初期の缶詰は缶切りが無かったので銃撃で開けていた
スイカ割りで振り下ろした木刀が負けてぽっきり折れたことがあります。あのスイカの皮は何製だったんでしょうねぇ……。
雲一つない空に燦々と照りつける太陽、その光を反射して輝く白い砂浜、そしてどこまでも青く雄大な海!魂に……魂に力が漲るぞぉ!
「殆ど表情筋が動いてねぇのに何であいつはあんなに分かりやすいんだ?」
「ポーカーとか強そうで弱そうですよね、あーさん」
やかましい、異世界の海がどんなものか期待に胸を膨らませてるんだ俺は。いやいや分かるよ、海がメインじゃないんだから魚の種類とか適当で熱帯っぽいやつが適当に泳いでいるんだろ?ツノダシとかナンヨウハギとか、イソギンチャクにはカクレクマノミを隠れさせちゃってさぁ!
ウミガメとかマンタとかいたら最高だけどそれは流石に高望みかな?いやでもイルカぐらいはいちゃったりしちゃったりするんじゃないの?
「おーい大丈夫?最後にラオシャンしたのはいつ?ちゃんと海してきた?」
「大丈夫だ、チョイサバ始める前に一時間ほど海してきたから」
俺が海に浸からない日はそうそう無い。少なくとも二日に一回は海に行かないと気分が落ち着かないというかなんというか。アレかな、メシ食って風呂入って海に行く、みたいな。もはや生活の一部というかルーティーンというか。
「最近のマイブームは?」
「なまこ。自分の内臓をぴゅーっと出す感じがこう、新鮮だよな」
「うーんそれに関しては僕からはノーコメントで」
哺乳類しかやらないやつはまだ人間だ、甲殻類あたりからラオシャンユーザーを名乗ることが許される。首長竜のアンロックは到達点じゃなくて通過地点ということに気付いてからがラオシャンの真の始まりなのさ……。
「オイコラそこの赤い肺魚、テンション上がるのは良いけどちょいと手伝え」
あ、すいません。そうだった、塩を作るのが一番の目的だった。
「まあ、塩を作るのは時間はかかるが簡単だ。火と容器と海水だけでクラフトできるからな。しかも放置できるタイプのクラフトだ、その間は海水浴でも問題ねぇからよ」
「で、その容器は竹?木?」
「そんなもん火に掛けたら燃えるだろーが。金属だよ金属」
金属製の容器?鍋とか?そんなもん持ち込んでるやついたっけ?青のアイスのバケツはプラスチックだよな?
「オイオイ赤いの、これはゲームだぜ?素材を集めりゃ鍋だって錬成できるんだ。だから探せ、この砂浜に流れ着いてる金屑を片っ端から拾い集めろ」
「あれ?昨日は鍋が無くてもできるって言ってませんでしたっけ?」
「ああ、竹や木の器に海水を汲んで日なたに放置するだけでも塩は作れる。当然そっちもやるけど時間対効果はクソだし、これから先を考えると鍋はあった方が絶対に良い」
と、いうことはこの手のゲーム恒例の素材集め開始だな。諸々の準備はきーちゃんに任せて、男三人衆(一人はガワだけ女)は炎天下の砂浜でゴミ拾いマラソンだ。
金屑自体はそこまでレアじゃないということ、さらにアイテム出現率が高いイージーモードであることを考えればそこまでの苦行ではない。金屑以外にも砂浜で手に入る素材もあるし、ゲーマーなら素材マラソンなんて日常茶飯事だ。
そうして俺と青は同じ方向に、茶管は逆方向へと走りだす。このゲームは運動をすると水分値が早く減るし普通に疲労もする。なので適度に走って適度に歩き、こまめな水分補給を怠らず……うん、ただのランニングじゃないかなコレ。ムーブが完全にダイエットしてるおばちゃんのそれなんだけど。
唯一リアルのマラソンと違うことがあると言えば、カットしたスイカを貪る男とバケツアイスをディッシャー食いしてる男が並んで走っていることくらいか。
