第1話 目覚めると、王子が
「サクラ、しっかりするんだ!……サクラ、君なんだろう? サクラ――っ!!」
……え……?
この声……王、子?
重い瞼を、ゆっくりと開く。
眼前に、心配そうに私を覗き込む、王子の姿があった。
「王……子……。どう、して……?」
「サクラ! 本当に君なんだな! よかった――!」
「えっ?……ちょ、ちょっと王子――!?」
思いきり抱き締められていることに気付き、私は慌てて身を引こうともがいた。
……でも、全然ダメ。
どんなに体を離そうと頑張っても、びくともしない。
「お、王子ってば、苦しい……。苦しいから、離――」
「嫌だ! 離さないッ!!」
私の声をさえぎり、王子が大声で言い放つ。
「な、何言って……。離さないって、そんな――」
王子の腕に力が加わり、ろくに身動きが取れないほど、強く抱き締められ……。
恥ずかしさと混乱で、頭が沸騰してるんじゃないかと思えるほど熱くなる。
「離したくない。……離すのが怖いんだ……。この腕を解いたら、また君は――私の前から消えてしまうかもしれない」
聞いたことのない、心細げな王子の声に、私の胸はキュッと締め付けられた。
心臓の音が、脳内でうるさいほど反響している。
「ど――っ、どうして、そんなこと……王子が心配する必要があるの? たとえ私が消えたとしても、桜さ――……姫様さえ戻って来るなら、その方がいいんじゃないの?」
私の言葉に、王子の体がピクリと反応する。
彼はそっと体を離すと、苦しそうに眉根を寄せ、唇を噛み締めて……それから、きつく瞼を閉じた。
「……私は、酷い男だ……。今更ながら思い知った」
「え?……王子……?」
「リアのことを、気にしていなかった訳ではないんだ。彼女の身を案じていたし、無事でいてほしいと、今だって願っている。……しかし、私は……君が目の前から消えてしまった瞬間から、君のことしか考えられなくなっていた。君が、君のいた世界へ戻って行ってしまったのではないかと……もう二度と、会えないのではないかと、そのことばかりが心を占めて……。リアも、今頃どこかで――慣れない場所で、心細い思いをしているかもしれないというのに、君のことだけしか――! 今まで、私なりに大切に思っていたつもりだったのに……たとえ一瞬であっても、忘れてしまうとは……。私は……私は、なんて薄情な男なんだ――!」
王子……なんて辛そうな顔……。
……嫌な子だな、私……。
王子が、こんなに罪の意識に苦しんでるのに……今ちょっと、ドキッとした。
桜さんより、私の方を心配してくれてたこと……嬉しいって思っちゃった。
……最低だ。
桜さんに幸せになって欲しいって、思ってたはずなのに……。
「……サクラ? 何故君が、そんなに悲しそうな顔を……?」
王子の両手のひらに頬を包まれ、私の体に緊張が走る。
不思議そうに覗き込む王子に、ハンパなく胸が高鳴って、苦しくて……。
「私のことを、気に掛けてくれているのかい? それとも、リアの身を案じて……?」
「両方です……って言いたいけど……。私は、王子が思ってくれてるほど、良い子じゃないみたい……です」
「……良い子じゃない? 君が?」
「私だって、桜さんには幸せになってほしいって思ってる。思ってるけど、でも……」
桜さんの幸せは、王子との恋が実ることなんだ――って考えたら、すごく胸が苦しくなって……。
「サクラ……さん?」
王子のつぶやきに、ハッと我に返る。
……そうだ。
私まだ、姫様が桜さんなんだってこと、話してなかったんだっけ。
……でも、どう言ったらいいんだろう?
いきなり、『実は私がリナリアでした』なんて言ったって、信じてもらえるかどうか……。
「サクラ?……もしかして、君が消えている間に……わかったことがあるのか?」
「ピョッ!?――誠でございますかっ、サクラ様!?」
……ん?
……あ。なーんだ。
セバスチャンもいたのね。
「……うん。わかったことは……ある。でも、私も一度にいろんなこと聞いたから、まだかなり混乱してて……。上手く説明出来る自信、ないんだ……」
「聞いた? 聞いたって誰に?……まさか、神様に?」
「はい。そのまさかです。私、神様に会いました。会って、いろいろ聞きました」
「ピャピャーーーッ!?……な、なな――っ、……なぁんでぇすとぉおおおーーーーーッ!?」
セバスチャンが飛び跳ねながら、翼をバッサバッサと羽ばたかせている。
よっぽど驚いたんだろうけど、羽根が抜けて、空中をふわふわ漂っちゃってるし……。
だ、大丈夫なのかな?
あんまり抜けちゃうと、ハゲちゃったりとかしないかな……?
「か、神様にお会いしたと申されましたか!? 誠でございますかっ、サクラ様っ!?」
……ああ、また羽根が……。
勢いを増す羽ばたきに、ますます心配になって来て……四方八方に飛び散って行く羽根を、思わず目で追ってしまう。
あー……セバスチャンがハゲちゃったらどーしよー……。
――って、いやいや。
ここでセバスチャンがハゲるかどうかの心配してても、しょーがないんだけど。




