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小悪党、未来の嫁を拾う。  作者: かがみスイッチ
13/18

旅の連れとはこうである。

「……ハッ!」


目が覚めると、窓からの景色が暗くなっていた。


「くそ、今何時だ…」


時計を探して辺りを見回していると、ドアを開けヤコブが入ってきた。


「目が覚められましたか、おはようございますトート様、ただ今の時刻は19時でございます。」


深夜まで寝過ごしたのかと思っていた俺は、19時と聞いて安心した、まだ飯屋が開いているからだ。


「ありがとうヤコブさん…あれ?マヤはどこ行ったんだ?」


「会長なら自室でお休みです、要件なら私が伝えておきますが…何かございますかな?」


「ああ…久しぶり会えて楽しかった、また近いうちに来る。と伝えておいて下さい、ヤコブさんもありがとう、良い酒でした。」


「いえ、私もトート様との酒は大変楽しいものでした、伝言の方は会長にしかと伝えておきます。」


ヤコブの洗練されたお辞儀を見て、マヤが彼を気に入る理由がわかった、さっき飲みながら聞いたのだが、彼は元々冒険者ギルドで働く熟練の冒険者だったらしい、それをやめて一年でここまで動けると言うのは、器用さや覚える早さが、人並み外れているのだろう、優秀な男である。



「では、私は帰ります、また来ますので続きはその時に。」


「ええ、アラウィ商会はトート様、そしてお連れ様をいつでもお待ちしております。」


ヤコブに見送られた俺は帰路を走った、走りながら横目に眺める街は、まだ店が繁盛していた。


これなら今から飯を食いに行っても、余り物しかないなんて事態は避けれるな…そんな事を考えていると宿に着いた、ドアを開け宿へ入り、こちらを見つけた主人に会釈を返すと俺は部屋へ向かった。


「すまん、遅くなった、まだ飯屋もやってるから急いで行こう。」


「行きたくないわ…」


「…まだ具合が悪いのか…?薬を…」


とんでもなく焦る、よほど体調が良くないのだろうか、俺は病人を置いて何を、呑んで騒いでしていたんだ…


「…違うわ…体調はもう万全よ。」


「!そうか…よかった、…ならなんで出掛けたく無いんだ?」


「…宿屋の主人に昨日の話を聞いたわ…私は酔い潰れて、アナタにすごく迷惑をかけたらしいわね…」


なるほどなるほど、彼女はまた酔い潰れないか心配しているのだろう、ならば俺は彼女に次から気をつければ良いと言うだけだ。


「なに、初めて酒を飲んだんだ、次から気をつけてれば酔い潰れたりしないさ。」


「違うわ。」


違った。


……どうやら違うらしい、だったら何故彼女はこんなに落ち込んでいるのだろうか、俺には分からなかった。


「……私は、アナタの世話になってばかりだわ…料理に宿の手配、それにお金も……それなのに、私は昨日は酔ってアナタを振り回し、今日はアナタの予定を潰したわ……」


悲しげな表情の彼女はさらに続けた。


「私が昨日のことを覚えていないと知ったアナタは、私が気にしなくて良いように何も無かったと言ったわ…でも本当は違った…私はアナタに着いてきて良いと許可したのに、いざ旅に出ると私はアナタに連れて行って貰ってる…もうこれ以上優しいアナタに迷惑をかけたく無いわ。」


まさか彼女がこんなに気にしているとは思わなかった、落ち込んだ彼女は見ていて辛い。


だがそれよりも慰める言葉より先に言いたい事が俺にはあった。


「なるほど……確かに今のところは俺の力がよく使われているな、それに昨日と今日、シシィが俺に迷惑をかけたのも事実だ。」


「ええ、その通りよ。」


「ならあえて言う、だからどうした、何をしょうもない事を気にしてる。」


「はあ?……アナタ何も思わないの?」


「いいや、多少は思う事もあった、でもそれは俺にとっては、一言謝れば別に水に流せる程度の事だ」


そう言って、下を向いてしまった彼女をしっかりと見つめる。


「…俺がいま、一番憤っている理由はそんな小さな事を信頼してる旅の連れが気にしてる事だ。」


彼女がびくりと震えた。


「…今俺はお前の夢を叶える旅、そんな旅の連れだ、そんな俺がお前におんぶに抱っこなんて許されないだろう、お前が許しても俺は許さん、そんな連れはこの度に相応しくない。


この旅の連れに必要なのはお互いの弱点をカバーし合い、背中を任せられ、どんな壁も乗り越えられる力を持った、そんな奴だ。」



俺は息継ぎをして、まだまだ出てくる言葉を吐き出した。



「いざ旅に出ると、自分が思っていたよりも役に立たなかった……それがなんだ!


街で酔って俺に迷惑をかけた……それがどうした!!


その上俺はお前に優しくする……当たり前だ、馬鹿野郎、俺はあの雪山でお前に惚れたんだぞ!

