第7話 終結
この剣、凄い威力の斬撃を飛ばせるんだな。雲を吹き飛ばすなんて、どれくらいの威力なのか測りしれないぞ?
身体能力の上昇も破格すぎる。これが世力、それも戦闘系の恩恵か。これだけ、覚醒前後で能力の変化が生じるなら、世力が未来を決定づけるって言うのも仕方ない話だ。
今なら、誰にも負けない気がする。上級魔物でもどんとこいだ。
ゴオォォォォォ
「ん? なんだ?」
異音と熱風に気付き、東門の方を見ると、防壁を越える高さの灼熱の巨石が見えた。
「いやいやいやいや、何あれ? あんな質量が落ちてきたら町終わるくない?」
あまりにも巨大すぎる圧倒的な存在に現実が受け入れられない。
あんなの、ルクス・カリバーでも一部しか消し飛ばせないぞ。どうしたらいい。
俺が悩んでいる内に、灼熱の巨石は地面に向かって落ち始めた。徐々に速度を上げる巨石はこの世の終わりを告げる審判者のように見える。
直接町に落ちるわけじゃないなら、落下の衝撃に対して、斬撃を放てば被害を減らせるか?
「やるしかない」
覚悟を決め、聖剣に再度力を込める。タイミングを間違えるわけにはいかない。
聖剣の輝きが増したところで、世界から急に音が消える。
「ん? 何があった?」
遠目だから、正確にはわからないが、巨石が停止したようにも見える?
空中で停止したように見えた巨石に徐々に亀裂が入り始めた。亀裂はだんだんと大きくなり、最終的に轟音と共に弾け飛んだ。
「え? 嘘だろ?」
爆発の余波で、東門側の防壁に罅が入ったが、むしろその程度の被害で済んだのが奇跡だ。
「状況的にあの巨大な大岩は魔族の仕業として、ぶち壊したのは……まさか、母さん?」
この町で、あんなことができる可能性があるのは母さんくらいだ。
「うん、覚醒して強くなったと思ったけど、母さんには絶対に逆らわないでおこう」
危ない危ない、調子に乗るところだった。
――――――
「アイ、終わったぞ」
教会の中に戻るとアイが心配そうな顔で駆け寄ってくる。
「とても大きな音がしたけど、大丈夫?」
「大丈夫だよ、町の中の魔物は倒したし。あの音は恐らく母さんの仕業だ」
「アルスのお母さんが? 納得できてしまうのが怖いところね」
母さんの規格外さはこの町では共通認識だからな。
けど、母さんが戦ってる相手もあれ程の規模で攻撃が行えるとなると、相当強い相手ってことになる。東門の戦況はどうなってるんだろうか。
俺が東門の状況を気にしていると、町に音が響き渡った。
カーン、カーン、カーン、カーン、カーン、カーン
「!? 6回の警鐘! どうやら、危機は去ったみたいだな」
「そのようね。アルスもユナとお父さんが心配してるんじゃないかしら? ここは大丈夫だから戻ってあげて」
「そうだな。教会に怪我人がいることは父さんにも伝えるよ。こんな状況だからすぐに人手が回せるかはわからないけど……」
「ありがとう。でも、大丈夫。頭を打った人も意識は戻っているし、私と神父様で十分対応可能よ」
「わかった。けど、何かあれば衛兵本部まで知らせてくれ」
「わかったわ」
治療の心得のない俺ではこの場にいても役に立たない。父さんに現状を報告しに行こう。
――――――
衛兵本部まで急いで戻ると、本部前ではユナが泣きそうな顔で立っていた。
「ユナ戻ったぞ。そんな顔してどうした?」
「!? にぃに! よかった、すごく大きな音もしたし、何かあったんじゃないかって……」
「ごめん、心配かけたな。どこも怪我してないし、アイも無事だったよ。教会に怪我人がいるからこっちには連れてこれなかったけど」
「そうなんだ、二人とも無事でよかった……あれ? にぃに、その剣は何?」
「あぁ、これか? ……ふふふ、聞いて驚け! なんとこれは聖剣なんだ!」
黙っていてもバレることだし、嘘偽りなくドヤ顔でユナに伝えるとさっきまでの泣き顔が嘘みたいに白けた顔となる。
「にぃに? こんな時だよ? 妄想も程々にしとこう?」
「え? いや、これは妄想でも何でもなくて……」
「うんうん、そうだね〜、聖剣だね〜、かっこいいでちゅね〜」
くっ、一切、これっぽっちも信じてない顔してる!? 日頃の行いか!? 日頃の行いが悪いのか!?
てか、さっきまで泣きながら心配してくれてたのに、そこから馬鹿にするまでの切り替え早すぎない?
「アルス、戻っていたんだね。急にいなくなっていたから心配したよ」
衛兵本部内から父さんが出てきて声をかけてきた。
どうやらかなり心配かけたみたいだ。急いでたから父さんには声をかけなかったからな。
「何も言わずに行動してごめん」
「言いたいことはあるけど、今は無事に帰ってきてくれてよかった」
「父さん……後でしっかり説教は受けるよ。けど、先に必要なことだけ伝えておくね」
「なんだい?」
「避難中に怪我をした人が教会に数人いるんだ。今はアイと神父様が見てるけど、頭を打った人もいて移動できないみたい」
「うん、わかった。先程、王都からの使者も到着して、少しなら人手も回せるから、伝えておくよ」
「ありがとう」
よし、これでアイの方は大丈夫だな。
「僕からも聞きたいことがあるんだけどいいかい?」
「どうしたの?」
「少し前に教会付近から光の斬撃のようなものが空に向かって飛んでいったって報告を受けたんだけど、アルスは何か知っているかい?」
流石に見られてたか。あれだけ目立ってたもんな。
隠しても、いずれわかることだし正直に言うか。
「あれは、俺がこの聖剣でやったことだよ」
「にぃに、まだ言ってるの?」
「……いや、もしかして覚醒したのかい?」
「うん、世力『勇者』って頭には浮かんだ」
「え? にぃに、嘘だよね? 『勇者』なんて」
「俺も半信半疑だけど、本当だよ」
「そうか、まさか『勇者』に覚醒するとは……この件は王都にも報告しなければいけない。町がある程度落ち着いたら領主邸で、今回の襲撃について報告するから、アルスも着いておいで」
「……わかった」
父さんもユナも不安そうな顔だ。そりゃそうだろうな、500年前の英雄と同じとはいえ、今までの生活は送れなくなるのは確定してるんだ。『剣聖』に覚醒したキースが同じ状況なんだから。
「あれ? にぃに、剣が変だよ?」
ユナに指摘されて、手元を見ると剣が光の粒子となって俺の身体に吸い込まれていった。
「……ユナ、ところで俺の聖剣はどこにやったっけ?」
「……その言葉が現実になるとは思ってなかったよ」




