第3話友人の作戦に巻き込まれる
朝、目を覚ますととんでもないことになっていた。
俺の右足の太ももを見ると……。
「すぅ……すぅ……」
真美が俺の右太ももにしがみつくようにして寝ている。
そして今度は左足の太ももを見ると……。
「うぅん……和にぃ……」
香織が俺の左太ももにしがみつくようにして寝ている。
イッタイナンデスカコレハ。
するとその時、ドアノブを回す音が鳴り……。
「……あら? ふふっ、仲の良いことね。羨ましいわ」
母さんは頰に手を当てながらそう言うとぽっと顔を赤らめた。
そして何事もなかったかのようにまたドアを閉めたのだった。
「って、おい! 母さん! この状況何とかしてくれよ!」
だが、母さんが助けてくれることはなく、俺は妹達が起きるまでずっとじっとしていたのだった。
「……お前、それ惚気にしか聞こえないぞ? てかあんな可愛い妹と同じ屋根の下でしかも同じ布団で寝るとかなんだよそれ、一回死ね」
「ちくしょう! 俺も彼女作って和也みたいなことしたいいぃ!」
そう言い、俺に妬みの視線と羨望の眼差しを送るのは幹弘と蓮真だった。うん、こいつら馬鹿だな。
そんなことはさておき、俺達は現在クラスの教室の隅っこにてある作戦を立てていた。
といってもそれはいたって普通……どころかまともな作戦ですらなかった。そして、その作戦は3時間目の美術の授業が終わった後に実行された。
「おいおい……お前らまじでやるのか?」
そう言い、無人となった教室に置いてあるロッカーの前に立つのは俺、新城和也だ。
「何言ってんだ、当たり前だろ?」
「もちろんさぁ!」
そう言い、2つのロッカーの中で呆れ顔をするこのイケメンと鼻息を荒くしながらグッジョブをしているこの強面の男は幹弘と蓮真だった。
「お前らな……」
俺は思わずため息をつきながら改めて立てた作戦を思い出していた。
今のあいつらの行動でなんとなく分かるかもしれないがそう、俺達がしようとしていることはいわゆる『覗き』だった。
3時間目の授業である美術にて全員指定の教室へとむかうのだが、その間俺達の教室は無人となる。
その際、次の授業が体育でなおかつ、女子は教室、男子は違う教室で着替える為、男子は体操服の用意も同時に持っていくのだが俺達はそれをせずに美術の授業が終わった瞬間、教室へダッシュし、今2人が入っているロッカーに入り込み、隠れる。
そして、ほどなくして4時間目の授業で体操服に着替えるべく、教室へと戻って来た女子達の生着替えをロッカーの隙間にある穴から覗くという最低な作戦だった。
そんな俺の考えを読み取ったのか幹弘が俺の耳に囁いた。
「何怖気付いてるんだよ和也。今このロッカーに隠れればほどなくしてやってきた女子達の生着替えが見られるんだぞ? 嬉しくないのか?」
「うぐっ……」
俺とて男子だ。女子の生着替えが見たくないなど思うはずがなく、黙り込んでしまう。
そんな俺に対し、蓮真は俺の肩に手を置いて言った。
「和也、俺はもうリア充にならなくていい。俺は女子の生着替えを拝む、これでいい」
だめだこいつ。早くなんとかしないと手遅れに……
その時だった。
『でねー昨日の番組がさぁ……』
「「「っ!?」」」
それは、間違いなく同じクラスの女子達の声だった。
「よし! 女子が近づいてきたぞ! 早く隠れろ!」
そう言いいち早くロッカーの扉を閉める幹弘。
そして、
「わ、分かった! ……て、あれ? し、閉まらないっ……ふん!」
対して蓮真はロッカーの扉を閉めようとしたのだが、身体がでかすぎるせいか、ぎゅうぎゅう詰めでなかなか閉まらない。
「しゃあねぇな……よっと!」
俺はそんな蓮真のいるロッカーの扉を無理やり押し込んで閉めてやった。
そして俺も……
「……て、あれ? 俺はっ!?」
辺りを見渡すがロッカーは2つしかなく、しかもそのロッカーは2つとも中身入りだ。
「お前は……うん、お疲れ」
「お疲れ様、和也君」
こいつらは明らかにナメくさったような笑い声を漏らしていた。
どうやら見捨てられたようだ。くそっ、こいつらがそういうやつだってことすっかり忘れてた……
だが、このまま見つかって変態呼ばわりされるのだけは避けたい!
