第5話転校生と蓮真の関係
なんとか本鈴が鳴ったと同時に俺のクラス、一年五組の教室へと転がり込むようにして入った。
ちなみに真美はというと、『遅刻はしたくないから……お兄ちゃんごめんね!』と俺に告げて先に学校へ行ってしまった。
「ぜぇ……はぁ、はぁ……なんとか、間に合った……痛っ」
その場に座り込んで息を整える俺の額に軽いデコピンがとんできた。
「こぉらっ、ギリギリ間に合ってはいるけどよくないよ新城君」
顔を上げると目の前にはぱっちりとした大きな目とその上にある二重のまぶた。小さな鼻に桜色の唇が綺麗な女の人だった。
この人は俺のクラスの担任、北里夏海先生だ。
一部の女子からはなっちゃんという愛称で呼ばれている。
「はい、すみません……」
そんな綺麗な先生に言い訳をすると周りにいる外野が何をしでかすか分からないと思った俺は素直に頭を下げた。
すると、北里先生は俺の頭に手を乗せた。思わず顔を上げると……
「でも、遅刻しちゃいけないと思って急いで来たのは先生評価するよっ」
そう言いぱちっとウィンクを決めた。うん、この先生美人だからウィンクも相当なものだな。
そんなことを考えているとふと、視線が色んなところから集中している事に気がついた。その対象はもちろん俺だ。しかもそれは決していい方ではない。
「おい和也! お前だけ先生といちゃいちゃするなんてずるいぞ! 早くこっちに来い!」
「はぁ……分かった分かった」
ちなみに、北里先生は今年この学校に就任した先生だ。それだけでも学校内である程度有名になるのに彼女はまだ二十歳という若さで更に美人で容姿も性格も抜群にいい。もはや羨望の的といっても過言ではないだろう。就任してまだ日は浅いのに女子からも男子からも好かれている。例えるならアイドルだろうか。
そしてそんな美人教師、北里先生は幸運な事に俺達のクラス一年五組の担任になり、俺達男子の間では抜け駆け禁止とか色んなルールが作られた。
といっても俺は別にあの先生に好意とか下心とか全くないんだけどな……
あ、ちなみに蓮真はもはや近づくなとまで言われている。悲しいものだが俺にとっては知ったことではない。
俺は自分の席である黒板から見て右側の後ろの窓から2番目の席に座った。
途端、前にいた蓮真が泣きついてきた。
「和也あぁ! 昨日めちゃくちゃ説教くらっちまったよおぉ! しかも女子からは『変態の蓮真』って呼ばれて軽蔑されるようになっちまったしよぉ……これなら前の強面の時の方が精神的によかったぞおぉ!」
本来ならこいつのことを慰めてやるところだが、こいつは昨日真美に告げ口をした張本人だ。そんなやつに慰めの言葉をかけるほど俺の心は広くない。
「おーそうかそうか、それは良かったなぁ。怖がれるんじゃなくて軽蔑されるか。別にいいんじゃないか? 俺は知らん」
「そんなあぁ!」
俺がバッサリ切り捨てると蓮真は一気に泣きそうな表情をし始めた。
「ぷっ、あはははは! 蓮真、どんまい。でも良かったじゃないか。怖がれなくて……ぷっ、変態の蓮真……」
「幹久! てめぇ!」
蓮真の隣の席で笑い転げる幹久に蓮真は羽交い締めを仕掛けていた。そんなむさ苦しい2人の様子を見ていた俺は思わずため息を漏らした。
「はぁ……朝からしんどいな。うん?」
誰かが俺の肩をつんつんとつつく感覚に右を向くと俺の隣の席にいる真美が俺に声をかけてきた。
「ギリギリ間に合ったみたいだねお兄ちゃん」
「まぁ、なんとかな……真美と香織が起こしてくれなかったら完璧に遅刻してたな。ありがとう」
俺がそう言うとお安い御用! と言わんばかりに拳をぐっとしてつきだしてきた。
「あ、それはそうとお兄ちゃん、お兄ちゃん」
「ん? どうした?」
「お兄ちゃんが来る前に北里先生が朝の連絡をしてたんだけどなんか今日このクラスに転校生が来るみたいだよ?」
え……? まじで?
