幽霊騒ぎ
廃墟、、、ではなく案内された先はまさかの坑道の入り口だった。木の板が打ち付けられて入り口は閉められており、鍵のしまった出入り口だけが存在している。
「・・・ここが幽霊騒ぎの現場?」
「おう、知り合いからここの鍵を借りて寝泊まりしようとしてたんだが、変なことがしょっちゅうあってな? ちょっと気味が悪いからもう潰そうかなって。」
どんな神経してたら朽ちた坑道で寝泊まりしようと思うんだ?
いつ崩壊するかもわからないなか寝るなんてもはや拷問と変わらない気がするんだけど。
蛇紋はボロボロの鍵を取り出して南京錠を開ける。
簡単に壊されそうな鍵だけど別に壊されたって構いわしないのか。
開かれたドアの向こうは、光の通っていない真っ暗な洞窟が広がっていた、、、。
「「・・・・・よくここに住もうと思ったな。」」
「ん? 雨風凌げるし広いからな。ちょっとDIYってのにハマってた時期だったし魔改造しようと思ってたんだ。」
その根性があったら上で働けるだろ、、、。
呆れながら横のエリスを肘で軽く小突く。
「んで、何か感じる?」
「・・・気味の悪い感覚がするな。ただ霊と言うよりお前が戦っていた幽世ノ住人と同じような感覚だ。」
・・・てことは怪物か? 変にオカルトじゃなくて安心したけど、怪物は怪物で事前情報が少ないなかテリトリーに入るのは危険すぎるし、装備も不十分だ。
与罸、、、置いてきちゃったんだけど、、、。
だってあれ物々しくて怖いし。
「おし、行こうぜ。」
「いやいやいや、何があったのか説明してくれよ。」
「別に大したことねえぞ? 黒い影を見かけたのとなんか寝てたら首絞められたり、物が飛んできたりしただ、、、」
「充分すぎるほど怖えじゃねえか!!」
何をそんな冷静に「やばかったなー」とか言えんの?
普通の感性だったら真っ先にお寺に駆け込んでお祓いを乞い願うくらい壮絶だかんな。
「・・・てかお前、2、3時間で終わるって言ってなかった? 明らかに1日かかりそうなくらい大変じゃね?」
「原因がわかってんだぞ? なら対処するだけの簡単なお仕事じゃねえか。」
そう言って蛇紋はポケットから何やら小さなスイッチを放り投げる。俺はそれを片手で受け取って首を傾げた。
「・・・なんだこれ?」
「起爆スイッチ♪」
「んなもん投げ渡すんじゃねえ!! 押しちまったらどうすんだよ!?」
渡されたスイッチは本当にただのボタンが剥き出しで取り付けられた簡素なもの。
保護カバーもなければロック機能もないので落としたりしただけでスイッチが入ってしまいそうだ。
「つーか、こんなのあるなら俺たちいらなくねえ?」
「あほか、怪物なのか異能存在なのか知らんが爆破程度で死ぬようなら世話ないだろ。そこら辺調査してどんなやつか分かって爆破で殺せるようなら爆破、無理ならお前らがなんとかして爆破、ほら解決だろ?」
「・・・丸投げすぎて怖いな。」
てか思ったよりもちゃんと考えていて感心する。
確かに怪物には物理攻撃が効かない存在も確認されている。前にそんな存在を同じように生き埋めにしたら、ずっと地下で力を蓄え続け、巨大に成長した奴とかいたからな。
「いいから早くしようぜ。俺様もさっさと酒飲みたいしよ。」
蛇紋は入り口の脇に置かれた古いランタンをゴソゴソいじって灯りを灯す。そして俺たちを手招きして勝手知ったるようにズカズカとなかに入っていった。
・・・・・。
・・・・。
・・・。
ーーキィ
「・・・なぁ、ほんとにここ倒壊しないだろうな?」
「知らねえよ、俺様に建築の知識があるように見えるか?」
なら尚更不安だわ!!
こんな所で生き埋めにされでもしたら例え死んで地獄に落ちてもこいつを殺してやる!!
怒りに青筋を立てながら歩いていると、控えめに袖が掴まれる。首だけで様子を窺うと、エリスが何処か不安そうにしていた。
・・・え、幽霊が怖いとか? それとも沈下かな?俺はめちゃくちゃビビってるよ。
「・・・綾人、気持ち悪い。」
「え、まだ酒残ってんの?」
「違う、肌がピリピリするような嫌な空気をずっと感じる。・・・進みたくない。」
珍しく弱気なエリスに驚きながら前方の暗闇を睨む。
エリスが言うような嫌な空気というのは俺には感じられない。わんちゃん能無しが作用している可能性はあるが、蛇紋も何も言わないあたりその線は薄いか、、、。
「蛇紋、お前はこの先に何があるのか知ってるのか?」
「何もなかったはずだがなぁ。骨とかは見つかったが、宝とか不気味な物は見つかっちゃいねえ。」
骨は不気味な物じゃないの?
