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最終話 仕事の後に飲む酒は旨い

戦闘が終わった後は、早かった。

握られた遺失魔法具(アーティファクト)をどうにか引き剥がすと、いくらか痙攣した後に動きを止めた。

魔法使いが言うに、魔力で無理矢理動かしていたのであろうとのことだった。

素手で触れないよう、抗魔法(アンチマジック)の施された丈夫な布でそれらの遺失魔法具(アーティファクト)を包む。


その間、亡くなった者達を皆で手分けして遺跡から運び出す。

血溜まりの中の犠牲者達とは違い、遺失魔法具(アーティファクト)に操られていた者たちは異様に血の気が失せた青白い顔をしている。

恐らく、水すら飲まずにここに佇んでいたのであろう。


「怖いだろ、ショーン君。…いい経験になったと、思うといい」

魔獣の侵入を防ぐ為の結界を展開する魔法使いに、声をかけられる。

「戦争とは違うからなぁ…まだ対処できるだけよかったが」

「ああいう遺失魔法具(アーティファクト)って、多いんですか」

ショーンは自分の疑問を魔法使いへと投げかける。

団の皆から聞いていた話は、遺失魔法具(アーティファクト)は貴重ですごい効果がある――…という内容ばかりだったからだ。

「結構多いよ?元々がそうだった物もあれば、長い年月で効力がねじ曲がった物もあるし」

結界の展開が終わり、休憩がてらにショーンに講義を始める。


今の魔法技術よりも遥かに高度な技術により生み出された『遺失魔法具(アーティファクト)』――…

この技術を解析することで生み出された『付与魔法(エンチャント)』によって作り出されているのが『魔法道具(マジック・アイテム)』である。

遺失魔法具(アーティファクト)』も『魔法道具(マジック・アイテム)』も、物によってピンきりであるため一概に優位を語ることはできない。

「全体で見れば、貴重なのは断然遺失魔法具(アーティファクト)だよ。今の技術じゃ再現できないものが多いからね」

ふぅ、と一息つくと、遺体へと目を向ける。

「…ま、危険なのも断然遺失魔法具(アーティファクト)なんだけどね」

その言葉に頷きあい、二人は作業を再開した。


◇◇◇◆◆◆◇◇◇


街に帰還してから三日。

ショーンはアルベルトと共に街の外へと赴いていた。

互いに本気の装備を纏い、武具を携えており、張り詰めた空気が漂う。

「殺すつもりでこい」

「わかってる」

半身に構えショートソードを向けるショーンに、迎え撃つようにハルバードを構えるアルベルト。

先に動いたのは、勿論ショーンだ。地を蹴り砕き、自らの壁へと肉薄する。

迎えるアルベルトは、寸分の狂いなくショーンへと一撃を浴びせる。

重い穂先を斬り流し飛び退く。掌にしびれを感じながらも、ショーンは再び地を疾駆する。


「(流れに逆らうな、まともに受ければ折られる…!)」

自分に言い聞かせるような思考。

一撃一撃が致命となる長柄の猛攻を、時には体捌きで、時には刃の腹を使って受け流す。

必殺の振りを阻害するように出だしを挫き、躊躇いなく急所を狙う。


「(やっぱ、子供は成長が早いな)」

首筋を狙う斬撃を打ち払いながら、ショーンの動きに感嘆する。

自らの振るうハルバードをしっかりと目で追っているのがわかる。

コツを掴んだのか、出だしを抑えられることも多くなった。


「…ショーン、本気でいくぞ」

両手で振るっていたハルバードを片手持ちに持ち替え構え直す。

持っていない側の左腕には、金属で誂えた手甲(ガントレット)

初めて、アルベルトが地を蹴り、仕掛ける。

「――ッ…!」

体を掠めるハルバードの威力と速度は、両手で使っている時と遜色がない。

速度を活かし懐に入るが、手甲(ガントレット)で防がれ打ち払われる。

機を間違えば、反撃でその鉄拳を叩き込まれるだろう。

何度かの鍔迫り合いの後、戦いの暴風の最中にアルベルトはショーンの動きの変化を目聡く見抜く。

「(仕掛けてくるな、アレを)」

簡単に勝ちを譲るきはなく、更に圧を強める。

巧くショートソードで防いでいるものの、防戦一方といった形だ。

出だしを抑える程度の反撃しかできず、ショーンは徐々に追い詰められていく。


次の瞬間、ショートソードがハルバードの穂先に引っ掛けられ体ごと後方へと吹き飛ばされる。

「(まずまず、か―――…)」

使わせる前に勝ってしまった、とアルベルトが息を吐き出す。


その機を、ショーンは見逃さなかった。


「シッ!!」

地面へと落下する直前に、ショートソードを掴む手を起点に全身のバネを使って受け身を取る。

ほんの、瞬きのような小さな小さな隙。

そこへ針の穴を通すような精密さで、光のような速度で、突貫する。

あの遺跡で開眼した『魔技』。

青白く光る魔力の燐光を全身に纏い、自らを一本の矢と化すその一撃。


その矢は、アルベルトを確かに捉えた。


◇◇◇◆◆◆◇◇◇


「いやぁ~まさか当てられるとは思わなかった!」

酒を片手に、顔を真っ赤にしたアルベルトが楽しそうに笑い飛ばす。

その左腕と左肩には血の滲む包帯が巻かれており、明らかに無事ではない姿だった。


一矢報いた―――…


あの立ち合いで、手甲(ガントレット)で防がれはしたものの初めて有効打を与えることが出来た。

「でも結局は打ち据えられて気絶しちゃったぞ」

葡萄を絞ったジュースをちびちびと飲みながら、ショーンは悪態をつく。

その顔は、今までのどこか一歩引いたような顔とは違う朗らかな表情でもあった。

「ばっかやろ、手甲(ガントレット)ぶっ壊して肩を切り裂いたんだぞ?ちったぁ嬉しそうにしやがれ」

「オレは勝ちたかったの!」

「くはははっ!それならもっと強くならねぇとなぁ!」

大きな手がショーンの頭を鷲掴み、がしがしと撫でる。

ごつごつとしたその感触で少し痛いが、不思議と悪い気はしなかった。


「ほら、おとーさん!ご飯なんだからちょっと静かにしてっ!怪我人なんでしょ!」

鍋を抱えたリーンが声をあげる。


「まったく…ショーン、今度はちゃんと誰かもう一人は連れていくのよ?」

呆れた顔のジェシカが顔を覗き込む。


「アルベルトさんにここまで手傷を追わせたやつは中々いねぇよなぁ」

「ジェシカ団長の親父さんくらいか?」

「いや、お袋さんも滅茶苦茶強かったと思うが」

「ま、とにかく二人共無事でよかったですね」

「…そうだな」

団員の皆が思い思いに声をかけてくる。


「~~っ次は絶対に勝つからなっ!!」

「おう!いつでもこいや!くはははっ!!」






こうして、一つの冒険が幕を閉じ。

彼の冒険が、再び、幕を開けようとしている。

今度は、仲間達と共に。


この幻想世界を、征く。


◇◇◇◆◆◆◇◇◇

練習も兼ねた投稿でしたが、いかがだったでしょうか。

隻腕というギミックをあまり活かせなかったのが心残りですが、この作品は完結です。


また作品を書いた際には、よろしければご観覧ください。


ありがとうございました。


By.リーゼルエンジン

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