最終話「栄冠」
永野の猛追も抑えた松下。
レースはファイナルラップに突入する。
サーキットの興奮はF2のレースとは思えないほど高まっていた。
観客たちの目の前ではF1さながらの激闘が繰り広げられ続けている。
お互いタイヤの性能的にはすでに限界を迎えているはずだった。
「監督、永野は、DRS使える?」
『えっと…永野は1.4秒後方だ。DRS作動範囲外だ。ただ、この差だと、もう1個のロングストレートで使われる可能性はある。』
ここヤス・マリーナ・サーキットはDRS使用可能ゾーンが連続して配置されている。
「なら、最後の連続コーナーまで耐えれれば…この勝負、勝つ!」
2位を走行する真っ黒なF2マシンを操る永野も、最後まで松下を追い抜くために頭をフル回転させていた。
「タイヤの寿命からするにもう1回勝負を仕掛けるくらいは使える。ただ、使い所を間違えれば2位も失うかもしれない。」
2個目のロングストレートに差し掛かる。
永野のステアリングのインジケーターの一部が緑色に光る。
DRS使用可能の合図だ。
「よし!来たぁ!」
永野はDRSのボタンを押す。
リアウイングの一部が開き、ジリジリと松下との差も詰まっていく。
松下もミラーを見ながら永野の挙動をうかがっていた。
しかし、永野がミラーのどこにもいない。
緩やかな左コーナーに差し掛かる。
その時、かすかにエンジン音がどこかから聞こえてきた。
「まさか…永野、そこにいるのか…!?」
松下の真横に位置する永野。
「ここだぁ!」
いつの日か、富士スピードウェイの1コーナーで松下が永野に見せたオーバーテイクを今度は永野がして見せる。
しかし、永野は気づかなかった。
リアタイヤが滑る。
「ぐっ…滑るっ…」
その一瞬で松下が再び首位に躍り出る。
そう、永野のタイヤはすでに限界まで使い切ってしまっていたのだ。
「勝負あり…だな」ピットでその様子を見ていたモントーヤも呟く。
そして、チェッカーフラッグが振られる。
1番に駆け抜けたのは松下大輝だった。
そして、後を追うように永野が滑り込む。
『松下!よくやった!チャンピオンだ!F2チャンピオンだ!』
「あぁぁぁ!やったぁぁぁぁ!」
『頑張った松下にご褒美だ!ドーナツターンしていいぞ!』
「まじすか監督!あれ憧れだったんスよ!」
ランオフエリアに入る。
そしてマシンを止め、一気にアクセルを踏み込む。
マシンが白煙を上げながら回り始める。
すると、もう1台が混ざってきた。
それは永野のマシン。
2台がドーナツターンでワールドチャンピオンをお祝いしていた。
「うぇっ…回りすぎた。」
『松下、吐くなよ?』
「大丈夫っす…多分…」
『多分って…心配になるなぁ…』
観客、マーシャルたちに手を振りながら残りのコースを走り切る。
「1」のボードの前に26号車が止まる。
マシンから降りた松下は最高の笑顔をチームのスタッフたちに見せた。
それを見たスタッフたちは手荒に祝福してくる。
すると、2位の永野が肩を叩く。
「ヒロくんやっぱ一枚上手だったね。おめでとう。表彰台でまたお祝いしてあげる。」
「あぁ。駿のオーバーテイクもすごかったぞ。最初どこ行ったか見失ったもん。」
「見失うほど?やっぱヒロくん視野狭くなるんじゃない?」
「そうかもしんねぇ。」
10分後、3人のレーサーが表彰台に集合した。
3位から順にトロフィーが手渡されていく。
そして、松下にチャンピオンのトロフィーが渡される。
それを受け取り、高く掲げる。
その瞬間歓声が湧く。
「最高だ…」
シャンパンファイトを楽しみ、チームのメンバーたちと集合写真を撮影する。
「おめでとう、松下。」
「やるじゃん、松下センパイ。」
「ジャクソンもそういうこと言えるようになったんだな。」
「う、うるせ!」
恥ずかしがるジャクソンを見てみんなが笑顔になる。
今日という日を俺は一生忘れないだろう。




