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第16話 流れ作業

「転移者様。本日はバレノール伯爵家のフィリウス様、サルメア子爵家のエドガー様、ファルナ子爵家のカイル様がいらっしゃいます」

「またですか……」


 まただ。


 最近、やっとあの贈り物攻勢が一段落した。……のだが、なぜか今度は直接会いに来るようになってしまった。まったく、肩の力を抜く暇もない。

 ここ数日は、転移者に会いたいという貴族の人がしょっちゅう王宮を訪れては、私が面会をする日々が続いている。


 ちなみに、誰も来ない日や空いた時間はもちろん仕事をしている。最近はありがたいことに、庭園だけではなくお城のいろんな場所の掃除をさせてもらえるようになった。

 当然、入ってはいけないところはたくさんあるようだけれど、それ以外のあまり重要ではない場所、例えば使用人さん用の通路とか、あんまり使われてなさそうな倉庫だとか、そういう場所の掃除を任されている。

 だが、今日は掃除をする時間はなさそうだ。


 話を戻そう。今日も貴族の人が来るらしい。

 それなら急いで支度をしなくては、と考える間もなくソフィアさんがもう私の支度をスタートしていた。さすが、仕事が早い。

 ソフィアさんのおかげで支度は爆速で終わり、動きづらいドレスに四苦八苦しながら応接間に移動する。


「転移者様。バレノール伯爵家のフィリウス様がお見えです」

「わかりました。ご案内をお願いします」


 さっそく一人目が来たようだ。


「初めまして、転移者様。バレノール家が嫡男、フィリウスと申します。本日はお時間を賜り光栄です」


 もう何人もこんな風にして会ったが、流れは毎回一緒だ。


 ①まず、私が贈り物のお礼を言う。(贈り物の内容はソフィアさんに確認済みだ)


「立花こころと申します。フィリウス様、この前は素敵なネックレスをありがとうございました」

「おぉ! 気に入っていただけましたか」

「はいとても。あんなに素敵なネックレスは初めて見ました」

「転移者様にそのように言っていただけるとは、光栄でございます。しかし転移者様の眩いほどの輝きの前ではどのような宝石もかすんでしまいますな!」


 ②ご機嫌取りが始まる。


「はぁ。ありがとうございます」

「転移者様は本当に美しく神秘的で、一目見たときから私は——」


 これがものすごく長いので、九割聞き流しつつもいい感じに相槌だけは入れていく。


「——それで、転移者様は一体どのようなスキルをお持ちなのですか?」


 ③スキルを聞かれる


「すみませんが、私は何のスキルも持ってないんです」

「そうおっしゃらず! 私たちの仲ではありませんか!」


 初対面ですよね? なんて貴族相手に言うわけにもいかず、しばらく『スキル教えて』『ないよ』のループを繰り返す。

 五、六回も繰り返せば、ようやく私が話す気がないと悟ってくれる。

 

「……そこまでおっしゃるのであれば仕方ありませんね。出直すとしましょう」


 ④帰る


 やっと帰ってくれた……長かった……


 応接間の扉が閉じられるバタンという音を聞き、私はソファのひじ掛けにだらりともたれかかった。


 さて、次の人がいつ来るのかは分からないけど、来るまでの時間は休憩だ。ずっと座っているのも逆に疲れるし、近くの廊下をふらふらしようかな。


 そうしていつまでたっても着慣れないドレスを引きずるようにして、護衛騎士たちを連れて廊下を徘徊する。

 こういう時の息抜きというか、暇つぶしの手段が限られるのがこの世界の難点だよなぁ。


「転移者様ではありませんか!」


 あ、まずい。なんか見つかってしまった。


 見るからに貴族、といった服装の男が私を見つけて駆け寄ってきた。その声で、どこからか現れた他の貴族たちもわらわらと集まってきて、あっという間に囲まれてしまった。


「噂通りの美しさだ!」

「今お時間はありますでしょうか!? 私と劇でも——」

「こんなところで偶然ですね! これからどちらに!?」


 絶対偶然ではないでしょ。この辺りには私の部屋しかないんだから。会議室みたいな、人が集まる場所は全部別の階だよ。


 そんなことより、今日会う人ってどれとどれ!? そもそもこの中にいるのか!?

 私が混乱している間にも、いつも通りの大量のお世辞、そしていつも通りのあの質問が繰り返される。


 本当に、どうしたら信じてもらえるんだろう。

 答えは見つからないまま、遠くを見た。


 話していて分かったが、この貴族の群れの中に今日会う予定だった人は二人ともいるらしい。しばらく中身のない会話を繰り返していれば、『スキルについて話さないなら用はない』とでも言いたげに、波が引くように帰っていった。


 嵐が去った……ため息がこぼれる。

 その様子を私の後ろから見ていた今日の護衛の一人、ルークさんが口を開いた。


「転移者様、楽しそうですね。何よりです」


 本気で言ってるのか、悪質な冗談なのか、表情と声色からはわからない。どちらにせよ質の悪いことだ。

 眉間にしわが寄ったのが自分で分かった。反射的に言い返しそうになった言葉を、声を出す直前で飲み込んだ。


「…………そうですね。ありがたいとは思っています」

「そうですか」


 ……これ以上、この人に何を言っても仕方ないかな。

 どうせ彼の中で結論は最初から決まっていて、私が何を言っても聞く気はないんだろうし。


 もういいや。切り替えよう。


 ルークさんから視線を逸らし、自分の部屋へと戻る道を進む。

 今日会う予定だった貴族はもう全員帰ったので、おかげで午後は掃除ができそうだ。どこを掃除すればいいか、ソフィアさんに確認してきてもらおう。

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