俺はお前と出会った時に、全てを捨ててお前と旅に出る事だけに賭けた、それほどお前とこの旅が魅力的にお前だからだ、そして俺は賭けに勝ち、晴れて旅の連れに選ばれた。


ならば俺はお前の理想の旅の連れになる努力する義務がある。


そして、お前は俺を理想の旅の連れとして扱う義務があるはずだ。


……もう一度聞くがお前の理想の旅の連れは、弱くなんの力もない、背中なんかとても任せられない、そんな人物なのか?」


最初は呆気に取られてた彼女の瞳に力が宿るのを感じていた、思い出したのだろう、そう、この旅がどう言ったものかを、夢への情熱を。


「いいえ、違うわ、私は世界を見て回るのよ、そんな偉大で面白いその旅の連れは、それに足る者でなければいけないわ。」


「そうだろう、大体、料理が出来ない事や酒の失敗がなんだ、小さい事を気にして。」


「…そうね……久しぶりに一人じゃ無くなって、捨てられるのが、恐ろしくなっていたのかもしれないわ。」


「はあ…全く、もう勘弁してくれよ。」


「ええ、私なら大丈夫よ、アナタの連れを信じなさい。」


いつもの調子に戻った彼女を見て安心する、彼女はこうでなくては、俺はこの強く、美しく、傲慢で、ミステリアスで、それでいて優しい、そんな彼女に惚れたのだから。


「それで飯はどう……」


言葉が止まったのは、俺の腕に彼女が抱きついてきたからだ。


身動きが取れない、息が止まりそう、鼓動が加速する、汗も吹き出す。


抱きつかれた俺の右手はどう動かすのが正解なのだろう……このまま飯屋まで行くとしたら、歩きづらいのでは無いのだろうか………抱きつかれた場合目線はどこを向ければ……


惚れた相手に抱きつかれるという初めての経験に体は異常事態に陥り、頭は疑問を生み出すだけの装置になってしまっていた。


「ねえ、アナタ今日どこに行っていたの…?」


しばらく無言で抱きついていた彼女が口を開くと、気温が数度下がったような寒気を感じた。


「どこって…言っただろう、この街にいる知り合いがやってる商会だよ。」


「ふ〜ん……そんなに体中に女の匂いを付けておいて、まだそんな事を言うのね…」


ようやく俺にも分かった、これは殺気だ、出会った時、彼女が殺した者達へ向けていたあの空気だ。


何故かは分からぬが殺気を向けられている事は理解した俺の体は


身動きが取れず。

息が止まりそうになり。

鼓動が早まり。

汗も吹き出しそうだった。


さっきとは違った意味で。


「ああ、い、言ってなかったか…?その俺の知り合いは女だ…」


「ええ、聞いてないわ…そう、私が寝てる間にアナタは他の女と酒を飲み、乳繰り合っていたのね。」


「い、いやいやいや、酒は飲んだが、乳繰り合ったりはしてない、そもそも、俺もあいつもお互いにそういう相手として見ていない。」


「その割には随分と距離が近いのね…ベタベタと触って…」


「ああ、あいつは酒に酔うと人に抱きつく癖があるからな、多分それだろう、やましいことは何もない。」


「アナタはそうでも………はあ…もういいわ。」


ようやく理解してくれたらしい、実際何も無かったのだからこの話はもう終わりだろう、少し遅くなったが飯へ向かうとしよう。


「よし、なら何を食べに行く?」


「アナタ。」


「ハハハ、面白い冗談だな、龍神の寵児は人も食えるのか?」


「ええ、いただくわ。」


あまりの声の平坦さに驚き、まだ俺の右手を抱く彼女に勢いよく振り向く……彼女は下を向いて髪で顔が隠れ、表情は見えない、気付いた事は軽く抱きつかれているように見えた、俺の右手が一切動かなかった事だ。


「アナタはどうやら人気のようだし、誰かに取られる前に食べておく事にしたわ…」


「それってどう言う…ッ!!」


言い終わる前に、俺は彼女の脇に抱えられた。


そう抱えられたのだ、何か軽い荷物を持つように。


そのまま彼女はゆっくり歩き出した、俺はあまりの早技に事態を掴めず、黙って抱えられていた。


そして今度はそれは軽く、ゴミをくずかごに入れるかのように俺は放り投げられた、放り投げられた先は俺のベットの上だった。


「…なあ、辞めといた方が良くないか?」


流石に俺も彼女の意図に気付いていた、彼女とそういうこともしたくはあったが、それは"いずれ"である。


「あら、私に惚れたアナタが何故断るのかしら。」


「いや…まだ出会って数日だろう。」


「旅の連れとしてアナタを信頼してるから関係ないわ。」


「…そう、旅の連れだ、お前は旅の連れとこんな事をするのはいいのか、これが夢を叶える旅に相応しい理想の連れなのか?」


「確かに想定とはちがうわね、でもそれはそれ、臨機応変に行くのが旅よ。」


「………それにお前はどう思っている。」


「別に嫌いじゃないわよ……もういいわね。」


そう言って彼女は俺の服を脱がした、そして彼女も服を脱ぎ、ベットに倒れる俺の上に座ると、一言こう言った。


「私に抱かれなさい。」


そう、俺は自分が惚れた少女に、文字通り抱かれてしまったのだった。



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