「これが文字通り本当の素材マラソンってやつだな(シャクシャク)」
「ゲームによってはマラソンっていうよりシャトルランだったりするけどね(パクパク)……あっヤバい、頭がキーンってきた!スゴい、めっちゃリアルに頭がキーンってする!」
「大丈夫か?だから水分補給はスイカにしろとあれほど……」
「僕スイカは種を取らないと食べられないタイプの人なんですぅ……あ゛あ゛あ゛ホントに頭痛い」
うごごごご、と頭を抱えて身悶えする青にため息をついて、食べ終えたスイカの皮を森の方へとぶん投げる。まったく、アイスは後でBBQのデザートにするんだからあんまりドカ食いするんじゃないぞ。
「うっし、これだけ集まりゃ鍋も何個かできるな。上等上等、じゃあクラフトしていくか」
「「うおーっす」」
思ってた以上にすんなり金屑も集まり、無事に三つの鍋ができた。いくつか余った金屑が出たので、必要になるかは分からないが今後のクラフトのために置いておこう。
俺たちが走っていた間に設営をしてくれたきーちゃんのおかげで、浜辺には拠点から移動させてきたビーチチェア代わりの竹ベッドといつの間に作ったのか竹製の日よけパラソルまである。さらにその辺の石で塩作り用のかまども用意されているじゃないか。
「うろ覚えの知識でもシステムがレシピを出してくれるのでゲームは良いですよね。あ、パラソルにはパラシュートの端っこを少し拝借しましたけど、良かったでしょうか?」
「構わねぇよ。簡単に移動できる日陰はけっこう便利だしな。オウ、鍋に海水入れたらかまどにかけて後は放置だ。一応、薪はたっぷり入れとけよ?」
薪はかまどや焚火の中でストックされ、時間経過でそれらが消費されていく仕組みだ。なので大量に木材などの燃料を突っ込んでおけば当分は何もしなくても火が保たれる。そして塩のクラフト中は……お待ちかねの自由時間だぁぁああ!!
「海いってくる」
「僕は釣りで。さっき金屑のあまりで釣り針を作ったんだよね」
「私は貝でも探します。ちゃーさんは?」
「俺ぁ塩を見ながらいろいろ作っとくわ。ひとまず食料調達は任せた」
それではしばしフリータイムということで……ヒャア我慢できねぇ母なる海だァ!ただいまぁ!!
勢いよく偉大なる碧き世界へとダイブ!いいね、実にいいよ。リアルと違って海中で目を開けても沁みないところがグッドだ!さぁて、チョイサバの海がどんなものか見せてもらおうではないか!!とりあえず少し沖まで泳いでいこうかな。
水深は浅め。様々な珊瑚がその彩りを誇り、それに負けじと鮮やかな体色の魚たちが舞い踊る。白い砂地の海底にゆったりと揺れる海藻が目に優しく、ただ静かで穏やかな世界が俺を包んでくれる。
うーんこの実家のような安心感……おっと、息が苦しくなってきたな。視界の端に見える酸素ゲージもかなり減っているし、呼吸をしに上がろうか。肺呼吸って不便だわ。
「ぷはぁ。うん、まあ、中々だな」
確かに、ラオシャンと比べると所々に気になるものがある。海藻の生え方、魚の群れの規模、水深による水温の変化などに違和感を覚えるけど、それなりに力が入っていると言っていいんじゃないだろうか。水中のグラフィックが若干粗いのは仕方ないだろう、リアルな海を再現することに心血を注いでいるラオシャンがおかしいだけとも言えるし。
再度水中へと身を沈めて辺りを見渡すと、島から見て外海の方はしばらく行ったところから不自然に暗くなっているのがわかる。多分、あそこがプレイヤーが泳いで行ける限界域なのだろう。
しかしアレだ、人間の身体って泳ぐのに適してないなぁ。もうちょっと脚が滑らかに動いてくれんものかね。本当のことを言うのなら脚は要らないから背骨に連なる尻尾が欲しいんだけど。
