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EACH STORY

「…………ごめん」


 自分は持ってきておいた一升瓶の蓋を抜き、それを目の前にかける。白く被ったそれに染み入り、灰色に近い色が濃く染められた。

 景色一面真っ白だった。目の前を羽みたく舞って、積もっていく。手を延ばせば簡単にそこに当たって熱を奪い去る。もはや冷たいとも感じない。コートの首らへんをボタンで留めた。風の入り込む余地が減り、中が温まる。


「悪かったな、かおる……。約束……、果たせなかった」


 二月九日、美浦は未だに見つけられない。わずかな情報を便りに駆け付けても、既に足跡を消していた。それが何回も繰り返され、ここに至る。一部の噂では美浦はもう死んでいたりとか、世界中を駆け巡っているとか……。噂が噂を呼び、遂には本当に生きているのかさえわからなくなってしまった。

 たとえどちらにしても、彼との約束を破るわけにはいかない。


「……刑事……さん……」


「…………」


 声のする方へ振り返る。そこには見慣れた人が座っていた。微かに白に包まれる中、母親に押してもらい、自分の前まで来てくれた。そこで挨拶を交わした。


「……誰の……ですか? 流さんのは別の所ですが……」


「……あぁ、これかい?」


 一升瓶を傍らに置いた。


「友人だよ。この職業柄、どうしても殉職してしまうのもいる……」


 風が悪戯に髪を撫でた。彼女のはその方向に緩やかに揺れる。粒々と白を染めていた。

 それを機に、母親は席を外してくれた。会釈して背中を見送る。


「……それより、君の方はどうだい? 具合……」


「はい、まだ少し悪いです……」


「それなのに来たのかい?」


「ずっと中に缶詰されるほうが気が滅入ります。外の空気を吸いたいんです」


「確かにね。でも無理はしないでくれよ」


 彼女も壊れかけていた。目の前であっという間の惨劇が繰り広げられたのだ。まともなのがおかしい。


「わかってますよ」


 でも、彼らのおかげで確実に快方に向かっている。矛盾しているが、陸奥実君がいてくれたら、もっとよくなっているだろう。

 彼女は遠くを眺めた。


「……雪、綺麗ですね」


「……あぁ。小さい頃、よく友達と雪合戦したよ」


「面白いですよね、雪合戦。雪に石とか詰めて遊びました。神経使うんですよね……」


「……それはね……」


 上に積もった雪を丸くして渡してくれた。ひんやりとしていた。それをどこでもないどこかに投げた。放物線を描いて白に飲み込まれた。彼女は漏らし笑いを隠していた。

 そして止んだ。

 自分は空を見上げた。真っ白とは言えない雲が果てまで覆い尽くしている。


「雪って不思議だ……」


 思わず零れた。


「……? どうしてですか?」


 それを拾い上げてくれた。


「おんなじ雲からなのに、雨だと落ち込むけど、雪だとそうでもない。どちらも元を辿れば水からできてるのに……」


「……」


 彼女も見上げた。


「雪、好きなんですか?」


「……ちょっとだけ」


 照れ臭かった。

 ふっと、目に雪が入りそうになって瞼を閉じた。そこに触れるやいなや、水となって伝っていく。……一瞬それに促されそうになる。


「……」


 けど、我慢した。


「……新戸さん……」


「どうした?」


 慌てて目を擦る。


「雨は神様が流した涙とか恵みとかって表現されますよね……?」


「……うーん、ないことはないね」


「じゃあ雪は神様の何なのでしょう……」






「…………」


「……」



……



「……」


 自分は地面に積もる雪の上辺部分を手に取り、放置した。その部分を中心に感覚がさらに鋭敏に働く。少しして水滴が生まれた。それを垂らす。

 それをじっと見つめていた。


「……」


「雪は溶ければ雨になる。けど、同じじゃない。……自分は懺悔だと思うよ」


「“懺悔”……?」


 残った雪をそこら辺に捨てた。


「天気は気まぐれだから、期待を裏切った償いみたいな感じで降らせてくれる。……雪が嫌いな人は、学校を休みにしてくれるから……とか……」


「うふふ……。そういう風に考えられませんでした。詩人ですね」


「いや、かっこつけたわけじゃないよ」


 願わくば、誰にもこれを教えてほしくはない。恥ずかしい。今更ほんのちょっとだけ後悔した。

 肩や頭に積もった雪を払い落とす。


「……そろそろ帰ろうか」


「……はい」


 どことなく、力が戻ったような気がした。

 彼女の車椅子をゆっくり押していく。後ろを向くと、二本の跡が一つの墓に真っすぐ延びていた。途中に、方向転換した際に残ったぐしゃぐしゃな跡がある。名残惜しむように向き直ると、彼女の恵みか懺悔かわからない水滴が頬を流れ落ちるのが見えた。

 自分は彼女の母親のいるところへ行った。見なかった事にして。





[――へ

 今回の件ですが、ちょっとした関連性があるのが調べ回ってわかりました。それは――さんと直接お会いしてから話す予定でしたが、思わぬ事故が起こったので送らせていただきました。

 一、彼らは何かしらの大きな事故や病気を起こしています。下記を参照してください。


陸奥実 流……交通事故(九月十六日)

美浦 陽……遭難事故(二月七日)

