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桜咲く国の姫君~神様の気まぐれで異世界に召された少女は王子と騎士見習いに溺愛される~  作者: 咲来青
第7章 愛情の板挟み

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第15話 受諾

「この気持ちに気付いたのは……ギルフォード様が姫様に求婚なさっているのを、目撃してしまってからです。あの時私は――恐れ多くも、ギルフォード様に嫉妬しました。姫様に、何の問題もなく……当たり前のように求婚出来る立場でいらっしゃる、あのお方に――」



 あの時、カイルがそんな風に思ってたなんて……。


 ……全然、気付かなかった……。



「お二人は、とてもお似合いでいらっしゃいます。私の入り込む隙など、どこにもありはしない。……いいえ。そもそも、あなたに懸想(けそう)することさえ、許されない身です。入り込む余地など、初めからどこにもありはしないのですが……。それでも私は、あの瞬間、あなたを求めてしまいました。罪深いことと知りながら……あなたを想う気持ちを、どうすることも出来なかった」


「……カイル……」



 ……そうだった。


 私とカイルの間には――私自身、まだよく実感出来てない、身分の差ってものがあるんだった。



 身分、なんて……持って生まれた素質や人格を無視した、不条理な制度にしか思えないのに。


 でも、私はこの国では、身分ってものの上方に位置する人間……なんだよね……。



 どんなに嫌だと思っても、避けられない問題。

 目を逸らすことは許されない、私の……。



「あの後、私が、姫様の護衛ではなく、騎士になりたいと願ったのは……そうすれば、一生お側にいられると思ったからです。……たとえ、将来お二人が結ばれることになったとしても、騎士ならば――姫様に騎士として仕えることが出来たなら、変わらずずっと、お側にいられると――」


 ぎゅうっと、更に強く、カイルが私を抱き締める。

 すがるように――心細さに震える心を、必死にごまかしてでもいるかのように。


「本来、神聖であるべき騎士の誓いを、私は私欲のために利用しようとした。……騎士としての精神を、私は汚そうとしているのです。騎士になる資格など……既に失っているのかもしれません」


「そんな! そんなこと……っ」



 『そんなことない』って言ってあげたかったけど、出来なかった。


 だって私は、この国のことも、騎士って存在のことも、まだよくわかってないんだから。『騎士の精神』ってゆーのが、どんなものなのかも……全然。


 そんな私が、『大丈夫』だの『そんなことない』だのって、その場限りの気休めみたいな言葉、無責任に言っちゃいけない。そんな気がしたから……。



「姫様……。私はこのように、身勝手な希望を抱き――それでも尚、騎士になろうとするような、(よこしま)な男です。姫様の護衛として、ふさわしくない人間だということは、充分自覚しております。ですがっ」


 両肩に手を置き、私を体から離すと、カイルはひたむきな瞳で訴えた。


「ですが、それでも私は……あなたの側から離れたくない。あなたの護衛役を、他の者に奪われたくない。ずっと――これからもずっと、あなたのお側に――!」

「……カイル。私……私は――っ」



 ……わからない。


 今の私に、いったい何が言えるだろう?


 この世界についても、この国についても、身分制度や騎士についてだって――ほとんど知らないのに。


 その上、王子とカイルと、どっちがより好きなのか――恋なのかすらわからない、こんな宙ぶらりんな状態で……いったい、何が言えるの?



 ……ダメだな。

 全然ダメだ。


 こんな、何もかもが不確かで、不安定な状態じゃ……自分の気持ちにだって、自信も責任も持てない。



 もっと、学ばなきゃ。

 色んなこと、知らなきゃ。

 たくさんのこと吸収して……そして、何ものにも揺るがない、強い心を持たなきゃ。


 恋も、他の何もかも――全てはそれから、って気がする……。



「ごめんね、カイル。今の私には……何も言ってあげること、出来ない」

「――っ! 姫様……」


 カイルの瞳が、懇願(こんがん)するみたいに揺れた。

 それを見て、私の胸はまた少し痛んだけど……ここで流されちゃいけない。


「私は……私も、カイルが好きだよ?……だけどそれは、今はまだ……王子と同じくらいの『好き』で……。だから……」


 いったん目を逸らし、気持ちを整理してから、カイルを正面から見つめる。


「私がもう少し、色々なことを見て――色々なことを知って、そして……自信を持って、どっちが好きか言えるまで、待って欲しいの。――これは、王子にも伝えてあることなんだけど……きっと、近いうちに答え出すから。絶対、出すから。曖昧(あいまい)なままになんてしないからっ」


 不安げに揺れていたカイルの瞳が、徐々に落ち着きを取り戻して行くのを感じた。

 顔にもようやく、柔らかな笑みが浮かんで来て……。


「……よかった。姫様が、もう私を護衛にしてはおけないと――そうおっしゃるつもりなのではないかと、生きた心地がしませんでした」

「――えっ? まさかそんな……そんなことあるワケないよっ。私の護衛は、カイルじゃなきゃ嫌だもん! 本音言えば、辞めたいって言われても、辞めさせたくなんかないよ!」


「……姫様……」


 カイルは驚いたように目を見開いた後、安堵(あんど)の表情を浮かべた。


 それから、その場に屈んで片膝をつくと、私の手を取り、


「これまでの数々のご無礼、お許しください。護衛の身として、あるまじき行為に及んでしまい、心より恥じ入っております。ですが、これから先は決して――御身をお守りするために必要な時以外、お側に近寄るようなことは致しませんことを、ここに誓います。ですから、どうか……」


「……うん。これから先も――私の護衛、よろしくお願いしますね。私もなるべく……えっと、近付き過ぎないように、気を付けるから――」


「はい。このカイル、充分に分をわきまえ――もう二度と、姫様を困らせたり、戸惑わせたりするようなことは致しません。姫様の、忠実なしもべであり続けます」



 し――っ!?

 ……しもべ、って……。何だか、すごい言い方だなぁ……。


 護衛って、そーゆーのとは、ちょっと違う……ような気がするんだけど……。


 ……で、でもまあ、カイルが自分で言ってるんだから、いい――……の、かな?



 そんなことを思いつつ、私は、カイルの謝罪と誓いを受け入れた。

第7章はここまでとなります。

お読みくださり、ありがとうございました!


お気に召していただけましたら、評価などしていただけますと幸いです。

どうかよろしくお願い致します。

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