俺の感性だと骨だって十分気味悪いんだが。
エリスの勘を無視するのもリスクだし、何時でも構えられるようにR-808のグリップに手をかけながら歩いていると、カコッと小さな音がした。
すぐにホルスターからR-808を引き抜き、銃口を構えるが、そこには小さな石が転がっているだけだ。
「おいおい、ビビりすぎじゃ、、、」
ーーズドンッ!!
こちらを小馬鹿に笑みを浮かべていた蛇紋の言葉の途中で大きな揺れが俺たちを襲う。
なんだと思って辺りを見渡したが、何も見当たらず、倒壊しないことを願いながら揺れが収まるのを待つ。
すると、揺れはすぐに収まった。
「・・・なんだったんだ。ただの地震か?」
ーーシュカンッ!
空気をきり裂く音をさせながら俺の顔スレスレをエリスが取り出した剣が横切る。
「危ねえだろ!? 何すん、、、」
「綾人! 後ろだ!!」
勢いよく振り返ると黒い霧のような不定形な怪物が見下ろすように爪を振りかぶる。
「は?」と間抜けな声を漏らしながら振り下ろされた爪を何とかかわしたが、その爪は地面についた途端煙のように霧散し、俺の身体にまとわりついた。
「ーーぐっ!?」
「綾人!!」
霧はまるで意志を持っているかのように纏わりついて離れない。
エリスの悲痛な叫びが耳に届きながら視界が閉ざされる、、、。
・・・まずい、このままじゃ!
「・・・・・・?」
何ともないな?
「・・・煙いんだけど?」
「何ともないのか?」
「兄ちゃん、なんか黒いオーラまとってるみたいになってんぜ。」
言われて両手を広げながら見回すと、黒い霧がねちっこく体の周りを漂っている。何とも言えない微妙な表情をしている2人と目を合わせてお互いに首を傾げた。
「あ、能無しで効かないのかな? やったぜラッキー。・・・なんで2人とも遠ざかるのかな?」
「・・・いや、私達には有害かもしれんだろ。」
「てか有害じゃないほうがおかしい。」
俺が一歩二人に近づくと、二人とも一歩下がる。
なんか病原菌みたいな扱いされて寂しい。
でも俺もこれが何かわからないし下手に近づいて感染ったりさせても、、、
どうしようか悩んでいると、2人の背後に黒い霧の怪物が蠢くのが見えた。
「しゃがめ!!」
俺の叫びに反応して二人はすぐに頭を下げた。
あらかじめR-808の弾薬は能壊弾を装填してあるが、弾数は少ない。外すわけにはいかないと、緊張感をにじませながら引き金を引いた。
ーーパパアンッ!
相手は煙で実体があるのかも分からないが、放った弾丸は赤く光る目のような2つの点の間に命中。
弾丸が当たると煙は体を霧散させ、空気中に溶けていった。
「・・・なんだこれ?」
「銃弾が効くならダメージはあるってことか。」
蛇紋が冷や汗を拭いながら先ほどの霧の化け物をそう分析する。実際は能壊弾で普通の銃弾じゃないからそこは分かんないかな。ごめんね、紛らわしいことして。
「・・・綾人、煙が。」
エリスが小さく指差すと、その方向に霧が逃げるように向かって行くのが見えた。元凶はもっと奥に潜んでいそうだな。
・・・さて、どうするかな。普段だったらここで引き返すところだ。今はとにかく準備不足、下手に命を危険にさらしたくないし、進むべきじゃない。
「・・・よしここは一度引き返して。」
【みづげだ!】
粘りつくような声に反応してすぐに振り返るがそこには何もいない。なんだ?と恐怖を感じながらやはりここはまずいと改めて2人に言おうとしたら、、、
「ーーはっ?」
2人は、忽然と姿を消していたのだった。
ーーー
「・・・・・私と綾人は常に離れ離れになる運命でもあるのか?」
少しさみしい思いをしながら真っ暗な坑道の真ん中で放置される。明かりを持っていたのは蛇紋だけだし、真っ暗闇でゾワッと恐怖が湧き上がった。
不安に駆られ、手に剣を召喚する。
そして小さく「誉火」と呟き、剣に火を灯して光源を確保した。
「・・・まずい、非常にまずい。」
火を灯して尚の事霊力の少なさに焦りを強く感じる。もしこのまま霊力、というより魔力がなくなれば火を灯すこともできずにこの暗闇に放置されることになってしまう。
ここが何処で、出口は何処なのか、、、。
「・・・。」
ゴリゴリと精神が擦り減っていくような感覚がする。
暗闇は簡単に人を狂わせる。
