────────────
イヤモン、ソロ、アリア。
左からこの順でどうちゃんの前に並ぶ。
ソロの右手が握っている銀色に水色の煌めきをもつ剣剣をゆっくりと前に構え、身体を横に向け左足を一歩後ろに下げる。
それと同時に少しばかりの土埃が舞う。
「イヤモンとアリアはどうちゃんの固定。アリアだけは様子を見て僕が合図したら土台を作って。」
「「了解!」」
そう言うとイヤモンとアリアは二手に別れた。
その二人に対しソロはそこから少し離れた。
イヤモンは掌を勢いよく顔の前で合わせ、鐘の音のように大きなクラップ音を鳴らし、両手を外に開いた。
同時に硝子、もしくは水晶のように白く輝く鉱石を幾つか生み出した。
それはダイヤモンドである。世界一硬いと言われている鉱石。
イヤモンはそれを棘のように細く加工し、鋭利にした。そしてどうちゃんに刺し、動きを鈍らせた。
草の魂・土の魂の者はそれぞれ自分の核となる自分だけの植物・鉱石を持つ。
例えば、ラン。ランは青薔薇が核の植物である。
「アリア!」
ソロが叫んだ。
アリアがその声に気づきソロの前に自分の核の鉱石の坂を作り出した。
その光景を見たサポートの春斗が気づく。
「ハイアライトオパール…!」
(ハイアライトオパールは条件次第で強く発光するはず!けどやったことなんて無い、ぶっつけ本番が僕になんかに出来るのか…?)
春斗の思考が動いたと同時に手から放たれていた光が段々と消えていってしまった。
春斗の満遍なく開いていた掌が思わず縮む。
「ハルト?!照らせ!早く!!辺りを照らせるのはお前しかいないんだよ!」
サフィニアの無意識であろう言葉に少し背中が押された。
そしてまた春斗は前を向き、隠れていた岩を飛び越えて走り出した。
「ハルト?!」「春斗!!」
普段から走らないから少し足元がおぼつかない。それと、光魔法を使って魂が消費され身体全体に気怠げな感覚がする。
息が切れる。
疲れた。
足の震えが止まらない。
でも。
それでも。
それでも!
それでも!!
そうだとしても!!
僕は走るしかない!!!
─────────────────────────
ソロはハイアライトオパールの坂を目にも止まらぬ速さで駆け上がり上空へ跳びあがった。
そして今の今まで溜め込んでいた大量の水を一気に放出させ剣に纏わせた。それをどうちゃんの頭の前まで持っていった。
的は一つ。
猫にとっては獲物を捕らえる絶好のチャンスである。
どうちゃんは身体に突き刺さっていたダイヤモンドの針を全て押し出し、後ろ足の2本で器用に立ち上がって前足を銅の爪をむき出しながらソロに伸ばした。
その瞬間────!
眩い蛍光緑の光が戦闘組達を包んだ。
どうちゃんもそれに反応しあまりの眩さに目を瞑った。
次に目を開けた時には目の前に大量の水が頭を打ちつけるほどの強さで全身にかかった。
みるみるその光は消え失せた。
そして春斗はその場で膝から崩れ、うつ伏せで倒れた。
身体と魂の限界がやってきたのだ。
「ハルト!」
その様子を見たアリアがそう大きな声をだして春斗の元へと向かった。
アリアが春斗の体制を変えて仰向けにする。
「ハルト!大丈夫?!」
「ぇ…ぁ…ぅん…だぃじょうぶ……多分…」
掠れた小さな声で春斗が反応した。
「良かった…!それより、さっきの何?!緑色の光!」
「ぁあ…アリアの核の鉱石、ハイライトオパールは、ブルーライトで照らすとあぁやって光るんだよ…
あそこまで光るのは割と想定外だったし自分からブルーライトが出せるのもそうだったんだけど…良かった…」
春斗は最後の力を振り絞って説明した。
そんな春斗を労るかのように小雨が降り出す。
「ンナ”ア”ア”ア”ア”アアアァァァァァァ!!!!!」
どうちゃんが人間の叫び声に近い雄叫びを出した。
あまりの声の大きさに身体が怯む。
どうやら猫の弱点の水を大量にかけるという作戦は
成功のようだ。
小雨がその雄叫びに感化されたかのようにいつの間にか大雨になる。
どうちゃんはフラフラとふらつきながら四本の足で
立ち上がった。
そして顔を上げる。
春斗の身体は凍りついた。
その獣の表情は獲物を狙う顔ではなく、憤怒の表情であった。人間で言うなら、額に青筋を立てるといえる程であろう。
牙は剥き出し、爪もしまわれることを忘れたように常時突き出ている。
どうちゃんは額の銅の角が化学反応によるものなのかもしくはどうちゃんの能力なのか────
分からずじまいだが、みるみるうちにそれは新橋色に。
さらにどうちゃんを中心に地面の草花、木などが枯れ
辺りは荒廃し変わり果てた。
そんな中豪雨でまた輝くのは、
皮肉なことに美しい青銅である────。
第18話 額に青角を立てる 読んでくださりありがとうございます!
以下補足です。
草・土の魂の者は核となる自分の植物・鉱石があるとありますが、どちらも作り出したら永遠にそこにあり続ける訳ではありません。大抵数秒で消えます。しかし、
その魔法の質が良かったりすると長い間存在し続けます。それでも長くて10秒ちょっとです。
それに対し、核となる物は一生あり続けます。その代わり持ち主が死ななければ取り出せません。




