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桜咲く国の姫君~神様の気まぐれで異世界に召された少女は王子と騎士見習いに溺愛される~  作者: 咲来青
第5章 神様 ~御神木の桜~

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第1話 最悪の目覚め

 その日の目覚めは最悪だった。


 目を開けたとたん、頭はズキズキするし、体は重いしだるいし……。

 ベッドから半身を起こしてからも、両手で頭を抱えて、しばらく動けなかった。


 ――こんなことは初めてだ。


 子供の頃から、寝付きも寝覚めもいい方だった。

 こんな風に、最悪の朝を迎えたことなんてなかったのに……。



「おはようございます、サクラ様。昨晩は、よくお眠りになられましたか?」


 頭を抱えたまま横を見ると、いつの間にかセバスチャンがいた。

 起こしに来てくれたんだろうけど、すぐには反応出来なくて、


「うぅ~……。おはよ、セバスチャン……」


 どうにか顔を上げ、言葉を返す。


「いっ、いかがなされました、サクラ様っ? もしや、体調をお崩しになられたのでは?」

「ん~……? いや、そーゆーワケじゃない……と、思うんだけど……」


「ふむ。昨日は大変な一日でしたからなぁ。お疲れなのでしょう。――もう少々、お休みになられますか?」

「ん~……。ううん、大丈夫。……起きるよ」


 ベッドから足を出し、靴を()いて立ち上がると、おかしなことに気付いた。


「――あれ? 私、着替えずに眠っちゃったの?」

「あ……はい。昨夜、ギルフォード様をお部屋へご案内いたしました後、戻って参りますと、サクラ様は、既にお休みでいらっしゃいまして……」


「そう。ギルフォー……」


 そこで一気に、昨夜の記憶が(よみがえ)った。



 ……そうだ、私……。

 昨日の夜、王子にキスされて……『おやすみ』って……。



 うわーーーーーっ!


 ……どっ、どーしよー!?

 おでことは言え、キスなんかされちゃって……。


 今日王子に会ったら、どんな顔すればいーのぉーーーーーっ!?



 ……なんて考えてたら、頭痛もだるさも、どっか行っちゃってた。



「サクラ様? なにやらお顔がの色が……。やはり、熱でもございますのでしょうか?」


 心配そうに、セバスチャンが私の顔を覗き込む。


「ちっ、違うの! これは熱とかじゃなくて――っ!」


 慌てて否定するけど、熱くなってしまった顔は、なかなか元の状態には戻せなくて、更に焦った。



 あーもーっ、どーしてくれるのよ朝っぱらからっ?

 恥ずかしくて恥ずかしくて、どーしていーのかわかんないよっ!



 軽いパニック状態に(おちい)ってたら、ドアをノックする音がして。


「おはようございます。入室してもよろしいですか?」



 ――あ。

 エレンさんだ。



「うむ。入りなさい」


 セバスチャンの返答の後、エレンさんが大きな水差しのような物を右手に、洗面器のような物を小脇に抱えて入って来て、私とセバスチャンに一礼した。


「おはようございます、セバス様、サクラ様」

「おはよう、エレンさん。……えっと……。手に持ってる、それは……?」


「――あ。申し訳ございません。すぐにご用意いたしますね」


 そう言うとエレンさんは、サイドテーブルの上に洗面器のようなものを置き、その中に向かって、水差しのようなものの中身を、そうっと注ぎ始めた。


「それ、水……だよね?」

「はい。こちらでお顔をお清めくださいませ」



 顔……。


 姫様は、部屋でこうやって顔洗うのか……。

 洗顔石鹸とかは、さすがにないんだろうけど。



「ありがとう、エレンさん。毎朝こーやって準備するの? 大変だね……。でも、私は姫様じゃないんだから、お世話してくれなくても大丈夫だよ? 洗面所とか水飲み場とか、教えてくれれば、あとは自分で勝手にやるから」


