同期との再会。
今回、少し長いです。
朝目覚めると隣のベットに座り、唸る彼女が見えた、二日酔いでキツイのだろうがその苦しみで少しは反省して欲しい。
「ッ…!…頭が痛いし胃が重たいわ…」
「だろうな…初めてであんだけ飲めばそうもなる。」
「ッ〜!昨日何があったの……」
都合の良い記憶力だなと言いたかなるが、グッと堪えた、初めて酒を飲んだ彼女だ、自分の限界量なぞ知らないはずだ、そんな彼女にわざわざあの痴態を伝える必要も無いだろう、次に酒を飲む時は俺が気を付けておけばいいだけだ、そう思い、誤魔化す事にした
「いや、特に何もなかったよ。」
「……そう……何も無かったのね……」
「?あぁ、何も無かったぞ、とりあえず俺は朝飯のスープを貰ってくる、それを飲んだら今日は一日寝ておけ。」
「だけれども…」
「これも経験だ、酒を飲み過ぎるとこうなるっていうな、俺も自分の知り合いに会いに行って来るだけの、殆ど私用みたいなものだから、今日は休みって事にしよう。」
「……ありがとう…感謝するわ……」
青白い顔をした彼女はそう言ってベットに横になった、心配な気持ちもあるが所詮は二日酔い、時間を空ければ治るのだから、放っておいても構わないだろう、俺は部屋を出て、一階の食堂に向かった。
「おはようございます。」
「ああ…昨日の連れはどうした。」
宿屋の主人に挨拶したら、別に彼に何も誤魔化す必要も無いから正直に答えた。
「二日酔いですよ、昨日相当飲んだましたからね。」
「なるほど…この宿に来た時と酒場から帰った時で人が違ったのはそういう事か、それでその皺寄せが今日来たと…」
「ええ、まあ初めて酒を飲んだらしいですから、最初は誰でも失敗するものだと思って、水に流してやりました。」
「…ご苦労さん、待ってな。」
そう言って彼は厨房へ向かうと直ぐ、盆にに小さな鍋と皿を乗せて帰ってきた、中身は葉野菜のスープだった。
「二日酔いなら脂っこいのよりこっちの方がいいだろう、飲ませておけ。」
「いいんですか、ありがとうございます!」
「あんたが健気だったからな、年寄りは応援したくなる……それとも迷惑だったか?」
彼はその強面な風体とは裏腹に、気遣いの出来る優しい宿屋の主人だった、年寄りなんて言っているが実際はまだ五十に届いたばかりくらいだろう。
「いえ、すごく助かります、今度は連れと一緒に顔を出しますね、お礼はその時に。」
「ん、気にすんな。」
彼は直ぐ仕事に戻った、受け取った盆を部屋へ運びながら考える。
やはり彼は宿屋の主人として完璧だ、仕事が出来て客を気遣える、礼を断らないのも良い、その機会で仲が深まればまた泊まってもらえるからだ、いい宿との出会いに感謝を覚えながら部屋に入った。
「スープ貰ってきたぞ、主人が気を利かせて野菜のスープをくれた、後で礼をせんとな。」
「そう…いただくわ…」
「…キツそうだな、出来るだけ水を飲めよ、多分昼過ぎには楽になってるはずだ。」
「ん。」
返事すら面倒なのだろう、俺は仕方のない奴めと思いながら続けた。
「よし、俺は出るぞ、夕食前には帰って来ると思う、安静にな。」
「…いってらっしゃい。」
行儀悪くベットでスープを飲む彼女に見送られた俺が向かうのは、故郷を飛び出してすぐの頃世話になった、商人見習い時代の知り合いだ、と言っても世話になった商人の師匠ではなく、当時俺と一緒の見習いだった奴なのだが。
一年前に手紙があり、この街で商人として独立したらしい、同じ歳だったはずだからその独立は一般的には異例の速さだろう、とはいえ昔から目利きも出来たし頭の回転も速かったので、俺は独立の報告を聞いてもあまり驚かなかった。
「ごめんくださーい。」
「いっらっしゃいませ、ようこそアラウィ商会に。
本日はどう言ったご用件でしょう?」
商人らしいキッチリした格好をした筋骨隆々の男が出てきて要件を聞いてきた、今日何かを買う予定はないので会長に会いたいと伝える。
「アラウィ会長に合わせてくれ、トートが来たと言えば分かるはずだ。」
「かしこまりました。」
男は店の奥へ向かって行った、しばらくして戻ってきた男の顔は、なんとも申し訳無さそうな顔だった。
「お客様、会長からの返事ですが「どのトートだ?」との事です…」
俺は彼が申し訳なさそうにしている理由が分かった、これは悪戯だ、今は会長になったが奴の中身昔から変わっていない。
「はあ…会長には一人で見習いを逃げたトートがやって来たと伝えて下さい。」
「本当に、うちの会長が申し訳ありません…」
「いやいや、貴方は何も悪くないでしょう、気にしないで下さい、文句は奴に言いますから。」
また彼は店の奥へ向かい戻って来ると、着いてきてくれと俺を奥へ案内してくれた。
「会長、失礼します、お客様をお連れしました。」
「ご苦労ヤコブ、下がってくれ。」
「失礼します。」
俺と奴の2人分のお茶を置いてヤコブと言われた男が下がると奴から話しかけて来た。
「おやおや、君は見習い時代一人で逃げ出したトート君ではないか、今日はどう言った用かな?」
「これはこれは会長、ご無沙汰しております、会長は相も変わらず悪戯好きな様でいらっしゃる、少しは大人になられたと思ってましたのですがね。」
「ククク、アハハハハハハ!!相変わらず上手いなトート、久しぶりだ!」
「全く、店先でなんて事言わせやがる、案内した彼も困ってたぞ…久しぶりだな、変わってなくて安心したよ。」
