第15話 君を信じる
私は小さくため息をつくと、横にいるセバスチャンに視線を送った。セバスチャンはそれを受け止めると、私を励ますように大きくうなずく。
「問題ございません、サクラ様。ギルフォード様は、きっと信じてくださいます」
「……わかった。セバスチャンがそこまで言うなら、絶対だよね」
私は王子を見上げ、その瞳をまっすぐ見つめる。
「今から私がする話は、全て本当のことです。でも、あまりにも不思議なことだらけだから、すぐには信じられないかもしれません。そんな感じの話ですけど……聞いてもらえますか?」
「もちろん。これでも、人を見る目はあるつもりだ。君が、こんなに緊迫した状況下で、くだらない嘘をつくとは思えないからね。――信じるよ。たとえそれが、とんでもなく荒唐無稽な……すぐには呑み込めないような、奇妙な話だとしても」
王子は私の視線を受け止めながら、優しく微笑んでくれている。
そのお陰もあってか、私は少し気が楽になり、
「……ありがとうございます」
お礼を言ってにっこり笑ってから、本題に入った。
「えっと……。まず、わかってもらいたいのは……私が、別の世界から来た人間、ってゆーことなんですけど……。その……信じてもらえます?」
「……別の世界?」
予想通り、王子はきょとんとした。
……まあ、そうだよね。
ここで、『へえ。そうなんだ』って返される方が、逆にびっくりだし。
「そうです。別の世界です。こう言っても通じないのは、百も承知で言わせてもらうと……私は、日本という国の、中流家庭の高校生で、名前は神木桜と言います」
「……ニホン……? チュウリュ……カテイ? それから――コウコウセイ、だったかな?……申し訳ないが、何のことだかさっぱりわからないよ」
「ええ、そうでしょうね。そうだと思います。――大丈夫、想定内です。わからなくて当然ですから」
私だって、未だにこの世界のこと、よくわかってないんだし。
「とにかく、私はこことは別の世界から、神様の中を通って、こっちの世界に落ちて来たんです。……あ。正確に言うと、落ちたのはセバスチャンの上だったみたいで、思いっきり下敷きにしちゃってたらしいんですけど。お陰で、こっちは怪我ひとつせずに済みましたよー。あはははっ」
「……ちょ――、ちょっと待ってくれないか?……その……『神様の中を通って』というのは、どういう意味なのかな?」
「どういう意味って言われても……。えーっと、私がこの世界に来る前の世界――つまり、私が元いた世界では、神様は、ただの桜の木に過ぎないんですけど……その木の前で、幼なじみの男の子と、話をしてたんです。そうしたら、いきなりどこかから私を呼ぶ声がして……。で、めまいがしてその木――こちらの世界で言えば神様ですね。――に、寄りかかったら、体が木にめり込んで、中に吸い込まれて……」
王子は『?』で埋め尽くされたような顔してたけど、構わず続ける。
「木の中は空洞になってて、真っ暗で……。そこをずーーーっと落ちて落ちて、どのくらいかわからないけど、結構長い時間落ち続けて……。んで、いきなり周りが明るくなったなーと思ったら、また下に落っこちて……」
……うわ。
王子ってば、今度は口をぽかんと開けちゃってる。
こんな王子の顔、きっとレアなんだろうなー。
……っと、ヤバイヤバイ。
笑っちゃ悪いけど、なんか顔が緩んできちゃう。
「まあ、つまり、その落ちた先……ってのが、セバスチャンの背中の上だったワケですよ。ここまでわかります?」
「……いや。わかった、ような……気もする部分も――……。……いや、すまない。正直、よくわからないな」
王子は額に手を当て、目をつむって、何やら、考え込むようなポーズを取っている。
……やっぱり、大分混乱してるみたい。
まあ、無理はないけど……。
「えっと、じゃあ……とりあえず、私は別世界から来た人間――ってことだけ、理解しててください。いいですか?」
「――ん?……あ、ああ……」
「じゃあ、続けますね。――それから先は、さっきセバスチャンが言ってたとおりです。姫様と勘違いされて、この城に来て、国王様に会って……。その時の国王様が、すごく心配して、姫様の帰りを待ってたように思えたんで……『実は偽者でした~』なんて、言えなくなっちゃって。……だって、余計にショック与えちゃうじゃないですか。だから……嘘ついて申し訳ないと思ったし、心苦しかったけど、もう少しだけ、姫様のフリを続けてみようって思ったんです」
「……クロヴィス様は、君を見てすぐに、リアだと?」
「え? あ、ああ……そうです。実の父親なら、すぐに見破られちゃうだろうなって、心配だったんですけど……。なんとか、バレずに済んだみたいです」
「……そうか」
「だから、今この時点で、私の正体を知ってるのは、セバスチャンとアンナさんとエレンさんと、カイルさん――そして、王子だけってことになります」
「……なるほど」
「それで……姫様が無事だって、私が思う理由、なんですけど――」
言った後、私はちらっとセバスチャンを窺った。
これは、セバスチャンにだけ話した――ってゆーか、口がすべって、うっかり漏らしちゃったことだけど……。
セバスチャン、あの時パニクってたもんなぁ。……王子もパニクるかな?
……ってか、セバスチャンも、あの話をどこまで受け入れてくれてるんだか、イマイチわからないんだよね。
ん~……、まあいっか。
とにかく話してみよう。
私はゴクリと唾を飲み込み、ゆっくりと深呼吸してから、考えた末に行きついた、ある仮説について語り始めた。




