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第4章 同居の解消

 しばらくしてドアをノックする音がした。タクマが入ってきた。


「見ちゃったんですよね」

「いや、見てない。俺は何も見てない」


 俺はなんとかごまかそうとした。見なければよかったし、見なかったことにしておきたかった。しかし、それはあまりにも白々しいことだった。


「いいんですよ、もう。僕は本当は女なんです。ごめんなさい」


 俺はなんと答えていいかわからず、黙ったままタクマの凜々しい顔を見つめた。男の板前のように髪を短くしているが、よく見るとたしかに女のようなかわいらしい顔だ。


「うちは明治時代から続く老舗の料亭で、男の跡継ぎが欲しかったらしいんです。でも最初に生まれた二人が女で、三人目の僕も女だったので、父親はしかたなく僕を跡継ぎに決めて、男の子のように育てたんです」

「そうだったのか……」


 俺はなんだかタクマのことが可哀想になってきた。


「でも、僕が女だとばれてしまった以上、もうここにいるわけにはいきませんよね。だましてた僕が悪いんだから、僕が出て行きます。これまでお世話になりました。短い間でしたけど、楽しかったです」


 タクマはそう言うと、部屋から出て行こうとした。


「待ってくれ!」 


 俺は大声で叫んだ。タクマは振り返って、俺の顔をじっと見つめた。


「女だっていいじゃないか。俺はおまえと一緒に共同生活してて、すごく楽しかった。何で同居生活を解消しなきゃいけないんだ。これまでどおり一緒に暮らそうよ。男女同居のシェアハウスだって、世の中にはいっぱいあるじゃないかよ」


「いいんですか? 女の僕が一緒に暮らしても?」

「あたりまえだろ。俺は男のタクマも女のタクマも、どっちも大好きだ」

「ありがとうございます。うれしいです」

「さあ、おかゆ作ったから、一緒に食べよう」

「はい……」


 タクマは俺の作ったおかゆをうまそうにすすった。涙でちょっと塩味がついて、味がよくなったのかもしれない。


 だが、これまでずっと男だと思っていたタクマが本当は女だとわかると、これまで通りのいい関係でいられるのだろうか。俺はちょっと不安になった。


 その日の夕方、タクマの専門学校の同級生らしい一人の若い女が俺たちのマンションにやってきた。ものすごくかわいい子だ。


「ああ、タクマならまだだけど、もうすぐ帰ってくると思うから、中で待っててもいいよ」

「やだなあ、タカシさん。僕ですよ、タクマです」

「えっ……」


 俺は絶句した。タクマと名乗るその女は、フリルの付いた白いブラウスを着てピンクのスカートをはいている。髪もカールしたセミロングで、顔も化粧をして口紅もつけている。


「タカシさんに僕が女だとばれちゃったから、これからはいっそのこと、女として生きようかなと思って、生まれて初めて女の子らしい格好をしてみたんです。髪はカツラですねどね。どうですか、僕、きれいでしょう?」

「き、きれいだ」

「僕は女だから、好きになってもいいんですよ」

「タクマ、俺はおまえが、好きだ」


 俺はタクマを抱きしめた。タクマも俺の背中に手を回した。


「でも、いくら好き合っていても、結婚前の男と女が同じマンションに同居するのは、やっぱりまずいですよね」

「えっ、なんで」

「これからは同居ではなく、同棲ってことにしましょう」


 タクマは俺の目を見つめて、にっこりと微笑んだ。俺はタクマの唇に熱い口づけをした。


 そのとき、向かいの壁に別の男女の抱き合う姿が、影のように映っているのが見えたような気がした。


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