そしてその時間はやってきた。といってもさっきの朝の連絡のすぐ後なんだけどな。今、この教室は物凄いざわざわとしている。
みんな男の子かな、それとも女の子かな? とか、イケメンかな、それとも美少女かな? とかそんなことばかりだ。
もしどちらにも当てはまらないおとなしめの子とかだったらどうすんだよ。いや、下手したらおとなしめの子ですらない可能性もあるんだけどな。
そんな俺の考えを知ってか知らずか蓮真は俺達に聞いてきた。
「転校生かぁ。なぁ和也、幹久、お前らはどっちだと思う?」
「美少女」
「何のこと?」
あれ? なんか会話が噛み合ってないような……
「幹久は美少女かぁ。あ、和也、俺が言ってるのは転校生がイケメンか美少女かってことだよ」
「美少女」
「早いな」
いや、これは即答だろ。なんでここでイケメンって言わなきゃいけねぇんだよ。イケメンがこのクラスに入ったところでなんの得もないじゃねぇか。ならここは選択の余地などない! びしょう……
気づくと、蓮真と幹久は目の前のものに恐れているような表情をしていた。どうやら俺の顔がどうとかではないようだ。不思議に思い、後ろを振り向くと……
「……へぇ〜お兄ちゃんそんなに転校生が美少女であってほしいんだ?」
ゴゴゴゴと俺の後ろでオーラを放つのは真美だった。何故か笑顔でめちゃくちゃ怖えぇ!
その時……。
「はーい皆さん! 席についてね〜今日は大事なお話がありまーす!」
いや、先生。もう転校生が来るの分かってますから……
ただ、そのおかげで真美は席につかざるおえなくなったので俺は心の中で『先生ありがとう!』と礼を言った。
「……ふんっ」
あれ? これってもしかしてただ俺の寿命が延びただけ?
そんなことを考えていると北里先生が教卓の上で両手をパンと叩いた。
「はーい皆さん! 静かにしてください〜。大事なお話というのは、なんと、今日私達のクラスに転校生がやって来ます!」
北里先生の言葉を期に場は一気に盛り上がりを見せ始めた。
「はーい、ではこっちに来てください〜」
北里先生に手招きされ、その転校生は教室の中へと入ってきた。
「初めまして。〇〇高校から転入してきました。月宮幸です」
くりっとした瞳に整った顔立ち。そして茶色のロングヘヤが似合う可愛らしいその子は誰もがすれ違えば一度は振り返ってしまいそうな容姿の女の子だった。
彼女がそう言い、お辞儀をした瞬間、教室が物凄いざわめきと化した。
「あの子可愛い!」
「うおーーーーー! まじで美少女じゃねぇか!?」
「燃えてきたあああぁ!」
「これはチャンスだ! 積極的に話しかけてやる!」
とかなんとかもうめちゃくちゃだ。そんな中、北里先生がなんとか声を振り絞る。
「月宮さんは小さい頃にもこの街に住んでいたことがあり、今回お父さんの転勤によって7年ぶりにこの街に帰ってしたそうですっ! みんな仲良くしてあげて下さいね! えーと席は……」
そう言い、キョロキョロとする先生だったが、やがて俺の後ろの席が空いていることに気がつくと月宮という女の子に言った。
「では月宮さん、新城君の後ろの席が空いてるからそこに座ってもらえる?」
「分かりました」
そう返事すると彼女は俺の後ろの席を目指してこちらに歩いてきた。
そんな中、幹久が俺の肩を叩く。
「ん? どうしたんだ幹久」
振り向くと幹久の表情は何故か険しかった。
「和也、蓮真の様子がおかしいぞ。いつものあいつなら新しい女の子を見るだけで『うおおおおぉ!! 今度こそあの子と仲良くなっていつか彼氏彼女になってリア充ライフを満喫するぞおおおおぉ!!』とかなんとか言って興奮するはずなのにそれがないんだよ」
「なんだとっ!?」
それを聞き、思わず前の席にいる蓮真を見た。すると……
「っ……」
なんと蓮真は口を開けたまま呆然としていたのだ。今頃幹久が言ったようなことをするはずの蓮真がだ。
そうしている間にも転校生の彼女はどんどんとこちらに近づいてくる。
だが、蓮真の席を通り過ぎようとした瞬間、何故かピタリと立ち止まった。
そして蓮真の方を向く。
「蓮ちゃん……久しぶりだね。これからはずっとこの街にいるからよろしくね、蓮ちゃん!」
そう言い蓮真に向かって手をさし出す彼女。
すると、彼女の声を聞いたからか呆然としていたあいつはようやく動き出した。
「お、おう……久しぶり。よろしく……月み……さっちゃん」
ぎこちなく答えて転校生と握手する蓮真。
……って、
『えぇーーーーーーーーーーー!?』
今度は俺や幹久、そして北里先生も含め、クラス全員が驚きのあまり思い切り叫んでいた。




