↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
1/10

星の降る町

 星が降る町――。


 この町には昔からそんな呼び名がある。


 手を伸ばせば届きそうなほど近くに瞬く星々を眺めていると、今にも空から零れ落ちそうに思えてくる。


 だからいつしか「星が降る町」と呼ばれるようになったんだろう。


 僕は、ずっとそういう意味なのだと思っていた。


「なんもないじゃん。」


「今日からここで暮らすんだから、文句を言うな。」

 

 父はそう言って、僕の荷物を玄関に置いた。


 古い家だった。

 

 庭には背の高い木が何本も生えていて、屋根の瓦には苔がついている。

 玄関の引き戸は開けるたびに、ギギギ、と嫌な音を立てた。


「じいちゃんは?」


「裏じゃないか?」


 父がそう言ったとき、庭の奥から白髪の老人が顔を出した。


「おお、来たか。」


「じいちゃん。」


 最後に会ったのは、たぶん三年くらい前だ。

 記憶より少し小さく見えるのは、僕の身長が伸びたせいだろうか。


「大きくなったな。」


「……じいちゃんは、老けたな。」


「はっはっは、そりゃそうだ。」


 祖父はそう笑って、僕の頭を軽く撫でた。


「荷物はそこに置いておけ。部屋はあとで案内する。」


「ああ。」


 祖父はそれだけ言うと、また庭の奥へ戻っていった。


「じゃあ、何かあったら連絡しろよ。」


 父はそれだけ言うと、僕を残して車へ戻っていった。

 

 僕はため息をついた。

 

 今日から祖父と二人暮らし。

 父が仕事の都合でしばらく家を空けることになったからだ。

 

 都会のマンションから、こんな山の中の町へ。

 

 高校も変わる。

 

 友達もいない。

 

 スマホは圏外。

 

 コンビニまで歩いて二十分。

 

 そして何より、僕がこの町を苦手な理由があった。

 

 

 それはこの町の夜だった。

 

 街灯が少ないせいで、日が沈むと町全体が急に暗くなる。

 その代わり、空だけは異様に明るかった。

 

 星が多すぎるのだ。


 普通であれば他の人と同じく綺麗と感じるだろうが、

 僕にはその光景がどうにも不気味で、小さなころから苦手だった。


 縁側から空を見上げていると、背後から声がした。


「今夜はよく降りそうだ。」

 

 振り返ると、祖父が立っていた。

 

「降りそうって、雨?こんなに晴れてるけど。」


「星だよ。」


「……流れ星?」


「ああ」


 ふっと祖父は目を細めると、


「今日は客が多いかもしれんな」


 とつぶやいた。


「客?」


 そう聞き返したとき


 空を一筋の光が走った。


「あ……」


 流れ星。


 僕がそう思った瞬間、祖父はくるりと背を向け家の中へ入っていった。


「見ないの?」


「ああ。」


 祖父は玄関脇にある古びた木箱を開け、中から小さなランプを取り出し火を灯す。


 それから玄関の戸を少しだけ開け、軒先に灯りを掛けた。

 

「…?なに、それ。」

 

 なんとなく後をついて様子を見ていた僕は、祖父へ問いかける。


「少し客人の相手をせねばならんが、 もう夜も深い。お前は中に入ってなさい。」

 

 その言葉にふと視線を外にやるが、客人らしき人は見当たらない。


「……客って、どこにいるの?」


 祖父は答えず、しばらく空を見上げていた。


 やがて、こちらを振り返る。



「知りたいか?」



 その言葉に、なぜだかとくんと胸が脈を打った。


 

 小さくうなずく。


 祖父はそれを確認すると


「見ていれば分かる」


 とだけ言い、玄関から外へ出ると再びじっと空を見上げた。

 

 何か言おうと口を開きかけた僕だったが、今は何を聞いても答えてくれる気はしなかった。

 

 結局無言のまま、祖父に倣い外へ出る。


 すると。


 またひとつ、流れ星が落ちた。


 さっき落ちた方向から、今度は、ずっと大きい流れ星。


 白い光が夜空を斜めに横切って――


 途中で、方向を変えた。


「……え?」


 流れ星は山の向こうへ落ちていくはずだった。


 なのに、ぐるりと弧を描いた。


 そして僕たちのいる家へ向かってくる。


「じいちゃん……」


「静かに」


 祖父は人差し指を口元に当てた。


 光はどんどん近づいてくる。

 

 屋根を越え、庭を越え、僕達の前まで来たところで


 ふっと消えた。


 そこに、女の子が立っていた。


 年は僕と同じくらい。

 白いワンピースを着て、裸足だった。

 長い髪には、まだ小さな光の粒が残っている。


 女の子は辺りを見回した。


 それから僕を見た。


「……ここ、どこ?」


 僕は何も言えなかった。


 祖父は驚く様子もなく、女の子の前まで歩いていく。


「来たか。迷っただろう。」


 女の子は首を傾げた。


「私……帰る場所がわからないの。」


「そうか。」


 祖父は少しだけ悲しそうに笑った。


「じゃあ、まず中へ入りなさい。」


 女の子は動かなかった。


「あなたは……誰?」


「ここに住んでいてな、店をやっている」


「店……?」


「ああ」


 祖父は玄関を開けた。


「ここは、忘れ物を預かる店だ」


 僕は思わず祖父を見た。


「そんな店、いつからやってたの?」

「ずっとだ」

「僕、聞いてないけど」

「言ってないからな」


 混乱する僕を気にもせず、祖父は平然とそう言った。


 女の子が恐る恐る家の中へ入る。


 その瞬間、玄関に置かれた古い柱時計が、十二時を告げた。


 ボーン……ボーン……


 鐘の音が響く。


 これまでも聞いたことがあるはずの音が、今はやけに重たく聞こえた。

 家全体に響く鐘の音を、僕は息をするのも忘れ聞いていた。 


 時計が鳴り終わると、祖父は僕に向かって言った。


「忙しくなるぞ」


「え?」


 祖父は空を指差した。


 夜空には、もういくつもの光が流れていた。


 ひとつ。


 またひとつ。


 そしてそのすべてが、同じ場所へ向かっている。


 僕たちの家へ。


「今夜は、ずいぶんと賑やかになりそうだ。」


「昔話したことがあっただろう。星はな、願い事を叶えに来るんじゃない」


 その声に、女の子が振り返る。


 祖父はゆっくりと続けた。


「大事な忘れ物を、取りに来るんだ。」


 玄関のランプが、夜の庭をぼんやりと照らしている。


 その明かりに導かれるように、またひとつ、星が降ってきた。


 僕は空を見上げた。

 今まで綺麗だと思えなかった星空が、その夜だけは少し違って見えた。


まずは、ここまで読んでくださりありがとうございます!

これから、この町でどんな物語が始まるのか。

よかったらお付き合いください。


少しでも「面白いかも」「好きかも」と思ってくださったら

↓の★★★★★、ブックマークで応援してくれると嬉しいです。


応援なんてしてもらえたら作者は百人力でございますので……ぜひよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。