第1話 片羽の天使、アデル
「おい、アデル!今日の仕事は終わらせたんだろうな?」
「いや、まだだけど」
「まだって、お前。そんな汚ねぇ本読んでんじゃねーよ。やる事やってからにしろ!」
「お前がやればいいだろ」
「はぁ?」
俺は家の中でゆっくり本を読んでいた。
それを同居人であるギムザに見られ、怒られる。
仕事をしろとギムザは言うが、やる仕事ってのはただの農作業。
はっきり言って、大したことじゃない。
やれと命令する前に、お前がやれよと思うのであった。
そんな俺の態度にギムザは怒り、俺が持っていた本を汚いと罵ってくる。
とても大切にしてる、母さんから貰った大事な本を。
「やるか?」
「いいぜ、やってやるよ!」
俺とギムザはお互い、怒りの頂点に達する。
こうなっては収まりつかないのが日常。
俺はギムザとやり合うことになる。
家を出て、木の枝と紐で作った簡易リングに、2人で上がる。
「ルールはいつも通りな!」
「いいぜ。負けたらお前が畑耕せよ」
「あぁ……そうかよ!」
いつも通り、素手でやり合うことを約束すると、会話を切り上げ、ギムザが攻撃に入る。
ギムザは真っ直ぐに向かって来る。
そして渾身の右ストレート。
それに対して、俺はギムザの右ストレートに合わせて、左のカウンターを入れてやる。
ギムザ相手なら利き腕でなくても十分。
綺麗に入った左クロスはギムザの顔面をしっかりとらえ、ギムザは膝から崩れ落ち、地に伏すのだった。
これで俺の何勝目になるのか。
ギムザと一緒に住み始めてから今に至るまでの約3年、俺たちは何度も意見がぶつかり、やり合っている。
初めて出会った頃は、大人のギムザにコテンパンにされたが、それも最初の3ヶ月くらい。
残りの2年9ヶ月は俺の圧勝。
それなのに、未だに立ち向かって来るというのは、正直すごいと思う。
昔はギムザに勝ちたいって一心で鍛えてたが、もう鍛える必要も無いぐらい、強くなれたと思っている。
「クソッ……クソーーー!」
感情を剥き出しにして叫ぶギムザ。
毎度負けるたびに悔しがっている。
ずっと負け続けて悔しがれるギムザには、俺も考えさせられるよ、負けてやるべきかって。
でもギムザが俺に勝つために、隠れて鍛えているのを知ってるんだよな。
過去に天国の拳闘士だったというギムザに情けをかけるのは、ギムザにとっても気持ちの良いものでは無いはずだ。
だから俺は同居人として、怪我をしない程度に倒すことにしているのだ。
「……なぁ、アデル」
何だ?何か言いたそうにしてるな。
変な雰囲気だけど、一応聞いとくか。
「なんだよ?」
「ずっとここに居続けるのか?」
「なんだよ、急に改まって」
「お前なら天国に……」
「何だよ、またその話か。行かねーよ」
「でも、お前……」
「やめろ!……その話はこれで終わりだ」
話を聞こうとして、少し後悔した。
天国の話が出た段階で、何を話したかったのかは、すぐに理解出来た。
ギムザが話したかったのは、俺たちが今住んでるここ、アースランドに居続けるより、天国に行った方が、幸せな暮らしが出来るということ。
前にもその話をされたが、その時も即決で天国行きを拒否したんだ。
元々天国にいたギムザが言うんだ。たぶん天国はいいところなのだろう。
天国を追放されたギムザと違って、俺は天国への移住が可能だ。
でも出来ないんだよ。俺だけ天国に行くなんてこと。
「やっぱ俺が畑の方行くから。ギムザは他のことしててくれ」
「わかった……すまん」
ギムザに任せようと思った仕事を、やっぱり自分ですることにする。
今の一連の会話で、ちょっと機嫌が悪くなっていた。
畑に向かう途中にいる弟、イルムに会いに行きたくなったんだ。
「イルムのとこ行くんだな?よろしく言ってくれや」
「……言えたらな」
俺は地面に座り込むギムザを睨み、そしてイルムのいる、ボンゴ村のそばにある川へと歩いて行く。
「俺もみんなみたいに飛べたらなぁ。はぁ〜」
徒歩でイルムのところへ行くには、家からだと、だいたい30分はかかる。
羽を広げて飛んで行けば10分もかからないだろう。
でも俺には『飛べる翼』が無い。
俺、アデルは17歳の天使。
普通の子供だと、立派な羽が生えて、自由に空を飛べるのが、だいたい10歳らしい。
それなのに、俺には小さな羽が背中にちんまりとついてるだけ。しかも片方しか無い。
こんなんじゃ空なんか飛べやしない。
みんな普段は羽をしまって生活しているから、見た目の違いとかで苦労するとかは無いが、飛べない俺にとって、この世界は広すぎるのだ。
いつになったら飛べるようになるのか。
自分の羽を展開して見つめる。
右の背中から生えた、小さな白い羽。
天使であると証明してくれるだけの、飛べない、ただのお飾りである。
俺と弟のイルムには何故か羽が片方しかない。
俺たちは天使ではなく、別の生き物なのかも、なんて思ってしまうこともある。
父さんが誰なのかはわからないが、母さんは羽が両方とも無い人だったし。
ギムザは天国に行くのが幸せと言っていたが、俺の羽を見て、天国にいる天使たちは心よく迎え入れてくれるだろうか。
「はぁ、俺ってほんとに天使なのかなぁ?」
天国に行きたくない理由の1つをぼやきながら、イルムのいる場所へと足を進めるのであった。
はじめましてゴシといいます。
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