「何か隠れる場所……あった!」
俺は黒板の近くに3つほど置いてある大きなゴミ箱の後ろへと身を潜めた。
「はぁーーー! 疲れたぁ!」
「ねぇー疲れたよねぇ〜」
ほどなくして女子がこの教室に入ってきた。さぁ隠れんぼの始まりだ。
「……っ」
ガサガサっと衣服を脱ぐ音が俺の耳にストレートに入ってくる。だが俺は目を閉じつつ、背を向けているので何も見えていない。
いや、見ようとしなかったのだ。 あいつらにつられてしようとは思ったものの、同時に申し訳ないという思いが浮かび上がり、その結果申し訳ないという思いが勝ったのだ。
早く終わって出て行ってくれ。そう思ったその時、バキバキバキィ! という音が教室に鳴り響いた。
「え、何……きゃあああぁ!」
「こいつ、西強蓮真よ!」
「いやああああぁ! 変態! どっかいけ!」
「い、いや、みんな待ってくれ。これには深い事情が……ぐほっ」
一気に教室は阿鼻叫喚となり、耳をつんざくような騒ぎ声が響き渡る。辺りの言葉をなんとか拾う限り、どうやらロッカーが蓮真の肉の圧迫に耐えきれなくなったようだ。蓮真、またな。
その後、女の先生と思われる声が教室内に入り、蓮真の悲鳴と共にその声は遠ざかっていった。
女子達が全員体操服に着替え終えて教室から出ていってようやく俺はゴミ箱の奥から姿を現した。
「はぁ……まじ怖……」
「よう和也、生きてたか……」
俺の呟きに反応し、ロッカーの中から出てきたのは幹弘だった。その顔はなぜかどことなくやつれている気がする。
「どうした幹弘、お前少しやつれた顔してるぞ?」
「いやな……」
俺がそう聞くと幹弘は歯切れ悪く答えた。
「女子達さ……みんな制服の下に体操服着込んでてさ……パンツとかブラとか何も見えなかった」
「どんまい」
俺は励ますようにして幹弘の肩を叩いた。
その時、俺達の背後でドアが開く音がした。
「「えっ?」」
俺と幹弘は思わず後ろを振り向いた。そこには……
「お兄ちゃん……?」
セミロングの髪型をした黒い髪の少女が教室の入り口で目を見開いていた。
「ま、真美……」
驚きのあまりそれ以上何も言えない俺に対し、真美ははっと気がついた表情で俺の元に歩いてきた。
「こんなところで何してるの……? なんで着替えてないの……?」
ごもっともな疑問なおかつ謎の気迫により、俺達は正直に事の顛末を話すはめになった。
「……最っ底。変態、気持ち悪い」
「ごもっともです……」
真美の言葉に幹弘はなすすべもなかった。そして今度は俺に向き直り……
「お兄ちゃん……そんなに女の子の着替え覗きたかったの……?」
「いや……その……」
真美はそう言い、何故か今にも泣き出しそうな顔をしている。まずい、早くなんとかしなければ……
その時、元はと言えば俺はこの作戦に反対だったことを思い出し、その事を口にした。
「待てっ真美、違うんだ。俺は単にこいつらに無理やり付き合わされただけなんだ」
「おい和也」
「事実なんだからお前は黙れ」
すると真美は俺の言葉を信じたのか、泣きそうな表情が晴れた。
「……ほんと?」
「あぁ、ほんとだ」
「じゃあ今日も一緒に寝てくれる……?」
ん? なんか少し話が逸れたぞ。
そう思いつつも俺は答えた。
「あ、あぁもちろんだ」
「やった! じゃあ香織ちゃんも一緒に……」
キーンコーンカーンコーン……
「「「あっ……」」」
授業開始のチャイムが鳴り、俺と真美と幹弘は遅刻するのであった。
あ、ついでに先生に連行されていったあいつもな。




