第29話 脱走開始
何だかよくわからないけど突然、牢の天井が崩れ落ちてきた。
降り注ぐ大きながれきを、慌てて壁際に移動して避ける。落ちてきたがれきに危うくつぶされそうになったけど、牢の鉄格子がつっかえ棒になったおかげで何とか無事だった。
そうしてがれきの雨が一段落したころ、上を見上げてみれば、がれきとなった天井の隙間から久しぶりの青空が見えた。その眩しさに、思わず目を細める。
……よくよく見たら、空に何かいるな。なんとなく鳥ではなさそうだけど、遠すぎてよく見えない。まあいいか。
何があったのかは全く分からないけれど、とにかく逃げよう。
牢番もこの騒動のどさくさに紛れて、すでにどこかに逃げ出したみたいだ。つまり、周囲には誰もいない。
「……今しかない」
逃げないと。今逃げなければ、また捕まって今度こそ殺されるだけだ。
私はがれきをよじ登り、牢の天井だった場所に足をかけた。運動不足の身体が悲鳴を上げたが、そんなことを言っている場合ではない。
牢があった建物の天井に立つと、ビュウッと涼しい風が吹き抜けて髪を揺らした。
ああ、久しぶりの外だ。
時間がないのは百も承知だが、私は深く息を吸い込んだ。砂埃まみれの空気が肺を満たしたけれど、牢の中の淀みきった空気よりずっと美味しかった。
そもまま辺りを見回す。私が今立っている建物は、そのほとんどが崩れてがれきの山になっていた。
こんなことになっていたのか。私、よく無事だったな……
誰かに見つかるとまずいから、あんまり開けた場所にいない方がいいのかな。でも、周囲に人の気配は全くない。他の衛兵や使用人たちも、みんなすでに逃げ出した後らしい。
一番人が集まっていそうで、人の目がありそうな王宮の方を見た。
王宮の壁にも大きくひびが入っており、その一部は崩れている。これはかなり大事になっているようだ。私が閉じ込められている間に謀反でもあったんだろうか。
そう考えつつ眺めていると、突然空から巨大なドラゴンが急降下してきて、王宮の塔の一つへ頭から突っ込んだ。あっという間に塔は真ん中から真っ二つになり、ドラゴンは何事もなかったかのように空へ戻っていった。
……わあ、ドラゴンだ。すごい。ファンタジーの世界みたいだなぁ。
——なんて現実逃避をしている場合ではない。逃げないと。
なんでドラゴンなんてものがここにいて、しかも王宮を破壊しているのかは分からないが、あんなのに見つかったらひとたまりもない。
私は王宮の敷地を掃除していたときの記憶をたどり、裏門を目指して一目散に走り出した。