そう彼女こそ俺の同期であり女の身でありながら商会を立ち上げた、アラウィ商会会長のマヤ・アラウィである。
「本当に久しぶりだな……どうだ私の店は?」
聞かれて考える、店の陳列は客の見やすさを計算していた、そして従業員との関係も順調なように見えた。
「ああ、良い店だな、陳列やさっきの男を見てお前らしい店だと思ったよ。」
「そうか…ありがとう……なあトート私はまだまだこの商会を大きくするぞ、10年後には首都にも店を出せるくらいにしてやる。」
店を持つ感動とはとても大きい物なのだろう、数年の歳月を彼女は色々な物を乗り越えて送って来たのだろう、同期として彼女に期待を込めて伝えた。
「楽しみに待ってるよ。」
「フフフ、そうか…よし、次はトートの話だな、それで今日はどんな理由で来たんだ?」
「ああ、顔を見たかったのもあるが、もう一つ用もある、しばらく旅をする事にしたんだ、いろんな地を見て回る為に必要な道具を、二人分取り揃えて欲しい。」
「旅か、良いんじゃなi……ん?二人分だと?」
「ああ、旅の連れが出来た、しばらくこの街に滞在する予定だから連れて来るよ。」
「…その連れ、女だろ、しかもお前はそいつに惚れてる。」
驚いた、元々彼女の勘は良かったが、それでもここまでの精確な読みをした事があっただろうか。
「驚いたな、なんで分かった?まだ言ってないだろう。」
「あんな間抜けな顔晒しといてよく言うなぁ、おい、全く…」
「顔に出てたのか…一切気付かんかったな。」
「その旅のお連れさんだが、今日は何故いないんだ?」
「昨日酔い潰れるまで飲んでて、二日酔いだ、宿で寝込んでる。」
「そうかい、なら仕方ないな、とりあえずトートの分は適当に見繕っておく、彼女の分は…一度店に連れてこい、そん時に選ぶぞ。」
「二度手間じゃないか?」
そう言った瞬間マヤは目を見開き、そのあと盛大なため息をついた。
「ハアァァァァ……お前は馬鹿なのか?女には色々と準備や拘りがあるんだよ!…そんな様子じゃどうせ、今日、旅の支度の買い物をする事なんて伝えてないんだろうな…」
「おぉ、そうなのか…」
「そうなのか………じゃねーよ、まるで初めて言われたみたいに言いやがって…え?マジで?初めて言われたの?」
「ああ、伝え忘れてたな、旅の連れと出会ったのは数日前だ。」
マヤはまたも目を見開き今度は頭を抱えた。
「何がどうなってんだよ…出会って数日の男の前で酔い潰れるまで飲む女ってなんだよ……
ふしだらな女かとも思うが、お前がそんなのに引っかかる訳が無いしな…どんだけ剛気な女だよ…」
言われてみると確かにそうだ、俺とシシィが出会ったのは数日前、女が出会ったばかりの男、しかも自分に惚れている男の前で酔い潰れるまで飲んでいたのだ。
客観的に見ると、どんな関係だ!とツッコミたくなる気持ちが分かった、そんな事を考えていると、頭を抱えていたマヤが、勢いよく顔を上げて言った。
「その話、出会いから聞かせろ、今日はもう飲むぞ、飲まずにこの世の物とは思えん話は聞けん。」
「おいおい、まだ朝だぞ。」
「知らん、おーいヤコブ!歓待用の酒を持って来てくれ!!」
かしこまりましたー
返事から数分も待たずしてヤコブは酒を持って現れた。
「会長、朝から飲むんですかい…?」
「知らん、文句はトートに言え、コイツがとんでもない話を持って来たせいだ。」
事情を知らないヤコブにギョッとした表情を向けられたので、仕方なくマヤに話した内容を彼にも伝えた。
「…会長、さっきの非礼をお許しください、会長が正しいです。」
「そうだろ。」
「えー……」
酒を止めてくれるかと思ったヤコブは寧ろ敵へと回った、確かに俺たちにもおかしい点はあるが、そこまで言われるほど変だろうか…そう思っているとヤコブが話し始めた。
「恐れながら私の意見を言わせて下さい。」
「構わんヤコブ、許可する。」
「はっ!私としましてトート様も異常だと思います、惚れた相手が自分の目の前で酔い潰れているのです、普通の男ならなんとか雰囲気を作り、事へ運ぶでしょう、私でもそうします。」
「確かにな、続けろ。」
「はい、それなのにトート様は手も出さず、ただ看病をして寝たと申されました、男として明らかに異常です。」
「全くもってその通りだ、何か弁明はあるかな、トート君。」
コイツら楽しんでやがる…だがこっちにも言い分はある、それを伝えればコイツらも引き下がるだろう。
「…あのな、彼女は酒を飲むのは初めてだったんだ、初めての酒で飲む量を見誤り、潰れるなんてよくある事だろ、そんな彼女の弱みに漬け込んで手なんか出せるか。」
勝った。そう思いながら最初に貰ったお茶を飲み、改めて二人を見ると、両者ともとんでもないものを見る目をしていた。
「…な、酒が欲しくなるだろ?」
「確かに、飲まないとやってられませんな。」
何故だ…俺は常識的な事しか言ってないはずなのに…その後マヤがまた、大きなため息をついて諭すように言ってきた。
「ハアァァァァァ……あのな、初めての酒をなんでもない男と飲む女が居るか?ましてや酔い潰れる程の量をだ。」
「異論ありませんな。」
「ああ、確かに、そういう見方も出来るのか、気付かんかったな…まあ、とはいっても俺たちには当てはまらんな。」
俺が素直に感心していると、2人は顔を見合わせてまた、ため息をついたのだった。
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