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19話 終わりのあとに残るもの

 銀星騎士団事件の終結から、一週間。

 第四十八層前線拠点は秩序局の管理下で後処理が進められ、すでに封鎖も解除されていた。

 あの戦いの痕跡はまだ残っている。

 破壊された壁。

 焦げた床。

 異常な魔力反応の記録。

 だがそれらは、少しずつ“過去のもの”として扱われ始めていた。

「ようやく一段落ってところだな」

 久世がそう言ったのは、拠点の外だった。

 空はいつも通りの色をしている。

 それが妙に現実感を薄くしていた。

「本当に終わったんですかね」

 俺がそう言うと、久世は肩をすくめる。

「終わったっていうより、“終わらせた”だろ」

 その言葉には妙な重みがあった。

 黒瀬が書類を片手に歩いてくる。

「団長の尋問は継続中」

「銀星騎士団は正式に解体」

「幹部は拘束」

「特にあの剣城という男には重い罰が下るだろう」

 淡々とした報告。

 だがその内容は、一つの巨大な組織の崩壊そのものだった。

 俺の意識は別の方向に向いていた。

 綾乃、真琴、エマ。

 彼女たちは今、秩序局の保護施設にいる。

 保護施設は静かだった。

 ダンジョンの喧騒とはまるで別の空気。

 そこで彼女たちは待っていた。

 綾乃は最初、すぐには俺に気づかなかった。

 少し間があってから、ようやく表情が動く。

「……黒崎、さん」

「ああ」

 短い返事。

 それだけで今は十分だった。

 真琴は視線を落としたまま小さく言う。

「終わったんですね」

「終わったよ」

 俺はそう答えるしかなかった。

 エマは相変わらず冷静だったが、その目の奥には以前とは違う色があった。

 何かを失った人間の目だ。

 しばらく沈黙が続いたあと、綾乃が口を開く。

「私たち……これからどうすればいいんですか」

 その問いは、簡単には答えられなかった。

 銀星騎士団はもうない。

 だが探索者という世界は残っている。

 そしてその世界は、決して安全な場所ではない。

 久世の言葉が頭をよぎる。

 使い捨てるクランは珍しくない。

 むしろ、それが普通だ。

 綾乃が小さく呟く。

「銀星騎士団が無くなって良かったと思ってます」

「ただ……また同じことになる気がして」

 エマも黙っている。

 それが答えだった。

 次の場所が、今より安全だという保証はどこにもない。

 むしろ悪化する可能性すらある。

 俺はそこで理解する。

 彼女たちは“居場所”を失っている。

 施設を出ると、久世が待っていた。

「どうだった」

「まだ迷っているようです」

 俺がそう答えると、久世は軽く息を吐いた。

「まぁ当然だな」

 そして少し間を置いて続ける。

「で、お前はどうする」

 その問いは、最初から分かっていたようでいて重かった。

 俺は空を見上げる。

 探索者という世界。

 その中で起きていた現実。

 銀星騎士団は特別じゃない。

 ただ少し極端だっただけだ。

 なら、この構造自体を変える必要がある。

 ゆっくり言葉を選ぶ。

「クランを作ろうと思います」

 久世が目を細める。

「ほう」

「ちゃんとした、まともな場所を」

 久世はすぐには笑わなかった。

 少し考えるように黙って、それから言う。

「お前、それ一人でやる気か?」

 その言葉で、初めて気づく。

 クランというものは、戦力だけでは成立しない。

 管理。

 組織運営。

 人の受け皿。

 全部が必要だ。

 俺は少し黙ってから言った。

「久世さん」

「なんだ」

「手伝ってもらえませんか」

 久世は沈黙した。

「正直、俺にはそういうノウハウがありません」

「戦うことしか分からないので」

 久世は鼻で笑った。

「まあ、そうだな」

 だが、その声に拒絶はなかった。

 しばらく沈黙したあと、久世は肩をすくめる。

「面白そうだ」

 それは答えに近かった。

 俺は続ける。

「綾乃たちも受け入れたいと思ってます」

「だから、ちゃんとした場所を作りたい」

 久世は空を見上げた。

「まともなクラン、ね」

 そして小さく笑う。

「それ、一番難しいやつだぞ」

「分かってます」

 即答だった。

 久世はため息をつく。

「しょうがねぇな」

「少しだけ付き合ってやる」

 その言葉で十分だった。

 その時、俺は思う。

 銀星騎士団は終わった。

 だが、何かが始まろうとしている。

 それは戦いではなく、“場所”を作るということだった。

 壊れた世界の中で。

 誰かが立て直す必要がある。

 その役目が、たまたま俺だっただけだ。



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