対面
翌日。
第一王女の使者と、エリシアの会談が設けられた。
場所は城内の応接室。
余計な威圧感を与えない様にか、過度な装飾は避けられているが、それでも領主の部屋としての品格は保たれている。
俺は、天井近くに漂いながらその様子を見ていた。
ユーシアと盾さんが背後に立ち、守くんもその少し後ろで姿勢を真似ている。
磁石さんは壁際で静かに周囲を見ている。
……背後霊、増えたな。
エリシアは椅子に座り、落ち着いた表情で待っていた。
やがて、扉が開く。
「第一王女殿下よりの使者でございます」
入って来たのは、昨日見たあの男女だ。
二人は一礼する。
「第二王女殿下。本日はお時間を頂き、感謝致します」
「いえ」
エリシアが、静かに答える。
「遠路お越し頂き、ありがとうございます」
……丁寧だが、距離は保ってるな。
女の方が、一歩前に出た。
「本日は、殿下より“ご挨拶”を兼ねて参りました」
ご挨拶、ね。
「王都にてご活躍の件、耳にしております」
「過分なお言葉です」
エリシアは、淡々と返す。
謙遜。否定はしない。
女が、少しだけ微笑む。
「特に、住民への魔法適性検査と、それに伴う人材育成。そして、教会との連携」
……ちゃんと調べて来てるな。
「辺境の安定に、大きく寄与していると評価しております」
「評価、ですか」
エリシアが、ほんの僅かに言葉を区切る。
「恐れ多い事です」
……この辺り、探り合いだな。
女は、机の上に小さな箱を置いた。
「些細な物ですが」
箱の中には、書簡といくつかの印章。
「人材の紹介と、幾つかの情報を」
来たな。
「殿下のご活動の一助となればと」
エリシアは、すぐには手を伸ばさない。
一瞬だけ、魔女を見る。
魔女は軽く頷く。
それを確認してから、エリシアは箱に手を置いた。
「……ありがたく、拝受致します」
受け取った。
「ただし」
視線を上げる。
「本件は、あくまで“協力”として理解致します」
はっきり言ったな。
女が、満足そうに頷く。
「もちろんでございます」
「殿下と第一王女殿下は、共に王国を支えるお立場」
綺麗な言い方だ。
「互いに利益となる関係を築ければと」
……完全に対等路線だな。
エリシアは、静かに言う。
「私は、この地を守る為に動いております。王都の政争に関与する意思はありません」
線引きだ。
女は、微笑みを崩さない。
「承知しております」
そして、少しだけ声を落とす。
「……ですが」
「力を持つという事は、それだけで影響を持つという事でもございます」
空気が、少し変わる。
「殿下が望まれずとも周囲は、そうは見ない」
……上手い。
脅しじゃないし事実の提示だ。
エリシアは、少しだけ考える。
そして――
「その時は」
静かに言う。
「その時に判断致します」
逃げない。決めない。保留。
女は、満足した様に頷いた。
「本日はこれにて」
二人は、深く一礼し、部屋を後にする。
扉が閉まる。
しばらくの沈黙。
「……どう思う?」
魔女が、エリシアに聞く。
エリシアは、箱を見つめながら言った。
「敵では無い」
一拍。
「ですが、味方とも限りません」
……そりゃそうだ。
「でも」
少しだけ、口元が緩む。
「使えるものは、使います」
……いい顔になったな。
俺は、天井からその様子を見下ろしながら思う。
善意。打算。駆け引き。
全部混ざってる。
ここから先は――完全に、政治だな。




