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【完結】追い出された白猫姫は、王太子にお猫様として溺愛される  作者: 木風


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第二十七話 白猫姫、ふたたび人間になる

魔女が地下牢に囚われて数日。

結局、魔法を解く方法を口にすることは最後までなく、魔封の印を結ばれたうえで国外追放が決まった。

最後に、殿下へのお目通りを願ったそうだけれど、その願いが叶うこともなく。


そして、今日、宮廷魔術師によって、ミレイユにかけられた変身魔法を解く日。


用意されたのは、大きな魔法陣。

幾重にも術式が描き込まれた円の中央へ、殿下がそっとミレイユを下ろす。

ミィの正体がミレイユだとわかったあの日から今日まで、殿下の態度が変わることはなかった。

猫として扱われたままではなく、だからといって急によそよそしくもならず、ただずっと、ミレイユをミィとして大事にしてくれていた。


不安げに見上げるミレイユを、殿下がそっと頭を撫でる。


「ミィ。大丈夫だ」

「ゴロゴロゴロ(これが最後のゴロゴロになるのかも……)」


最後ならまだいい。

猫でなくなったら、殿下の態度まで変わってしまうかもしれない。

腕の中へ抱き上げられることも、頭を撫でられることも、もうなくなるかもしれない。


そんな気持ちが、ミレイユの胸にはあった。


(でも……それはそれで、また出会いからやり直してもいいですか)


宮廷魔術師たちが呪文を唱え始める。

低く重なる声に呼応するように、魔法陣が少しずつ光り始めた。

やがてその光は眩いほどに強くなり、ミレイユの体をすっぽり包み込む。


世界が、大きく揺れる。


ミレイユは光の中で、何かが変わっていくのを感じた。

縮んでいたものが伸び、四本だった足が、二本に変わる。

毛が引っ込んでいく。耳の形が変わる。視界の高さが変わる。重力のかかり方まで変わっていく。


伸びる。

伸びる。

伸びる。


ぐらり、と体が傾いた。


四足歩行から二足歩行への移行は、思っていたよりずっと大変だった。

どこに重心を置けばいいのか、一瞬わからなくなる。


「っ……!」


声が出た。

人間の声だ。

喉の震え方も、音の響き方も、もう猫の鳴き声ではない。


「ミレイユっ!」


ミレイユは膝から崩れ落ちそうになると、すぐに腕が伸びてきて、支えられる。

顔を上げると、殿下が目の前にいた。

青灰色の瞳が、まっすぐミレイユを見ていた。


「すまない……!戻った時のことまで考えていなかった……!」

「え?」


次の瞬間、ばさりと殿下の上着が肩にかけられる。

そこでようやく、ミレイユは自分が一糸まとわぬ姿で、人に戻ったのだと、はっきり理解した。

見上げると、ちゃんと人間としての目線の高さで殿下の顔がある。

碧い目と、青灰色の目が向かい合う。


「…………」

「…………」


しばらく、誰も何も言わなかった。

言葉が見つからないのは、たぶんミレイユだけではない。


ミレイユは殿下の腕に支えられながら、なんとか立ち上がろうとした。

約二カ月ぶりの二足歩行は、思った以上に不安定で、足元が頼りない。

立っているだけなのに、少し震える。


手のひらを見る。

あの可愛らしい、ピンクの肉球はもうない。

そこにあるのは、紛れもない人間の手だった。


「無理をするな」

「……大丈夫、です」


自分の声が出た。

人間の声で、ちゃんと返事ができた。

それだけで、喉の奥が熱くなる。


ミレイユは少し震えながら、それでも立った。

殿下の腕が、遅れて離れる。

完全に手を放す前に、倒れないかを確かめるような間があった。


「体のどこかが痛かったりしないか?」

「首のあたりが少しきつく……でも、大丈夫です」

「そのピンクのリボン。人の首には少しきついかもしれないな」


殿下の視線が、ふとミレイユの首元へ落ちる。

ミレイユは伸ばされた手を取ると、その温かい手をそっと握り返す。


(人間の手で、握り返せる)


その感覚が、胸にしみた。

それだけで、泣きそうになった。


「ずっと、ずっと頑張っていたのだな」


その言葉に、とうとう声が出なかった。

猫だった時間を、殿下がちゃんと覚えていてくれる。

ミィだった自分を、なかったことにしないでいてくれる。

ミレイユは唇をきゅっと結び、それでもこらえきれずに目を潤ませながら、こくりと頷いた。

ブックマーク、★★★★★、リアクション

よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

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