一度息を吐いて必死に心を落ち着かせようと手に力を込めた。
ーーカタンッ
「ーーっ!」
背後から聞こえた物音に勢いよく振り返る。
心臓は早鐘のように高鳴り、吐きそうなほど息が荒くなった。
そこにはただの石が転がっているだけだ。
天井がもろくなっていたからか、それとも何かいるのか、先ほどの黒い霧を思い浮かべながら警戒心を全開にする。
・・・が、特に火に照らされる影はなかった。
「よか、、、」
ーーpipipipipipipipi
安心して息を吐こうとした瞬間に胸に入れていた端末から音がなって驚く。
端末に知ってる名前が表示されて、驚きでバクバクしてる心臓を押さえながら電話に出た。
『エリス、エリス!? お前何処行ったんだ!?』
「・・・あ、綾人か? わからんここは何処だ。」
向こう側から聞こえてくる声にとても安心感を覚える。心にゆとりができて何とか落ち着いて状況を観察することができた。
『取り敢えずまだこの坑道にはいるのか?』
「あぁ、景色は先ほどと変わっとらん。」
言われてみると、あの謎の移動の際にここではないさらに未知の場所に飛ばされる可能性だってあったのだ。まだここが先ほどの坑道で、さらに敵に囲まれてないというのは安堵するべき状況かもしれん。
『・・・状況は悪いが最悪を引いたわけじゃなさそうだな。通信ができるということは距離もそこまでは離れてないな。』
「そうなのか?」
『あぁ、対策局に支給されてる端末は特殊だからな。圏外でも距離が離れすぎてなければ通話はできる。・・・というかお前、まさか剣を出して火で視界を保ってたりしないだろうな?』
綾人に指摘されたギクリと固まってしまう。その沈黙で察したのか、端末の向こうからため息が聞こえた。
『お前なぁ、今は魔力も少ないんだろ? 端末にライト機能があることは教えたはずだ。』
「・・・あ、失念していた。」
『やっぱりな、できるだけ魔力を温存してそこで待機しててくれ。もしさっきの煙みたいな何かに襲撃されたりしたら逃げてくれていいが、俺から合流を目指すからその場にいてくれると助かる。』
「分かった、通話は繋げたままじゃだめなのか?」
『・・・もしまた移動されないとは限らない。できるだけ充電も持たせたいし、最低限の明かりだけで我慢してくれ。』
確かに一度合流してもまた離される可能性は高い。
なら下手に充電を失うのも良くないな。
それから最低限の会話だけして綾人との通話を切る。
先ほど言われたライトの照らし方を思い出しながら端末を操作し、何とか視界を確保することができた。
取り敢えず先程のような襲撃が来る感覚もないのでその場で座って休息を取ることにする。
まだ通路の先は暗く、不安ではあるが先ほどよりは大分、心にゆとりはできた。
「・・・そう言えば昔もこんな事があったな。」
元の世界でも常に魔王軍との前線を張っていた我が国は劣悪な環境に行軍することも少なくなかった。
暗い森、足場の悪い崖、洞窟に浮島など、どうやって活路を見出そうか頭を悩ませていたことが懐かしい。
向こうでは私は騎士団長、常に人の前に立ち、頼られるべき人物でなければならない。
これは元からの素養ではあるが、もともと魔力が多いことも幸いし、たとえどんな場所でもなんとか切り抜けられてはいた。
しかし、この世界で魔法はあまり使えない。
知識もない、取れる手段も少ない、一番の強みが削がれ、自分の弱いところが浮き彫りにされたような気分に陥っていたのだ、、、。
「・・・ふふ、こんな事を言ったら師匠に殴られるな。」
ジャルフ流は騎士になる前に師事して貰った剣技で、魔法に頼ることのない純粋な技量を求められる剣は、私にとって初めて苦労したところであった。
辛く、苦しくもあった。それでも強くなっていく実感と、魔力を使わない新鮮さは胸を躍らせていたのを覚えている。
「・・・もし師匠に会わなければ、私は騎士になっていなかったかもしれんな。」
無駄に多い魔力を活かし、魔道の道に進んだ可能性もあったな。
そんな風に過去を思い出していると、軽く睡魔を感じてくる。今は周りに敵の気配もないし、少しくらいなら仮眠も取れるかな?
一人で取り残されている状況で寝るのは宜しくないが、つい眠気に誘われ、その目を閉じてしまうのだった。




