第15話 お見送りさせてください!
胸の内の疑惑は、とりあえず押し込めることにして。
私はカイルさんに視線を向けて訊ねた。
「ねえ、カイルさん。もう出掛けるんだよね?」
「あ、はい。……セバス様。本当に後の手続きなどは、全てお任せしてしまってよろしいのですか?」
「うむ。案ずるでない。おまえは、姫様をご無事でお連れすることだけ、考えていればよいのだ」
「はい! それでは、直ちに出立いたします!」
「あっ。待って、カイルさん!」
きびすを返し、躊躇なく出て行こうとするカイルさんの腕を、両手でつかんで引き留める。
「サクラ様……?」
「えっと、あの……。わっ、私、城の外まで送る!」
「……は?」
カイルさんは、ぽかんとした顔で私を見つめた。
「そこまで! ホントにそこまででいいの! 見送らせて? 私、見送りたいの!」
「……見送る……って、あの……」
腕を離そうとしない私に、カイルさんは、困惑するように顔を赤らめ、セバスチャンに視線を送って、助けを求めた。
「さ、サクラ様……見送るとおっしゃられましても、既に日も暮れておりますし……。城外――特に夜間は、危のうございます」
「ちょっとだけ! ホントにちょこっと、そこまででいいの! お願いだから見送らせてっ?」
「しかしですな、そこまで、とは……いったい、どの辺りまでのことをおっしゃっておるのです?」
「そっ、それは――」
ちょっとそこまでと言っても、門の手前までとかじゃ意味がない。どうしても、カイルさんがルドウィンに発つ前に……確かめたいことがあるんだから。
「桜――ううん、神様の辺りまで! あそこからカイルさんを見送りたいの!」
「……神様の……? 何故でございます?」
「なっ、何故って……」
……うぅ、理由まで聞かれるとは思わなかった。
「何故って、それは……」
「……それは?」
「……な……なんとなく……」
「……はぁ?」
……ま、まずい。みんながきょとんとしてる……。
「だから、あの……。私、神様からこの世界に放り出されたじゃない? だから、えっと……あそこに、落し物しちゃったんじゃないかと思うの!」
「落し物……ですか?」
「うん、そう! あそこで大切な物、落としちゃったみたいなの。だからどーしても、今日中に捜し出したいの!」
たった今、思いついた嘘だけど。
……信じてもらえるかな?
「それは一大事ではございませんか! どうしてもっと早くに、おっしゃってくださらなかったのです?」
……わ。思いっきり信じてくれたみたい。
ホント単じゅ――いや、優しいんだから、セバスチャンってば。
「ごめんなさい。姫様のことが第一だと思って……」
「ピャッ!?……さ、サクラ様……!」
……ありゃりゃ? セバスチャンの目がうるうるしてる……。
「申し訳ございません! サクラ様にはまったく関係のないことに、長々とお付き合いいただいた上に、そのようなお心遣いまで……! 誠に、何とお詫びとお礼を申せばよろしいやら……」
セバスチャンはしきりに感激し、『大至急、陛下にお許しをいただいて参ります』と、部屋を出て行ってしまった。
……あぅ。
ごめんね、セバスチャン。
また嘘ついちゃった……。
「……あ、そーだ。ごめんねカイルさん。すぐに出発したいでしょうに、時間遅らせちゃって――」
「いえ。どちらにしろ、陛下のお許しをいただかなければ、出られませんので」
そう言って笑ったカイルさんは、少し悲しげに見えた。
飛び出して行きたい気持ちを、必死に抑えてるんだろうな……。
姫様のこと、心配で心配で堪らないんだよね、きっと。
……でもね、姫様はたぶん……大丈夫だから。
姫様は、私の考えが見当違いでなければ、絶対――……。
「あの、姫――いえ、サクラ様」
ふいに、今までずっと黙って、側で控えていてくれたアンナさんが口を開いた。
「え?――何、アンナさん?」
「はい。あの……私とエレンは、この後の仕事がございますので、失礼させていただきたく……」
「あ、そっか! そうだよね。二人とも、お仕事あるよね。……ごめんなさい。長いこと付き合ってもらっちゃって……」
「いえ、そんな――! サクラ様に、そのようなことおっしゃっていただく理由はございません。私どもは学がないものでございますから、サクラ様のおっしゃったことの半分も、未だ理解出来てはおりませんが……。いろいろと大変なことが、あなた様に起きたのだということだけはわかります。……サクラ様」
そう言うと、アンナさんは私の手を取り、両手で優しく包み込んだ。
「私どもにお手伝い出来ることなど、ほとんどないのかも知れませんが……。姫様にこんなにもよく似ていらっしゃるサクラ様を、お助けしたいという気持ちは、セバス様にだって負けてはおりません。何かございましたら、ご遠慮なく呼びつけてやってくださいませ」
「……アンナさん……」
この人達を見てると、何となくホッとするのは……どーしてなんだろ?
姫様は……お父さんとは上手く行ってなかったかも知れないけど、でも……周りには、こんなにも優しい人達がいてくれたんだもん。きっと、この人達が心の支えになってくれてたんだよね。
「ありがとう、アンナさん。……エレンさんも。私、この世界に放り出された時は、どうなっちゃうのかなって、すごく不安だったけど……。でも今は、アンナさんやエレンさん、セバスチャンやカイルさん、そして国王様――みんながいてくれるって思うから、全然不安じゃなくなったよ。ホントにありがとう」
そうして私は、私の手を包み込んでいるアンナさんの手に、もう片方の手をそえると、にっこり笑って握り返した。