いかに魚類や海生哺乳類の身体が泳ぎに特化しているかが分かるってもんだ。今の身体では泳ぎに無駄があるのがよくわかる、わかってしまう。人間のルーツは海にあれど、やはり人間は海ではなく陸の生き物なんだね……寂しいなぁ。
では、陸の生き物はいったん陸に戻ろうか。
そんな風に考えながら浜の方へと泳いでいると、前方に一つの影が。それは平たい座布団のような大きなシルエットで、のんびりと潮に流されるかのように海中を漂っている。
「(まさか、あれは……否、バカな!しかしあの独特の形、遊泳速度!……う、うおおおおお!!)」
「おー、お帰り。チョイサバの海はどうだったんだ?……ん?」
「ちゃ、ちゃちゃちゃ茶管!まっまままま、まま、マンボ、マンボウが!!」
「お、おう。まあ落ち着け、俺の名前は『ちゃかん』じゃなくて『ブラウンかん』だ。...誰もそう呼んでくれねぇけどよ。まあほら、黄色いのが見つけてきたココナッツのジュースでも飲め」
わぁい。
ゴクゴクゴク……ほのかに甘く、それでいて意外とさっぱりとした味が体に優しく……。
「落ち着いたか?」
「ありがとう。人生の目標を目の当たりにして、興奮を抑えられなかった」
「……お前の目指す先はマンボウなのか?大丈夫かお前、ちゃんとホモ・サピエンスしてるか?」
なぜだろう、ここ最近で一番の憐みの目を向けられた気がする。当選確率三億分の一というクソの極みみたいな生存確率を乗り越えたマンボウ先輩を尊敬して何が悪い、そこにいらっしゃるというだけで奇跡のような存在なんだぞ。
「噂に聞くマンボウチャレンジってやつか。で、それの深みにハマるとこうなると。バショウカジキとかトビウオで遊ぶ分にゃ楽しいんだけどなぁ……」
ラオシャンは怖いゲームなんかじゃないよ、やればやるほど価値観が変わってくる素晴らしいゲームだよ。変わるのは主に死生観だけどな。
「全員、今日はお疲れ!塩もたっぷり作れたし、何のかんのと食いもんもたっぷりだ。ようやくバカンスらしくなってきたってところで、いっちょ楽しもうぜ!飲み物が水とココナッツしかないのは勘弁な!……じゃあ、乾杯!」
「「「かんぱーい!!」」」
いくつも設置された焚火の周りに竹串に刺された肉や魚が並べられ、なんとも香ばしい臭いが漂う。現代社会でこういった風に食材を調理して食べるなんて、それこそ無人島サバイバルにでも行かない限りそうはない。キャンプでだってパック包装された食材だったりレトルトだったりがほとんどだもんな。
「やっぱり料理は塩があってこそだね。海がないサバイバルとかそれだけで厳しいだろうなぁ」
「山ん中のサバイバルだと、塩分補給に動物の血を飲んだりするらしいけどな。ま、進んでやりてぇとは思わねぇわな」
「この魚の塩焼きも美味しいですよ。あーさん、これなんて言う魚なんです?」
「鯛の一種か?さすがに正式な名前は分からないな、ごめん」
釣り人ってわけじゃないから、人間が食べる魚には詳しくないんだよ。そもそもすべての魚の名前を正確に覚えるなんて人間業じゃないけどな。
それにしてもゲームの中とは言え俺が友達と一緒にBBQとは人生何があるかわからないもんだ。仮に一年前の俺に今の俺がこんな感じだと伝えたらどんな反応をするだろうか。多分、何言ってんだこいつ、で終わりだろうなぁ。
「ヘイヘイヘーイ、なに一人でしんみりした雰囲気を醸してるんだい親友。さあさあこっちに来なよ、一つ余興といこうじゃないか」
青に手を引かれて立った場所からは、少し離れたところにスイカが四つ並んで置かれているのが見える。ほほう、つまりこれは……スイカ割りじゃな?
