32 称賛
しばらくして、予選終了を知らせる鐘の音が聞こえてきた。
それはそれとして、とどまってブラック・ベアを探していたバッツは、やってきた審査員に囲まれていた。
最初はひとりだったのだが、時間が経つと複数の審査員が現れ、気づけば四方から追い詰められていたのだ。
「もう予選の時間は終わりましたよ!」
どうするか。
無理に突破し、森に潜むか。
そう思ったが、気づいた。
予選参加者が手首に巻くことになっているヒモ。これが魔力かなにかを発していて、審査員は読み取ることができるようだ。もう遅いが。
バッツは両サイドに審査員が乗った状態で、馬車に乗った。
「もうすこし信用してくださいよ」
逃げたりするものか。ただうろついていたいだけだ。
しかし、結局無言の馬車で王都にもどった。
バッツが一番最後だったようだ。馬車乗り場にはたくさんの馬車が集まっていた。
「おつかれさまです」
バッツは審査員に頭を下げて、宿のほうへ歩きかけた。
「おいおい、どこ行くんだ。広場に行きなよ」
審査員が言った。
「広場?」
「そうだよ。じゃなきゃ終われないだろう」
「終われない?」
彼らがなにを言っているのか、いまいちわからない。
見かねた二人は、やれやれと言いたげに視線を合わせると、バッツの腕を左右から抱えて歩き始める。
「ちょ、ちょっと!?」
審査員と言っても一般人とはちがう。
こんな体勢になってからでは抵抗できなかった。
初めて歩く道だ。
英雄学校や宿、商店などがならぶ場所だったが広場は居住者の区画に近い。
広場にはステージがあり、そこにならんでいる画面の裏側が見えたが、バッツにはそれがなんなのかはわからなかった。
ステージ上には20人ほどの男女がいる。いや、とバッツは数えた。25人だ。
「お、やってきました、最後の予選通過者、バッツ君です!」
まだステージにあがる前に見つけたヤーヤーが声をあげると、上からスポットライトに照らされた。客席が拍手と歓声で応える。
反射的に足を止め、迷惑そうにしていたバッツだったが、横の二人はなにも文句は言わせないとばかりに、両脇からバッツの腕を抱えると、前進した。
横の階段からステージに上がると、やっとバッツは開放された。
ダジュやアースラ、と見ていって、タッパたちを見つけたので、バッツは急いでそこに滑り込む。しかしスポットライトが消えておらず、周囲の人垣は、自然とバッツだけが光に当たるように左右に割れた。
バッツは、まぶしさに手をかざす。
「いやあバッツ君、たったひとりで素晴らしい! わたし、本当に驚きましたよ。まさか、ブラック・ベアをあんな方法で倒すなんてねえみなさん! どうでした?」
ヤーヤーが言うと、歓声があがった。
「バッツ君もどう?」
「あ、ブラック・ベアが大きくて驚きました」
「またまた。なんでもない感じでバッタバッタと!」
「え? 見ていたんですか?」
「そうですこの大画面で!」
バッツは振り返ったが、画面はいま、ステージ上の様子を移すだけだった。その事自体には驚いたが、よくわからない。
「そうだ、爪! 見せてもらえます?」
「はあ」
バッツはポケットから、ジャラジャラと爪を出してヤーヤーに渡すと、ヤーヤーはあわてて、すこし腰をかがめるように受け取った。
「ちょ、ちょちょ、貴重品ですよ! 誰か!」
係員が急いでやってくると、何事か裏手に呼びかける。
それから、箱を抱えた係員がやってきた。中にはふわふわの、わたのようなものが敷き詰められている。
そこに係員が慎重に、大きなブラック・ベアの爪をおさめていった。
「いやいや、豪快ですね! こうして見てるとふつうの学生さんなんですけど。どうです? 優勝に向かって不安材料一切なし!?」
「死ぬかもしれないと思いました」
バッツが言うと、どっ、と客席から笑い声が起きた。
ヤーヤーも笑っている。
なにがおかしいのか。
いままでで一番、死に近づいた。
そこに恐怖もあった。だがそれ以上に、安心感もあった。
あんな状態になってもまだ死なない、ということだ。
「いやー、笑いのセンスもあるようだ」
「そんなことはなくて……」
「誰があなたを見て死にそうなんて思うんですか! さあ、これで明日の決勝のメンバーはすべてそろいました! 英雄学校の雄! 現役兵士! そして突撃君! さらにとんでもない伏兵! それ以外の勝者が現れるのか、はたして明日の決勝はどうなるのか! どうなると思いますバッツ君」
ヤーヤーが、最後の言葉をバッツに求める。
「決勝はなにをするんですか?」
バッツが言うと、一番の笑い声が起きた。




