第4話 王子はキス魔?
「リア……君の心は、正直で、純粋で……時に、ハッとしてしまうほどにまっすぐだ。そんな君が、私には誰よりまぶしい。……どうか君は、そのままの君でいてくれ」
「――え? 王子……?」
王子の口調が、急に重く沈んだのが気になって、顔だけ後ろに向けようとした。
でも、私の視線を避けるように、王子は顔を斜め下に沈め、
「ひゃっ!?」
私の耳たぶに、そっと唇を押し当てた。
「ちょっ! な、何して――っ?」
――もうダメ!
いい加減耐えられないっ!
私は王子の腕から逃れようと、手足を思い切りバタバタさせた。
なのに……悲しいくらいにびくともしない。
「ちょっとっ、王子ってば!……離してっ! 離しなさいっ、この――っ、バカ王子ぃいいいーーーーーッ!!」
いくら抗議の声を上げても、王子は一言も返さない。それどころか、ますます抱き締める力を強くして……頭に、頬に、首筋に、何度も唇を押し当てて来る。
まるで、唇が届く範囲ならどこでもいいとでも言うように、襲い来るキスの嵐。
なんなの!?
ほんっと、なんなのこの人っ!?
……ハッ!
もしかして、あれ!?
たまにいるって聞く……『キス魔』ってヤツなの!?
……ああ、もう……。ほんっと、ワケがわからない。
わからな過ぎて、頭がくらくらする……。
抵抗するのも疲れて、ぐったりと体を預けてたら、やっと王子も、少しだけ腕の力を緩めてくれた。
「リア……? もしかして、怒ってる……?」
「……いえ……。怒ってはいません、けど……」
「けど?」
「……王子って、キス魔だったりします……?」
「キスマ?」
「誰彼構わず、キスして来る人のこと……です。たぶん……」
……私もよく知らないんだよね、実際のところは。
「誰彼構わず?……酷いな。君は私のことを、そんな風に思っていたのか……」
「……そりゃ、信じたくはないですけど……」
ここに来てからの、王子にされたキスの数を考えたら……そんな気もして来ちゃうよ。
「私がキスしたい相手は、いつだって君だけだよ。君以外には、挨拶のキスだってしたくないくらいだ。……本音を言えばね」
……う……。
そ、そー……なんだ……?
「これでも、我慢している方なんだが……。わかってはもらえないか」
小さくこぼしてから、ため息をつく。
……が、我慢んんーーーーーっ!?
その言葉を耳にしたとたん、私は王子の腕からすり抜け、数歩離れたところで振り返って、大声で訴えていた。
「我慢って、どこがですかっ!? いっつも突然、人目も気にせず――、きっ、きき――っ、キスしたり抱き締めたりするクセにッ!!」
あれで『我慢してる』ってことになるなら、世の中の男の人達はみぃーーーんな、我慢強い人ってことになっちゃうよっ?
「人目って……それは一応、気にしているつもりだが――」
「嘘っ! セバスチャンやアンナさん達がいる前でおでこにキスしたり、カイルさんがいる前で頬にキスしたり……さっきだって、指先とかっ、み、耳たぶとかっ、く、く――っ、首すじっ……とか、とにかく色んなとこに、キスしてたじゃないですかっ! こんな城の真ん前でっ! どこで誰が見てるかもわかんな――」
――ハッ!
そーよっ!
さっきのだって、お城の中から……いや、もしかしたら城の外でだって、誰かがどこかから、見てたかもしれないじゃないっ!
……う、わ~~~~~っ!
そう考えたら、今更ながら……めっちゃ恥ずかしくなって来たぁああーーーーーッ!!
バカバカっ! 王子のバカぁッ!!
「セバスの前って……あれはおやすみのキス――挨拶のキスだろう? カイルの前というのは……ああ、二人だけで話したいと言われた時か。あれだって、しばしのお別れという意味の、挨拶のようなものだから……どちらとも、ただの挨拶だよ。恥ずかしがるほどのことではないだろう?」
「王子は恥ずかしくなくても、私は充分恥ずかしいんですっ!――だいたい、あっちの世界の私がいた国では、おやすみの時だろうといつだろうと、挨拶のキスなんて、相手が家族であっても、普通はしないんですからねっ?」
「え?……そうなのかい?」
「そうですよっ!!」
「……そうか。では、もしかして……君にキスしたのは、私が初めて?」
「当たり前でしょっ!! どーしてくれるんですかっ、私のファーストキ――っ、……す……?」
……え……、え~……っと……。
どーしてそこで、謎の笑顔になるの……かな?
……私、一応……怒ってるんだけど……?
何故か、王子は満足げな笑みを浮かべながら……じりじりと、こちらに近付いて来た。
「……な、なん……っ、……なんですか?……どーして笑って……こっち、来るんです……?」
「嫌だな。特に意味などないよ。……フフッ。そんなに逃げることないじゃないか」
……逃げてるワケじゃない。
逃げてるワケじゃない……けど、私は少しずつ後ずさりして、王子との距離を縮めぬよう、注意を払っていた。
……どうしてかはわからない。
ただ、私の中の何かが……王子の謎の頬笑みを見た瞬間から、
『気をつけろ。絶対何かあるはずだ』
と、しきりに注意を促していた。




