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桜咲く国の姫君~神様の気まぐれで異世界に召された少女は王子と騎士見習いに溺愛される~  作者: 咲来青
第7章 愛情の板挟み

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第14話 恋慕

「王子のこと……怒らせちゃったのかな?」


 自室へ向かう途中、カイルと並んで歩きながら、私は思わず、不安を口にしてしまっていた。


「……申し訳ございません。私が、ギルフォード様に誤解されるようなことをしなければ、このようなことには……」


 沈んだ口調で謝罪するカイルに、大きく首を振る。


「そんなっ、カイルだけのせいじゃないよ! 私が――っ、私の態度がハッキリしないから、きっと、王子は呆れちゃってるんだと思う、し……」



 ああ、もう!

 自分の心がわからない……。


 王子にキスされそうになっても、カイルにキスされそうって思ってても、私……(こば)めなかった。――ううん、拒もうとしなかった。



 ……最低だ。

 こんな風に、いつまでもどっちつかずの態度取ってたら、いつか、完全に二人に嫌われちゃうよね……。


 ううん。王子にはもう……とっくに、嫌われちゃってるのかもしれない。



 ……やだ。

 なんか色々考えてたら、泣きたくなって来ちゃった……。



「姫様……。あの、私は――」


 カイルが何か言いたげに口ごもり、立ち止まった。



 ――いけない。

 こんな情けない顔してたら、余計な心配掛けちゃう。



 私は慌てて振り返り、大丈夫だという風に笑ってみせた。


「お、王子もきっと、昨日から色々あって、疲れてるんだよね。だから、ちょっと休んで……また夜に会う頃には、普段通りの王子に戻ってるよ。――ねっ?」

「……はい。私も――そう思います」


 同意はしてくれても、表情が暗く沈んだままなのが気になったから、


「カイル、あんまり思い詰めないで?――大丈夫だよ。王子だって、本気で怒ってるワケじゃないよ」


 元気づける意味も込めて、カイルの手をぎゅっと握った。


「姫様……」


 カイルは驚いたように私を見返した後、一瞬、辛そうに顔を(ゆが)めて目を逸らした。

 そして、私の手をそっとつかむと、自分の手から引き離す。


「カイル……?」

「姫様、どうか――これからは、私との間に、一定の距離をお置きください。……不用意に近寄ってはいけません」


 私と視線が重なるのを避けるようにしながら、彼は体を横に向けた。


「――っ!……どーして!? なんで突然、そんなこと言うの?」

「これから先も……姫様のお側で、仕えさせていただきたいからです。そのためには、間違った行動を起こすようなことがあっては、いけないからです」


「間違った行動?……それって何? 仕えていたいから距離を置くって、どーゆーこと?」

「……お察しください。これ以上は、私の口からは……」


「そんな――っ、それじゃわかんないよ! 言ってくれなきゃ、全然わかんない!……お願い。ちゃんと、私にもわかるように説明して?」


 明確な答えを求めて食い下がる私に、カイルは、無言で顔を背けることで返す。


「……わかんないよ……。一定の距離って、どのくらい?――このくらい? それとも、このくらい?」


 一歩離れた位置から、二歩、三歩と離れた位置に立ち、カイルの返答を待つ。それでも彼は、答えようとしない。


 王子に続いて、カイルにも見離されてしまったようで……心が焦燥(しょうそう)と失望で塗り潰されて行く気がした。



 カイルも、私に呆れてるの?

 王子みたいに、私に背を向けるの……?


 ……もう、私に関わるのが嫌になったの?



「お願い、こっちを見て! 目を逸らしたりしないで、ちゃんと答えてよ!……どーして距離を置かなきゃいけないの? カイルも私のこと、嫌になったの? もう関わりたくもないの?」


 駆け寄って、カイルの腕にしがみつく。


「……姫様……」


 覗き込む私の目から、必死に逃れようとする、コバルトグリーンの瞳。

 吸い込まれそうに綺麗な瞳が、今は哀しく揺れて……長いまつげが、暗い影を落として……。


 ――綺麗で、哀しくて――胸がキュウっとなる。



「私が嫌になったんなら、ハッキリそう言って? 無理して側にいてくれるつもりなら……そんなこと、しなくていいから。任務から外されるのは、カイルにとっては困ることなのかもしれないけど……我慢してまで側にいてもらうなんて、辛過ぎるよ……。だから、私が嫌なら嫌って――」

「姫様っ!」


 カイルの手が私の腕をつかみ、そのまま胸元へと引き寄せられ――あっと思った時には、強く抱き締められていた。


「……カイ……ル?」

「……これでも、おわかりいただけませんか? 私と距離を置くよう、お願いした訳が……?」


 耳元で熱く――切なく響く、カイルの声。


「……カイル。……あ……あの……」


「体が近付けば、こうして抱き締めたくなる。顔が近付けば、その愛らしい唇に、くちづけたいと思ってしまう。……あの時のように」

「……あの――時……」


「そうです。ベッドの上で、私がしようとしたことを――既にお忘れですか?」


 一瞬で、かあっと顔が熱くなる。



 ……忘れるワケない。

 忘れられるはずもない、けど――。



「それとも、あの時私がしようとしたことが、何であったのか――姫様は、ご存じないとおっしゃるのですか?」

「そ――っ、そんなことはないっ――けど……」



 いくら私が鈍くったって、あそこまで顔が近付けば……さすがに、予想出来ちゃうもん。



「では、もうご理解いただけましたね? 私に近寄ってはいけない訳を――」

「…………」


 私が答えないから呆れたのか――それとも、困惑したのか。カイルが小さくため息をついた。


「私は、自分が恐ろしいのです。……あなたの前だと抑制(よくせい)が利かなくなる、この心が。……いや。心と体の暴走が――」

「心と、体の……暴、走……?」


「こうなってしまっては、もはや、ごまかすことなど出来ません。――姫様。私は、あなたをお慕いしております。……一人の男として」

「――っ!」



 お……お慕いしております……って……。


 好き――……ってこと、だよね?



 ……好き?

 カイルが、私を……?



 ……そりゃあ、キスされそうになった時から、なんとなく……そーゆーことなのかなって、感じてはいたけど……。


 でも、こんな風に……ハッキリと、告白してくれるなんて思わなかった……。

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