使えるのは自分が持ち込んだアイテムだけ、と。なるほどな、せっかくこういうゲームなんだからそういうルールは良いと思う。
でもな……君らが担いでるそれ、それはスイカを割るのには適してないと思うんだ。その装備だとスイカが木端微塵になるんじゃないかな、特に青お前は日本刀持ってるんだからそのロケランを下ろせバカ!
…………!…………!!……!?……。
「スイカ、消えちゃいましたね……」
「手応えはあったんだけどなぁ」
手応えがあったから消えたんだよなぁ……。きーちゃんも茶管も目隠しした状態でよく撃ち抜けたな。茶管はマガジンひとつ撃ち切ってたけどね。
太陽が水平線に姿を隠そうとする夕焼けの海、ゲームゆえに肉体的な疲労はないが目一杯遊んだ後の気怠さが何とも言えない。竹ベッドに寝転がって受ける風がまた気持ちいいんだ。
「よぉ、どうだい楽しんだか?手軽にリアルな異世界を楽しめるVRゲームだ、こんな楽しみ方もいいだろ?」
「うん、楽しかったよ。現実だと難しいもんね、こういうのって」
俺ときーちゃんも頷く。ありえないことを体験させてくれるフルダイブVR、その使い方を改めて知った気がする。リゾートよりも綺麗な海がある島で一週間のバカンスなんて、現実だと無理だわなぁ。自給自足とはいえ贅沢っちゃ贅沢なことだ。
「殺るか殺られるかの対人戦もいいですけど、のんびりするのもいいものですね。プロじゃないので一回負けたからどうこうなんてありませんが」
プロゲーマーはその辺がすごい。人によってジャンルやゲーム性の得意不得意があるなかで、いくつものゲームで明確な強さとエンターテインメント性を示さなければならないもんな。新作が出ればその都度練習のやり直しになるわけだし。
タイプ別とはいえ明確に最強の称号を持つアジサイさんも、デスブラ一本に捧げているからこその強さだと言ってたし。ああ、そう言えばデスブラもそろそろ大型アプデがくるんだったっけ、確か新タイプの追加とイベントがなんとか……。
「明日からは何すっかな。最速だとあと四日で救助来るけど、なんかやりたいことあるか?」
うーん、やりたいことがあるかと言われると即答できない系男子ですまない。就職面接の自己PRとか絶対無理だよなぁ、数年後の俺がんばれ。
「せっかくですから冒険がしたいです」
「そうだね、山とか洞窟とかって無いの?」
おお、洞窟探検もいいな。コウモリが潜む鍾乳洞を懐中電灯片手に探索……ん~ロマンだね。洞窟から得られるものは少なそうだけど、それとこれとは別だよな。男の子は何歳になっても冒険や探検という言葉に魅了されるのさ……。
「じゃあ洞窟でも探しに行くか。黄色いのがライト持ってるから大丈夫だろ。ただし青いのはロケラン封印しろよ、生き埋めエンドが嫌ならな」
「では剣豪ブルマンの日本刀捌きを御覧に入れよう……」
「抜身で探索してたらコケて切腹するに一票」
「このゲーム、サバイバルの最終奥義として自殺できるから気をつけろよなー」
明日は洞窟を探して冒険か。冒険はサバイバルの醍醐味だよな!
誰も帰ってきた者はいない洞窟の奥に生えている薬草を採ってきてくれというクエストって、なんで依頼者はその洞窟に薬草が生えていると知ってるんでしょうね?
でも私はそういうあるあるガバ設定が好きです。