「なりませんっ!」

「――え?」


 突然セバスチャンが大声出して、びっくりした。


「確かに、サクラ様は姫様ではございません。しかし――! サクラ様は、姫様の代理を務めてくださると、おっしゃったではございませんか」


「それは、まあ……そーだけど。でもさ。王子にだってバレてるんだし、姫様のフリは、国王様の前だけでいーんじゃない?」

「なりませんっ!」


「えーーーっ? どーしてー?」


「サクラ様のことは、私とギルフォード様、他三名しか存じ上げないのですから、姫様のように生活していただかなければ困ります。事情を知らぬ者に、怪しまれるような行動は、極力控えてくださいませんと」



 うっ。

 そりゃそーか……。


 私は姫様の代役なんだもんね。姫様っぽくない行動は、しちゃダメなんだ……。



「わかったよ、セバスチャン。勝手言ってごめんね。これから気を付けるよ」


 私は素直に謝ると、洗面器の水を掌ですくい上げ、パシャリと顔に掛けた。



 洗顔と歯磨きを済ませたら、今度は朝食。

 すぐに、アンナさんが持って来てくれるってことだった。


 歯磨きでひとつ驚いたのは、この世界にも、歯ブラシがちゃんと存在してたってこと。

 柄の部分はツヤツヤとした木材で、ブラシ部分はなんとかってゆー動物の毛……で出来てるんだって。


 歯磨き粉は、良い香りのする植物と、灰と鉱物をすり潰して作った粉と、その他もろもろを混ぜ合わせたもの。

 磨いた後は、スッキリ爽やかって感じだった。


 この世界、私が思ってたより、意外と文明進んでるのかも。

 ザックス王国は水も豊富で、水道設備も整ってるってことだったし。



 ……まあ、テレビやパソコン、スマホなんかはないけどね。

 そこが寂しいっちゃあ、寂しいかな。



 エレンさんが用意してくれたドレスに着替え、椅子に腰掛けて。

 窓の外をぼーっと眺めながら、私はつらつらとそんなことを考えていた。



 ――あ、そうそう。

 ブラは、二日連続でつけるのはさすがに嫌だったから、エレンさんにこっそりお願いして、洗ってもらえることになった。


 すっごく恥ずかしいから、自分で洗いたかったけど……。

 そう言うとまた、『とんでもないことでございます!』とかって反論されちゃうだろうから、恥を忍んでお願いした。


 ……で、この国にも、ブラみたいなものは存在するのかな? と思って訊いてみたら、ないって返事で……。



 じゃあ、女の人達はどーしてるのか、って話になるよね?


 どうやら、女性は厚手の布地を胸元に当てて、二重三重にぐるぐる巻きにして、両端を背中で結んだりして、胸のボリュームを押さえてるらしい。(この世界では、体の凹凸(おうとつ)をアピールして色気を振りまくような女性は、『はしたない』とされて、白い目で見られちゃうんだって。胸元が大きく開いたドレスは、上流階級の女性達は着ないって話だった)


 なんか、サラシ巻いてるみたい。すごく窮屈(きゅうくつ)そうだよね……。



 ん~……。

 しばらくここにいることになるなら、そーゆーのも、これからどうするかとか、いろいろ考えなきゃいけないかな……。



 なーんて思ってたら、またノックの音が。


「おはようございます。ご朝食をお持ちいたしました」

「あ、はーい。入って、アンナさん」


 私が返事すると、ワゴンのようなものをガラガラと押しながら入って来て、ぺこりと一礼。

 ワゴンの上には、パンや飲み物、フルーツっぽい物、食器などが載ってる。


「おはようございます。お待たせしてしまいまして、申し訳ございません。すぐにご用意いたしますね」


 にっこり笑顔のアンナさんに、私も挨拶を返そうと口を開きかけたんだけど……。

 彼女の後ろから姿を現した人物が、視界に入って来たとたん、ピタリと固まる。


「おはよう、サクラ。昨晩はよく眠れたかい?」


 機嫌良さげに声を弾ませ、アンナさんの後ろから現れたのは、ギルフォード王子だった。

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