表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
桜咲く国の姫君~神様の気まぐれで異世界に召された少女は王子と騎士見習いに溺愛される~  作者: 咲来青
第1章 穏やかな日常

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/146

第2話 神隠し

 その日。

 私は晃人と数人の友達と、神社の境内で遊んでいたらしい。

 でも、晃人の言うところによると、『ちょっと目を離した隙に』消えてしまった。


 どこへ消えたのか?――残念ながらわからない。

 何故って、さっきも言ったように、私には神隠しに遭う前の記憶が一切ないんだから。



 神隠しに遭ったとされる日の翌日。

 私は同じ境内の桜の木の下で発見された。


 服装は前日と変わらず、特に汚れてもいなかったらしい。

 上は白いブラウスに、下は淡いサーモンピンクのスカートという格好で、木に寄りかかるようにして眠っていたそうだ。



 私が目を覚ましたのは、そのまた翌日。

 目を開けると、優しそうな女の人の顔がすぐ前にあった。

 泣き()らしたような真っ赤な目で、私を心配そうに見つめていた。


 驚くことに、その時の私は、自分の母親のことをすっかり忘れてしまっていた。

 だから、その〝優しそうな女の人〟が自分の母親だなんて、少しも気付きもしなかった。


 母親だけじゃない。

 父親も友人も、近所の人も、みんな。

 みんなみんな、私は忘れてしまっていたのだ。



 両親はショックを受け、そしてとても心配して、私をいろいろなお医者さんに診てもらったそうだ。

 結果はいつも、『ショックによる一時的な記憶の喪失、混乱』。

 気持ちが落ち着けば、徐々に失った記憶も(よみがえ)り、元の生活に戻れるだろう――とのことだったそうだけど。


 ……私は(いま)だに、神隠しに遭った日から前のことを思い出せないままでいる。



 記憶が戻らないと言うと、何だかすごく大変なことになったんじゃないかとか、苦労したんじゃないかって思われてしまいそうだけど。

 実は、全然そんなことはなくて。


 ……あ。

 でも、ある程度大きくなってからこんなことが起こったんだとしたら……それはもう、大変だったかも知れないな。

 積み重ねて来た膨大(ぼうだい)な記憶があるだろうし。それが一気になくなっちゃったとしたら、やっぱりものすごく苦労したんじゃないかな。



 運のいいことに、私は子供だった。

 小学校に上がる前の小さな子供だった。


 だから、そこまで困ったことにはならなかったんだと思う。

 幸い、箸の持ち方とか服の着方とか、乳幼児の記憶までがなくなったってわけじゃなかったし。


 ……まあ、仲良かったはずの友達や、生まれてからずっと一緒だった両親のこと――大切な思い出までが、全く記憶にないっていうのは、とても悲しいことだけど。


 忘れてしまったなら、また好きになればいいし。


 ……それまで好きだった人達なんだもん。好きになれないはずがないしね。

 それまでの大切な思い出が消えちゃったっていうなら、またこの先、たくさん作っていけばいいだけのこと。



 最初のうちは戸惑いもしたんだろうけど、両親と晃人いわく、私はすぐ慣れたらしい。

 すぐに皆と元通り……なのかどうかはわからないけど、仲良くはなれた。


 お父さんもお母さんも大好きだし、晃人も大好きだし、近所の人達も、学校の友達もみんな好きだ。

 だから、何の問題もない。


 何の問題も……ないんだ、けど――……。




「おい、どうしたんだよ? またぼんやりしやがって」


 私の顔の前で、晃人が片手を左右に振ってみせる。

 あえて無視して、私はポツリとつぶやいた。


「……考えてたのよ」


「考えてた? 何を?」


「……『神隠し』」


「神隠し、って……今? ずっと?」


「そう。今、ずっと」


 晃人は困ったように眉を寄せ、軽く頭をかいた。


「……ん~……、そりゃ、思い出させちまったのは俺だけど……。今更あれこれ考えたってさ、答えなんか出ないんじゃないか?」


「そんなことわかってる!!……わかってる、けど……」


 声を(あら)らげてしまい、私はハッとして口をつぐんだ。

 晃人は再び困ったように頭をかくと、ためらいがちに切り出す。


「そんなに気になるならさ。久し振りに行ってみるか、あの神社?」


「――え?」


「おまえが辛くなるんじゃないかと思って、今まで()けてたけど……。どうしても気になるってんなら、あの神社行ってみてさ、気の済むまで考えてみればいいじゃん。何か思い出せるようなこと、あるかもしれないしさ」


「晃人……」



 私が『神隠し』に遭った、あの神社へ――。



 ……正直、ちょっと怖い気もするけど。

 このままずっと、スッキリしない気持ちを抱えたままなのも嫌だ。



「……うん、わかった! 行ってみよう、あの神社へ!」


 わざと大きな声を出し、自分を(はげ)ます。



 ……大丈夫。晃人も一緒なんだから。

 神隠しになんてもう、遭うワケないんだから――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