第14話 王子の動揺
私がうなずいたのを確認すると、セバスチャンもこくりとうなずき返し、王子に視線を戻した。
「ギルフォード様、どうか落ち着いてお聞きいただきたいのですが……。姫様は――リナリア様は今、この城にはいらっしゃいません」
「……と言うと、本城に?」
「いいえ」
「本城でもない? では、どこに?」
「……わからないのでございます」
「わからない?……どういうことだ?」
それまで落ち着いて見えた王子だったけど、『わからない』という返答は、さすがに予想外だったらしい。瞬時に顔色が変わった。
「どういうことであるのか、私共も、まだ呑み込めていない――と言うのが、正直なところなのです。姫様は、今朝、私がお部屋に参りました時には、もう……」
「『もう』?……もう、とは何だ? まさか、『この部屋から消えていた』とでも言うつもりか?」
「……はい。まさしく。……おっしゃる通りでございます」
「な……!」
王子は目を見開いた後、片手で口元を覆った。『信じられない』って言ってるみたいだった。
「当然、城中くまなく捜したんだろうな?」
「はい。もちろんでございます」
「城外も、心当たりのあるところは、全て――?」
「はい。姫様がご存じの場所は、全て」
「それでも見つからなかったと?」
「……はい」
「……そうか……」
王子は青ざめた顔でつぶやくと、辛そうに目を伏せた。
……意外。
王子も、こんな顔するんだ……。
――って、小さい頃から妹のように思ってた人が、突然いなくなっちゃったんだもんね。
動揺しない方がおかしいか……。
「それで? そのことは、皆知っているのか? クロヴィス様にご報告は?」
「……報告は……いたしました。ですが、その……」
セバスチャンは言いにくそうに、体をもじもじさせた。
そして、ちらっと私に目配せしてから、しょんぼりと肩を落とす。
「陛下にご報告しましてから、神様の御許にて、サクラ様を拝見し……。その、何と申しましょうか……すっかり、姫様と思い込んでしまったのです。それからこの城にお連れし……陛下に、姫様がお戻りになられましたと、お伝えしてしまった次第でございまして」
「……なるほど。それで彼女に、リアが見つかるまでの身代わりを頼んだ、と……そういうことか」
「はい。申し訳ございません……」
そう言うとセバスチャンは、叱られた子供のように縮こまった。
「セバスを責めるつもりはない。特に、何か事件があったわけでもないのだろう? 眠っている間も見張っている方が不自然だ。――そんなことより、リアの捜索は? 今、どんな状況なんだ?」
「姫様の護衛が一名、捜索のために、ルドウィンへ向かっております」
「一名? たった一人でか? しかも、ルドウィンだと――?」
『何故?』と問いたげな王子を、慌てて手で制し、私は早口で言った。
「私が言ったんです! 姫様が、自分の意思で出て行ったんだとしたら、向かうのはきっと、王子のところだって!」
「……君が? 何故、リアが私の元へ向かっていると思ったんだい?」
「そりゃ――っ、決まってるじゃないですか! 王子が婚約破棄したがってるって聞いて、いてもたってもいられなくなったんだって思ったからですよ。人から聞いた話じゃ、納得出来なかったんじゃないかって。直接王子から、話を聞きたかったんじゃないかって」
「……しかし、あのリアが……。たった一人で城を抜け出すなど、とうてい信じられないよ。第一、城の警備は厳重なはずだ。そこをどうやって、協力者もないまま突破出来るというんだい?」
「う……っ。そーなんですよね。問題はそこなんです。でも、実際姫様は、この城の中にはいないワケですから……。とりあえず、その問題は置いとくことにして、カイルさんに、ルドウィンへ行ってもらったんです」
「……カイル?」
「はい。カイルさんは、姫様専属の護衛さんです。騎士見習いなんだそうですけど」
「……ふぅん……」
……あれ?
どーしちゃったんだろ、王子?
なんかちょっと……不機嫌そう、だけど……。
……んん?
気のせい……かな?
私はちょっぴりヒヤヒヤしながら、王子の様子を窺った。
すると、ふいに顔を上げ、
「それにしても、リアの捜索が、たった一人だけというのは心配だな。もっと人員を増やせないのか、セバス?」
不機嫌そうに感じたのは、やはり気のせいだったらしく、真剣な表情でセバスチャンを見据える。
「は、はい!……そうなのですが……」
「国王様にバレないようにするためには、仕方なかったんです。大人数での捜索ってなると、ごまかせなくなるから」
私が口を挟むと、王子は怪訝な顔つきをした。
「リアがいなくなったことを、どうしてクロヴィス様に伏せる必要があるんだい? 第一、君だって、リアの代わりをするのは大変だろう? 偶然セバスに会い、リアと勘違いされ、この城に連れて来られただけなんだろう?」
「そ……それは、そうなんですけど……」
「リアの捜索だって、急がないと危険だ。森には、怪しい者たちが潜んでいると聞く。こうしている間にも、危険に晒されているかも知れないんだ」
「えっ……と……。でも、あの……」
……うぅ、どーしよー。
『私、姫様は無事だと思うんです。だって姫様は、私のいた世界にいると思うから!』
……なんてこと、私の中では確信してても、証明出来ることでもないし……。
どう言ったらいいものかと、頭を悩ませてると。
急に、王子がハッとしたように目を見開き、私をじぃっと見つめて。
「君……もしかして、リアの居場所を知っているのか? 知っているか、もしくは……見当がついている?」
――うっ。
「そうでもなければ、あれほどリアに同情的だった君が、彼女の安否もわからない状態で、落ち着いていられるはずがない。そうだろう? 私は、見当違いのことを言っているかい?」
……うぅっ。
やっぱりこの人、侮れないなぁ……。