岡本 和美……脳梗塞(八月下旬)


 二、いずれも――病院で治療を受け、見事に回復。後遺症もなく元気に過ごしていたようです。

 三、全員自分の誕生日に亡くなっています。陸奥実は人身事故、美浦は撲殺、岡本は刺殺です。これは完全に“例の物”と関係しています。

 四、その“例の物”ですが、身元から発見されませんでした。自宅も洗ったのですが、いずれも消失しています。


 P.S 個人的には美浦が犯人だと思うのですが、どう思いますか? 今度会った時に飯でも食いながら話しましょう。それではまた。


 二月十六日]


「……そんなことはわかりきってます。問題なのは、どうして星さんまで自殺したのかということです。……はい、……はい……、そうです。美浦の誕生日の次の日にです。…………。……そういうことになりますね。星さんは“手紙”の関係者だと僕は思います。………………。実は、彼の家にお邪魔した時、手紙を発見したんです。ところが、何も書いてありませんでした。それを彼に見せ付けると驚愕した顔を見せました。つまり……」



……“手紙”は対象者しか見れない



「……ということが言えるでしょう。“別の手紙”も同様でしたし。……えぇ……多分……。……気になります。それがわかれば糸口が見えるかもしれません……。…………。はい、わかりました。僕の話を聞いてくれてありがとうございました。それでは失礼します……」



……プチッ



「……陸奥実君……」






「大事かなぁ……真乃やん……」


「……心配すんなよ。今はそっとした方があいつのためだと思うぜぃ」


「……あっ、あんさん、やり過ぎや! 休憩挟まんと!」


「あ? ……っと、……ふぅーっ!」


「それにしてもさすが、陸上馬鹿やな……。ほな、飲みもん」


「……サンキュ……。助かるぜ……ぃ」


「…………」


「……ん?」


「……」


「どうした? オレの顔がカッコイイのか?」


「ちゃうわっ! 絶対!」


「そう照れるなよ。知ってっから」


「……羨ましい」


「……シカト? ……? 羨ましい?」


「私はいっぱい迷ったり悩んだりしてるのに、あなたはいつも真っ直ぐ。左右されず、自分の決めたことは決して曲げない。そんな単純さが羨ましい……」



…………



……



「……おいおい」


「……」


「オレが単細胞だって言ってんのかよ……。悩みくらいあるぞ……」


「……どんな?」


「……恥ずかしくて言えるか」


「……」


「……はぁ……。いいか、奈多弓……」


「?」


「お前の悩み事はどんなんかは知らん。だがな、たとえシャーペンをどれにするかっつう小さい事でも、誰かの人生に関わるくらいでけぇ事でも、中身はどれでも同じなんだぜぃ」


「……」


「諦めずに悩み抜いて動けたかどうかなんだ」


「……じゃあ後者の悩み事だったらどうするの……?」


「…………?」


「それも繰り返しできなくて袋小路だったらどうしろっていうの……!」


「…………」


「過ぎ去った時間をどうしたら変えられるのっ!」


「……」


「ねぇ! 教えてよっ!」


「駄目だな」


「……えっ……?」


「…………」


「何言って……」


「奈多弓、お前は悩み抜いてねぇ。それどころかスタンバイすらしてねぇ」


「……そ、そんなことない! 私はずっと考えてきた……。それが……」


「だってそれなら、オレらに相談するじゃねぇか……!」


「……!」


「……」


「……とおやん……、ぅっっうぅぅ……」






ピンポーン……



……



ガチャンッ!



「どちら様……?」


「美浦 陽さん……だよね」


「……?」


「よくもやってくれたね」


「……!」


「殺してあげる。十一時五十九分、今すぐ」


「ちょっとまちな……」



ガスッ!



「あぁっ!」



ドゴっ!



…………



……



メキィッグシャア、ベキャゴボッボキァドゴォボキィッ! グチャッグチャッグチャッグチャッグチャッグチャッグチャッグチャッグチャッグチャッグチャッグチャッ…………






 目の前の真実はきっと嘘。遠くある嘘は嘘。近くにあっても嘘。真実だった真実が嘘だった。真実はどこにもない。あるとしても嘘で固められちゃう。そうなるのをあなたは捩曲げたかった。どうしてこうなってしまったの? あなたは、いきたかったんじゃないの? どうして助けたの? あなたは間違いを犯した。でも、それは殺めたことでも疑ったことでもない。それは、嘘を探さなかったことなのかもね。……ってもう遅いか。劇は既に終了しちゃったし……。後は立ち去るのみ。はい、さようなら……また見に行けたら行く。


※ここは水霧のあとがきではなく、当時の “レルリク様”のあとがきです。


 今までお読みいただきありがとうございました。おかげでこの小説を書き終えることが出来ました。そして、稚拙な内容と読みにくい文章ですみませんでした。内容はさておき、実は文章は読みにくいようにしたのです(負け犬の遠吠え)! さらに、よくわからない推理系ファンタジー小説になりましたが、オチは決めておりません! さて、もしかしたら次回作は遅くなるかもしれません。私事に忙しすぎて手に負えない状況にあるのです。なので、ご了承ください。 最後に、小説って楽しいんですね。小説をいじれるのが面白いんです。自分で言うのもなんですが、暇があったら試してみてください。自分も初めてでしたから……。 それではまたどこかで。


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