第21話お掃除パニック
月は8月を迎え、それでも夏の日差しがまだまだ厳しい中、俺はある危機に瀕していた。
「お兄ちゃん! これ、どういうこと!?」
顔を真っ赤にしながらある物を俺の前につき出して怒る真美。その手には現在アメリカにいる父さんの部屋からこっそりとパクってきた世間でいうエロ本が握られていた。
「っ!? あっ、いや……それは」
話は朝に遡る。夏休みを理由に家で1日中寝たりゲームしたりと、だらだらとくつろいでいた俺、真美、香織はそんな情けない俺達を見てしびれをきらしたのか母さんに怒られた。
「3人とも! もう小さな子供じゃないんだからそんなだらしない生活を送るんじゃなくてもっと規則正しい生活をしなさい!」と。
それでもなかなか動かない俺達に母さんは自分達の部屋の掃除を命じたのだ。
母さん曰く、どうせ盆前までには掃除をしようと思っていたからいい機会よね、だそうだ。
とりあえずそれぞれ自分達の部屋を掃除することになったのだが、真美と香織は2人で一部屋、対して俺は1人で一部屋であるため当然、掃除が終わるのも妹達の方が早い。
「和にぃ、こっちもう終わったからそっち手伝おっか?」
香織の提案により、俺は2人に手伝ってもらうことになったのだがそれがまずかった。なにせベッドの下には父さんからパクったエロ本があったからだ。普通なら先に隠すのだが、あいにく俺はその本の存在を完全に忘れていた。あっ自分で買いに行くのは度胸がないのと恥ずかしいだけですはい。
そしてエロ本は真美がベッドの下を掃除した際に引きずり出され、今に至るというわけだ!
「あーそれはだな……? 俺のじゃなくて、そう! 父さんの物なんだ! いやぁ〜なんでこんなところにあるんだろうなーあはは……」
父さん、ごめん。問い詰められている可哀想な息子のために罪を被ってくれ。
「あー、なるほどね。お父さんが不在なのをいいことにお父さんの本を和にぃが自分の部屋に持ってきちゃったんだね」
「あっ! ばかっ! それを言う……」
そう言い納得する香織。頼むからそれを声に出さないでくれって!
「お兄〜ちゃん……?」
ゴゴゴゴゴと炎のオーラを出しながら俺に近づいてくる真美。てか、なんで俺は義妹に怒られなきゃいけないんだ!?
「わー! まてまてまて! 俺が悪かったから! もうこんなことしないから!」
「……ほんと?」
「ほんとだって! その本も父さんのタンスに戻すから」
「……分かった。今回だけは見逃してあげる」
真美は炎のオーラを沈ませると俺に例の本を手渡した。俺は瞬時に父さんの部屋に入り、タンスの奥深くに突っ込んだ。
日も沈んできた頃、俺の部屋の掃除も無事? 終わり、香織が話しかけてきた。
「和にぃも大変だねぇ」
クスクスと笑う香織。
「……誰のせいだよ」
「そりゃあお父さんの部屋から持ち出した和にぃが悪いでしょ」
「うっ……だよな……」
確かにあれは俺が悪かった。だけどそこまで怒らなくてもなぁ……
ちなみに真美は疲れたのか一階のリビングで寝ている。それを知ってか香織は思いもよらない発言をする。
「和にぃには将来そういうことする相手がいるからいいじゃん」
「……はい?」
え!? 俺には将来そういうことする相手がいるの!? そんなこと聞いたことないんですけど!?
「……って、お前また俺をからかってるだろ」
と、いつも通りつっこむ。だが香織は頷かなかった。
「どうだろうね〜?」
何故かはぐらかす香織。
はぁ……こいつとのやりとりにはほんと体力消耗するな……一つのやりとりに一本栄養ドリンクが必要になりそうだ。
と、その時。
「きゃああああぁ!」
突然一階から真美の悲鳴が聞こえた。
「えっ、何々?」
「わからん。とりあえず降りてみるぞ」
俺と香織は階段を降り、声がしたリビングへと向かった。
「真美〜どうし……た!?」
リビングに入った次の瞬間、真美が俺に抱きついてきたのだ。ほのかな香りが鼻腔をくすぐる。
「何があったんだ?」
「あれ……とって」
真美が震えながら白い壁を指差す。そこには全家庭の天敵とも言われるであろうGがはりついていた。
「あ〜なるほどな。分かった、ちょっと待ってろ」
俺はティッシュを手に掴むと、全身黒い身体のGをそっと押さえ込んだ。そのままベランダの方へと向かい、扉を開けて逃がしてやった。
「ほら、もう大丈夫だぞ」
「うぅ……お兄ちゃんありがと」
「なぁに、あんなの蜘蛛に比べたらよっぽどマシだ」
ちなみにいうと俺は虫の中で蜘蛛が大の苦手だ。あの8本の足と尻から出る糸とピョンピョン飛び跳ね回るのが特に嫌いだ。それならまだGの方がマシだと思えるほどに。
「にしても和にぃ、これはひょっとしたら一階の部屋全部掃除した方がいいかも」
「……そうだな」
Gが一匹出現した以上つがいってやつがいる可能性が高いからな。一度全部掃除するのがベストだろう。だけど……
「面倒くさいな……」
「私も……」
「このことはお母さんには内緒に……」
「明日この家全部掃除するわよ」
「「「っ!?」」」
リビングの入り口の方を振り向くとそこには仕事から帰ってきた母さんが目を光らせながら立っていた。
俺達の明日はどうやら掃除の1日で潰されそうです……
「……っ」
「詩帆、どうした?」
「……なんでもないよお父さん」
「そうか。なんかあんまり元気がないように見えてな。何かあったらすぐに父さんに言えよ?」
「……うん」
あの一件から私とお父さんの仲は元に戻り、ゲームも毎日……ほどほどにやっていた。
だけど……
「……んーなんだろう」
少し前、みんなで海に行ったあの日からなんだか私の様子がちょっとおかしい気がした。
具体的にいうとカズにあの言葉を言われてからだ。
『可愛いんだからさ』
「……うぅ」
あの時の自分を思い出し、恥ずかしくなった私は枕に顔をうずめた。
なんていうかあの時、心がきゅんってしたんだよね……なんでだろう?
私はこの時、これがなんなのかまだ気づいていなかった。




